ひだりの彼氏


90 ツバサ視点




無事に式も食事会も終わった数日後…オレがお風呂から出ると奈々実さんが
コタツに温まりながら考え込んでた。

「奈々実さん」
「……」

ハッキリ名前を呼んだのに奈々実さんは上の空で返事をしない。

「奥さん」
「へ!?」

濡れた髪の毛をタオルで拭きながら屈み込んで奈々実さんの顔を覗き込んだ。
ワザと呼び方を変えたらやっと気付いたらしい。

「奥さんで反応するなんてかなり意識してくれてるんだ」
「べべべ…別にそんなこと……」

ものすごい慌てっぷりで笑える。

「まあいいけど。どうしたの」
「……」
「なにか気になることがある?」
「……そういうわけじゃ……」
「そう」
「うん……」

なにか諦めたような奈々実さんの態度……

「奈々実さん」
「ん?」

コタツに入ってる奈々実さんの後ろから足の間に奈々実さんを入れるように座る。

背中から奈々実さんの腰に腕を絡めて抱きしめて肩に顎を乗せてそっと話し始めた。

奈々実さんを身近に感じてホッとする。

「一緒に住んで結婚して夫婦になって次は子供だよね」
「え!?」

奈々実さんが信じられないって顔をする。
オレが感じて考えたことはきっと間違ってない。

「奈々実さんはいつごろ欲しい?」
「ちょっ……ちょっと待って……そんな……いいよ……まだ早いし……あなただって若いし」
「今時オレくらいで子供いるのって多いよ」
「そ…そう?」
「それに奈々実さんは歳相応かもしれないけどオレなら若い親に入るし奈々実さんの代わりに
羨ましがられてあげる」
「………」
「でも負担が多いのは奈々実さんだと思うからオレは無理強いはしない」

そう働きながら子供を産むのは奈々実さんだから……きっと相当の負担がかかるはず。

奈々実さんに負担がかからないようにどんなことでもするつもりだけど
身体の負担は代わってあげられないから。

「………でも……本当は嫌でしょ?」
「嫌じゃない」

そう……嫌じゃない。

「うそ……」

うそでもない。

「オレ奈々実さんにウソついたことないけど」
「そうだった?」
「ないよ」

多分。

「……どうして急にそんなこと言うの?」

奈々実さんが不安げな顔でオレを見る。

「だって……奈々実さん安奈先輩と泉美のことジッと見てたから」
「え?」

慌てて驚いた奈々実さんが横を向くと頬がくっ付いてたオレともの凄く近い位置で目が合った。
あの結婚式の日……奈々実さんが何度も優しい眼差しで安奈先輩と泉美を見てたのに気付いた。
最初はなんでかと思ったけどもしかしてと思った。

結婚すれば次に考えることはソレで……でも奈々実さんは素直に考えないだろうとわかる。

それは相手がオレだから。

「いつごろ欲しい」
「…………」

奈々実さんの瞳がオドオドと泳ぐ。
今このちょっとの時間で色々考えてるんだうと思う。

「あなたに……負担にならない?」
「どんなふうに」
「色々……」
「オレは奈々実さんそっくりな女の子がいい」
「………」

突然そんなことを言い出したオレを奈々実さんがじっと見つめる。
信じられないって顔。
でも言った言葉は本当のことでミニサイズの奈々実さんなんて嬉しすぎる。

「奈々実さんは?」
「……私は……あなたそっくりな男の子がいい……かな」

なんて無防備で命知らずな。

「オレが2人いたら奈々実さん余計勝てないよ」

きっとオレに似たら奈々実さんを構うのに躊躇なんてしないと思うし。

「そんなことないわよ。ちゃんと躾けて素直でママっ子に育てる」

へえ……それもいいかも。

「じゃあ双子で」

そう言ってオレは奈々実さんの頬にちゅっと触れるだけのキスをした。

オレはそのあと実際子供が出来たら色々なことに大丈夫なのか奈々実さんに確かめた。
お金のこと会社のこと奈々実さんの身体ことそして一番大事な奈々実さんの気持ち。

そんなオレの質問に奈々実さんはちゃんと答えを持っててオレを納得させる。

やっぱり一番のネックはオレ。
結婚も早いと思ってるのに子供までなんて思ってる。
予想してたとはいえ当たっても嬉しくもない。
オレが30近くなるまで奈々実さんはそんなことを気にするんだろかと思うとありえそう。

「ふーん」

そんな返事をして考える。
そしてすぐ結論が出る。

―― 奈々実さんに任せたら遠慮して全部先延ばしになる ――

奈々実さんの話を聞く限り何も問題なしなんだから悩む必要なんかない。
ここは“夫”の権限で家族計画を遂行させることに決定。

それからすぐに奈々実さんは妊娠した。

まあオレ頑張ったし思いきり危ない日狙ったし抜かりなかった。

奈々実さんは呆れたような顔してたけどオレは気にしない。
今年中には新しい家族が増える。
どっちかは産まれてからのお楽しみ。

こんなオレに奈々実さん以外の気になる相手が増えるなんて信じられないけど
それは現実で自分としては楽しみでもある。

これからもオレの傍にいて一緒に過ごしてほしい。

オレの一番は奈々実さんだから……ねえ奥さん。





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