ひだりの彼氏


43




「ふぁ〜〜〜〜〜ん〜〜?……あ…そっか…」

シングルベッドなのに何で広く感じるんだと思ったら……
そういえば昨夜……彼が自分の家に戻ったんだった…

長かった40日間の夏休みも終わって今日から2学期が始まるから…

「……はあ〜〜」

何だか何とも言えない気分…とりあえずチンタラと自分でコーヒーを淹れて飲んだ。

「………」

『またね。』

彼がここを出る時に言った最後の言葉……結構アッサリ帰って行ったな…なんて思う…

「………ハッ!って何しんみりしてるのよ!」

そうよそうよ!やっと1人の生活に戻れるんじゃない!待ちに待った1人の生活!!

「さて!朝ごはん何かな?」

気持ちを入れ替えて立ち上がる。
けど…

「って…あ…そっか…自分で作るんじゃない…はあ〜〜〜」

今まで毎朝彼が作ってたから…

「もう……」

これから前の生活に戻さなきゃ…
私ってばどれだけ彼に頼ってたんだろう…って我ながら思う…

「今日は朝ごはん簡単でいいか…」

どっこらしょみたいな動作でイスから立ち上がった。
でも結局作る気力が失せて今日の朝ごはんは諦めた。
今までだって毎朝ちゃんと食べてた訳じゃ無いし…
あの一件以来食も細くなってたのを彼がうるさいから何とか食べてただけだし…

出勤の準備をしながら部屋中の彼のモノに目が留まる…
パジャマ代わりのTシャツとスウェットのズボンもお茶碗もお箸も…
歯ブラシもすぐに私の視界に入る……

「後で取りに来るのかしら?」

そんな事を呟きながら彼の歯ブラシを指で弾いた。





「オ〜ス!ツバサ ♪ 」

校門を入った途端後ろからやかましい声がした。

「ツバサ〜〜 ♪ 」
「………」

これ以上名前を大声で呼ばれるのは嫌だから仕方なく振り向いたらやっぱり須々木…

「うるさいんだけど。」
「何だよ久しぶりに会ったのによ〜」
「?」

須々木が何でだかニヤリと笑う。

「気持ち悪いからあっちいけ。」

オレはそう言ってスタスタと歩き出した。

「あの年上のお姉さん誰?」
「?」
「見掛けたんだよこの前の夏祭りでさ ♪ 」
「そう。」
「そうって……なあ?一体どんな関係?」
「言う必要ない。」
「え〜おにい さ〜んそれはないんじゃない?この蝶のピアスの持ち主?」
「………」

がっしりと肩を組まれた。

「暑い。」
「オレだって暑いよ〜ちゃんと話してくれたら引き下がるからさ。」
「……はぁ〜〜なに?」
「だからあの年上の彼女とはいつから付き合ってんだって聞いてんだよ。」
「付き合ってないけど。」
「うそだろ!?」
「もういい?」
「良くない!何1つ説明してもらってないじゃんかよ!」
「えーめんどい。」
「うるせー!彼女じゃなきゃ何なんだ!」
「んー………さあ。」

奴が真面目に小首を傾げた。
この仕草でどれだけの女子が悩殺されるかコイツは知らないんだよな〜

「はあ?何惚けてんだよ!」
「別に。」
「じゃあお互い遊びか?」
「は?」
「その場限りで楽しめれば良いってやつか?」
「何ソレ?」
「フッフ〜〜〜ン ♪ 」
「………」

須々木が意味ありげに笑う。

「見ちゃったんだよ〜お前と彼女との濃厚なキスシーン ♪ 」
「!!」
「ったく人目も気にせずあんな事するなんてさぁ〜
お前も普通の男だったんだなぁ俺は嬉しいぜ ♪ ウンウン!」
「……もういい?」
「は?」
「もう話すこと無いし。」
「だ・か・ら〜まだ何にも聞いてねぇっての!」
「時間無いし。」
「じゃあ学校終わったらじっくり話し聞かせてもらうから帰り付き合えよな。」
「ええ〜」
「そんな嫌そうな顔すんじゃないって!とにかく学校終わったらな!午前中には終わんだろ。」
「…………」
「じゃあまた後でな ♪ 」

