ひだりの彼氏


50




「ねぇ…」

私のちょっと前を歩く彼に向かって呼び掛けた。

「?」

無言で振り向く。

「に…逃げないわよ…」

彼は私が隙あらば逃げようとしてると思ってるから…

「あの…校舎の中に入るより……外歩かない?」
「外?」
「だって廊下とか人混みが激しいじゃない?外の方がゆっくり出来るし…お店見てどうのって歳じゃないし…」
「そこで歳なんて関係あるの?」
「あるわよ」
「大丈夫」
「え?」
「誰も四捨五入して30だなんて思わないよ」
「なっ!!」
「気にしなくてもいいんじゃない?」
「気にするから!!」

私じゃなくて……あなたが変に思われるじゃない……

「奈々実さん」
「?」
「精神年齢は低いから大丈夫」
「はあ?」
「オレが保障する」
「なっ……失礼ね!!」
「じゃあ奈々実さんのリクエストに応えて裏庭行こうか」
「裏庭?」
「花が植わってるはず」
「そうなんだ」


彼の言っていた通り裏庭には結構な種類の花が咲いていた。
その花壇の近くに切花や小さな植木鉢に入った花が売られてた。

どうやらここでは園芸部が出店してるらしい。

「可愛い〜 ♪」

そのうちの鉢植えの1つを取ってマジマジと見た。
黄色い小さな花が2つと蕾が3つ…全部咲いたら綺麗で可愛いだろうな…

「気に入った?」
「うん…キッチンのテーブルの上に置いたらいいかも ♪」
「ちゃんと毎日お水あげれる?」
「なっ…なによ!その3日坊主的な言い方は?お水あげくらいちゃんと出来るわよ」
「じゃあ買おうか」
「え?」
「オレから奈々実さんにプレゼント。でも2人でちゃんと育てよう」
「!!」

い…いきなり 『2人で育てよう』 なんて……

「どうしたの奈々実さん?顔真っ赤」
「べべべべ…別に……」
「はい」
「あ…」

小さなビニールの手提げ袋を渡された。
あんな事に動揺してる間にお金払い損なっちゃった…

「私が払うから……」
「いいよ。今日の記念にオレが買う」
「あ…ごめんね…ありがとう」

一応お礼を言ってそのまま裏庭を歩き続けた。
ただお礼を言うだけだったのに…なんでこんなにうろたえるのか…

「け…結構人がいるね」
「だね」

他の人達も売られてる花や咲いてる花を見ながら多分部員の生徒だと
思われる女の子が対応してた。

「今日来るとは思わなかった」
「……安奈がいきなり来て強引に…」
「そう」
「身体もああだからあんまり無理もさせられないじゃない?それに……」

最後はゴニョゴニョになって…

「たまには良いんじゃない」
「あなたに会わなきゃね」
「それは無理だと思うけど」
「………」

確かにそれは無理だったけど……

それから校庭の周りを歩いたり…外で催されてるクラブの発表なんかを見て廻った。
何となく視線を感じなくもないけど流石にそれは仕方ないと諦めた。
とにかく彼にこれ以上余計な波風が立たなければ…

「三宅!」
「!!」

誰かが誰かの名前を呼んだ。
私はその 『三宅』 と言う人が誰だかわからなくて…でも彼はゆっくりとその声の方に振り向いた。
私は声を掛けられたと言うだけでビクリ!となってしまって……
そう言えば彼の苗字 『三宅』 って言うんだったっけ?忘れてた…

「なに」

彼が振り向くと同時に私も恐る恐る振り向くと制服の上にエプロンをつけた
ショートヘアの活発そうな女の子が立ってた。
ストレートな髪の毛でキツそうな印象を受けるけど歳相応な可愛い顔の女の子だ。
お肌もピチピチ…

「休憩時間とっくに過ぎてるんだけど」
「そう」
「え!?そうなの?」

と言う事は彼女は同じクラスの子?

「あと1時間くらいあると思ったけど」
「10分過ぎてるわよ!おかげで捜しに行かされちゃったじゃない!」
「ちょっと!」

私は彼女のその言葉を聞いて彼を睨んだ。

「おかしい」

彼が棒読みセリフでそう言った。

「おかしくないわよ!もう時間はちゃんと守りなさいよ!」

私の方が慌てちゃう。

「だから勘違い。楽しい時間はあっという間にすぎるね」
「!!」

彼のそんな言葉に一気に顔が赤くなる。

「バ…バカな事言わないで!!私の事はいいから早く教室に戻りなさいよ!」
「じゃあさっきの約束守って」
「え?あ…うん…」
「じゃあね」
「!!」「!!」

彼が去り際に私の頭にポン!と手を置いた。
私はクラスメイトの目の前で何するんだとびっくりして慌てて女の子の方を見たら
彼女も驚いた顔してた。

「ちょっ…」


何でこんな余計な事…ど…どうしよう…彼女誤解とかしてないかしら?





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