ひだりの彼氏


71




「そうなんだけどさ……」

湯船に浸かりながらぼそっと呟く。

「本当に結婚するんだよね……でも……本当に私と結婚なんてしたいのかな……」

もう何度も答えの出てる疑問を私は何度も何度も自分の中で繰り返す。
彼には言えないこの疑問は時々彼が話す将来の事や結婚のことで彼は本気なんだと答えをくれるんだけど……
やっぱり彼の若さと自分の歳と……彼の将来はこれからだって思うと結婚と私に縛り付けて
将来を18歳っていう歳で決めさせてもいいのだろうか?

なんてこういう時だけ年上根性が出てしまう……

「ここまで話しが進んで今さらだよね……」

年明け早々3日の日に彼の両親がウチの親に会いに来ることになってる。

「……彼の傍にいたいって……言ったのは私でしょ……」

『いつもオレの傍に奈々実さんにいてほしい』

あの彼が私にそんなことを言ってくれてるんだからきっと本気なのよね……

そう……もう疑ったりすることは意味のない事なんだと自分に言い聞かせた。



「え?なんで?」

お風呂から出て身体を拭き終わると何とも言えない違和感が視界に飛び込んできた。

「赤い……」

いつも着替えを置いている洗濯機の上に見慣れない真っ赤なものが乗ってる。

「え?何これ?ってパジャマは?あれ?パジャマがない!!!」

おかしい!ちゃんと着替え一式持ってきたはず。
なのにパジャマだけがないって……

「これなに?」

代わりに置いてあった真っ赤なモノを掴んで両手で目の前に掲げてみた。

「なっ!?」

こ……ここここ……これはっ!!


「ちょっとーーーーーーーっっ!!これは一体どういうコトなのぉーーーーーっっ!!」

洗面所のドアを5センチほど開けてその隙間から思い切り叫んだ。

「奈々実さん近所迷惑」
「うるさい!!あなたがやったんでしょ?返して!パジャマ返してよ!!」
「かわりの服おいてあったでしょ。それ着て」
「おバカっっ!!!あんなの着れますかってのっっ!!いいから早く!!」

ドアの隙間から文句を言い続ける私にその隙間からちょろっと覘かせる彼の顔。

「絶対服従命令発動」

「へ?」
「早くそれ着て出てきて」
「無……無理!」
「オレは約束守ったよね奈々実さん」
「う″っ!」

そう言ってまだ包帯が巻かれてる自分の腕を隙間から私に見せる。

「何でも言う事聞くって約束したよね」
「…………」

くぅ〜〜〜〜〜〜!!もう一体何なのよーーーーー!!


「あ。結構似合う」
「…………」

私は渋々と……本当に……本当ーーーに仕方なく言うことを聞いて彼の目の前に立った。

「奈々実さんのミニスカート姿なんて見たことなかったから生脚が新鮮」
「こっ……この変態!!エロ高校生っ!!!バカっ!!」

私は今まで生きて来てこれ以上恥ずかしいことに遭った事がないというくらいの事態に遭遇してる。

パジャマ代わりに置いてあった真っ赤な服……
今日がクリスマス・イブともなればそれがどんな服かも察しがつくというもので……

「どういうつもり?こんな服着せて」
「今流行りのコスプレ」
「なっ!」

言い切ったわね!

「へへへへ……変態ーーーー!!」
「着替えたくせに」
「ぐっ!そ……それはあなたが……」
「奈々実さんって意外と律儀だよね」
「意外って……約束だからじゃない!」
「それでも嫌だって言い切ればいいのに」
「ムッ!!じゃあ次からは意にそぐわない申し出はお断りしますからっ!」
「却下」
「なっ!?」
「オレの言うことには絶対服従」
「!!」

まったくもーーー!!このエロ高校生め!!

「でも」
「なにっ!」
「似合うよ奈々実さん」
「!!」

彼が首をちょっとだけ傾けて口元だけ笑ってる。

「ウソつくな〜〜〜!!」
「痛いって」

ムカついたからいつものごとく彼の無防備な頬を抓る。

「もうすぐ30の女捕まえてこの恰好は痛すぎるでしょ!!」
「そうかな。似合うと思うけど」
「は……ぁ?」

どんな視力?どんな色メガネ?自分で客観的に見ても痛い恰好だと思うのよ。
まあ上着はね……百歩譲ってイベントかなんかでもよく見かけるサンタの上着よ。
でも下はズボンじゃなくてスカートなんだもん。
しかも超短いし!お辞儀したら見えちゃうんじゃない?ってくらい短い!
そう思うと気になって何気にスカートの裾を引っ張る。

