彼の腕がのびて抱きしめられる…
「一生オレの傍にいてオレをホッとさせて…奈々実さん」
「え?いや…あの…だから…」
人の話はまるっきり聞いちゃいないわね……
「諦めて」
「………」
「もう逃げられないよ」
「………」
そんな言葉が頭の上から降って来る……
本当に本気なのかしら…
「オレが見つけたホッと出来る人だから離す気無いし誰かに渡す気も無い」
「だ…だって知り合ってまだ…」
「だよね。不思議」
「そう言うことじゃ…」
「そう言うことでしょ」
「私…大分年上だし……」
「オレだって大分年下」
「きっと嫌な思いするわよ…」
「しない」
「するってば!」
「しないから…大丈夫。オレだよ?誰にでも勝てる自信ある」
「…………」
確かに彼の素っ気無さぶりなら相手も気が逸れるかもしれないけど…
「本当に?」
「本当」
「物好き」
「そう」
「でも…結婚前提じゃなくてお付き合いから……」
「それでもいいけど」
「本当?」
「籍入れるのは譲らないけど」
「なんで?」
「多分今と変わらないから」
「え?」
「お互いの指に指輪があるくらいだよ」
「………」
「戸籍上とか書類上は変わるかもしれないけど2人の生活は変わらないと思う」
「………」
何となく…彼の言う通りかも…なんて思ってしまった。
1度は1ヶ月以上も一緒に暮らして今だって半同棲らしき状態で…
一体何が変わるって言うんだろう?
しかもあやふやな状態じゃない…
ハッキリとした関係に彼はなってくれるって言ってるんだよね……
年が若すぎるとしても…
「どうせ親に反対されるわ…」
特に彼の親には…
18の息子が高校卒業と同時に8つも年上との結婚を許すわけないもの…
「話してみないとわからないけど前にも言ったけど親はオレに負い目があるからきっと反対しないと思う」
「そんな軽い話じゃないでしょ…」
「大丈夫だと思うけど菜々実さんの方がどうかな」
「きっとあなたの歳を聞いて反対するんじゃない。世間の目がって思うわよ」
実際どうなるかなんてわからなかったけど…
きっと年相応な相手なら反対も無いだろうけど彼が相手となると賛成してくれるとは思えない…
「そっちは応援頼むからどうにかなる」
「応援?」
「そう」
「……え?……誰?」
「安奈センパイ」
「安奈??」
「多分頼もしい味方になってくれると思う」
「…………」
何だか…今更ながらじわりじわりと周りを固められてる気がするのは気のせいかしら?
いつもはあんなにのらりくらりしてる彼がなんでこんなにサッサと事を進めるのか…
「なに」
そう言えばずっと彼の腕の中にいた私…
目の前の彼をじっと見てたら当たり前だけど気付かれた。
「随分色々話すんだなって…あなたこんなにお喋りだったの?」
「菜々実さんとの事だからに決まってる」
「!!」
「今は黙ってたら先に進まない。その辺のことわかってる?奈々実さん」
「わ…わかってるわよ」
「どうだか」
「失礼ね!きっとあなたよりも事の重大さをわかってるわよ!」
「ああそう言えば」
速攻で話を切り替えたわね!
「なに?」
「あの送別会の日男の人と抱き合ってたってホント?」
「え”っ!?」
「見た人がいる」
「……うっ!!」
見た人って…今日の彼女でしょ…やっぱり彼女と話したんだ…
「その 「う」 って言うのは本当ってこと」
「あ…あれは…その…不可抗力って言うか…」
「オレ言ったよね」
「え?」
「オレ以外に無防備だとイライラするって」
「…………」
確かに言った…言いました。
「あれ付けた相手?」
「……えっと…」
「と言う事は奈々実さんの元カレ」
「…………」
「もう二度と会わないよね」
「も…もちろん……」
言葉の端々に威圧感が感じるんですけどーーー!!
「で」
「で?」
「オレの申し出は受けるよね」
「へ?」
「オレの卒業と同時に籍を入れるってこと」
「……本当に?」
マジマジと彼の顔を見つめちゃった…
「何度も言わせない」
「…………絶対後悔するわよ」
「奈々実さんが?」
「あなたが!」
「だからしないから」
「まあそこまで言うならそう思っててあげるわ…ホント物好き……」
「奈々実さんはずっとオレの傍にいてもいいと思ってくれてる?」
「…え?」
「思ってくれてる?」
「…………」
片手は私の身体を抱いたまま…もう片方の手はいつの間にか私の頬に触れて…
指先が頬を撫でながら親指が私の唇をなぞる……
この人……こんなことする人だった??
「奈々実……」
「!!」
耳元で…そう名前を呼ばれた瞬間…身体に電気が走ったみたいに痺れてピクンと跳ねた気がした…
8つも年下で……高校生のくせに……無表情のくせに……
なんて甘い声で私の名前を呼ぶんだろう……
「ん……」
彼の顔が近付いてちょっと傾げるとそのまま唇を塞がれる…
でもそれはそっと触れるだけのキス……
ちゅっ…ちゅっ…と軽い触れるだけのキスを角度を変えて何度もする……
「……ぁ…」
だめだ……さっきの名前を呼ばれた時に…もう…何も考えられなくなっちゃってる…
「ン……」
触れるだけのキスの後…ぐっと唇を押し付けられて彼の舌が私の口の中に入ってくる…
そのまま…求められるまま…お互いの舌を絡めあった…
どれだけの時間そんなキスをしてたんだろう……
お互い息が弾んで……ああ…でも…私の方が弾んで……る?
「ハァ…本当に……後悔……しない……の?」
「しない」
「ウソついたら恨んでやる……」
「ウソついたらね…ちゅっ…」
「これって……キスなの?」
「今日はキスしかしてない…あのドーナツを食べた時は違うけど」
「そう……」
そう言って私は初めて彼の首に両腕を廻して抱きついた。
ちょっとくらい驚いた顔しなさいよね……なんで顔色一つ変えないんだか……
そんな愚痴を心の中で溢しつつ……私は自分から…彼の唇にキスをした……
きっとそんなすんなり事が運ぶとは思えなかったから…
もしお互いの親が許してくれなかったらそれはそれでいいかな…なんて思ってる自分がいる…
色々考えるのももう面倒になりつつあって…
どうせ何を考えても彼にかかったらそんなことどうでも良い事になっちゃうから…
あんなに確かめたのに彼は私でいいと言った……
こんな歳の離れた年上女のどこがいいのかと思うけど…
本人がそこまでいいと言うならもうそれを信じさせてもらう。
だって…彼の言う通り……最初から…彼の事は嫌じゃなかったから…
ムカつく事もあったけど…嫌いじゃなかった……
自覚するとこんなにもあっさりと受け入れちゃうものなのかと…
自分でもびっくりで……
彼の言う通り……
精神年齢は私より彼の方が上かもしれないと……
いつもとは違って見える彼の笑顔を見てそう思った…
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