Love You ! 番外編 勘違い症候群☆



05




「オレがなにしたっていうんだぁぁーー」

「やかましい野郎だな」

香川には聞こえないように俺はボソリと呟いた。
無理矢理香川の傷心飲み会に引っ張って来られて半ばふて腐れながら飯を食ってた。

個室のある居酒屋で座敷部屋に俺と香川と白鳥と後から合流した香川の俳優仲間と
白鳥の知り合いで結構な大人数になってた。

香川の俳優仲間は俺は知ってる奴じゃなかったがその俳優仲間によると
今回別れた相手はどうやら数年ぶりに出来た彼女だったらしい。
だから余計に落ち込み方が半端ないのか?

しかし……こいつがこんなに酒癖が悪いとは。
まあ今日は落ち込んでたから仕方ないのか?

そんな香川の傷心なんて気にすることもなく俺はサッサと切り上げる態度を見せる。

「香川」
「あい?」
「俺もう帰るぞ」
「はぁ〜〜?もうですかぁ?」
「最初から俺は今日無理って言ってただろうが」

それでも1時間以上はいたんだから文句ねぇだろう。

「…………そうれすか」

なんとなく香川がシュンとした気がした。
いい大人の男がいい加減ウジウジしてんじゃねーっての。

「明日ちゃんと来いよ」
「鏡さぁん」
「あぁ?」

立とうとした俺の両肩にダランと香川がすがりついてきた。
重いっての!

「さっき鏡さんの分で飲み物頼んじゃったんれすぅ……それ飲んでってくらさいよぉ」
「酒は飲まねぇぞ」
「ウーロン茶れす」
「……じゃあそれ飲んだら帰るからな」

白鳥は自分の知り合いと話しててまだ帰る気配はなかった。
このあとは本人に任せても平気だろうと俺は飲み物がくる間に智鶴にもうすぐ帰るとメールをした。

「あい!鏡さん一気にどうろ」

目の前のテーブルの上に香川がウーロン茶の入ったグラスをドカリと置いた。
智鶴にメールをしてる間に飲み物が運ばれてきたらしい。
俺が帰ることを納得してない香川が不満げな顔で俺を見てる。
だが俺はそんなの無視だ。無視。

「じゃあコレ飲んだら帰るからな」
「あい……きょうはありあとうございました」

酔ってる香川がニヘラと笑う。
その顔はちょっと不気味だぞ香川。

まったく……とんだ邪魔が入った。
本当なら今頃家に帰ってるはずだったのによ……

俺は一刻も早く帰るために目の前に置かれたウーロン茶をゴクゴクと飲み干し……

「ぶはっ!!」

勢いよく多めに3口ほどウーロン茶を飲み込んで噴出した。

「なっ!!」

噴き出して濡れた唇を手の甲で拭うと傍にいた香川を睨む。
香川はまたニヘラと笑ってた。

「これ酒じゃねーか!!」

一気に飲み干そうとした飲み物はウーロン茶じゃなくウーロンハイだった。

「わ〜〜い♪ 鏡しゃんだまされましたねぇ〜〜エヘヘ〜〜」

「…………」

ブチブチと俺の中の何かがキレた。

「誰が帰すもんれすか〜〜最後まれつきあって……」

俺はダン!っとテーブルにグラスを叩きつけた。
中身が跳ねたがよくグラスが割れなかったもんだ。

「か・が・わ・ぁぁ〜〜〜〜」
「ほえ?」

香川はコトの重大さがわかってねえみたいだった。
だが俺は奴を許さねえ!!

「テメェふざけんなっっ!!」

俺はそう怒鳴ると香川の両方のこめかみに問答無用で拳を捻り込んでやった。

「うわあああああ!!い……痛いですぅ〜〜か……鏡さーーーん!!」

俺はそんな抗議もシカトしてグリグリと容赦なく拳を捻る。
惇の野郎にも散々お見舞いしたことのある攻撃だ。

「テメェはしばらく独り身で我慢してやがれっっ!!」

「ちょっと鏡さん!!」
「なに?どうした?」

叫んだ香川の声を聞きつけて周りの奴等が止めに入ったが俺はしばらくの間
香川の奴に制裁を加え続けた。

お蔭で車はそのままパーキングに置いていく羽目になり
酒の匂い漂わせて智鶴と話し合わなければならなくなり……
マジムカつくっっ!!

もちろん一晩停めた駐車料金は香川が払うことになったのは当たり前の話だ。



「ただいま」
「おかえりなさい」

仕方なくタクシーで帰って家に着いたのはギリギリ日付がかわる前だった。
香川の野郎……

「悪かった……早く帰るはずだったのに」
「ううん。お付き合いなんですから仕方ないです」

そう言った智鶴だったが見上げた顔は心なしか何かを堪えてるようだった。

「…………智鶴」
「はい」
「話は風呂は入ったあとでいいか?」
「……はい……大丈夫です」
「そうか……じゃあ着替え頼む」
「はい」

智鶴は返事をするとそのまま寝室に向かって歩き出した。
俺はそんな智鶴を見送って浴室につながるドアを開けた。



「…………」
「…………」

風呂も終えて2人でリビングのソファに移動した。
目の前のテーブルには智鶴が出してくれた冷たい飲み物が置いてある。

それを口につけながらなかなか話しかけられない自分が情けねぇ。
智鶴を見るとさっきから俯いてパジャマのズボンをぎゅっと握り締めてる。

何を決意してんだ?智鶴……

「智鶴」
「は……はい!」
「大事な話ってなんだ?」
「え?あ……あの……」

また俯いて今度は唇をキュッと噛み締めてる。
そんなに覚悟がいるのか?