「もしかして自分で買ったの?」

だとしたらちょっと怖い。

「同級生がくれた」
「同級生?友達じゃなくて?」
「あんなの友達なんかじゃない」
「そうなの?」

あんなのって……

「奈々実さん」
「あ!」

グイッと肩を抱き寄せられて彼と頬がくっつくくらい密着した。

「え?」
「ほら撮るよ」
「ちょっと……」

いつの間に準備してたのか彼の手に携帯があって浴衣の時みたいにすでに写真を撮る準備万端だった。

「一発勝負」
「へ?また!?」
「また」
「ちょっと待っ……」

カシャ!っと音がしてシャッターが切られた。

「…………」

またあとで見られたくない過去が増えていく……

「?」

彼がスッと私から離れた。

「!!」

振り向くと私に携帯を向けてカシャリとシャッターを切った。

「ちょっ…!!」
「ちゃんと撮れた」
「まったく……」

こんな痛い人物撮ってどうするのよ。

「……まさかあなたにそんな趣味があるとは思わなかったわ。」
「どんな趣味」
「コスプレ」
「別に奈々実さんにこんな恰好させて喜んでるわけじゃないよ」
「ウソ!」
「ウソじゃないって」
「じゃあもう脱いでいいでしょ」
「それはダメ」
「なんなのよ……あ!」

グイッと手を掴まれてベッドの前に連れていかれる。

「座って」
「うん……」

2人で向かい合ってベッドに腰掛ける。

「なに?」

これから何が始まるのか彼の意図がわからなくてちょっと緊張して身構える。

「この恰好ってなに?」

彼のあまりにも的外れな質問に私は心の中でコケた。

「え?この恰好って……サンタでしょ?」
「正解」
「……」

バカにしてるのかしら……私は彼の考えてることがわからなくて彼の顔をじっと見てた。

「だから今奈々実さんはオレだけのサンタ」
「…………」

何かの遊び?

「今絶対服従命令発動中。わかってる」
「うん……」

というコトは私には拒否権がないということよね?

「サンタにお願いがある」
「……はい?」
「クリスマスにはサンタにお願いしてもいいんだよね」

そりゃ巷ではそうだろうけど……

「高校生のあなた……が?」
「高校生はまだ子供なんでしょ。前奈々実さん言ってたよね」
「!!」

そう言えば知り合った頃そんな事を言ってたわね……
まあ……売り言葉に買い言葉ってな感じだったけど。

「サンタにお願い」
「…………」

「奈々実さんのすべてが欲しい」

「!!」

「奈々実さんの心も身体も全部欲しい」

「…………」

いつもの無表情な顔でまたサラリと彼は言った。
私は彼の言葉がイマイチ理解できてないみたいでしばし無言。

「すぐにとは言わない。怪我も治ってないし……気長に待つし……」

「…………」

彼がそう言いながら優しく微笑んでる……

私の……心も身体も欲しい?……それって……どういう意味だろう?

ああもうほら……彼はいつもこうやって私の頭を悩ませることばっかり言うのよ。

心も身体も?心は……とっくに彼に奪われちゃってるんじゃないの?
じゃなきゃ結婚なんて考えないし頷かないわよ。

てことはあとは身体……身体……身……体?

「!!」

私はやっと彼の言うことが理解できて固まってしまった。

「やっと理解できた」
「なっ……あ……」

言葉も出なくてただ口をパクパク動かす事しかできない。

「毎日楽しみに待ってる」
「へ?あ……いや……ちょっと待って……」
「普通クリスマスプレゼントがサンタから届くのって今夜でしょ。それを気長に待つって言ってるオレって優しいよね」
「はあ?」

優しい?それって優しいの??

「チュッ……」

触れるだけのキスが私の唇に落とされる。

「待ってる」
「…………」

私は色々な意味で心臓がドキドキのバクバクで自分の顔が赤いのか青いのかわからなかった。

目の前の彼は優しい微笑みを絶やさない。
そんな彼の顔をボーっと眺めてた……ん?ちょっと待ってよ?何か引っかかる。

彼がこんな手の込んだことをして何もないって有り得るんだろうか?

「…………」

待ってる……彼は待ってるって言った……
確かに私の気持ちを考えて私の気持ちが決まるまでって考えてくれてのコトだと思う……

ん?でも……ちょっと待って!よくよく考えてみるとそれって……

私から彼に迫れってコト!!??

「ちょっ……!!」

やっと気付いて文句を言おうと視線を彼に向けると彼はまだ微笑んでた。

でもその瞳と口元は優しいとかじゃなくて悪戯小僧のような……してやったりと言うか……

とにかく『可愛くない!!』って思えるような瞳と口元の角度だった。

「くすっ」

微かに聞こえた彼の笑い声……やっぱり狙ってたことだったのね!!

「楽しみに待ってる」

「!!」


きーーーー!!!この腹黒男ーーーーー!!

絶対いつかぎゃふんって言わせてやるんだからーーーーー!!





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