もっともっとあなたを好きになる



05




─────── ん?

「…………!!」
「……」
「……!!……☆」

─────── なんでしょう? なにやら声がします。

「静かにしろって! 先に手を洗ってこいっつーの」

─────── りゅうちゃんの声です。そのあとで、バタバタとフローリングの床を走る足音が。
その音が遠のいたと思ったら、またバタバタと足音がしました。
それがだんだんと近づいてきます。

「ひーちゃん、ただいま〜♪」
「いま、かえったぞ〜」

─────── ひえっ! なんですか?
勢いよく入り口のドアが開いて、お子ちゃまたちが走りこんできました。
一直線に私が寝ているベッドに走ってきます。
私はそんなお子ちゃまたちを布団から頭と目だけを出して寝ぼけた頭で見つめております。
ハッ! いけません!
私ったら服を着ていなじゃないですか!
こ、こんな姿、こんな幼いこの子たちに見せるわけにはいきません。
私はひしっ! と、掛け布団の端を掴んで身体が見えないように頑張ります。

「まだねてるの〜?」
「ねすぎだぞ、ひかり」
「……あの……」

目の前でよく似た顔が我先にと私の顔を覗き込んできます。
ふたりとも子どものわりは整った顔立ちで、パパさん似なんでしょうか?

「もうすぐゆうはんだぞ、ひかり」

男の子のほうは掛け布団の上から手を回して、私を抱きこみます。
手の長さが足りないので、ただ乗っかってるって感じですけど。
軽いです。
ええ、りゅうちゃんよりもとっても軽いです。

「もう、おきておきて〜」
「へ!? 夕飯ですか?」

一体今は何時なんでしょう。
私ってば、いったいどれだけ寝ていたのか。

「こら、お前ら。ひかりは今、身体が辛いんだからもう少し寝かしといてやれ」
「え? ひーちゃんびょうき?」
「いや、ちょっと疲れてるだけだ」
「ふーん」
「ねてたくせに、なにつかれるようなことしたんだよー」
「ひえ!」

私を掛け布団ごと抱えている身体を揺すりながら、男の子が聞いてきます。
そそそそ、そんな……どんなことなんて、言えませんよ。
教育上無理です。

「仕事で疲れてるに決まってるだろ。昨日の仕事の疲れが取れてないんだよ」
「そうか、しごとか!」
「おとなはたんへんね〜」
「わかったら、お前達メシ作るの手伝え」
「はーい♪ きょうのメニューはなに?」
「今日はカレーだ。それだったらお前らも手伝えるだろ。作ったら先に風呂だ」
「ほーい! おれ、たまねぎきる」
「わたし、いためる」
「よし、サッサと作るぞ」
「じゃあ、ひーちゃんできたらよびにくるね」
「いいこでまってろよ」
「は……はい……」

きゃっきゃとはしゃぎながら部屋を出て行くお子ちゃまたち。
そんなお子ちゃまたちを見送って、私はホッと一息。
裸だったのが知られなくてよかったです。
ふう〜〜

「ひかり」
「ふえ!?」

出て行ったと思ったのに、りゅうちゃんが目の前に立っていました。

「まだ動けないだろ? ゆっくり休んどけ」
「はあ……」
「あとで風呂入れば、少しは身体の痛みもとれるだろう」
「……すいません……」
「謝るなって。100%俺のせいなんだから」
「……ぅぅ……」

恥ずかしいことを言わないでほしいです。
さっきあったことを思い出しちゃったじゃないですか。

「ちゅっ♪」
「んっ……」

オデコに触れるだけのキスをされました。
そして前髪をクシャリと弄られます。

「じゃあな」
「…………」

パタンとドアが閉じられたあと、起き上がろうとしたんですがいたるところからの痛みと、
力が入らない身体でまったく起き上がることができませんでした。
ポトリと枕に頭を落とすと、すぐに睡魔が襲ってきました。
一体どれだけ眠ればいいんでしょうか?
体力が無さすぎなんでしょうか?
なんて自問自答しながらも、あっという間にまた眠りに落ちてしまった私なのでした。
くうーーーー


「手、切るなよ。それから火傷にも気をつけろ」
「「はーい」」

なんだかんだと言うことを聞くガキんちょふたりに調理を任せて、肉を取り出そうと冷蔵庫を開ける。
肉に手を伸ばすと、牛乳が目に入った。

「…………ある意味、この牛乳のお蔭か?」

牛乳を見ながら、俺は昨夜のことを思い出す。




「あ! 牛乳がねえ」

冷蔵庫の中を見て牛乳がないことに気づいた。

「ええ! あしたのあさ、どうするの。りゅうちゃん」
「そうだよ。まいにちちゃんとのまないと、おおきくなれないんだってママがいってたぞ」
「ああ〜わかったよ。買ってくるからふたりでちゃんと留守番してろよ」

