ひだりの彼氏


60




「なに」

「へ?あっ……ううん……」


月曜日の朝……衣替えになって大分経つと言うのに何度見ても彼の学ラン姿に見入ってしまう私……
だって……こんなにも彼の学ラン姿が様になるなんて……反則でしょ?
今まで男子の制服姿にそんなこと思ったことなかったのに……

「…………」
「なに?」

彼がジッと無言で私を見つめるから今度は私が問いかけた。

「奈々実さんが 『学ラン萌え』 とは思わなかった」

「なっ!?」

いつもの無表情で言われたーーーーー!!!

「だっ……誰が 『学ラン萌え』 なのよ!!」
「じゃあ 『学ランフェチ』 ?」
「黙りなさいよ!!」

ブン!と振り上げた手首を彼がギュッと掴んだ。

「こう言う時彼氏が高校生で良かったね。買わなくてもコスプレで遊べるよね」
「遊ばないわよ!」
「奈々実さんにセーラー服は無理?」
「ムッ!現役引退してブランクありすぎて悪かったわね!!
それに私はセーラー服じゃなくてブレザーです!残念でしたね!フン!!」

ホント失礼!!

「あっ!」

掴まれた手首を引っ張られてクルンと身体を廻されると
背中から彼の胸の中にスッポリとおさまって抱きしめられた。

「やだ……ちょっと……離して……」
「奈々実さんの女子高生姿見てみたいな」
「見なくていいわよ……」
「クラスにいたらどうだったかな」
「さあ?お互いシカトしてたんじゃない?あなた女子は嫌いで鬱陶しいんだから」
「でも奈々実さんは特別だったんだからやっぱり傍にいたかも」
「……あ……もう……やぁ……」

さっきから首筋に唇が押し付けられて啄ばむ様に彼の唇が触れてる……
付き合い始めてから彼は何気にスキンシップが激しくなってる気がするのは気のせい??

彼ってこんなキャラだったのかしら??わからない……

「ん?なに」

奈々実さんが涙目でオレを自分の肩越しに睨む。

「あなたってこんな事するキャラだった?」
「こんなこと?」
「今……みたいな事……」
「後ろから抱きつく事?」
「それもあるけど……」
「?」

最後はゴニョゴニョと……恥ずかしいから言わせないでよ!!

「身体が勝手に」
「もう離して!会社に遅刻しちゃうから!」
「奈々実さん」
「なに……んっ!」

今度は顎を掴まれて顔だけ後ろを向かされてキスされる……
もう……本当に……彼ってこんなに人のことかまうの?

啄ばむ様なキスから唇を彼の舌先が割って入って来て今度は息が上がるほどのキスをされる。

「……んっ……ンン……も……やめ……」

時々彼に絡められる舌が解放される合間を縫って途切れ途切れに言葉を話す。

「奈々実さんが他所の子供に悪戯されない様にだっていつも言ってる」

それからしばらくしてやっとキスを止めてくれていつものセリフを言われる。
だから悪戯なんてされないってば!!もう……


月曜の朝は毎週こんな感じで遅刻しそうになる。




『……バサ』

ん?

『ツバサ……』

呼ばれてる?誰?

「ん……」

寝起きの瞼をあけたら見た事のある顔が上から覗き込んでた。

「もうすぐ昼休み終るから起きて」
「……もう?」
「もうってあれから20分経ってるのよ」
「んーー」

オレは伸びをして仰向けから横向きに身体を動かしてまた寝る態勢をとるとすかさずカミナリが落ちる。

「ちょっと!聞こえないの!もう昼休みが終わっちゃうって言ってるの!起きてよ」
「眠い……」

そう呟いて顔をスリスリすると本当に気持ちよくてまた睡魔が襲ってくる。

「だからダメだって!!」

あれ?この声って誰だっけ?えっと……ああ!!

「ケチだな……奈々実さんは……」
「ケチとかの問題じゃないでしょう!5時間目に遅れちゃう!」
「真面目だな……奈々実さんは……」
「真面目じゃなくてこれが普通なんです!」
「まったく……じゃあ明日も膝枕で寝させてくれる?」
「明日も?……別に構わないけど……あなたのファンの子に睨まれるから本当は嫌だけど」
「そんなの気にしなくていい。オレ奈々実さん以外の女子嫌いだし」
「…………」
「どうしたの?顔真っ赤だよ」
「なななな……何でもないっ!」
「仕方ない起きるか……ふぁ……」

オレは名残惜し気に腕立て伏せの感覚で奈々実さんの膝から起き上がる。
昼休みを奈々実さんの膝枕で寝るのがオレの日課。
寝心地が最高で暖かくて柔らかくて……何より奈々実さんのって言うのが一番の理由。
奈々実さんは毎日文句を言いながらでも毎日ちゃんとオレに膝枕してくれる。
オレにとってその時間は何物にも代えがたい至福の時間なわけで誰にも邪魔なんてさせな……

『……君』

ん?

