ひだりの彼氏


45




「……あの」
「ん?」
「わかった…の?今の説明で?」
「何となく。」
「そう…」

何となく…か…
「好き」 と言う感情が無いなんてあるのかしら?なんて思う。
でも彼を見てるとそうなのかと頷けたりしなくもないんだけど…

「本当〜〜〜に!今まで誰のことも好きなったこと…無いの?」
「無い。」
「好きって言われたことは?」
「何度かある。」
「その時はどうしてたの?」
「断ったけど。」
「あの…ちなみにどんな風に言われて断ったの?」

ちょっと興味が湧いて聞いてみた。

「 『好きです。付き合って下さい。』 『やだ。』 終わり。」

「…………はあ〜〜〜〜」

溜息…

「なに?」
「なんでもない…」

聞くんじゃなかった…
その時の風景が目に浮かぶ…きっと相手に次の言葉を言わせないほどの
冷ややかな空気が漂う空間に無表情な顔をして立ってる彼…

ヒュルルルルル〜〜〜〜〜〜みたいな木枯らしが2人の間を吹き抜けて…
彼は何事も無かったかの様に彼女を置き去りにしてサッサとその場を離れて行く…図…

「奈々実さん。」
「なに?」
「眠い。」
「は?」


さっきとは違う…でもいつもと同じ無表情のあの顔で…

それでもちょっと眠そうな瞳で彼は私を見てそう言った。

あのね……




「………くぅ」
「………」

いつも通り奈々実さんの部屋で奈々実さんのベッドで奈々実さんと一緒に寝てる…
眠いと言ったオレよりも先に寝た奈々実さん…まあオレは寝る気なんてサラサラ無かったけど…

今日は流石に奈々実さんもすんなり頷かないとは思ってたから…
変な話しを振ってそれに気が削がれてオレが泊まり込む事を追求しなかった。
始業式が金曜だったのはラッキーだったと本当に思う。

「………」
「ん…」

奈々実さんは寝る時…オレに遠慮して仰向けで両手は自分の身体の上に乗せてる。
オレとの距離をちゃんととってる所が律儀だけどそんなのは最初だけで
眠り込むとあっという間にオレの方に寝返りをうって誰かを探すように
オレの腋の下に頭をうずめて来る。

そうしてまるでそこが当たり前の場所の様にじっとして動かなくなって朝まで眠る。

奈々実さんの部屋に泊まってる間毎晩そうだった。

1度頭をうずめて来た時にちょっと身体を引いてみたことがある。
奈々実さんが近づく度に後ろに逃げたらどうするんだろうと眺めてたら
最後にはTシャツを掴んで引き止められた。
起きてるのかと思って奈々実さんを覗き込んだらちゃんと寝てた。

「スゥ…」
「ホント無防備。」

オレが何もしないって安心しきって…こんな無防備な姿を見せて…まあ何もしないけど…
絢姉さんと絢姉さんの友達とで女子には嫌ってくらい免疫がついてる…
女子の裸も結構な年まで絢姉さんと一緒にお風呂に入って散々見たから今更気にもならない…

「はずなんだけど…」

何で奈々実さんには興味が湧く?

「………」

さっきの説明からいくとこれが 『好き』 と言う気持ちらしい。
未だに自分でも良く理解出来てない。

でも… 『奈々実さんがオレ以外に無防備だとイライラする』 のは本当だ。
オレの知らない所でオレの知らない男に首に触れたと言う痕をつけられたのを
見た時なんて更にイライラしたし。

奈々実さんの態度と言葉でどうやら相手は元カレだったらしいけど…
終わった相手になんでつけられるんだか…

本当に奈々実さんは無防備で抜けてて…目が離せない。

奈々実さんの性格なのかそれとも長女の性質か…無防備に相手を簡単に受け入れる。

面倒見がいいのか…懐が広いのか…だから一緒にいるとホッとするんだろうか…
ただ本人はまるっきり自覚無しだけど…それが相手に隙をつくってるのも気付いてない…

でもそれは持って生まれた奈々実さん特有のものなのかもしれないと思う…
同じ姉なのに絢姉さんや泉美にはそんなところは無い。


こんな風になるなんて…自分が一番驚く。


自分以外を好きになる…まあ自分のことも好きかなんてわからないけど…
さっきの話しだとどうやらこのオレの今の状態はオレは奈々実さんのことが好きらしい。

でもこの 『好き』 の気持ちはなかなか厄介で今まで 『他人を好き』 に
なったことの無いオレにはあまり馴染みのない感情で時々そんな感情はどうでも良くなる。

そんな感情が無くてもかまわないし無いからってオレがやる事が変わることはない。



いつも奈々実さんの傍にいる……それはオレの為でもあるから…



「………ん…」
「………」

オレの腋の下に頭をうずめてる奈々実さんの身体に腕を廻してオレの方に抱き寄せる。
起きる気配無し。

「熟睡。」

そのまま触れるだけのキスを奈々実さんの唇にする…もちろん今夜が初めてじゃない。
ホント無防備…

オレがどんな気持ちかは奈々実さんには内緒。

多少気付いてるみたいな感じだったけど曖昧の方がまだ答えが見つからないと言う理由ができて
奈々実さんに邪険にされることはないから。

それに奈々実さんのことだ…そんな事を宣言して急に意識されるのも困るし。
だからこのまま曖昧なまま…緩く奈々実さんを縛り付けておくことにする。

これから時間を掛けてゆっくりとオレに縛り付けてあげる…


さてまずは週末のお泊りをどう丸め込んで奈々実さんに納得させるか。
別に今まで通りにずっとここに居てもオレは構わないんだけど流石に夏休みじゃないから
奈々実さんはイイ顔はしない…

こんな時高校生の肩書きは邪魔になる…

またあの瞳でお願いしてみようか。
その時奈々実さんはどんな顔するかな…なんて想像するとちょっと笑える。

とりあえず明日からの2日間が勝負かな…

そんな事を考えながら…
オレの腕の中でスヤスヤ眠ってる奈々実さんとお互いのオデコをくっ付けて目を閉じた。

どうせ先に起きるのはオレだし……奈々実さんはいつも気付かない…


そんな些細な事で…

どんなにオレがホッとできてるかなんて…

奈々実さんはまだ知らなくていいことだから…





Back  Next



  拍手お返事はblogにて…