レンジさんに大事な話ってなんだ?と尋ねられて私はずっと考えていた言葉を思いおこす。

『赤ちゃんができました』
『妊娠しました』
『今日お医者さんに行ってきました』
『家族がもうひとり増えます』
etc……

でも結局決まらずにモジモジとするだけ。
こんなことならメールで伝えた方が良かったのかな?なんて思う始末。

レンジさんが帰ってきたときつわりでちょっと気分が悪かったけど今はドキドキしてて
そんな気分は吹き飛んでる。

そう……普通に……落ち着いて言えばいいのよ。
にっこりと笑って……ほら……頑張れ私!!

「……智鶴の言いたいことはわかってる」
「え!?わ……わかってるんですか??」

ガバリ!!と音が聞えそうなほどの勢いで智鶴が顔を上げた。
なんだ?そのとんでもない驚きは?



レンジさんが私の言いたいことがわかるって言った。
ウソ!?いつの間に?どこから話が漏れたのかしら??

誰かに病院に行ってたことがバレたの?
あ!まさかまた週刊誌とかワイドショーの人とか??私後つけられてた……とか?
え?でも最近というか記者会見からはそんな気配全くなかったし……どうして?

「智鶴」
「は……はい」

え?レンジさんなんでそんなに辛そうな顔してるんですか?
赤ちゃんが出来たこと……そんなに辛いことなんですか?ウソ……

「智鶴には悪いと思ってるが……割り切ってくれねえか?」
「え?」
「我慢してもらうしか……悪ぃ……智鶴」
「…………」

レンジさんの言ってる言葉が理解できない……
えっと……それってどういうこと……なのかな?割り切ってって?我慢するって??

「本当に悪ぃ……諦めてもらうしか……」

「!!」

レンジさんの言葉が私の胸にグサリと突き刺さった。

諦める?赤ちゃんを?ウソ……レ……レンジさん本気ですか?

ウソですよね?レンジさんが……レンジさんがそんなこと言うなんて……


そんなの………ヒドイ……


「智鶴?」

前から話もしたが役者をやってる以上ラブシーンはついてまわる。
毎回というわけじゃねえのもわかってるが智鶴との交際が発覚してからは
その手の恋愛モノの仕事が前以上に入るようになった。
黒柳が言うには智鶴とのことで記者会見を開いて堂々と交際を言い切った俺の見た目の
好感度が上がったのと恋愛もOKという印象がついたからじゃないかと言われた。

今までだって女と付き合ってたはずなのになんで智鶴のときだけ見た目が変わったのか不思議だった。

まあ今までの俺のイメージは偏ってたといえば偏ってたからな。
智鶴とのことはいいキッカケになったらしい。

だが……その反面智鶴には嫌な思いをさせてる。
俺はそれが仕事とはいえ申し訳なく思うからなるべく智鶴が傷付かねえように
納得してもらうしかねえと思って自分の気持ちを伝えたつもりだった。

そんな俺の言葉を聞いて智鶴がショックを受けたような顔をした。

「…………」
「智鶴?」

名前を呼んでも智鶴は返事をしねえ。
それよりも見開かれた瞳が一瞬で潤むとポロポロと涙を溢した。

「ふ……ふぇ……」
「ち……智鶴?」
「うぅ……ひっく……」
「な……なんだ?そんなに割り切るのが辛いのか?そんなに許せねえか?」

泣くほど耐えられないことじゃ俺はどうすりゃ……

「智鶴」
「うっ……」

俺はそっと智鶴の身体に腕を回して抱き寄せた。
智鶴はされるがまま俺の腕の中に納まってシクシクと泣き続ける。

「智鶴」

俺は何度智鶴の名前を呼んだだろう。
なのに智鶴は一度も返事をしてくれねえ。

俺は涙で濡れてる智鶴の頬にそっと手を添えて親指の腹と手のひらで涙の跡を拭った。
それでも智鶴の涙は止まらない。

俺はそんな泣き続ける智鶴に自然と顔を寄せた。



レンジさんの言葉を聞いてから涙か止まらなくて……何も言えなくて……

そしたらそっとレンジさんが私を抱きしめて零れた涙を拭ってくれた。

いつも優しいレンジさんなのに……
どうして?どうしてなんですか?なんで赤ちゃんのこと諦めなくちゃいけないんですか?

いつまでもグズグズと泣き続けてなかなか言葉が出てこない。
ふと気配がして顔を上げたらレンジさんが近づいてきてプンとお酒の匂いがハナについた。

「……んっ!」

きっと気分的なものもあったんだと思うけどさっきまで治まってたつわりがぶり返したみたいで
どうしてもそのお酒の匂いが耐えられなくて思わずレンジさんの胸を腕を伸ばして押し戻してしまった。

「智鶴?」

レンジさんは驚いてすぐにとても傷ついた顔をした。

どうしてですか?なんでそんな顔するんですか?

傷ついてるのは……私のほうですけど!!!





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