ひだりの彼氏


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奈々実さんはまだオレとの結婚に不安を持ってる。

それはオレが初めて結婚を口に出した時からわかってることでオレはそんな奈々実さんの
不安な気持ちを知ってても結婚をやめたりもしないし先延ばしにもしない。

これからもオレは学生で自分ではまだ奈々実さんを養うこともできないのに。

でもオレはどんな形でも奈々実さんと一緒にいたい。
恋人なんて不安定なものはいらない。
法律で縛って家族で縛ってオレで縛って…それでも奈々実さんはまだ安定しない。

だから身体でも縛ってあげる。
心はオレが奈々実さんに縛られてるから…

まだ言葉にはしたことはないけどいつか…いつか言葉で言える日がきたら…

奈々実さんの心をオレに縛ることができるのかな……



「これでもずっと待ってたんだけど」

もしかしてと思ってたことがここまで見事に的中するともう笑うしかない。
今まで付き合ったことのある奈々実さんが初めてとは思ってなかったからちょっとだけ
期待したのはホント甘い考えだったと笑うしかない。
付き合った相手がよっぽど淡泊だったのか奈々実さん自身がそっちにまったく興味がないのかわからないけど
できれば奈々実さんから誘ってくれるのを期待してたオレの思惑は見事に打ち砕かれたわけだ。

流石奈々実さんだ。

オレは真面目に女子との経験はない。
須々木は信じてないみたいだけどそれが真実。

でも知識と女子の身体だけは知ってるのも事実でオレにその知識を植え付けたのは
2人の姉と姉の友達。

絢姉さんはオレが小学6年になっても一緒にお風呂に入ったこともあったからそれまで
数え切れないほど絢姉さんの身体は見てた。
華奢だった絢姉さんの身体がいつの間にか丸みを帯びた身体つきになったのも自分と
違う身体なんだと知ったのも絢姉さんを通してだった。

絢姉さんと一線を越えたことはないし要求されたことはない。
絢姉さんはただ純粋に 『弟のオレ』 を溺愛してただけ。

よく抱きしめられたしキスもされた。
でもそれは家族の感情以外なにものでもなかったんだろうけどあまりにも度をこしてたから
親は…特に母親は心配してた。
でも絢姉さんは弟に姉として家族として愛情表現してるだけと思ってるから止められることが
理解出来ないし受け入れる気もない。
だから母親がいくら言ってもオレに対する態度はずっと変わらなかった。
ホント異常なくらいの溺愛だったけどオレが大きくなるにつれ自分で絢姉さんとの距離を取り始めたのを知ると
母親もあまり口を出さなくなった。

女子は嫌い。欝陶しいことこの上ない。

皮肉なことにオレにそんな感情を植え付けたのはオレに異常なまでの愛情を注いでくれた姉さんだった。



「ツバサお前絢姉とデキてんの?」

中学に入ったころ泉美に言われたことがある。

「まさか」
「そうか?あんだけ溺愛されててなんもなしなんてあるか?」
「なにもない」
「ふ〜ん」

本当に絢姉さんとはなにもなかった。
世間一般の姉弟の関係とは多少ズレてるかもしれないげど世間に顔向けできないようなことはしてない。

むしろ絢姉さんの友達の方が厄介だったかもしれない。

昔から絢姉さんの目を盗んではオレにチョッカイを出してくる。
他人と初めてキスしたのも絢姉さんの友達だったし。
中学の後半は危なく何度も無理矢理関係を迫られたりしたけど力ではオレの方が強かったし
泉美相手で人間の扱いも慣れてた。
それでも強引に身体押し付けてきたりオレの手を取って自分の身体を触らせたりした女もいた。

でもその頃はオレはもう親も呆れるほどの完璧な無関心に無表情だったし女子にもうんざりしてたから
テキトーにあしらってあんまりにもしつこい相手は絢姉さんにチクって二度と会わなくて済むようにしてもらった。
オレに関して絢姉さんは誰だろうと容赦なかったから。

高校生になってからはそんな相手をオレは自分で自分に近づけさせなかった。


絢姉さんと同じくらいオレに絡んだのは泉美だ。

「お前気持ち悪ぃんだよ!」

きっとそれが本音なんだろうと思う。
血の繋がった姉に溺愛されてるオレは同じ姉弟の目から見て生理的に
泉美は受け入れられなかったのかもしれない。
だから練習台と称して子供の頃からオレに暴力を振るってたのかもしれない。

確かに成人した姉と中学生になろうという弟が一緒にお風呂に入ったりひとつのベッドで寝てたり
まるで恋人とするようなことをふたりでしていたら勘違いしても仕方ない。

でもそんな状況でもオレの中にはなにも感じることはなくて全部のことに無関心だった。
考えるのなんて面倒だしなにをされても冷めてたし。

格闘オタクの泉美相手に練習台になるのは痛みを伴ったけどまあ我慢した。
でも女の経験なしとみなした途端泉美が強制的にそっちの情報や知識をオレに教え始めたのには本当にウンザリした。

ハッキリ言って嫌がらせのなにものでもない。

文句言うなと強制的に見せられたAVのDVDなんて何百本だかわからない。
泉美が一緒にいて寝ようものなら叩かれたし殴られたし耳元で色々解説されるしどうやったら感じるかとか
こういうテクニックがあるとかもううんざりだった。
だから須々木に見せられたDVDなんてあまりにも見せられてたオレにはもうなんの興味もなかった。
逆にどんどん冷めていくのがわかるだけ……

そんな出来事が一層オレを無関心の無表情に追い込む。

女子もうんざりだし男と女の関係もうんざりで2人の姉にもうんざりだった。





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