もっともっとあなたを好きになる・番外編



小畑克哉の愛従妹




「克哉、飯食ってかね?」
「いや、克哉、飯食ってかね?」
「いや、今日は予定があっから無理。また今度な」

大学の講義が終わって帰ろうとしたところに、声を掛けられた。
大学でいつも一緒にいるメンバーで、ときどき飲みに行ったりカラオケに行ったりしてる。
ただいつもバイトが入ってて、なかなかそういった付き合いに顔を出さないオレ。
飯と言いつつも、そのあと飲んでカラオケコースだろう。
そういう友達同士の付き合今日は予定があっから無理。また今度な」

大学の講義が終わって帰ろうとしたところに、声を掛けられた。
大学でいつも一緒にいるメンバーで、ときどき飲みに行ったりカラオケに行ったりしてる。
ただいつもバイトが入ってて、なかなかそういった付き合いに顔を出さないオレ。
飯と言いつつも、そのあと飲んでカラオケコースだろう。
そういう友達同士の付き合いも大切だと思うけど、あんまり好きじゃないんだよな。
高校のときの友達はオレと似た感じの奴ばっかだったから一緒にいても苦にならなかったけど、
大学には色んな奴がいるから今までと違った付き合いも増えてきた。
本当はバイトしてたほうが楽しいし、プライベートはできればひとりでゆっくりとしたいタイプ。
今日はバイトが休みなのを知ってて声を掛けてきたんだろうけど、あいにくと予定が入ってた。

「えー今日はバイト休みだって言ってたじゃん」

最初に声を掛けてきた奴が不満そうに言う。

「休みだけど予定があるんだよ」
「ええー克哉君いっつもバイトで付き合い悪いじゃん。それにそんなに働いたら身体に悪いって。たまには息抜きしなきゃ」

オレを見上げてニッコリと微笑むのは、メンバーの中の数少ない女子のひとりで? “ 小早川 こばやかわ 明恵 あきえ ”。
それとなくオレの腕に手を添えて、普段もなにかとボディタッチしてくる女。
自分でも顔は不細工ではないと思う。
ひかりは“イケメンに入ります!”と言ってくれる。
中学・高校とそれなりに告白もされたこともあるから、恋愛関係もそれなりに経験してるオレ。
だからこの小早川がどんな意図をもってオレに触れてくるのかなんてすぐにわかった。
昔から化粧の濃い女は周りにいなかった。
オレの母親も会社でそれなりの役職についてるから見た目も気をつけてたし、ひかりなんて化粧してんのか? と思うほど薄化粧だった。
双子の姉も年頃になると化粧をしだしたみたいだけど、ふたりの影響なのかナチュラルという感じの化粧だ。
だから、オレを見上げてニッコリと微笑む小早川の真っ赤な口紅が不快でたまらない。
絶対にキスなんてしたくないと思う。
って、オレのタイプじゃないから付き合うこともないと思うけど。

