Love You ! 番外編 勘違い症候群☆



01




最近智鶴の様子がおかしい。

と思うのはオレの気のせいなのか?

ハッキリとこうだというんじゃねーんだが……よそよそしいというか避けられてるというか……
心当たりは……あるような……ないような……

やっぱアレか?はぁーーーー

俺は溜息と一緒にタバコの煙を吐き出した。




「彼女拗ねちゃって大変だったんですよ」
「ん?」

撮影の合間の休憩で共演者の“香川幹久”がボヤキだした。

「ほら。オレ今回チャライ役じゃないですか」

香川の今回の役は社内でも有名な軽い男の役だ。
仕事はそつなくこなすが特定の相手を作らず複数の女を相手にしてる男。
あくまでも役の上での設定だが。
本人はいたって普通の成人男子だ。
何度か飲みに行って話したが真面目なタイプだと俺は思う。

「付き合ってる彼女が役のオレとごっちゃに見ちゃって……ヤキモチの誤解でなだめんのに苦労しましたよ」
「香川が役者だってわかってて付き合ってんだろ」
「のはずなんですけど……“私よりも綺麗な女優さん口説いてるほうがいいんでしょ”とかワケがわかんないですよ」
「…………」
「別に役者だからって特別な恋愛してるわけじゃないじゃないですか」
「そうだな」
「鏡さんのとこは奥さん理解あっていいですよね。ラブシーンなんかで機嫌悪くなんないでしょ」
「…………」
「鏡さん?」
「あ?ああ……」

今回のドラマでの俺の役は幼稚園に通う娘を持つサラリーマン役だ。
多少のコメディが入る夫婦もので隣近所の同じような夫婦達と絡みながら話が進む。

子持ちの役は初めてじゃない。
結婚してるのも……ただ俺の演じる男は嫁さん一筋な設定で……まあそれはかまわねぇんだが
2話ほどやる度に1・2度のキスシーンが必ずある。
触れるだけの軽いものだがその他にも抱きしめたりするシーンもいつもより多い。
仲のいい夫婦だから仕方ないんだが……

「かがみさん。おはようございます」

足元で声がしたと思ったらツインテールとかいう髪型をした娘役の“倉内菜々”がチョコンと立ってた。
ちなみにこの髪型が“ツインテール”ということを教えてくれたのは菜々だ。
お気に入りの髪型だそうだ。
この歳からお洒落に気をつかうなんざ流石チビでも女優なのかただのマセガキなのか。

でもそんなところを含んでも可愛いと思ってる。
まだ子供のいない俺にとって仕事でもなきゃ子供と触れ合うなんてねーだろうし。
最初は俺を見て警戒してたが最近は慣れてくれたからかイイ感じだ。

「おはよう」
「あの……かがみさん」
「なんだ」
「これきのうよーちえんでつくったの。じょうずにできたからかがみさんにあげる」
「お!あんがとよ」

差し出されたのは折り紙で作られた花だった。
茎も葉っぱもないただ花の部分だけ。

「上手だな」
「がんばってつくったんだよ。でもねよーちえんでそれおってたらひかるくんが“だれかにあげるの?”
っていうからかがみさんにあげるのっていったらなんでだかおこっちゃったの」
「へえ……」
「なんでだろ」
「そのひかるって奴にも折ってやればよかっただろ」
「えーだってかがみさんはななのとくべつだもん。ウソだけどパパだもん。だからおりがみは
かがみさんだけなんだもん」
「…………」

この歳に男心をわかれって言っても無理か?無理だよな……

「そっか……じゃあこの花は俺だけにか」
「うん」
「ありがと」
「えへへ」

俺は加減して菜々の頭を撫で回した。

「菜々ちゃんオレには?」

そんな香川の声がしたがさっきと同じ理由で菜々手作りの折り紙の花はあげないと
言いきられてワザとらしくがっかりと肩を落とす。

そんな光景を見ながら頭の中ではまた智鶴のことを考えていた。


このドラマの撮影が始まってから智鶴の様子がおかしいことに気づいた。
今回のドラマでキスシーンがあることはちゃんと伝えてあった。

まあこんな頻繁にそんなシーンがあるとは言ってなかったが智鶴と知り合ってから
キスシーンは初めてじゃない。
それに前のときにキスシーンはあまり気にしてないと言ってた気がする。

