いきなり奈々実さんに別れを切り出された。
まあ別につき合ってたわけじゃ無いから別れと言うのも変だけど…
二度と会いたくない宣言までされた。
さっき別れた時とはこれまたいきなりの急展開で…
まあ奈々実さんに何があったのか何となくはわかるけど……
でも一応話だけは聞いておこうと思った。
後々奈々実さんと話すのに必要とも思うし。
さっきの奈々実さんの言ったことを聞く気なんてオレにはこれっぽっちもないから。
「ねえ」
「!!」
一般公開の時間も終わってクラスの連中がバラバラと集まって雑談をしてる。
残す所は後夜祭だけ…
そんな中オレは周りも気にせず友達と一緒にいた水谷に声を掛けた。
オレに声を掛けられてとんでもなく驚いた顔してる…けどオレはお構い無しに続ける。
「ちょっといい」
「…………」
相手の返事も聞かず直ぐに水谷に背を向けて教室を出た。
その後をゆっくりと水谷がついて来る。
そのまま階段を上がって屋上に一番近い踊り場で振り向いた。
水谷はまだ階段を上がりきってなかった。
「あの人に何を言った」
「!!」
上から見下ろしてるオレの言葉に一瞬驚いて視線を逸らす。
「何か言ったろ…オレが教室に戻った後」
「……あの人が何か言ったの?」
「二度と自分の前に現れるなって言われた」
「!!」
「で?あの人に何を言ったの」
「別に……って言うかあたしより彼女に聞けばいいじゃない!」
「聞くよ…後でね」
そんなの当たり前だっつーの。
「その前にどんな話したのか聞かせて」
「…………」
水谷はオレから視線を外したままだ。
「時間無駄にしたくないんだけど」
「………あんた…二股掛けられてんのよ!」
「は?」
いきなり何を言い出すんだろうとオレは表情は変えずに首をちょっと傾げる。
「あの人彼氏がいるんだよ!あたしちゃんと見たんだからね!2人が抱き合ってる所!!」
彼氏?初耳。
「どこで」
「カラオケで…」
「いつ」
「……夏休み…お盆辺りか過ぎだったかな…
偶然だったけど彼女よりもちょっと年上っぽい会社員風の男の人と抱き合ってるの見たんだから!」
夏休みのお盆あたり?ああ…あの友達の送別会の日…
「それにそのこと追求したらあの人頷いたわよ!」
本当は否定しなかっただけなんだけど…同じ様なもんだと思ってそう言い切った。
「そう…他には」
「え?あ…えっと…」
オレがあまり驚かなかったからか水谷が拍子抜けな感じで言葉が詰る。
「あんたの事も遊びだって認めた……それに年下相手じゃ物足りないって。
デートが高校の文化祭じゃ子供っぽいって…」
「…………」
「だから……三宅とはもうやめるって……」
「あの人がそう言ったの」
「言ったわ。自分からね!
二股掛けてるの認めたし三宅と付き合うのやめるって自分で言ったんだよ!」
「そうわかった」
「!!」
オレはそう言うと階段を下り始めた。
「三宅!?」
水谷が驚いた様に横をすり抜けるオレの腕を掴む。
「なに」
「…………」
いつもと同じ態度と言い方と表情で視線だけを水谷に向ける。
「なに?もしかしてあの人の所に行く気?」
「水谷には関係ない。腕離して」
「………な…なんで?」
「その理由を水谷に言う必要があるの?」
「!!」
「大体水谷が奈々実さんに何か言う権利何も無いはずだけど」
「………だって…」
「だってなに」
「あんた遊ばれてるんだよ?二股かけられてるんだよ!」
「だから」
「だ…だからって…いいの?そんな付き合い…」
「オレ二股なんてかけられてないし遊ばれてもいない。ああ逆に遊んでるかも」
「え?」
「オレが奈々実さんで遊ばせてもらってるのか」
「………」
「なに」
「あんた達って一体なんなの?あの人彼女じゃないんでしょ?
