Love You ! 番外編 黒柳恭子の恋バナ?



01




「じゃあ今日はこのまま帰るから。何か緊急のことや変更ある?………そう、わかったわ。
レンジには私から連絡しておくから。はい、お疲れ様」

某テレビ局の前で事務所に定時連絡を入れて電話を切った。
そのあとすぐに登録してあるメモリーから相手を選んでボタンを押す。
数回のコールで相手が出た。

「レンジ?」
『ああ、なんだ』
「来週からのスケジュールなんだけどちょっと変更になったから」
『変更?』
「あとでメール送るからちゃんと確認しといて」
『わかった』
「もう家にいるの?」
『ああ』
「智鶴さん具合どう?」

先月レンジの奥さんの智鶴さんが妊娠してることがわかった。
ちょっとした誤解があったらしいけど、まあ相手がレンジならなんとなく頷けてしまうのがなんとも言えないれけど。

彼女は小動物のような可愛さがある。
それに自覚がないらしいけど、私やレンジのような粗野なところがある相手にとって彼女はどこか
“ツボ” に嵌るモノがあって、思わずかまい倒したくなるときがある。

初めて彼女に会ったとき、今までのレンジのつき合ってた相手とはかけ離れてたタイプだったから
もしかしてレンジが脅してつき合わされてえるのかと不安が過ぎったことはレンジには内緒。
事務所で対応しないといけない事態か?などと思ったことも事実。

すぐにお互いの合意の上でのつき合いだとわかったけれど……。

ちょっと頼りなさげなところが欠点なのか長所なのかわからない彼女。
そんな性格のおかげで、ちょっと危ないこともあったけれど今は色々と自覚してしっかりしてきたと思う。

でもあの健気さの破壊力はあなどれない。
オデコ全開の、息を弾ませた姿にはレンジとふたりドキュンとやられてしまった。

だからってレンジみたいにそのことを彼女に匂わせたりはしていないけど。

そんな彼女が妊娠がわかったときから始まってたつわりが、ここ最近重くなってきたと聞いてたから
ついレンジに聞いてしまった。

『なんとか大丈夫だ。コツみてぇのがわかってきたみたいで、飲み物とか食いもんで治まるらしい』
「そう大丈夫なのね?……レンジ」
『ああ?』
「こんなときに浮気なんてするんじゃないわよ」
『はあ?なんでそうなる?』
「世間一般じゃ奥さんの妊娠中に浮気する確率高いのよ」
『俺がするわけねぇだろっ!』
「しないのが当たり前なのよっ!誰の子供、お腹の中で育ててると思ってんのよ!!
そんなときに浮気するなんてクズ野郎のすることだからね。わかってんの?」
『だから俺はしねぇって言ってんだろうがっ!!』

「もしそんなことしたら……テメェこの先、一生役者の仕事できなくしてやるからな。
五体満足な身体で生きていけると思うなよ」

地の底を這うような低い声で呟いてやった。

『ふざけんなっ!人をなんだと思ってやがんだ!するかっつーの!!そこだけ “素” 出してんじゃねーよ!』
「ならいいのよ。じゃあメール確認しといてね」
『ああ!わかった。ったく、くだらねぇこと言ってんじゃねーよ!』

そう言うとレンジはさっさと通話を切った。

「まあ心配はしてないんだけど念のためにね」

どうみても智鶴さん一筋のレンジが浮気するとは思ってないけれど、クギを刺しておくにはやり過ぎはない。
とりあえずやることはやったので帰ろうと駅に向かって歩き出した。

駅までは歩いて15分時ほどだけど、タクシーには乗ったりしない。
どこで未来の役者のタマゴとバッタリ出くわすかわかならいから、常に周りに目配せをして人材発掘を続けている。

「どっかに惇哉くんみたいな子、いないかしらね〜〜」

ファン暦十数年、いつかあんな俳優を自分の手で見つけ出してみたい!!
それが私の夢なのよ!!

今のところそんな人材には巡り会っていないけどね。


「ん?」

視線だけ動かしながら歩いてたらピピっと来るものがあって、そちらをジッと見つめる。
ハンバーガー・ショップのガラス越しに見えた高校生くらいの男の子3人組み。
話し声は聞えないけど、楽しそうに話しては笑ってる。
その中のひとり……明るめの茶色の髪をした男の子に目がいく。

「んーーもしかしてイケる?」

といあえず話をしてみないことには始まらないから私はその店の入り口に向かって歩き出した。

今までも自分のインスピレーションにピピッときた相手には必ず話だけはするようにしてる。
いくらこっちがその気になっても肝心の本人が役者としての仕事に興味がなければ意味がない。

今までこちらの話に乗ってくれた子もいれば、丁寧にお断りされることもある。
でも、こちらの話を理解してくれてOKしてくれた子はそれなりの経験を積んで “役者” としての道を進んでくれている。
それが見つけ出した私にとって一番の嬉しいことだし、私の原動力にもなってる。
バックアップは事務所としてもするけれど、やはり一番は本人のやる気だから。

多少の波風は覚悟してるし、役者としての自覚が出るまでは私が責任を持って指導してる。

若さゆえのお痛は拳でわからせることもしばしば……まあ、エネルギー有り余ってるんでしょうけどね。
その分、普段のトレーニングのメニューも増やさせていただいてますけどね。

