ひだりの彼氏


86




元旦の明け方から捕まって(?)そのあともほとんどをベッドの中で過ごした。
目が覚めると抱きしめられてそれから……えーっと…気付くといつの間にか寝てた。
そして目が覚めるとまた抱きしめられてと…その繰り返しだった気がする。

やっと解放されたのは2日の日の夜でまともにお風呂に入ったのも久しぶりな感覚で
バジャマを着て洋服を着た感覚も久しぶりのような気がした。
きっと次の日に彼のご両親に会う約束があったから…

「もうオレの親に会っても大丈夫だよね」

コクンと素直に頷いた。
だって頷かなかったらまたパジャマを脱がされることは確実だったから。

真面目にもう体力的に無理です…流石10代?流石現役高校生?

でも彼が凝り性(?)だったということに気がついた。
だってじゃなかったらあんなに執拗に私に迫ったりしないでしょ?
そのことを彼に言うと呆れた顔をされて盛大に溜息をつかれた。
私変なこと言ったのかしら?


彼の両親とは彼のマンションで会った。
玄関のドアを開ける前にじっと彼に見つめられた。

顔はいつもの如く無表情だったけど。

「変なこと口走らないでね」
「なによ?変なことって?」
「バカなことも口走らないでよ」
「だからどんなバカなことよ!」

多少控えめな声で彼にくって掛かる。
こんな時に彼の家の前で今さらなにしてるんだか……

「もう話はついてるんだから今さらオレが高校生だとか歳が離れてるとか
まだ早いとか蒸し返さないでよね」
「だ…大丈夫よ!」

多分……

「もう既成事実あるんだし相性もバッチリだった」
「ちょっ!!こんなところでなに言い出すよ!!」
「オレは止めないってこと。もう諦めてね奈々実さん」
「……わかってるわよ」

なんでご両親に会う前にこんな赤面することを…

「奈々実」

「!!」

彼がそっと耳元で私の名前を優しく呼んだ。
しかも呼び捨て…

「チュッ」

「なっ!?え?ちょっと…」

彼が屈んで私の唇に触れるだけのキスした。
もう!ここをどこだと思ってるのよ!マンションの共同の廊下よ!
しかも自分の家の前の中にはご両親が…
私が言葉も発せずワタワタしてるといつも笑わない彼がクスリと笑う。

「落ち着いた」
「気を使ってくれるなら他の方法やってよ!」
「これ以外のこと思い付かなかった」

ウソでしょ!!絶対ウソ!
どう考えてもからかってるとしか思えないんですけど!


「いらっしゃい」

そう言って迎えてくれた彼のご両親は彼からはちょっと想像出来ないごくごく普通の2人だった。

でもうちの親とは違うタイプで会社の重役夫妻と言うのがピッタリくる感じの…実際そうなんだけど……
うちの親が夏祭りの盆踊りを踊るとしたら彼のご両親はどこかのパーティでダンスを踊る姿が想像出来る容姿だった。
上品に微笑んでる彼のお義母さんは小顔の明るい色のショートヘアで短い髪の毛から見える耳には
綺麗なピアスが光ってた。

彼ってお義母さん似なのね。



「本当に翔と結婚してもいいと思ってるんですか?」

色々話しをしてお義父さんが確かめるように私に聞いてくる。

「翔はまだ若い。それにやっと大学に進んでそんなに収入はあてにならない。
きっとあなたに負担をかけます。大学を出るまでは私達も親として責任は持ちますが……
あなたから見たらまだまだ頼りない男だと思いますが?」

「頼りないなんて思ってません。私よりもしっかりしてて…頼りにして…ます」

流石に自分より精神年齢が上らしいとは言えなかった。

「私達は反対するつもりはないんですよ。今までこの子がこんなに自分の意志を通したことが
なかったから余程のことだと思って…」
「オレは前に話した通りで考えを変えるつもりないから」

「……翔が女性に興味を持ってしかも結婚したいなんて言い出すなんて信じられなくて…」

「……」

涙ぐむお義母さん……多少彼から話しを聞いてる私はなんて言えばいいのか……

「翔の姉に会ったことはありますか?」

ハンカチで目頭を押さえながらお義母さんがちょっと困った顔だった。

「お話だけは…会ったことはありません」
「会わなくていい。どうせ式で会うし」
「絢が煩いんじゃないか?」
「絢姉さんは今彼氏に夢中だから」
「そうだな…アレも落ち着いてよかった」

ホッとしてるお義父さん…やっぱりそれなりに心配してたんだとわかる。

「姉弟で仲がいいというか…ちょっと行き過ぎというか翔には我慢させてしまったことが
多かったと思うんですよ…だからかもしれませんがいつの間にかあまり表情や態度に
気持ちを表さなくなって…」

確かに。無関心の無表情ですよね。

そのあとも私の親が気にしてた年の差や結婚には早すぎるんじゃないか云々には全く触れず
殆どか彼がこんなんだから大丈夫か?みたいな私を心配する言葉だらけだった。

あなた…今までどんな生活態度だったの?
ご両親にどれだけ不憫と思われてたの?


