もっともっとあなたを好きになる



10




「……ん……」

とても寝心地のいい腕の中で目が覚めました。
ぬくぬくとして、とてもホッとできるあたたかさです。
こんなにぐっすりと眠れたのは久しぶりです。
昨日からどれだけ寝れば気がすむんでしょうか?
半分はこの腕の持ち主のせいなんですけどね。
お互い向き合って寝ていたので、目の前にはりゅうちゃんの寝顔があります。
りゅうちゃんも気持ちよさそうに眠っています。
睡眠の邪魔にならずによかったです。
昨日夕飯のあと、リビングのソファで寛ぎながらいろんな話をしました。

りゅうちゃんの職業とか普段の生活のサイクルとか。
あ! りゅうちゃんのお名前は、 司馬 しば 瑠将 りゅうすけ さんです。
そして、りゅうちゃんは薬剤師さんでした。
昨日はお休みで今日はお仕事だって言っていたから、もう少ししたら起きなければいけないですね。
お仕事の前に藍華ちゃんと克哉くんを保育園に連れて行かなくちゃいけないから、きっと朝は忙しくなりそうです。
なので私は朝一でお いとま しようと思っていたのですが、りゅうちゃんとお子ちゃまふたりに反対されてしまいました。
話し合いの結果、4人で保育園に行ってそのあと先に私の家に寄ってからりゅうちゃんは仕事に行くそうです。
さすがに園の中まで一緒に行くのは遠慮させていただきました。
藍華ちゃんと克哉くんにはごねられてしまいましたが、今日は許してくださいね。
その代わり別れ際のバグをこれでもか! というほどしてあげました。
今日も一日、頑張ってください!
ふたりが見えなくなるまで、車の助手席から手を振り続けました。



「ここがひかりんちか?」
「はい」
「ここに、ひとりで住んでるのか?」
「はい。おじいちゃんとおばあちゃんが亡くなってからはひとりです」

目の前には、かなり築年数の経った平屋の家。
その家を見て、りゅうちゃんが目をぱちくりしています。

「なんか……あの国民的アニメの家みたいだな」
「よく言われます……」

本当に似ているんですよね。
間取りなんかも似てたりします。
もしかしたら建てるときに参考にしたのかもしれません。
外壁や水回りはリホームしてありますが、形は昔ふうです。

「わざわざ送っていただいてありがとございました。本当ならお礼に上がっていただくところなんすが、仕事に遅刻しちゃいますもんね」
「ああ、今度ゆっくりお邪魔させてもらうよ。今日はひかりの住んでるところを確かめたかったから」
「?」

ナゼか見下ろされていたので、首を傾げてりゅうちゃんを見上げました。

「はあ〜心配だったんだよ」
「心配?」
「ああ、あのまま俺のところで別れたら、もう会えないんじゃないかと思ったから」
「え?」
「携帯の番号知ってても、安心できてなかった」

片手を腰に当てて、もう片方の手は髪の毛をガシガシと掻きながら下を向くりゅうちゃん。

「こんな女々しい気持ち初めてだ。本当なら俺のところにずっといてほしいけど、ひかりには今まで送ってきた生活もあるからな。
とにかく俺から離れようとしないでくれ。それだけは約束して」
「はい。約束します」
「じゃあ、夜に電話するから」
「はい」
「いいか、誰が来ても玄関を開けたらダメだからな」
「え?」

りゅうちゃんは、なにを言っているんでしょうか?

「知らない人についていったらダメなんだぞ!」
「えっと……」

真面目に言っているんでしょうか?
不思議に思って、またりゅうちゃんを見上げました。

「ああ〜〜もう心配だぁぁぁ」
「わあ!」

ぎゅううぅぅ! っと抱きしめられました。

「ひかり」
「はい」
「ひかり〜」
「は、はい」
「離したくない」
「だめですよ。ちゃんとお仕事行かないと」
「わかってる」
「…………」

りゅうちゃんの背中に回した手で、トントンと叩きます。

「…………」

お返しと言わんばかりに、さらにぎゅううぅぅ! っと抱きしめられ、頭に頬擦りをされました。

「はあ〜〜仕方ない、行ってくる」
「はい。いってらっしゃい」

やっと腕の力がゆるんで、りゅうちゃんが少し離れてくれました。

ーーーーちゆっ♪

「!!」
「なんとかこれで今日一日頑張ろう」
「はわわわ……」

あっという間の出来事でしたが……唇にふんわりとあたたかいものが触れました。
りゅうちゃん、こんなところでなんてことするんですか〜〜
ご近所さんに見られたら、どうするんですか!
私は真っ赤になりながら、ワタワタと焦ってしまいました。
慌てながら誰も見てませんよね? と周りを確認してしまいます。

「あ!」

クスクスと笑いながらりゅうちゃんが、私の頭をクシャリとして車に乗り込みました。
エンジンをかけてシートベルトをして片手を上げると、りゅうちゃんは車を走らせました。
私も手を振りました。
そしてりゅうちゃんの車が見えなくなるまで、その場に立っていました。

「行っちゃいました……」

いつもと同じ朝の家の前です。
私はショルダーバッグから家の鍵を取り出して、一日半ぶりの我が家の玄関を開けました。

中に入って、居間に向かって廊下を歩きます。
二晩誰もいなかった家の中は、少し空気がどんよりしている気がします。
居間から閉めていた雨戸を開けていきます。
全部の部屋の雨戸を開けるのは、場所によってはコツがあったり足を使ったりとなかなかの重労働ですが、
毎日のことなので慣れたものです。

「はあー気持ちいいですね」

開けた窓から入ってくる風が新鮮で気持ちがいいです。
何度か深呼吸を繰り返しました。

「あ……」

通り二つ向こうに、二階建ての青い屋根が見えました。
幼馴染みの家です。
一昨日の夜は胸が張り裂ける思いでこの雨戸を閉めたのに、今はなにも感じません。
少しだけモヤッとした気がしましたが、一度深呼吸をしたら薄れました。
りゅうちゃんと藍華ちゃんと克哉くんの笑顔を思い出したら、自然と自分まで笑顔になります。

「三人のおかげですね。さあ、私も家のことをしなければ!」

自分に掛け声をかけて、台所に向かいました。









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