ただあの時は智鶴に言葉が足りないと泣かれたんだよな。

だからってわけじゃねーが智鶴の望むとおりあの日から俺は毎日欠かさず智鶴に言い続けてる。

『智鶴が好きだ。智鶴だけを愛してる』

なのに……なんでよそよそしい態度なんだ?
キスシーンの他に俺なんかしたのか?わかんねぇ……




「おかえりなさい」
「ただいま」

珍しく日付が代わる前に家に帰れた。
玄関にはすでにパジャマに着替えた智鶴が出迎えた。

そう……見た目は全然変わらねぇのに……

「んっ……」

智鶴の態度が気になりつつもだから余計に智鶴を攻めるキスになる。
いつもなら触れるだけのキスで済ませるところを智鶴の腰をガッチリ捕まえて
お互いの舌を絡めた深い深いキスをする。

「ふっ……んん……」

今までは俺の服を掴んだり俺の首に腕を回したりしてそんなキスにも応えてたはずが
ナゼか途中で俺から逃げるように顔を逸らしてキスを終わらせる。

「智鶴?」
「……はぁ……ご飯食べますか?それともお風呂?」
「…………」
「レンジさん?」

気遣うように俺を見上げる智鶴はいつもと変わらない。

「先に風呂入ってくる」
「じゃあその間にご飯の仕度しますね」
「ああ……」
「着替えあとで持って行きますから」
「わかった」

パタパタと俺の着替えを取りに寝室に向かって歩く智鶴の後ろ姿をじっと見てた。
ホント俺なんかしたか?
まさかまた俺が浮気してるとか……そんなとんでもないこと考えてんじゃねーよな?

そんな勘違いされるようなこと俺はしてないはずだし……

それに前の浮気騒動も惇の野郎と後輩の俳優の悪ふざけに巻き込まれただけなんだが……
だから智鶴がそのことを未だに気にしてるとは思えねぇし。

さっぱり理由がわからねぇ……誰かに何か言われたのか?

それともやっぱ演技とはいえ俺が智鶴以外の女とキスしたり抱きあったりするのが
耐えられないとかか?
他の女の唇に触れた俺にはもう触れられるのも嫌だとかか?

「……チッ」

俺はシャワーを頭から浴びながらやり場のない苛立ちに舌打ちをした。



「智鶴」
「!!」

2人でベッドに入ってから俺は隣に寝てる智鶴の身体に手を伸ばす。
智鶴の身体とベッドの間からと腰の上からと腕をまわしで抱きしめて俺のほうに引き寄せた。

そのまま智鶴の項に唇を押し付ける。

最近夜中まで撮影だったせいか智鶴を抱くのは久しぶりだった。
だがここでも智鶴の違和感に気づく。

智鶴の身体に腕を回した途端智鶴がビクリとなったのがわかった。

「智鶴?」
「…………」
「智鶴……どうした?……嫌なのか」

ちょっとの間を置いて伺うように聞いてる自分がいる。

「……ちょっ……と……疲れてて……ごめんなさい」

俺に背を向けたまま身体を丸めて呟くように断られた。

「調子悪いのか?」
「……きっと仕事で疲れたのかも。今ちょっと忙しいから」
「そうか……無理すんなよ」
「はい……」

俺はそのまま智鶴を背中から抱きしめて眠った。

目を瞑ってもすぐに眠りが訪れることはなく……ただ黙って智鶴の後頭部に自分の額をくっ付けてた。

やっぱりおかしい。


智鶴……お前一体なにがあったんだよ。

俺にも言えねぇことなのか?それとも……


俺には言えねぇことなのか?





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