ひだりの彼氏


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時々社内であった飲み会なんかで部署の違う彼と話した事はあった。
優しくて…人当たりも良くて…9ヶ月前…個人的な付き合いが始まった…
その時…彼が言った周りに内緒って言う言葉も忙しかった彼を見てたから素直に頷いた。
競争や中傷が何かと絡んでくる部署ではそう言う浮いた話は彼にとって良くないと思ったから…

会社では何事も無い振りをした。
会うのも週に2回か3回…仕事が終わってから私のアパートや彼のマンションで会った。

そんな風になってもまだ最後の一線は越えてなくて…
私は大学の時に付き合ってた相手がいたから初めてってワケじゃなかったから
別にそんな関係になっても構わなかったけど…どう言うわけか彼はそう言う関係を迫っては来なかった…
私の事を大事にしてくれてるんだと思ってたけど後から思えばきっと最後の最後で躊躇してたんじゃないかと思う。
上司の娘さんと結婚まて話を進めながら私と身体の関係まで進んで大丈夫なのかとか…
ここまで付き合いながらそんな所では気が小さいのか…まあこれは私の憶測だから本当は違うのかもしれないけど…
でもそれなりの年齢の男と女がキスだけって言うのもそれもまた不自然なんじゃないかとも思ってた…
だって私は彼とは付き合ってると思ってたんだから…

そんな付き合いも2ヶ月経ったころ…ついにそう言う関係になろうとしてた時だった…

何度目かの彼の部屋のベッドに2人…なのにいきなり寝室のドアが開いた。
私はもうビックリで何がなんだかわからなかったけど…入口に女の人が腕を組んでまさに仁王立ちで立ってた。

「れ…怜子さん!?」
「え?」

彼がいきなりガバッと起き上がった。
れい…こ…さん?一体誰なの?

私は訳がわからなくて…自分が下着姿だって事も忘れてた…

「怜子さん…こ…これは…その…」

もう彼はしどろもどろで焦りまくってる…一応自分でも分析してみる。
あの女の人は彼の……母親?…んわけないか…お姉さん…妹?

当然の相手は考えなかった……もしかして恋人?とかは。
だって…自分以外に彼が付き合ってる相手がいるなんて想像もしてなかったから…

「康志さん服を着てください。」
「…………」
「間宮さ…ん?」

私は未だに頭の中が真っ白で…

「あなたも早く服を着て出て行きなさいよ。そして2度と私達の前に現れないで頂戴。」
「………」
「私達婚約してるのよ。だからあなたが入り込む余地なんて無いの。ねぇ?康志さん?」
「…………」

……婚……約?この…人と…?

「間宮さん…」

ベッドから降りた彼を見ると私に背中を向けて服を着てる所だった…
私の方を振り向きもしない…

「今回の事は見逃してあげるわ。康志さんもちょっとした気の迷いよね?
独身生活も残りわずかだから最後にちょっと息抜きしたかっただけですよね?
私よりこの女を取るなんて…あり得ませんものね?」

「!!」

クスリとハナで笑われた気がした…

私は震える手で床に落ちてた自分の服を拾って何度も失敗しながらブラウスのボタンを嵌めた。
そんな私を婚約者の彼女がじっと見てるのはわかってた…

私は…とても惨めで…情けなくて…言われなくても1秒でも早くこの場所から出て行きたかった。

やっとの思いで彼のマンションを飛び出した私に…
最後まで彼は何も話しかけて来なかった…

騙されてたんだと…帰り道で悟った…
なのに…全然気付きもしないで……

私は次の日から会社を2日間休んだ…あの日の明け方から高熱と吐き気が襲ったから…
あまりの状態に母親が心配して安奈に送ってもらって医者に診てもらったけど多分風邪だろうと言われた…
でも自分では本当の原因はわかってた…

会社を休んだ2日目に彼から携帯に連絡があった…

彼女は上司の娘さんでずっと言い寄られててどうしても断り切れない相手だったって…
でも…そんな中…私と知り合って一緒にいたいと思ったと言ってた…
婚約者とは違う気持ちで私の事は好きだと…でもその時の私にはそんな言葉はなんの意味も無かった…

私はそんな彼の話をずっと無言で聞いてた…

しばらく大人しくしていよう…それが彼からの最後の言葉だった…





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