彼氏がいても良くて二股でも良くて…なんで?そんなの三宅らしくない…」
「奈々実さんの前でオレは一番オレらしいよ」
「え?」
「付き合ってないと傍にいちゃいけないの」
「………」
「彼女って言う肩書がないと自分のものじゃない?」
「三宅…」
「奈々実さんが彼女じゃなくても……オレは奈々実さんの傍にいる」
「!!」
「奈々実さんはいつもオレの傍にいなきゃいけない人だからそれを誰にも邪魔はさせない」
「三宅…」
「ああ…失敗…」
全然残念そうじゃないいつもの無表情の三宅の顔と声だ…
「え?」
「奈々実さんにも聞かせてない言葉だった」
「………」
「超レア」
「!!」
三宅がクスリと笑った…笑った所なんて…初めて見たかも……
でもあたしを見てる瞳は全然笑ってなくて……
「もうオレに構わないで」
「………」
「欝陶しいから」
「!!」
ずっと…感情のこもってない三宅の声が続く…
「知らなかった?オレ女子って面倒で欝陶しいからキライ」
「えっ!?」
「じゃあね」
「三宅……」
オレは途中まで下りてた階段を下り始めた。
「あれ?帰るのかツバサ?後夜祭出ねえの?」
教室に戻って帰り支度をしてるオレを見て須々木が声を掛けて来た。
「帰る」
「何だよ〜踊らねぇの?」
「踊らないっていつも踊らないだろ」
「何だ〜ツバサが告られる所見たかったのになぁ〜
お前イベント毎にここぞとばかりに告られるから楽しみにしてたのに ♪」
「面倒」
こんな会話の間水谷がいた辺りの女子が伺う様にオレを見てた。
「上手く言っといて」
「貸しだかんな ♪」
「何のこと」
「汚ねーー踏み倒しか?」
「じゃあね」
廊下に出ると水谷が教室に向かって歩いて来る所だった。
オレに気付くと一瞬水谷がピクリと動いたのがわかった。
三宅と話した後…あたしはしばらく放心状態だった。
三宅があんな風に話すのを…聞いたのも見たのも初めてだったし…
三宅が笑ったのを見たのも初めてだった…一番は……
一番は三宅の方があの年上の彼女の事を好きだってこと……
そして……あたしは……
あたしは……三宅に…拒絶されたって事…
そんな私の横を三宅は何事も無かった様にいつもの無表情で通り過ぎて行った……
「さて…」
持ってる合い鍵で奈々実さんの部屋の玄関を開ける。
さっき掛かって来た奈々実さんからの電話はもうオレの中では処理されて
どう対応しようか準備は出来てる。
後は奈々実さんが帰って来るのを待つだけ。
「コーヒーでも飲もうかな」
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
「!」
携帯が鳴って相手は安奈センパイだった。
『あんた一体なにやったのよーーーーっっ!!!』
「…イっ!!」
物凄い大きな声で携帯を当ててた耳がキィーーーンと鳴った。
「……痛い。鼓膜破ける」
『やかましいっ!あんた約束したでしょ!お姉ちゃん泣かすなって!!』
「うん」
さっきとは反対の耳に携帯を当てる。
マジでさっきの方の耳が痛い。
『じゃあ何でお姉ちゃん泣いてるのよ!』
「奈々実さんが?」
『そうよ!最後に会ったのツバサでしょ?』
「まあそうかな」
本当は違うけどまた話すと面倒だから黙ってる。
『お姉ちゃんに何したのよ!』
「なにも」
『ウソつくな!』
「ホント」
『あんたねぇ…』
「安奈センパイ」
『何よ!!』
「奈々実さん早く帰して」
『は?』
「話すから」
『………』
「でもオレが待ってることは内緒で」
『もう泣かせないでしょうね!』
「さあ」
『ちょっと…』
「帰して」
『……次泣かせたら後は無いからねっ!!』
「それは困った」
『何よ!泣かすの前提?』
「さあ」
『このバカ!!』
「ホント早く帰して」
『………本当に大丈夫なの?』
「さあ」
『もう…わかった。なるべく早く帰る様に仕向けるから』
「よろしく」
まだ何か言いたげな安奈センパイからの電話を切って携帯を閉じる。
「泣いてた…か…」
泣くくらいならあんなこと言わなければいいのに……
ホント奈々実さんは……やる事がいつも突然ででも抜けてて…だから目が離せない……
「でも…また泣かせちゃうかな……」
そんな事を呟きながらコーヒーを淹れる為にオレはイスから立ち上がった。
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