もっともっとあなたを好きになる



09




嬉し恥ずかしお風呂タイムが終わり、バスタオルにくるまれてまず寝室に運ばれました。
ひんやりとした布団が火照った身体に気持ちいいです。
なのでつい、和んでしまって……

「ふう〜〜」
「クスッ」
「!」

のほほんと息をついたら、りゅうちゃんの笑う声が聞こえました。
瞑っていた目をあけると、目を細めたりゅうちゃんが私を見下ろしていました。
キシリと音を立てて、りゅうちゃんがベッドに膝を着いて乗ってきます。
そして私の身体を囲うように左右に手をついて顔を近づけてきます。
あれ? これはとてもマズイのではないでしょうか?
りゅうちゃんは、上はTシャツにスウェットのズボン姿。
自分だけ、着替えを用意してたんですね。
私はというと、ただバスタオルに包まってるだけ……これってピンチですよね?
さすがにこのままここで、りゅうちゃんの相手をするのは体力的に無理が……
考えてみたら昨夜からご飯を食べてないんですよね、私。
朝は二日酔いに近かったのでお腹は空いていませんでしたが、今はペコペコです。
家の中には仄かにカレーの匂いがするので、余計にお腹が空いているのが堪えます。
昨日まで幼馴染みのこともあってあまり食欲がなかったのですが、今はどうでしょう?
お腹と背中がくっつきそうですよ。
これも、りゅうちゃんのお蔭なんでしょうか?

「あの……図々しいのは重々承知なんですが……お腹が空いているのでご飯が食べたいです……」
「わかってるよ。さすがに今ここでひかりを抱いたりしないって」

オデコにかかる前髪を指でよけると、チュッっとキスをしてくれました。

「お前、どんだけ可愛いんだよ。俺を悶え死させるつもりか?」
「……え?」

悶え死って……どういうことですかね?

「本当はかまい倒したいくらいだけど、あいつらも待ってるしな。今、着替え持ってくるから待ってろ」
「はい……」

よかったです。
どうやらご飯にありつけるみたいです。
渡された下着と服を着て、ちょっとフラつきながらリビングに向かいます。
またりゅうちゃんのパンツを貸してもらいました。
新品だと言うのですが、やはり男の人の下着はなんとも言えない履き心地です。
気持ちのせいでしょうかね?
りゅうちゃんはナゼか笑っていましたが。
他はりゅうちゃんとお揃いです。
Tシャツに膝丈のスウェットのズボンです。
りゅうちゃんにとっては膝丈でも、私には普通の長さに等しかったですけどね。
どうせ私はちっちゃいです。

初めて寝室と浴室以外の部屋に入りました。
そこは対面式のキッチン兼リビングでした。
リビングに置いてあるソファには、ふたりのお子ちゃまたちが飲物を飲みながら座っていました。
どうやら、あのあとは浴室には来なかったみたいです。
ホッとです。

「あ! ひーちゃん」
「おそいじゃん! あったまりすぎだ」
「大人だからゆっくり100まで数えたんだろ」
「ひーちゃんもなにかのむ?」
「ウーロン茶出してやれ」
「はーい」

トタトタと女の子がキッチンのほうに走っていきます。
そのあとを男の子も追いかけていきました。
どうやらふたりで私の飲物を用意してくれるらしいです。
私はりゅうちゃんにテーブルのイスに座るように促されたので、素直に座りました。
ちゃんと4人用のテーブルなので皆で座れますね。
でも、ふと思いました。
もしかして、この席はりゅうちゃんの奥さん……お子ちゃまたちのお母さんが座っていた場所なんではないでしょうか?
そう思うと、なんだかお尻に感じるイスの表面が気になります。
そんなんでモジモジしていると、りゅうちゃんに気づかれてしまいました。

「どうした? やっぱりあのあと、もう1回くらいしたかったか?」
「へ? な……ち、ちがいます!」

もう、お子ちゃまたちが傍にいるのになにを言ってるんですかね、りゅうちゃんは!

