ひだりの彼氏・ショート


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「何なのこの人……」

私はボソッと呟いてしまった。

こんな人初めて!
確かに勝手に追い掛けてるのは私だけどここまで人のことを無視するもんかしら?
少しくらい私に興味持ってもいいと思うんだけど?

でも彼はスタスタと先を歩く。
そんな彼の背中を見ながら私もスタスタと歩いてる。

でも……なんで私彼の後ついて行ってるのかしら?
確かに今まで私の周りにいなかったタイプだけど……
だからってなんで私がこんなに一生懸命彼のあとをついて行かなきゃいけないのよ。

「そうよ……なんで……」

チヤホヤされるのは私のほうなのに……なんで私がこんなに必死になってるの?

「……」

先を歩く彼の後ろ姿をじっと見つめる。
ちょっと歩く速さを上げれば彼の横顔が見える。

やっぱり……素敵……

ハッ!!私ったらもしかして……彼のこと……好きなの!?

「……」

しかも……一目惚れ?ってやつ?うそ……私が?
一目惚れをされる私……が!?男の人に一目惚れ??

「え?」

そんなことを考えながら後ろを歩いてたら彼が喫茶店に入った。
つられて私も一緒に入ってしまった。

ホワンとした暖かい暖房の効いた空気が顔に当たって柔らかな音楽が聞こえる。
もしかしてやっと私と話しをしてくれる気になったのかしら?なんてドキドキしてたら女の人の声が彼を呼んだ。

「ツバサ」

大人の女の人の声……
声の感じから上品そうな雰囲気がしたけど実際声の主を見て思ってたとおりだった。
彼に向かって軽く片手をあげた人は落ち着いた大人の女性。
肩よりちょっと長めの髪には軽くウェーブがかかってて透き通るような肌にナチュラルなお化粧が似合ってる。
まさしく大人の女性って感じ……私なんて彼女と比べたらお子ちゃまだろう。

特に私はそれが『売り』なのだから。

「そちらは?」

目の前の女性がニッコリと微笑んで首をちょっと傾けた。

「あ!あの……私……」

慌てて言葉が出てこなかった。
高校の後輩と言えばいいのに……

「ストーカー」
「あら」
「え"?」

この人ってば無表情でなんてことを!!

「いえ……違います!!わ……私は同じ高校の後輩で……」

よかった!ちゃんと言えた!!

「あら後輩の方……フフ……そう」
「はい……」

妖艶な微笑を送られた……
え?なに?なんでいきなりそんな人を見下した視線で見るの?

「そうよね。ツバサがこんなお嬢さん相手にするわけないものね」
「は?」

こんな!?こんなお嬢さんて言いました?

「ツバサ座ったら。あなたまさかこのまま同席するおつもり?」

形のいい唇がそんな言葉を零す。

「え?あ……いえ……そんな」

私はワケもわからないまま2人から離れた席に座った。
本当なら帰るべきなんだろうけどどうしてもこのまま帰ろうとは思えなくて……

離れた席でじっと2人を観察してしまった……恋人……なんだろうか?
どう見ても年上よね?お姉様趣味?それとも相手が年下趣味?

それにしても見れば見るほど……とっても綺麗な人……

会話は聞えないけど女の人が小さな紙の手提げ袋を彼に渡した。
袋に書かれたお店のロゴは有名なブランドの宝石メーカー……

とっても嬉しそうな女の人に当たり前のようにそれを受け取ってる彼。
そのまま中身を見もしないで彼は鞄にその袋をしまう。
え?もしかしてアクセサリーのプレゼント?あの女の人に貢がせてるの??

ええーーー!?彼ってそんな男なの??

私の頭の中はゴチャゴチャのパニック状態!
高校生のクセにあんな年上の女の人を手玉に取ってるの???

背中しか見えないから彼が今どんな顔してるのかわからないけど女の人の顔はとっても嬉しそう。

「はうっ!!」

向かい合って座ってる女の人が手を伸ばして彼の髪を撫でた。
そのまま頬を撫でながら手のひらが滑ってテーブルの上に置かれた彼の手の上に重ねられる。

彼は全然嫌がった素振りはない。

「…………」

やっぱり彼氏と彼女とか……そういう関係??



今日は絢姉さんと学校が終わってから待ち合わせしてた。
頼んでおいた奈々実さんへのクリスマスプレゼントを持って来てもらうためだ。

人気があった品物だから取り寄せてもらってギリギリ今日届いた。

「ごめん絢姉さん。休みなのにワザワザ持って来てもらって」
「いいのよ。ツバサともこうやってお茶したかったしそれにお店にも顔出したかったから」
「あ……彼氏?同じ職場だったっけ」
「そう。だからランチも出来たしいいのよ。フフ……」
「そう」
「今度は2人で彼に会ってね。ツバサ」

クリスマスプレゼントを選ぶのに絢姉さんのデパートを訪ねることになったとき
絢姉さんの相手の男を紹介された。

「うん」
「彼女になかなか会わせてくれないんだから」
「そう?そんなつもりないんだけど」
「そうかしら?しかも結婚なんてびっくりだったし」
「オレも絢姉さんが同棲なんてびっくりだった」
「そうね……自分でも驚いてるわ。ツバサ以外に構いたい男性が現れるなんて……」

絢姉さんは嬉しそうに笑った。
そんな姉さんの様子を見ながらオレは心の中でホッと胸を撫で下ろしてる。
オレと奈々実さんにとって一番の障害になるのはきっとオレのことを溺愛してる
絢姉さんだと思ってたから。
そんな姉さんがタイミングよく彼氏を作ってくれて本当にホッとした。
そんなことがなかったら姉さんはきっと奈々実さんに何をするかわからなかったから。

それが今は自分も相手がいるせいかウソのようにオレに協力的だ。

あの人の良さそうな相手の男に感謝だった。

「で?あの子はなに?」
「さあ」
「そう」

絢姉さんは昔からオレの周りに絡んでくる女子には察してくれるから助かる。

それから少し姉さんと話をして席を立った。
ずっとついて来てる彼女もオレ達より少し遅れて席を立った。

「じゃあツバサ今度はうちに来てちょうだいね」
「必ず行く」
「じゃあまたね。今日は楽しかったわ」
「うん」

お店を出てから2人は私なんかいないかのように振舞ってる。
ううん……私が居ることなんてわかりきってるはずなのにわかってて
聞えるようにあんな会話をしてるんだとわかる。

私は少し離れたところで歩道に立つ街燈の柱に隠れて見てた。
今さら隠れるのもどうかと思うけど……気分的に?

本当……どんな関係なんだろう?あの親しさからいったら恋人同士なのかしら?
それともお姉さん?でも2人の雰囲気は姉弟って感じじゃないのよね……イチャイチャっぽい。

でもだからってまさか本人に聞ける筈も無く……

姉弟のことなんて調べなかったから……彼女はいるんだかいないんだか良くわからなかったし……謎の人だった。

「なっ!?」

「またね」
「ええ」

そう言葉を交わすと彼が女の人の頬にそっとキスをした!?ウソっ!?こんな真昼間から??堂々と?

「…………」

2人は何事も無かったように別れを告げてお互い別々に歩き出した。

私は心臓がバクバクで……え?彼ってそういう人だったの?
だって姉弟じゃあんなことしないでしょ?やっぱり……年上の彼女?

私の想いが……ちょっと壊れた気がした。





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