もっともっとあなたを好きになる



02




私の名前は 窪塚 くぼづか ひかり。
背の低さと、童顔でいつも年齢どおりに見られないけど、今年社会人4年目26歳です。

男性との交際歴は大学生のときにひとり。
なので男性経験もかなりご無沙汰ですけれど、一応ありますです、はい。
そして……昨日まで、ふたり目の彼がいました。
けれど、アッサリとフラれ今はフリーの身でございます。
最初からわかってんですけどね。
幼馴染みっていうのもあって、傷心中の彼を放っておけなくて少しの間だけでも彼女になってあげようと……おお! なんて上から目線!
でも少しの間でも、彼女扱いをされて浮かれていたのか、もしかしてこのまま……なんて思っていたんでしょうか。
元カノとヨリを戻して、別れを告げられたのが自分でも驚くほどショックだったみたいです。
その反動でそんな強くないお酒を飲みすぎて、“りゅうちゃん”に迷惑をかけてしまいました。
でも、“りゅうちゃん”がいい人でよかったです。
どうやら寝ている間に“そういうコト”はなかったみたいだと、いつもと変わらない自分の身体が教えてくれました。
頭は重いですけどね。
それは二日酔いですから仕方ありません。

さて、“りゅうちゃん”が戻ったら、お いとま させていただきましょう。
服はなにか貸してもらってタクシーで帰れば、ヨソ様にどんな服装でも見られることもないですしね。
洗濯中の自分の服はそのまま持って帰って、自分の家で乾かせばOKです。
後日、改めてお礼に伺いましょう。

「はあ〜」

誰も聞いていないので、深く大きな溜め息をつきました。
ちょっと自虐的になってしまったのは仕方ありません。
だって本当にどうしようもない自分ですから。
本当ならもうベッドから出なくてはいけないところですが、ナゼか身体に力が入らず。
無気力というか……どうやら一晩で堕落人間になってしまったようです。
今日、仕事が休みでよかったです。
だから昨夜飲んだんですけどね。
こんなことなら自分の家で飲めばよかったんでしょうか?
でもひとり暮らしのあの家で、フラれた女がひとりでお酒を飲むのはちょっと辛すぎたもんですから。
つい、人が居るところに足が向かってしまったんですけれど。
まあ、今さらでしょう。

そんなふうにもたもたしていたら、玄関の鍵の音がしてドアの動く音が。
ああ、りゅうちゃんが帰ってきたんですね。
履き物を脱ぐ音もして、足音がこっちに向かって移動してきます。
足音はひとり分で、子供達はどうしたんでしょう。
あ、幼稚園ですか?
ジッと部屋のドアを見ていると、ガチャリと音がしてなんの迷いもなくドアがスッと開きました。
開いたドアの向こうには、当たり前ですがりゅうちゃんが立っていました。

「もしかしてずっとそこにいたの?」
「はい」
「気分が悪いのか?」
「大丈夫です」
「そう」
「?」

ナゼでしょう?
こっちに近づきながら、りゅうちゃんが着ているシャツのボタンに手をかけて外しながら歩いてきます。
着替えるんでしょうか?
では私はこの部屋から出たほうがいいのでは?
いえ、とりあえず見ないように、手っ取り早くもう一度布団を被ってしまったほうが早いかも。
善は急げです。

「えいっ」

っと小さく声をかけ、もう一度布団の中に潜りました。

「はあ〜」

薄暗い掛布団の中で聞こえてきたのは、りゅうちゃんの溜息です。
布団に潜ってもダメだったんでしょうか?
やはり部屋から出なくてはダメでした?

「!」

キシリと音がして、少しだけ身体が傾きます。
りゅうちゃんがベッドに膝を着いたみたいです。
え? ということは?

「ひゃっ!」

今度は自分の身体の両脇がキシッと音を立てて沈みました。
これはもしかして、りゅうちゃんが私の上に覆い被さってるんでしょうか?
ひゃああああ〜〜どうしてでしょう?

「ねえ、顔見せて」
「ほえ?」

強く掴んでいたわけではないので、あっさりと掛布団は捲られてしまいました。

「えっと……」

ナゼでしょう?
掛け布団をめくったりゅうちゃんは、掛け布団の上から馬乗りになったまま、着ていたシャツを脱いでいました。
男らしい、逞しい上半身を惜しみなく私の目の前に晒しています。
あら、今で言う細マッチョじゃないですか?
こんな私なんかに、目の保養になるようなものを見せてはいけませんよ。
そもそもなんで脱いだんでしょう?
脱いだシャツをベッドの下に投げ捨てました。
そのあとはズボンの前のボタンに手をかけで外しました。
ひえーー! なんなんでしょう!

「ちょっと聞きたいんだけど」
「は、はい!? な……なんでしょ?」

よ……よかったです。
話しかけると、りゅうちゃんの手の動きが止まりました。
でも、なにかを狙ってるような視線はそのままです。
腕まで組んで、見下ろされて怖いです。

「名前は昨夜聞いた。“くぼづか ひかり”だよな? 合ってる?」
「は、はい! 合ってます」

私、昨夜名前は教えたんですね。
あの、お店ででしょうか?
あんまり記憶がありませんが。

「歳は?」
「に……26です」
「は? マジか……随分幼く……まあいいか」

最後のほうはブツブツと言っていたのでよく聞き取れませんでしたが、しっかりと“幼い”の単語は聞こえましたよ。
ええ、ええ、どうせチビの童顔です。

「一応念のため。結婚してるのか?」
「け、結婚ですか? いえ、していません」
「そうか。じゃあ付き合ってる奴は?」
「そ、それは……」
「ああ、そういやフラれたんだっけ」
「う゛っ!!」
「だよな」
「は……はあ……まあ…」

なんで? なんで知ってるんでしょう!?
今、グッサリきましたよ。
わかってることですけど、よく知らない他人から言われると余計に刺さりますよ。

「昨夜のこと、どこまで憶えてる?」
「えっと……あの……あんまり……」
「俺が声をかけたの、憶えてる?」
「えっと……」

私はおぼろげな記憶をたどりますが、思い出す記憶がありませんでした。
とにかく、次から次にお酒を飲んだことは憶えています。

「詳しいことは今は 端折 はしょ るけど、酔ったひかりを連れて帰って泊めた」
「はあ……ありがとうございます。ご迷惑をおかけしてすみませんでした」

本当なら、正座して深々と頭を下げるところなんでしょうが、なんせ私の上にはりゅうちゃんが
馬乗りになっているので起き上がることができません。
下から見上げての謝罪です。

ですが、なんで私のことを名前呼びなんでしょう?








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