そう言うと須々木は先に歩き出した。

オレはその後ろ姿を見つめて溜息…
別に奈々実さんとのキスを誰に見られようがオレは一向に構わないから
その辺は何とも思ってないけど…

その事で何でイチイチ須々木に説明しなきゃいけないのかがわからない。

『 面倒くさい… 』 ただそれだけだ…

これはシカトして終わったらサッサと帰ろうと決めた。

教室に入った途端数名の視線を感じる。
チラリとオレを伺い見る様なそんな視線が4人…

ああ…そのメンバーが夏祭りのメンバーか…
そう言えば自分も誘われてたな…なんて今更思い出した。

だからってオレに何か言ってくる訳でもなく…
オレとしては構わないで欲しいからその方が良いけど…

そんな事を思いながら奈々実さんちゃんと会社行ったかな?

そっちの方がオレにとって気に掛かる事だった。




「おかえり奈々実さん。」

「…………」


仕事から帰って来ていつもの場所に彼の自転車があったから…居るとは思ったけど…
そう言えば鍵…返してもらってなかった。

「な…何でいるの?」

本当はドキドキしながらそんな事を聞く。

「鍵持ってるから。」
「ちがくて!!」

言うと思ったわよ!

「奈々実さんが1人じゃ淋しいだろうと思って。」
「そ…そんなわけあるはずないでしょ!!1人で清々してたんだから!」

そんな文句を言いながら玄関を上がる。

「あ!」
「え?」

「ちゅっ ♪ 」

「ひゃっ!!」

腰に腕を廻されて引き寄せられて…あっという間に頬にキスされた。

「朝…してあげられなかったから心配だったんだよね。
これしないと奈々実さん他所の子供に悪戯されるから…」
「もう…帰って来たんですけど??する必要無いでしょ!!」
「ちゃんと朝起きれた?」
「起きました。」

子供じゃないって。

「遅刻しなかった。」
「しません。」
「朝ごはん食べた?」
「!!…た…食べました…」
「奈々実さん。」
「何よ。」
「朝ごはん抜いたんだ。」
「な…なんでよ!」
「奈々実さんは嘘つくの下手なの自覚無いの?」
「ぐっ!」
「だから帰るの嫌だったんだ。」
「失礼ね!私だって一人暮らしの経験あるんだから!ちゃんと自分の事は自分で出来ます!」

そんな文句をまた言いながら奥の部屋に入って行く。

「……え?」

そんな私の目の前に飛び込んできたのは……ハンガーに掛かった彼の…

「制服?……何で?」
「月曜日ここから学校行くから。」
「は?」
「金曜日はここに帰って来る。で月曜の朝ここから学校に行く。」
「な…なんで??」
「ここから通うから。」
「だっ…だから何でよ!!夏休みは終わったでしょ!」
「別に毎日こっから通ってもいいんだけど。」
「ななななな…なんで??」
「奈々実さん1人じゃ色々心配だから。」
「は?」
「学習能力無いし無防備で抜けてるから。ああ…嘘つくのもヘタも追加。」
「なっ!だからそれ失礼でしょうよっ!!」
「それに…」
「それに何よ!!」
「奈々実さんの事が気になって落ち着かないから。」
「……え?」
「第一発見者にはなりたくない。」
「は?」
「発見があと2日早ければ…なんてご免だから。」
「ちょっと…それって…」
「やっと少しはついてきたのに…オレがいないとロクな食生活じゃないでしょ?」
「!!」
「奈々実さんって食べてもあんまり太らないね。」
「はあ?」

ちょっと…何言い出すの??この男は!!!