「別に好きでバイトやってるから疲れないし。それに今日は人と会う約束してっから無理なんだよ」

それとなく自分の腕から小早川の腕を外して、小早川の言うことを否定する。

「え? それって女?」
「は? 関係ないだろ。男だろうが女だろうが」

なんでそこに食いつくんだか。

「うお〜女か? つうことは、彼女か?」
「違うって。ホント、どうでもいいだろ。今度付き合うから、じゃあな」
「克哉君!」

これ以上ここにいるとしつこく追及されそうだったから早々と立ち去った。
小早川がオレの名前を呼んだけど、オレは聞こえないふりをした。



「陽和!」
「克ちゃん!」

待ち合わせの相手を見つけて、片手を上げつつ名前呼んだ。
名前を呼ぶ声に気づいて顔を上げたのは、オレの従妹の? “ 司馬 しば 陽和 ひより ”。
今年、高校に入学した。
陽和は生まれる前からの付き合いで、おむつも取り替えてやったし、お風呂だって小学校に上がるころまで一緒に入っていた仲だ。
オレの母親が忙しくて、よく叔父であるりゅうちゃんのところにあずけられてたから必然と一緒にいる時間が多かった。
だから親戚の子というより、本当の妹といった気持ちのほうが強い。
陽和の下に弟がいるけど女の子というのがあるからか、陽和のほうにあれこれと世話を焼いてしまう。
りゅうちゃんには?娘の心配は俺がするから大丈夫だ”と言われてるんだけど、やっぱり心配で仕方ない。
今はまだ付き合ってる相手はいないみたいだけど、もしそんな相手ができたらオレが必ずチェックしてやる。
りゅうちゃんも控えているから、オレとりゅうちゃんのふたりに認められないとダメということだな。

「ごめんな、待ったか?」
「ううん、私もちょっと前に来たばっかりだよ」

私服姿の陽和はカジュアルな感じの服を着ることが多い。
顔はひかり似だから、きっと学生のころのひかりもこんな感じだったんだろうか?
高校生と小学生の母親を名前で呼び捨てにするのは如何なもんかと思われるが、初めて会ったときから名前で呼んでるから今さら直せない。
最初のころりゅうちゃんにも注意されたんだが、ナゼか名前で呼びたかったんだよな。

りゅうちゃんと藍華とオレのところに、ある晩突然現れたひかり。
今から思うと、きっとひかりにひと目惚れだったんじゃないかと思う。
あのころ、好きな女の子は名前で呼ぶもんだと思ってからな。
今は時と場合で?さん”付で呼んだりするけど、基本呼び捨てだ。
因みに、オレの初恋は自分でも知らぬ間に自然消滅したけどな。
でも、ひかりのことは今でも大切な人だと思ってる。
りゅうちゃんの嫁さんで、オレからしてみたら?叔母さん”なんだけど。

「ごめんね。せっかくバイトがお休みなのに私に付き合ってもらっちゃって」
「気にすんな。オレも息抜きできるし」
「ならいいんだけど……お礼に今度夕飯作ってあげるね。克ちゃんの好きなものリクエストして!」
「おう、じゃあ遠慮なくご馳走になるよ」
「うん!」

今日は陽和と映画を見る約束をしてた。
友達とは予定が合わなかったらしく、しかもあまり興味のなかった映画らしい。
ひとりで見に行くというのを聞いて、一緒に行ってやると名乗りをあげたわけだ。
最初は遠慮してた陽和も、遠慮するなというオレの言葉に最後は楽しみだと言ってくれた。
可愛い陽和との久々のデートだ。
陽和が小学生のころは藍華と一緒に色々なテーマパークを制覇した。
最近は藍華もオレも大学とバイトが忙しく、陽和も高校受験でそうそう出かけることはなくなったけど、
やっとお互いが落ち着いてきたから久しぶりに出かけることができた。
いつでも出かけられる大学の仲間より、陽和を優先するのは当たり前だろう。
しかも、陽和もオレに懐いてるし。
最近上達してきた手料理をオレのために作ってくれるっていうんだから、即答で頷いた。
なら、それもいつにするかと早速頭の中で予定を組む。




「やっぱり見てよかった〜」
「そうか、ならよかった」
「克ちゃんはつまらなかったんじゃないの?」

見終わったあとも、オレのことを気にする陽和。
見た映画は童話をモチーフにしたあちらの映画だったから、まあ女性向けの映画だとは思う。

「いや、セットの出来栄えとかどこの建物かとか考えてたら結構興味深く見れたぞ。
CGもなかなかの出来栄えだったし」
「え? そういうところ見てたの? ストーリーは?」
「んー、元の童話を知ってたからまあ展開は読めてたしな」
「そうだけど……」
「だからって、つまらなかったわけじゃないからいいじゃん。陽和は映画全体がよかったんだし、
オレは技術的なところと、美術的なところで楽しめたんだから」
「なんか……克ちゃんが本当に楽しめたのか疑問が残るわ」
「ホントに楽しんだって! それよりも、なんか飯食って帰ろうぜ。腹減った」
「うん。お母さんにも今日は克ちゃんとご飯も食べてくるって言ってあるから大丈夫だよ」
「そのあとはちゃんと家まで送っていくからな」
「え? そのまま泊るんじゃないの? お母さんそのつもりだったよ」
「そっか? 最近泊りにいってないからそうしようかな」
「着替えもあるんだし、大丈夫でしょ?」
「そうだな」