「じゃあどうした?」
「いえ……えっと……」
「ん?」
「あの……私ここに座ってもいいんでしょうか?」
「は? どういうこと?」
「えっと……」
「?」
「この席は……奥様の席だったんじゃないですか?」
「奥様?」
「はい……そんな思い出の席に、私なんかが座ってしまってよかったんですか?」
「…………」

りゅうちゃんが、私をまじまじと見ています。
やはり私の考えは当たっていたのですね。
私としては、ちょっと複雑な心境です。

「ひかりは俺に奥さんがいると思ってたの? 奥さんがいるのに、ひかりに交際を申し込むような男だと思ってたってこと?」
「え……?」

りゅうちゃんの声が少し不機嫌そうに聞こえて、私は慌ててしまいました。

「ち、違います! バツイチなのかと……」
「は? バツイチ?」
「あ! ……はい……奥様を亡くされたか、離縁されたのかと……」
「…………」
「だっ……だって……」

呆れ顔のりゅうちゃんに自分の思ったことを言わなければと!

「お子ちゃまふたりと暮らしてるし、大人はりゅうちゃんひとりですし……。奥様がいらっしゃるのに、
私を夫婦の使ってるベッドになんて寝かせないだろうしな……と思いまして……父子家庭かと」
「ああ、あいつらか」
「なにー?」

ちょうどふたりがキッチンから戻ってきました。
コップに入ったウーロン茶を溢さないように、ゆっくりと歩いてきます。

「はい、ひーちゃんどうぞ」
「こおりはおれがいれたんだぞ!」
「ありがとうございます。いただきます」
「どーぞ♪」

ニコニコ顔の女の子と期待一杯の顔の男の子。
その顔は早く飲んでと言っていますね。
私は受け取ったコップに口をつけて、半分ほど飲みました。
無理をしてではなく、喉が渇いていたから大丈夫です。
冷たくて、本当に美味しかったので素直に“美味しい”とふたりに言いました。

「ふふ♪」
「へへ♪」

その答えにふたりは満足したみたいです。
私のすぐ横で、ずっと私の顔を見上げています。
りゅうちゃんは頬杖を着きながら、そんな私達の様子をニコニコしながら見ています。

「コイツらはな、俺の姪っ子と甥っ子だ」
「え?」

姪っ子に甥っ子?
ということは?

「姉貴の子供」
「お姉……さん?」

りゅうちゃんのお姉さん……。

藍華 あいか 克哉 かつや 。詳しい話は飯食ったあとにしよう。お腹、空いてるだろ」
「はい……」
「ふたりとも手伝え」
「はーい」
「ほーい」
「あ……私も……」
「ひかりは座ってろ。動くの辛いだろ」

そう言ってニヤリと笑います。

「…………」

誰のせいだと……

「わかりました」

私は素直に言うことを聞くことにしました。
三人がキッチンで支度をしている間に、こっそりとリビングを観察してみました。
あまり大っぴらにキョロキョロできないのでそっとです。
ソファにテレビと、変わったものはありません。
お子ちゃまたちのオモチャや本なんかもありました。
女性のモノはどうやらないみたいです。
ちょっとホッとしてる自分がいました。

大勢とは言いませんが、小さな子どもと一緒に食べるのは初めてに等しくて、とても賑やかでした。
藍華ちゃんと克哉くんのお母さんはシングルマザーで、とある企業の課長さんなんだそうです。
そんな役職だと出張がどきどきあるそうで、りゅうちゃんがその間ふたりの面倒を見ているそうです。
年の離れた姉弟で、昔はずいぶんとお姉さんに心配をかけたので、そのお返しとしてお子ちゃまたちの面倒を見ているんだそうです。


食べるのをそっちのけで、今日保育園で(幼稚園ではないそうです)あったことを、ふたりが我先にと話します。
そんなふたりを、りゅうちゃんが嗜めながら食べるように促します。
私はふたりの話を笑って聞いてしまうので、私までりゅうちゃんに怒られてしまいました。
それでもみんなで食べたカレーはとても美味しくて、久しぶりに楽しい夕食でした。
お子ちゃまたちの話に笑いながら、本当はとても嬉しくて癒されて泣いていたのはみんなにはナイショです。

そして私の着替え一式が……(主に下着が)リビングの見えるところに干してあるのを発見して慌てるのは、このあとすぐの話です。









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