「あれだけ3食ちゃんと食べてもらってデザートまで食べさせたのに…」
「!!」

彼の手が私の頬に触れた…

「や…ちょっと!!」

触れたと思ったらムニュリと頬っぺたを摘まれた。

「もう少しお肉つけた方がいい。」
「も…本当に失礼!!!」

文句を言いながら頬を摘んでる彼の手首を掴む。

「これから…お肉つくかな…」
「だ・か・ら…」
「もう…引っかかる事…無くなったもんね…」
「………え?」
「ちゃんと…終わったんでしょ。この前…そう言った。」
「き…聞いてたの??」
「奈々実さん顔真っ赤。」
「う…うるさい!!!聞いてたのかって聞いてるの!!」

そりゃ真っ赤になるでしょうよ!!!

「聞いてたんじゃなくて聞こえたの。って言うかオレに言ったんじゃないの?」
「ち…違う…違うわよっっ!!ひ…独り言!!!」
「そう。」
「は…離して!」
「そう言うわけだから。」

彼が私の頬っぺたから手を離した。

「嫌よ!!ダメ!!帰って!!」
「オレも嫌だ。」
「何言ってるのよ!あなたまだ高校生なのよ!それに大学受験だってあるでしょ!
これで落ちたなんて私は嫌よ!!」
「そんな事無いから気にしない。」
「気にする!!!もうあなたのご両親にちゃんと私から話すから!困るっ……て…」

「本当に……困るの?」

「…………」

やだ…

「オレはまだ答えが出てない。」

「…………」

そんな…瞳で…

「答えが出るまでここにいる。」

「…………」

私を……

「オレの方は何も問題ない。
受験には失敗しないしもしそうなっても奈々実さんに責任を押し付けたりしない。」

「…………」

見ないでよーーーーーーっっ!!!

それにまたいつもの無表情な顔じゃない!!!どこまで本気なのかわかんないわよーーー!!

「奈々実さん?」
「…………」
「なんで顔真っ赤?」
「う…うるさい!」
「先にお風呂入っちゃいなよ。その間に夕飯の支度しとくから。」
「………」
「奈々実さん?」
「も…もう…迷惑なの…」
「………」

そう…ハッキリと言わなきゃ…

「あ…あなたみたいな年下の高校生とこんな生活…する理由無いから!」
「奈々実さん。」
「………」

いつもより…ちょっと低い声…そんな声が私の名前を呼ぶ…

「奈々実さん。」
「………」

「同じ言葉をオレを見て言って。」

「!!」

「そんなにオレを年下だって言うなら年上らしくちゃんと話をしてる相手の顔見て話して。」
「!!」

そんな風に言われて視線を逸らしてるわけにもいかず…って私…彼の事見てなかった…?

「奈々実さん。オレを見て言って。」
「………」

うー何で強気なのよ…

「………」

言われた通り視線を彼に向けたら…いつも以上の無表情の彼がいた…

「どうぞ。」
「!!」

そんな彼の態度にカチン!と来た!!

「だから………迷惑だからもうお終いにして!」

「却下。」

「は?」
「で?」
「でって…」
「嫌だって言ったんだけど。」
「私の方が嫌って言ってるんでしょ!」
「だからそれは却下。何度も言わせない。」
「なっ…何で却下なの?それおかしいでしょ!!」
「そう。」
「おかしいでしょ!ここは私の家なのよ!!」

「奈々実さんと一緒にいたい。」

「……へ?」

何ですと?

「それならここにいる理由になる。どうして奈々実さんと一緒にいたいのか知りたい。」
「なっ!!!!ななななな…」

何言っちゃってるの?

「今日の夕飯は麻婆豆腐だから。たくさん食べてもっと肉つけて。」
「………」
「早くお風呂。」
「………」
「奈々実さん。」
「!!」
「何でそんなに顔真っ赤?」
「!!」

顔を覗き込まれて身体がビクリ!と跳ねた。

「べ…べべべ…別に…」

「そう。」

そう言うと彼はキッチンに歩いて行った…


な…なんで?なんでこんなにドキドキ!?高校生…相手に……何で?

あんな言葉サラリと言ってくれちゃって……もう…何が何だかわかんないよーーー!!

それに……どうして今日は…金曜日なのーーーー!!!





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