ひだりの彼氏


77




初めての年越しと新年は奈々実さんと無事に越すことが出来て迎えることが出来た。
まあ多少奈々実さんのご機嫌が斜めになったのは気にとめるまでもなく
オレ達は年越しと初詣を済ませて始発で奈々実さんの家に戻った。

「徹夜なんて久しぶりかも……」

部屋に入るなりヒーターを点けてスイッチを入れたばかりのコタツに奈々実さんが潜り込んだ。
溜息混じりにそう呟いて顎だけコタツの上に乗せて目を閉じる。

「そう」
「あなたも座れば?疲れたんじゃない」
「別に。お風呂沸かしてるから奈々実さん先に入れば」
「うん……そうする……」

言いながらまた目を瞑る。

「寝ちゃダメだよ。奈々実さん」
「……うん」
「怪しいな」
「寝ないわよ……」
「……」

コトリと目の前で音がしたから不思議に思って目をあけると赤い色が視界に入った。
そこには露店で彼が買ったリンゴ飴が置かれてた。

「……」
「奈々実さんがお風呂から出たら半分こね」
「え"!?」

ギクリとしてコタツに入ったまま彼を見上げたらいつもの無表情の顔が見えた。

「今日はゆっくりと奈々実さんとこのリンゴ飴食べようと思ってたんだ。だから帰るまで食べなかった」

「は?!え?」

なんで?今頃そんな爆弾発言?

「疲れた時は甘いモノでしょ」

彼が無表情のままお風呂の様子を見に部屋から出ていった。



「……」

チャプリと湯舟に浸かってぼーっとしてた。

「眠い……」

真面目に徹夜は堪えるかも……認めたくないけどやっぱり歳?彼は全然元気だもの……
そういえば明後日には彼のご両親がこっちに来るんだった。


「本当に大丈夫かしら……」

彼はご両親は反対してないって言ってたけど……もし反対されたら?

「私……」


眠気と考え過ぎてのぼせてしまったらしい。


「ふぁ〜〜うっ!」
「あったまった」
「…………」

ボケた頭で和室に入ると彼がコタツに入りながらリンゴ飴を食べてた。

「!!」

トントンと自分の横の畳を指で叩く。
座れってこと……よね?

私はオズオズと指で叩かれた場所に進むと腰を落としてぺたりと座った。

カシリとリンゴをかじった音がして彼を見ると口にかじり取ったリンゴが咥えられてた。

「半分こ」
「…………」

そんな言葉とかじり取られたリンゴのを見てると思い出すことがある。
あの……夏祭りの夜のこと……

『疲れたときには甘いもの』
なんて言って自分が食べてたリンゴ飴をかじっては私に食べさせた。

彼は座ったまま上半身だけ私の方に向いてリンゴを咥えたままじっとしてる。
だから私が彼に近付いてそのリンゴの端を軽く挟んで受け取った。

彼はなにもしないままリンゴを離してジッと私を見てる。
私は受け取ったリンゴをモシャモシャと食べた。

「甘い?」
「うん」
「そう。じゃあもう少し」

こきっ!っと言う音のあとにまたシャク!っと音がしてまた彼の口にリンゴが咥えられてる。
リンゴの部分に飴が多めについてた。
だから今度のリンゴは甘いかな?なんてそんなことを考えてた。

彼が半分こと言いだすと私は本当に心臓がドキリとなる。

結局何だかんだ言っても半分こを受け入れちゃう自分……

そう言えば最初のキスも……(彼は口移しって言い張ってるけど)
1つのアメを彼がいきなり私の口の中に押しこんだったんだ。

「?」

今度は彼が咥えてたリンゴを離さなかったからお互いリンゴの端っこを咥えたままじっと相手を見てた。

「!」

端っこを咥えたまま彼がクイッとリンゴごと押してきた。
きっと食べてという合図だと思ってちょっと口を開けてリンゴをもう少し多めに咥えようとしたら
彼がリンゴを私の口に押し込んでそのまま私の口を塞いだ。