携帯と財布をもって玄関に向かう。

「りゅうちゃん」
「ん?」

靴を履いてると、 藍華 あいか が腰に手を当てて俺を見上げてくる。

「モウモウじるしの4.5だからね。こいやつだよ」
「そんなの選んでられるか。買ってきたもんに文句言うな」
「ええー」
「とにかく行ってくる。誰が来ても出なくていいからな」
「はーい」

ちゃんと鍵をかけたのを確かめて、一番近いコンビニに向かって歩き出した。

「モウモウ印の牛乳なんて、コンビニなんかで売ってるかっつーの」

言われた牛乳は、テレビでもたまに紹介されるような高級な牛乳だ。
そんなの買うか。
普通の牛乳と子供向けのお菓子の入ったビニール袋を片手で持って来た道を戻る。
途中、近道の小さな公園をぬけようと歩いていると行きには誰も座っていなかったベンチに人が座っていた。
いつもならなにも気にせず素通りなんだか、ベンチの手前で足を止めた。
どうしてかというと、座り方が変だったから。
背もたれからズリ落ちるように項垂れていて、クッタリという感じで座っているというより、具合が悪くて動けないって感じだった。
しかも、若い女の子。
遅い時間ではないけれど、夜の公園でクッタリなんてなにか事件にでもまき込まれたのかと思ったから。

「オイ、大丈夫か?」

目の前まで移動して、膝を着いて女の子の顔を覗き込んだ。
声をかけても返事はない。
手を頬に添えて、俯いてる顔を上に向かせる。
ひと通り顔を見渡して、身体に視線を動かす。

「どこにも怪我はなさそうだな。服も乱れてないし」

どうやら事件にまき込まれたワケではなさそうだ。
ということは、具合が悪いのか?

「オイ、どうした? 気分が悪い……」

そこまで言いかけて気づく。
仄かにアルコールの匂いが漂ってる。

「は? 酔っ払いか?」

ジッと顔を見れば、頬っぺたは濃いピンク色に染まってた。
少し開いた口からは規則正しい呼吸も聞こえてくる。

「なんだよ、酔ってるだけかよ」

ホッとして身体から力が抜ける。

「ったく、人騒がせな」

とは言いつつもまだ幼さの残る顔つきからして、飲めない酒を飲まされたんじゃなかろうか。
酔わせて、持ち帰ろうとでもしたのか。
それに気づいて逃げてきたが、酔いが回ってここで力尽きたとか?

「なんて、想像しすぎだよな。オイ、起きろ! こんなところで寝たらダメだろ」

とにかく起こして家に帰そうと肩を揺すってみたが、起きる気配がしない。
頬に手を当ててペチペチと軽く叩いてみる。

「…………」

手の平に感じる頬の熱さと、プニプニとした柔らかさに添えた手が離せなかった。

「柔らかい……」

まるで家にいるガキんちょ達の頬っぺただ。

「…………ん?」
「!!」

頬よりも冷たい手で触っていたせいか、女の子が薄っすらと目をあけた。

「大丈夫か? 気分は?」
「…………」

ジッと俺を見つめたまま、なにも話さない。
俺を見つめる目はボーっとしているが、二重の黒目勝ちな瞳だった。
実は俺、黒目勝ちな目がタイプだったりする。
耳が隠れるくらいのショートボブの髪の毛に、幼い顔のピンク色に染まった頬。
薄っすらと開いてるぽっちゃりとした唇に、二重の黒目勝ちな目って……

「ヤベェ……」

なに? なにこれ? すんげー可愛いんだけど!!
タイプ! もろ、タイプ!!
俺、今心臓がバクバクいってんだけど!

さすがに中学生というわけではないだろう。
もしかして高校生ということもあるが、酒を飲めるなら成人してると思いたい。

「……え?」

そんなことを考えてたら、目の前の女の子の顔がクシャリと歪んだ。

「な、なんだ? 気持ち悪いのか?」
「…………」

焦って顔を覗きこんで訊ねれば、ナゼかウルウルと瞳が潤みだす。
そしてポロリと涙が一滴……女の子の頬に零れた。

「!!」

その零れた一粒の涙が頬を伝って、俺の添えていた手に流れ落ちた。








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