ひだりの彼氏


83




「どうしたの。なに焦ってるの」
「な……べ……別に焦ってなんか……」
「そう。ならいいけど」
「…………」

初詣に行ったその日風呂上りの奈々実さんを抱き上げてベッドに運ぶと急に奈々実さんが焦り出した。

膝を着いてベッドに乗るとギシリと音がした。
奈々実さんの身体を跨ぐようにして両手を顔の横につく。

「え?」
「ん?」
「ううん……あの……寝るんで…しょ?」

この期に及んでそんなことを言うんだね……奈々実さんは……
初めてじゃないだろうに……そんなに興味が無いのか?そんなにオレは男として意識されてないのか……
それなりに主張はしてたと思うんだけど……もしかして全部かわされてた?

「オレの親に会う前にもう一押ししときたいし」
「?」
「奈々実さんちょっと弱気になってるでしょ」
「え!?」
「大丈夫って言葉だけじゃ信じてもらえないみたいだし。
ここはもっとオレと奈々実さんの関係を確実なものにしておく必要がありそう」
「なに?」
「もうそろそろいいんじゃないかなって」
「なにが?」

なにがって……マジ?

どんな思考回路をしてるんだか……
まあ今までそんな素振りを見せなかったからそっちの考えは抜けてたのかな。

ホント……なんで奈々実さんはこんなにも心地良いんだろう。

「奈々実さんをオレに頂戴」

そう…初めて自分から欲しいと思った。

今までなんの関心も持てなかった女子の身体……
絢姉さんの友達の身体を触らされた時はどっちかって言うと気分が悪かった。
こんな赤の他人の男に触らせて何が楽しいのかと疑問だったし自分でもただの
『温度があるモノ』 としか思えなかった。

でも奈々実さんは 『温度があるモノ』 でも中身があった。
触れる度に自分が落ち着くのがわかるし逆に奈々実さんに他の男が触れたと思うとイライラが募った。
奈々実さんが他の男に触られるなんて絶対嫌だ。

「結婚……やめるなんて言わせない」

「……ン!」

ゆっくりと奈々実さんに近付いて唇にそっと触れた。

「は……ぁ……」

触れるだけのキスを繰り返して離れたあとそのままその唇で奈々実さんの首に触れた。

「や……」

くすぐったそうに奈々実さんが肩をつぼめる。
以前オレじゃない男がつけたキスマークがあった場所……
あの時もイライラが最高潮でそんなキスマークを同じ場所にオレが上書きして消した。

今はもうそんな痕はない……
だからオレがつけようかと思うけどこの場所は服で隠せないから奈々実さん怒るかな。

「……ねえ」
「ん」

跨ぐようにしてた身体を奈々実さんの上に覆い被さるように体勢を変えた。

「あ……あの……本気?」
「……なんで」

奈々実さんこそそのセリフ本気?

「だって……なんだかあまりにも唐突で……」
「本気だけど」
「あ…ちょっと!」

そう言って奈々実さんのパジャマのボタンを外し始めた。
奈々実さんはちょっとビックリした素振りでオレを見る。

「本当は年上の奈々実さんにリードしてもらうつもりだったんだけどね」

本音をポロリとこぼした。

「へ?あ!いやちょっと!ストップ!」
「往生際が悪いね。奈々実さん」
「だって……そんな無表情じゃなんとなく嫌じゃない!少しくらい顔赤くするとかできないの?」
「だから生れつきだから」
「それとこれとは違うわよ!………」

何だかんだと文句を言って奈々実さんはオレから視線を逸らす。

「なに」
「……別に」
「ああ…慣れてるとか思ってる。それはないから。一般常識程度に知識があるだけ」
「え?」

なんでそんなに驚いた顔するのか…もしかして疑ってるのかな。

「これが初めて」
「!!」
「安心した」
「べ…別に……」

ウソばっかりだな奈々実さんは…納得した顔してるじゃん。

「だから最初は慣れてないから大きな気持ちで受け入れて」

知識は豊富なんだけど実践は奈々実さんが本当に初めてなんだよね。

「……」
「それとも奈々実さんが手取り足取り教えてくれるとか」
「!!」

そんな会話をしながらも最後のボタンを外し終えてなんの躊躇もなく肩からパジャマをスルリと脱がした。
パジャマの下にキャミソールを着てたからまだ奈々実さんの素肌は見てない。
でもお風呂上りで下着はつけてないらしい……布越しにわかる。

「あ…ほ…本当に初めて?随分慣れてると思うけど!」
「その辺は色々秘密。それに奈々実さんとはずっと一緒に寝てるんだよ。このくらいどってことないと思うけど」
「!!」

慣れてるわけじゃないんだけどただそんなドキドキはしてないし緊張も焦ってもいない。
でも絢姉さんの友達の時と違って 『触れてみたい』 という気持ちはある。

だからキャミソールの裾から手を入れて脇腹を撫でながら胸の方に進む手の平は何だか初めて触れる感触だった。

「ひゃっ…もう!人が話してるのになんでそうやって……」

そんなオレの腕を奈々実さんが洋服と一緒にぎゅっと掴んだ。

「紛れていいでしょ」
「……ぁ」

奈々実さんがそんなに緊張してどうするんだか…キャミソールもオレの手首と一緒に捲れ上がっていく。
徐々に奈々実さんの素肌が露わになって手の平が奈々実さんの胸の膨らみへとたどり着いた。

「………」
「………」

お互いじっと視線を合わせたまま見詰め合ってた。

「ひゃ!」

下からすくい上げるように胸を触ったら奈々実さんが変な声を出す。

「変な声」

思わず呟いた。

「……うるさい……」
「柔らかい……」
「あ……んっ……」

本当に柔らかいと思った。
ちょっと力を入れただけで胸に指先が優しくくい込む……
そのまま指先だけに力を入れて形を確めるようにゆっくりと動かした。

「や……」

「奈々実さんの全部を見せてもらうから」
「……へ?」

そう……奈々実さんの全部……オレに見せて……

「奈々実さんの全部をオレで確めて……そして自分で理解する」

「?」
「だから逃げないで。奈々実さん」
「………」

奈々実さんはキョトンとした顔でオレを見上げてる。

初めて触れたいと思った人……
だからそれがオレにとって一体どういうことなのか自分で理解する。

「奈々実さんの全部……オレがもらう。いいよね」


オレがそう言っても奈々実さんは下から見上げて黙ったままだった。

でも……オレを見つめる奈々実さんの瞳がうるうると潤んでる。

それが返事だよね。





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