「……んっ!」

かじり取られたリンゴが私の口の中で彼の舌と一緒に動く。

「ちゅっ……」

小さな音を立てて彼の舌が抜き取られる。

「奈々実さんはリンゴ飴だと大人しく半分こするんだよね」
「……そんなことない……」
「そう」

彼はそう言いながら今度はリンゴ飴の表面をペロリと舐めてちゅっとキスをすると
そのまま私の唇に自分の唇を押し付けた。

彼が近付いただけで甘い飴の匂いが漂って……触れた唇からも甘い味が唇に広がる。


「ん……ふ……」

受け入れた彼の舌は唇よりももっと甘い味がした。

こんな風に積極的なキスは久しぶりかもしれない……

最近は食後のデザートも素直に食べるようにしてるから強引に食べさせれることはなかったから……
本当にこんな風に彼とキスをするのは久しぶりだった。
まあ……彼はこれは口移しと言うんだろうけど……

「ん?」

なんだろう?いつもと……なんとなく違……う?

「ううっ!!」

キスをしながら彼が私の肩を抱いたと思ったら膝の後ろにも彼の腕が差し込まれてグンッと抱き上げられた。

ひえ〜〜〜〜!?なに??一体何が???

でもその前に……

「ちょっと……腕大丈夫なの?」

あんなに青痣になってたのに……

「あれから3週間近く経ってるんだよ。もう治ったにきまってるじゃん」
「そ……そう?ってちょっと何よ!なにしてんの?」
「奈々実さんをベッドに運んでる」
「ど……どうして?あ!そっか!そうよね?もう寝るのよね?徹夜したんだもんね!うんうん!!」

1人で問いかけて1人で納得した。
でもどうみてもかなり焦ってる感が否めない。うう……

「どうしたの。なに焦ってるの」
「な……べ……別に焦ってなんか……」
「そう。ならいいけど」
「…………」

難なくベッドに運ばれてそっと下された。

「ありがとう……って?え?」
「なに」

ギシリと音がして彼がそのままベッドに膝を着いて乗って来た。
しかも私の身体を跨ぐようにして両手は私の顔の横につく。

「え?」
「ん?」
「ううん……あの……寝るんで…しょ?」

違うの?なんだかよくわからない状況……

「これでもずっと待ってたんだけど」

「え?」

「サンタにもお願いしたのにね」

「はい?」

サンタって……私のことだよね?

「年上で多分経験者だと思ってたからちょっとは期待してたんだけど
相手が奈々実さんだって今さらながらオレの失態だったかも」

「え?」

「オレの親に会う前にもう一押ししときたいし」
「?」
「奈々実さんちょっと弱気になってるでしょ」
「え!?」
「大丈夫って言葉だけじゃ信じてもらえないみたいだし。
ここはもっとオレと奈々実さんの関係を確実なものにしておく必要がありそう」
「なに?」
「もうそろそろいいんじゃないかなって」
「なにが?」

なにがいいの??

「奈々実さんをオレに頂戴」

「!!」

ちょっ……頂戴って……え?ええーーー!?

「そんなに驚くこと?いつにしようかなとは思ってたけどそろそろいいタイミングかなって」
「…………そ……そう?」
「腕もすっかり治ったし。たぶん放っておいたらいつまでもこのままのような気もするんだよね。
オレも奈々実さんもこういうの無しでどこまでも行けそうだし」
「え……っと……」
「オレも多少興味がわいたから」
「興味?」
「もともと女子の身体ってそんな興味なかったから」
「……は……あ?」
「でも結婚するならそれって避けて通れないことだと思うし」
「なら……結婚してからで……」
「だから今がいいタイミングだって言ってる」
「ど……どうして?」

「2人が深いところで繋がってたほうが奈々実さんも心強いでしょ」

「!!」

「結婚……やめるなんて言わせない」

「……ン!」

いつもの無表情な顔で彼が私を見下ろしながらそう言うと……

彼の顔がゆっくりと近付いて私の唇にそっと彼の唇が触れた……





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