彼の名前は 『三宅 翔』 3年生。
1年の私達にはあまり噂は流れてこないけど上級生の間ではちょっと噂のある人物らしい。
でもそれもハッキリとした内容じゃなくてただ噂があるらしいって感じだった。
3年の先輩にも何人か聞いてみたけど『親しくないからわからない』なんて言われてしまった。
恋人はいるかいないか昨日1日ではわからなかったけどまあいいわ。
今日本人に聞いてみるつもりだから。
今日も早々にバトミントンで負けた私は試合がなくて彼の事で動くなら最適だった。
しかも彼はケガをしてて今日も見学らしいから♪
もしかして今日も保健室にしるかもしれない。
私は期待一杯で保健室に向かう。
カラッ……っと静かに保健室の引き戸を開ける。
「失礼します」
小さな声で挨拶をして部屋の中を見渡すとまた先生はいないみたい。
「あ!」
いた!昨日と同じ窓際のベッドに脚が見えた。
でも念のためにこっそりとベッドを覗くと昨日と同じように仰向けで彼が寝てた。
昨日と同じ整った顔も……
「やっぱり素敵……」
言いながらまた仕切りのカーテンを握り締める。
「…………」
気配を感じたのか彼が目を覚ました。
昨日の二の舞にはならないように気をつけなきゃと自分に決意。
「あの……」
先手必勝で彼に話し掛ける。
「…………欝陶しい」
「え?」
「邪魔」
「……は?」
「欝陶しい邪魔」
「う"っ!!」
きっちりと言い直されてしまった。
「寝てるの邪魔しないで」
「ハッ!!あっ!ごめんなさい」
「……」
また彼の手が仕切りのカーテンに伸びるから思わず叫んでた。
「あの!お付き合いしてる人いるんですか?」
「……」
無……無言?
「わ…私1年の景山寧々って言います。少しお話しませんか?」
最初は慌てたけど……そうよ……
落ち着いてニッコリ微笑めば私の笑顔を嫌だなんて思う男はいないわ。
「ウフフ ♪ 」
「……」
ああ……見れば見るほど整った顔じゃない。
寝起きの眠そうな顔も可愛いわ。
「ヤダ」
「はい?」
え?今拒否されました?お断りされました?
「めんどいからヤダ」
「そ……そう言わずにちょっとだけでも……」
「興味ナイ。オレ寝るからもう話しかけないで」
「!!」
また目の前でカーテンがシャッと閉められた。
「…………」
な……冗談でしょ?
「ま……また後でお会いしましょう。三宅先輩……」
何とかそう声を掛けてヨロヨロとしながら保健室を後にした。
だけど……このままじゃ私のプライドが許さないわ……
絶対帰りに捕まえて一緒に帰ってやる!!
パタリと保健室の入り口のドアが閉まる音がした。
「はあーーなんなんだ」
何だか昨日からめんどいな……ほっといてほしい。
「ふぁ〜眠い……」
オレはまたベッドに横になって……その後は誰にも邪魔されず昼寝を堪能した。
学校帰りに明日のクリスマスのチキンの予約をしに巷で有名なお店に寄った。
昔クリスマス当日になかなかこのお店のチキンが手に入らなくて泉美にド突かれたことがある。
また嫌な思い出だ。
奈々実さん命令でケガが完治するまで自転車に乗れないから今は電車通学に逆戻りだ。
「探しました。三宅先輩 ♪ 」
お店から出たら目の前に誰かが立ってた。
「誰」
「う"!!」
メゲちゃ駄目。
「1年の景山寧々です。もう2度ほどお会いしてるんですよ」
「……」
初めて向かい合ってマジマジと彼を見た。
背は私より遥かに高かった。
冷たい感じとはちょっと違う無表情な顔に可愛いとはこれまた違う整った顔で……
やっぱり左目の下のホクロが彼に似合ってる。
「ストーカー」
「なっ!ち…違います!」
お店に入る人やすれ違う人が『ストーカー』の言葉に反応する。
そうよね……店先でするような会話じゃないわ。
「三宅先輩」
「……クシュ」
「あら」
場所を移動しませんかと言おうと思ったら彼がいきなり可愛いくしゃみを1つした。
見れば彼はマフラーをしてなかった。
制服の上には何も上着は着てなくて……
だからきっと寒いんだろうと思って自分がしてたマフラーをさっと外すと彼の首にかけた。
白いマフラーだから男の人でも全然大丈夫。
それに私がしてたから温かいでしょ?
「クシュ」
目の前に知らない女子に立たれてしかも匂ってきた香水の匂いにハナが刺激されてくしゃみがでた。
そしたら何を勘違いしたのかオレの首に自分がしてたマフラーを掛けた。
ほんのり生温かくて一瞬で全身にゾワリと鳥肌が立った。
「差し上げます」
ニッコリといつものスマイルで彼に微笑む。
『そんなとびきりの笑顔向けられたら心臓がドキドキしちゃうよ〜』
って男の人にはお墨付きの笑顔。
「いらない」
露骨に嫌な顔された。
「お…お似合いですよ」
「だからいらない」
スルリとマフラーを片手で外すと私に突き返す。
「くしゃみしてたじゃないですか。お近づきの印しに差し上げます。遠慮なさらずに使ってください。」
突き返されたマフラーを受け取らずにニッコリ微笑んだ。
そりゃ今の今まで私がしてたけどちゃんとマメに洗濯してるしブランドものだし私からのプレゼントなのよ!
もうこうなったら彼女がいようがいまいが関係ないわ。
とにかく押し捲ってやる!
「……」
「え?」
何を思ったのか彼は私が受け取らないとわかると出てきたお店に向きを変えて歩き出し
そのマフラーをお店の前に立つおじさんのマネキンの首にかけた。
「なっ!?」
「……」
そしてスタスタと私を無視して歩きだす。
「ちょっと待って下さい!」
私は慌ててマネキンのおじさんからマフラーを奪うと彼の後を追い掛けた。
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