「あれ? 克哉?」
「!?」

名前を呼ばれて振り返れば、数時間前に別れた大学の連中が数人でかたまってた。
内心、舌打ちをした。
なんでこんなところで出くわすんだか。
サッサとカラオケなり飲みにでも行きゃあいいのに。

「克哉。なんだよ、こんなところなにしてんの?」
「そこの映画館に用があったんだよ」
「え? 映画? お前が?」

えらく驚かれた。
まあ普段、滅多に映画館で映画なんて見たことないからな。
映画なんてもっぱら借りて見るくらいだし。

「あれ? 誰? その子?」
「チッ!」

オレの舌打ちは聞こえなかったらしい。
オレの少し後ろで、オレの背中に隠れるように立っていた陽和に気づいて覗き込んでくる。

「克ちゃん?」

人数に驚いたのか、陽和は何気にオレのうしろに隠れた。

「克ちゃんだってよ〜♪ なんかアニメでなかったっけ? もしかして幼馴染み?」
「違う。従妹」
「はあ? 従妹? こんな大きな子が? 中学…高校生か?」
「信じなくても別にいいけど」
「彼女、ホント?」

好奇心丸出しで陽和に近づいて顔を覗き込もうとする。

「ほ…本当です」
「へえーで? 今日はその従妹とデートってわけ?」
「そうだよ。だから邪魔すんなって」
「もしよかったらこのあと一緒にどう? カラオケに行こうって言ってたの。未成年だから居酒屋とかよりいいでしょ?」

小早川がニッコリ笑顔で話しかけてきた。

「そうだな。現役女子高生と一緒にカラオケなんて滅多にないかもな!」
「いえ……私は……」
「なんなら、お友達も誘えばいいじゃない」

小早川が陽和にもニッコリ笑顔で話しかける。
でも、それには親切心というよりも、なにか他の思惑があるような言い方だった。

「すみません。今日はこのあと克ちゃんを連れて帰るって母と約束したので。家で待ってると思うので」
「というわけだから、また今度な」

お前達と陽和が一緒はこの先もないけどな。

「…………」
「そっかぁ〜じゃあ仕方ないな。また機会があったら遊ぼうな」
「はい、ありがとうございます」
「え? 克哉いんの?」

傍で立ってた連中から、自分の名前を呼ぶ声がしてそっちを見ると見知った顔がいた。

「あ、ホントだ。克哉だ。ちょうどよかった」
「なんだよ?」

チョイチョイと手招きされたから、仕方なくそっちに移動する。

「陽和、ちょっと待ってろ」
「うん」

克ちゃんが友達に呼ばれて私達から少し離れた場所にいる人達のほうに歩いて行った。
克ちゃんの大学のお友達なんだよね。
このまま私に着き合わせちゃっていいのかな?
なんて思わなくもないけど、克ちゃんのことだからここで私と別れて私をひとりで帰すなんてことはしないと思うし、
私も一緒にこの人達と遊ぶということもしないと思うから……いいんだよね。