『ツバサ……』

なに?

『……ツバサ君……』

だから誰にも邪魔させないって……

「三宅翔君!起きなさい!」
「…………」

フルネームで名前を呼ばれてやっと目をあけた……片目だけだけど。

「いくら自習だからって寝てばかりじゃダメよ!」
「…………」

視界に入って来たのはきっちり化粧した若い女。
奈々実さんと同じ様に上からオレを覗き込む。

「……誰?」

普通にそう呟いてた……本当にこの人誰?何でオレの傍にいる?

「!!」

一瞬顔が引き攣ったのがわかったけど本人はさっとその顔を隠した。

「あのね……三宅君……」
「ツバサ!教育実習生の『神山芽衣子』先生だろ!」
「は?」

やっと俯せの状態から顔だけ声のする方へ向けた。
向けた先に当たり前だけど声の主の須々木が呆れた顔でオレを見てた。

「お前芽衣子ちゃんが教育実習に来て1週間経ってんだぞ!誰はないだろ誰は!」
「…………」

そんな事言ったって記憶に無いもんは仕方ないだろ。

「ふぁ……」

まあどうでもいいけど……
せっかく奈々実さんが夢に出て来たのに……
しかも超レアな制服姿だったはずなのに良く見る前に起こされたからはっきり言ってオレは気分が悪い。

「プリントやったの?」

言いながらオレの腕の下にあった自習の課題のプリントを取り上げる。

「……まあ……一応ちゃんと終わらせてあるのね」

何となく納得いかない顔されてプリントを返された。
やらずに寝てると思ってたんだろうな。

これでも大学の受験生で特に奈々実さんと結婚の約束が決まってからは
大学を絶対落ちるわけにはいかないとマジで思ってるから勉強に関しては手を抜かない。

なるべく奈々実さんの前では勉強してる雰囲気は見せない様にしてるけど
放課後には図書室で勉強して帰るし冬季も夏に受けた予備校で特別講習に申し込んでる。

家では奈々実さんとゆっくり過ごしたい……それも今年一杯が限度かな?なんて思ってる。
流石に来年からは夜も勉強しないと安心出来ない。

失敗は許されないから。




「あらこんな所で勉強なんてしてたの?」
「…………」

誰かと思ったら確か教育実習生の……なんだっけ?まあいい……
とにかく5時間目にオレの昼寝を邪魔した女が何でだか放課後の図書室で勉強してたオレの隣に勝手に座った。

「受験生だものね〜」
「…………」

机に両腕を乗せてその上に自分の胸を乗せて下から見上げる様にオレを見る。
もしかしてオレを誘ってる?見習いでも一応教師の端くれじゃないのか。
なんて思ってたらオレの方に寄り掛かって来た。

「…………」

欝陶しい!!しかも香水の匂いがハナにつく。

「三宅君って彼女いるの?」
「さあ」

いると答えても意味がない様な気がしたらそう答えた。
と言うか奈々実さんの事をこの女に話す気なんてないし。

「いないの?そんな事なさそうだけど?それとも特定の相手は作らずに遊ぶタイプ?」
「さあ」
「何ではぐらかすの?」
「別に」
「……あなた他の子とちょっと違ってる?」
「さあ」

そんな質問をしながら徐々ににオレとの距離を詰めてくる。
いい加減うんざりして口を開けかけた時図書室の扉が勢い良く開いた。

「芽衣子ちゃ〜ん ♪ 迎えに来ましたよ〜 ♪ 」
「…………」

しまりのない顔で飛び込んで来たのは須々木……とんでもないマヌケ面……

「あれツバサ?何で芽衣子ちゃんと?」
「あら須々木君どうしたの?」

にっこりと笑いながらやっとオレから離れた。

「え?ああ……芽衣子ちゃんもうすぐ教育実習終わっちゃうだろ?
皆が芽衣子ちゃんと話しがしたいって待ってるんだ ♪ 」
「あら一体どんな話かしら」
「そりゃ勉強の話しとか恋の悩みとか?」
「…………」

オレはそんな2人の会話を聞きながらウンザリ……
いいから早くどっか行ってくれないかと心の中で呟いてた。

「まあ……楽しそうね。三宅君もどう?」

そんな言葉もオレはシカト。

「ああ芽衣子ちゃんツバサはいいのいいの〜」
「?」
「ツバサは女子に興味ないから」
「え?」
「ああ〜自分の彼女以外興味無いんだよ」
「彼女?へえ……彼女いるの?」
「…………」

まったく……また余計なことを……

「ほら芽衣子ちゃん早く早く〜 ♪ 皆待ってるよん ♪ 」
「はいはい……三宅君本当にいいの?」

席を立ちながらオレに向かってまだ言ってくる。

「…………」

そんな言葉を掛けられた時オレはもう目の前の問題集に視線を落としてた。





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