もっともっとあなたを好きになる



07




「ただいま」
「おかえり、りゅうちゃーん♪」
「おそいぞ! りゅうちゃん!」
「ああ、悪い」
「え? だれそのひと?」

買ってきた牛乳の入ったコンビニのビニール袋を受け取りながら、藍華が俺の背中にいるひかりの顔を覗きこんでくる。

「うわっ! このひときったねー。どろんこじゃん」

克哉が大袈裟に驚く。

「水たまりでコケたんだ。藍華、風呂洗ってあるからお湯入れるスイッチ入れてくれるか?」
「え? あ! うん、わかった」

俺の言葉にジッとひかりを見ていた藍華は慌てて浴室に向かう。

「ねてるの?」
「ああ」
「びょうき?」
「ちがう。ただ眠ってるだけだから、心配するな」
「うん」

子供ながら泥だらけで目を覚まさないひかりを心配してくれたらしい。

「りゅうちゃん、スイッチいれたよ」
「おお、サンキュウ」

藍華にお礼を言って、酔って目を覚まさないままのひかりをお姫様抱っこで抱き上げた。

「きゃあ〜〜りゅうちゃん! それって“おひめさまだっこ”っていうんだよ」
「よく知ってんな? 藍華。そう、この子はお姫様なんだぞ」
「ええ!? そんなきたないおひめさまなんているわけないじゃん」
「汚れを落とせば綺麗になるんだよ」

鋭い突っ込みをする克哉に、思わずムキになる俺。
大人げないが、本当に綺麗なんだぞ。
ああ……いや、可愛いか。

「え? りゅうちゃんこのひとといっしょにおふろにはいるの?」
「ああ、そうだけど」

ひかりを浴室に繋がるパウダールームの床にそっと置いて、背中は壁にもたれかけさせた。
いや、だって。
こんな泥まみれのままってわけにはいかないだろう。
髪の毛も顔も手も足も泥がついていて、少し乾きだしたところもある。
タオルで拭いたくらいじゃ落としきれないだろう。

俺は力の抜けたひかりの上着のシャツのボタンに手をかける。
そこで視線に気づく。

「オイ、お前ら。お前らは外に出てろ」
「えーりゅうちゃんこのひととふたりっきりでおふろにはいるの?」
「そうだけど」

見た目では、なにも動揺していない素振りで淡々とひかりの服を脱がせていく。
上を下着を残して脱がせると、ひかりの胸はまがい物ではなく着痩せするタイプだったらしい。
身体のわりにしっかりとした胸だった。
俺はそんなひかりの半裸状態に、ドキドキと心臓が早鐘を打つ。
ここ6ヶ月間、まったくとい言っていいほど女に興味がなかったのに。
なんでこの子にはこんなにも男の部分が反応してしまうんだろうか。
背中に腕を回して支えながら、ひかりの服を脱がしていく。
標準より少し華奢に感じるその身体は、もしかして幼馴染みのせいなんじゃないかと思えて、舌打ちをしたくなった。

「りゅうちゃん、わたしもいっしょにはいる」

藍華がはい! っと片手を上げた。

「は?」
「おれも、おれも!」
「いや……それは……」

そんなに広くもない風呂場に、子供2人と大人2人。
しかも、ひとりは眠っていて絶対狭いと思う。

「はいる、はいるーー!!」
「わーい♪」
「あ! オイ! お前ら……」

ポイポイと着てる服を脱いでいくガキんちょふたり。
あっという間に裸になって浴室のドアを開けて我先にと入っていく。

「お前ら風呂場で走んな! まだお湯が溜まってねえんだからシャワー先に浴びろ!」
「はーい」

返事に混ざってキャラキャラと笑う声もする。

「まったく……」

せっかくひかりとふたりでゆっくりと入ろうと思ってたのに……俺のあれやこれやの楽しみが。
いや、眠ってるひかりにそんな不埒なマネは……ブツブツ……。
ひかりの着ているものを脱がせ終わると、今度は自分の着ているものを脱ぎ始める。
ひかりほどではないが、けっこう泥がついてる。
ひかりの服と俺の服をまとめて洗濯機に放り込む。
ちゃんとブラはネットに入れてやる。
漂白剤と洗剤を入れて全自動の洗濯機を回す。
柔軟剤を入れるのも忘れない。
こう見えても、家事はそれなりにこなしてる俺。
あまり時間も経ってないから落ちるといいんだが。
もし泥汚れが落ちなくても、俺が新しい服を買ってやるからいいかとも思う。
ひかりをまたお姫様抱っこで抱き上げて浴室に入る。
ガキんちょふたりは、なんとか身体だけはシャワーをかけ終わったらしい。

「今度は俺達がシャワー使うから、お前ら湯船に入ってろ」

もう半分以上お湯も溜まっていたからいいだろう。
つうか、洗う場所に4人はキツイ。

「うん、でもはやくね。ゆでだこになっちゃうから」
「だから一緒に入るのは無理があるだっつーの」
「だって、みんなではいりたいじゃん」
「はいはい」

ガキんちょらも、ひかりと入るのが楽しみだったらしい。
眠ってるけどな。

「このひとおなまえなんていうの?」
「ひかりだ」
「へえーじゃあ“ひーちゃん”だね」
「おれは“ひかり”ってよぶ」
「なんで呼び捨てなんだよ」
「だって、ほいくえんでも“なまえでよんで”っていわれるぞ」
「はあ? なら“ちゃん”とか“さん”をつけろよ」
「えー」

えらい不服そうな顔の克哉。
大人相手なんだからな。

シャワーを使って、まずはひかりの身体を流していく。
顔は最初は濡らした手の平で擦ってやって、絞ったタオルで丁寧に拭いてやる。
ガキんちょと一緒だったせいか、ひかりの身体のいたるところを手の平で撫でて擦って泥汚れを落としていったのに、
イヤらしい気持ちにはならなかった。
途中でムニャムニャとひかりが動いていたけど、パッチリと目を覚ますことはなかった。
酔いもあっただろうけど、もしかしたら幼馴染みのせいで寝不足だったのかもしれないとも思った。
髪を洗うときは、ガキんちょも手伝ってくれて……というか、3人でひかりの髪の毛を使ってちょっと遊んだ。

「うさぎさ〜ん♪」
「つのぉ〜」
「スーパー○○○人!」

キャハハと浴室に笑い声が響く。
それでも起きないひかりって……どんだけ警戒心がないんだ?
それとも、ひとりではいたくないと言っていたから、人の声や温もりが安心感を与えていえるんだろうか。
無邪気な幼児ふたりと、(今は)なんの邪な心もない俺だからか?

散々ひかりの髪の毛で遊んだあと、ガキんちょふたりに手伝ってもらいながら自分の身体と頭を洗う。
ガキんちょらと入れ替わりで、ひかりとふたりで湯船に浸かる。
浸かった瞬間、ひかりの顔が綻んだような気がした。
気持ちいいのか?
ガキんちょらの身体や頭を洗う様子を見ながら、ひかりをしっかりと腕の中に抱きしめる。
ギャイギャイと小突きあいながら、なんとも騒がしい4人の入浴時間が無事に終わった。









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