克ちゃんの初恋は私のお母さんだ。
私が子供のころ(たしか3・4歳のころだったと思う)克ちゃんがよく『オレのおよめさんはひかりにきめてるんだ!』って言ってたもん。
お父さんに散々『ふざけたこと言ってんじゃねえ! ひかりはもう俺の嫁だ!』って言われてたけど。
メゲナイ克ちゃんはそんなお父さんの言葉もまったく気にせず、お母さんに自分が大きくなったら嫁にもらってやると宣言してた。
私には『ちょうわかいちちおやのほうがいいよな?』なんて大威張りで言っていた。
藍華ちゃんは呆れた眼差しをずっと送ってたけど。
しばらくたって、そういえば最近お母さんをお嫁さんにするって言わなくなったな〜? なんて思ってどうしてかと克ちゃんに聞くと、
引きつった顔で『オレだって大人になるんだよ。ひかりはりゅうちゃんの嫁さんだからな』って言ってた。
なにを今さら言ってるんだろう、と思った私。
皆、昔から散々言ってたじゃん。
もしかしてやっと諦めたのかな?
それからの克ちゃんは以前と変わらずで、でもいい感じでお母さんとの距離を取ってる気がする。
私のことも本当の妹のように可愛がってくれるし。(藍華ちゃんもだけどね)
ちょっと心配しすぎなところもあるけど、私には頼りになって大好きな人だ。

「従妹だからって、克哉君を煩わせるってどう?」
「!?」

ボソリと私だけに聞こえるような声で言われて顔を向けると派手な感じの、でも綺麗な顔の女の人が私を見ていた。
その顔はきっと勘違いじゃない。
明らかに私に敵意をむき出しな顔。

「?」

この人、さっき一緒にカラオケでも? って誘ってくれた人だよね?
聞き間違い?

「克哉君だって、大学の付き合いってのがあるんだから。いくら従妹だからってそれを邪魔するのってどうかと思うわ。
しかも、高校生のお守りなんて、克哉君も可愛そう」
「…………」

えーっと……なにこの人?
克ちゃん狙いなの?
だからって、従妹に絡む? 身内だよ?
克ちゃん狙ってるなら、逆に私に印象よくしておいたほうがいいと思うけど?
どういう思考回路してるの、この人?

「フンッ!」

言いたいことだけ言うと、女の人は克ちゃん達のほうに行っちゃった。

「やだ、なにあれ? 怖いわぁ〜。克ちゃん狙われてんのかな?」

でも、克ちゃんの好みとは違う気がするけど?


それからすぐに克ちゃんが話し終わって、私のほうに戻ってきた。

「じゃあな、克哉! 従妹ちゃんもまたね〜♪」
「いいから早く行けよ」

私は頭をぺこりと下げて彼等を見送った。
あの女の人はチラリとこっちを見て(多分克ちゃんを見てたと思うけど)行っちゃった。
しっかりと克ちゃんが私のほうに来る前に、克ちゃんになにか言ってたみたいだけど。

「悪かったな、時間とらせて」
「ううん。ちょっとだけ、克ちゃんの大学生活を垣間見た気がしたよ」
「は? あんなんでか?」
「克ちゃん、モテるんだね〜♪」
「なんだよ? いきなり」

食事をするお店を探しながら歩き出して、さっき思ったことを克ちゃんに話す。

「克ちゃんさ、ああいう女の人が好みなの?」
「ああいう?  どういうのだよ?」
「惚けちゃって。あのちょっと派手なめな女の人。一緒にカラオケにって誘ってくれた」
「え? ああ、小早川?」
「名前は知らないけど」
「なんか言われたのか?」
「え? なんか従妹相手に牽制してきたから」
「そっかぁ。“従妹相手に大変ね”なんて言ってたけど、そういうことか」
「克ちゃん、ああいう人がタイプだったの? 付き合ってるとか?」
「はあ? なに言ってんだよ。タイプなわけあるか」
「だよね。克ちゃんのタイプは、お母さんみたいな人だもんね♪」

克ちゃんはなにも言わずに、クスリと笑って私の頭をくしゃくしゃと撫でた。

「よし! 陽和の好きなもの、なんでも食べていいぞ」
「え? 本当?」
「ああ、優しい優しい克哉様だからな」
「ヤッター♪ 大好き、克ちゃん♪」

そう言って、克ちゃんの腕に自分の腕を絡ませる。

子供のころから楽しくて頼りがいのある、大好きな私の自慢の克ちゃん。
いつか、克ちゃんの理想のタイプの彼女ができるように心から祈ってるよ。
それまでは、私がときどき付き合ってあげるからね。








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