その後私達と彼のご両親と一緒に私の運転する車で私の実家に出掛けた。

心配していたお互いの両親の対面は彼の方のご両親が低姿勢に徹して揉めることもなく無事に済んだ。

どうやらウチの親は安奈に普段から説得されてたらしい。
どうして安奈がそんなにしてまで私達の応援をするのか聞いてみると

『ツバサがあたしの義理の弟になるなんてありえないじゃん。弄り倒してやるのよ!ふっふっふっ♪♪』

ああ…そうですか…
彼にとって厄介な義理の姉がまた1人増えたのね。

そんなことを話してたら横から彼が現れた。

『安奈先輩浮かれてるところ申し訳ないけどオレの方が義兄ってわかってます?』

『 『 !! 』 』

彼に言われて初めて気付いた。
そうよね……安奈の姉である私と結婚するんだから年下でも……彼がお義兄さん?

『誰が認めるかっての!あんたは私の義弟で十分よっ!』
『義妹のワガママを聞くのも義兄の務めだよね。奈々実さん』

その無表情なくせにワザと安奈を逆なでするようなセリフを私に振るのはやめてほしいんですけど……

それからしばらく一方的に喚く安奈をいつもの如く何事もないように受け流す彼。
最終的に結婚に反対してやる!と言い出した安奈に今さら不可能と彼が強気な発言を言い放ち
『そんな意地の悪いこと言うのは胎教に悪いよ』なんて更に火に油を注ぐようなセリフを言う。

どうやら結婚の話しがまとまるまで彼は大人しくしていたらしい。
何気に彼にいいように使われてしまった感が否めない安奈は更に怒ってたけど。
彼はそんな安奈をまるっきり無視して私のところに戻って来た。

できれば……仲良くやってほしいんですけど……ね。





                          * * * * *


「卒業おめでとう」
「ありがとう奈々実さん」

あれから約2ヶ月…彼は無事に第一志望校の大学に合格した。
結果がわかった数日後彼の高校の卒業式が行われた。
私はその日仕事を半休で休んで彼が帰るのを家で待ってた。

彼は冬休みが終わるとすぐに私のアパートに引っ越して来た。

「着替えるから待ってて」
「うん」

実はこの後お昼を一緒に食べてそのあしで役所に婚姻届けを出す予定。
結婚式は今月中に身内だけで挙げることになってる。
いよいよ私も年貢の納め時らしい。

「着替える前に目に焼き付けとく?」
「え?」

学ランの上着のボタンに手をかけたままの彼が隣の部屋から顔を出してそんなことを聞く。

「なんでよ」
「だって奈々実さん学ランフェチ」
「違いますから!」

どうやら彼は誤解してるらしい。

「ウソつかない」
「ウソなんてついてない」
「オレコスプレの趣味無いから見納めだよ」
「だから違うから!」
「ふーん」
「なによ」
「じゃあなんでいつもあんな眼差しで見てたの」
「え"っ!?」
「なんで」
「………別に見てないし」
「そう」

なによーーー!なに本当はわかってます〜みたな言い方してるのよ!ムカつく!!

「見てないから」
「まあいいけど。奈々実さんのお望みとあればいつでも学ラン着てあげる」
「だから…違うってば」

「学ランじゃなくて学ラン姿のオレに見惚れてた」

「!!」

いつの間にか私の傍に来てた彼が私の耳にそんな言葉を囁いた。

「ち…違う」
「奈々実さんウソつくの下手。自分の顔鏡で見てみれば。真っ赤だよ」
「!!」

慌てて自分の頬を自分の両手で触る。

「やっぱりそうだった」
「!!」

しまった。

「ちゅっ ♪ 」

もう当たり前になった唇への軽いキスは1日のうちで何度されてるかって…ちょっとビックリしてる自分。

「ちょっ…」
「ここは素直に受け入れときなよ。着替える」

私は無言で頷いて頬の熱を冷ますように手でパタパタと扇いだ。
あんまり意味なかったけど……


結局その後…役所に先に向かうことになって緊張しながら2人で婚姻届けを出した。
平気な顔してる彼を見て緊張してたのは私だけかも?なんてちょっとムカついた。
受け付けの係りの女の人が届けを受け取ったまま彼と私を交互に見てた。

はいはい…婚姻届けの年齢を見てありえないとかどうしてとか思ってるんでしょう…

「あんまりにもお似合いの夫婦でみとれるのはわかりますけどお願いします」

彼が係りの女の人に向かっていつもの無表情で淡々と言い切る。
その声に係りの女の人がハッとして 「おめでとうございます」 と言ってくれた。



「なにがお似合いの夫婦よ」
「そうでしょ」

私達はお昼を食べるために2人で街の中を歩いてる。

お互いの手をしっかりと恋人繋ぎまでしてさらりとそんなこと言っちゃうあたりがよくわからない。
彼と私の左手の薬指には2人で選んだ指輪が光ってる。

しかも籍を入れるのに発覚したんだけど彼ってば高校1年と2年の時バイトしたことがあるらしい。
一体どんなバイトをしてたんだか…聞いても教えてくれなかった。

なんでそんな話になったかというと結婚指輪を彼が自分のお金で買うと言い出したから。
無理しなくていいと言ったらそんなバイト云々の話しになったのよね。


そんなこんなで今日…私と彼は8歳年の差夫婦になりました!!





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