そんな私のアンテナに引っかかった彼。

「ちょっと失礼」
「ん?」
「はあ?」
「え?」

彼等のテーブルの横に立って声を掛けると、3人が一緒に返事をした。
すぐに “俺らになんの用だよ” って顔と視線を向けられる。

「ちょっと話してもいいかしら?」
「なに?お姉さん」
「え?ナンパっすか」
「いやぁん俺こんな年上初めて♪」

なんて返事をしてケタケタと笑う、黙れガキ共。
という罵倒はそっと胸の中に収めておく。
いちいちこんな言葉に反応なんかしていられない。

「私こういう者ですけど、ちょっと話させてもらっていいかしら」

目当ての茶髪の男の子に名刺を取り出して差し出す。
それを片手で受け取ると視線を名刺に向ける。

「ええぇ!?ここって芸能プロダクションじゃね?」
「え?なに??由雅(yuiga)スカウトされてるってことか?」

受け取った彼ではなく、彼の手にある名刺を横から覗き込んでる友達のほうが騒いでる。
だから黙れっての!用があるのはあんた達じゃない。

「……コホン。どうかしら」

つい、そう怒鳴りそうになって咳で誤魔化した。
まだ話しをする段階で説教をするのはマズイ。

「由雅スカウトされたのこれで何度目だよ?」
「さあ、何度目だったかな」

友達の興奮とは対照的に、当の本人は私から手渡された名刺を指先で弄って、まるで関心がなさ気な態度だ。

「今までも声掛けられたことあるの?」
「んー何度かね。読者モデルみたいに、雑誌にも写真だけ載ったこともある」

やっぱり人目を惹くものを持ってるってこと。

「でも今までは興味なかった?」
「そうだね……色々面倒くさそうだし」
「面倒くさそう?どういうことが?」
「え?んーーなんか色んなことに制約がありそうじゃん」
「制約?」
「そう、女関係なんて特に」
「!!」
「ぎゃははは♪ やだーーユイガクンヤラシイ〜〜」
「お前来るもの拒まずだもんな〜〜まあスカウトされるほどのその顔じゃ当たり前だけどさ」

ったくこのエロガキ共がっ!思春期の中学生かっての。

「…………じゃあその辺のことも含めてちゃんと話をしましょうか。どう?」

なんとか顔を引き攣らせずに言えたらしい。

「ここで?」
「そうね……じゃあどこかお店をかえる?ちゃんとしたコーヒーのあるところにでも?」

事務所といきたいけどここからじゃちょっと距離もあるし時間もかかる。

「そうだね……もっと落ち着ける場所に行こうか」

クスリと笑う彼と、そんな彼を見て友達2人もお互いの顔を見合わせながらクスクスと笑う。

「そんな場所知ってるの?」
「コイツんちでいい?こっから近いし落ち着いて話せるよ」

クイッと親指を立てて、由雅が隣に座ってる友達を指差す。

「そう、わかったわ。じゃあ時間がもったいなから早速行きましょう」



彼等が言ったとおり友達の家は近かった。
歩いて徒歩約5分の10階建てマンションの5階。

「お姉さんどうぞ〜♪」
「失礼します」

中は2LDKか?
どうも家族で暮らしてるようには思えない。
通されたリビングには、テレビとソファとゲーム機やら雑誌やらが床の上に散らかってた。
まあこの年ごろの男の子の部屋なんてこんな感じじゃないだろうか。
なんとなく掃除されてる感じもあるから、もしかしてときどき掃除専門の人が入ってるのかもしれない。

「ささ、座って座って♪」
「どうも」

勧められて対面で置かれているソファのひとつに座る。
由雅が真正面に座り友達のふたりはひとりが由雅と同じソファの肘掛に腰をかけて、
もうひとりは私の座ったソファの傍に立っていた。

「さっそくだけど、まずはもし由雅君が少しでもこの仕事に興味をもってくれたらどんなふうに話が進むか説明するわね。
それで考えてもらって、気持ちが固まったら連絡してほしいと思ってる。もし気持ちがあるなら事務所に来てもらって
どんな感じか実際に見てもらってもいいし」
「…………」

そこまで話して彼を見ると、彼は背凭れに背中を預けて片方の脚をソファに乗せて、その膝の上に肘を着いて
自分の顎に指を掛けてボーっと私を見てる。

内心、“それが人の話を聞く態度か?この餓鬼っ!!” という言葉が喉元までせり上がっていた。
けれど、とりあえず今は我慢! と、なんとか鳩尾辺りまでその言葉と気持ちを押しとどめ、ウチの事務所で
預かることになったら徹底的にその態度を叩き直してやると決める。

「まず……」
「お姉さん」
「!?」

話を進めようと口を開くと、彼と同じソファの肘掛に座ってた友達が私に話しかけてきた。
ったく、人が話してるのに割り込んでくんな!と、またもや内心罵倒しつつ顔はニッコリと笑顔で返事をする。

「なにかしら?」
「そんな難しい話は今はいいよ」
「は?」
「お姉さん自分の置かれてる状況わかってる?」
「え?」

今度は私の後ろから声がして、振り向くともうひとりの友達がいつの間にか真後ろに立っていた。

「女ひとりで男の部屋にノコノコついてくるなんて無用心だな〜」
「お姉さん歳いくつよ? ハハ♪」
「…………」

一瞬のうちに色々と考える。
まずノコノコついてきたってこっちとしては話があるからであって、別にこの子達に誘われたからではない。
ハッキリ言って由雅以外のあんた等ふたりには用はないし。
こちらが気を使う立場だったから彼等の言い分を聞いたまでで、歳云々や警戒心がないとか
言われる筋合いはないと思うのだけれど?
まあ複数の男と個室に入ったのは迂闊だったのかとも思うけれど、相手は餓鬼だし負ける気はサラサラないし。

「話なんて後でいいから、俺達と遊ぼうぜ」
「!!」

後ろから抱きしめられて、耳元で声がした。

「お姉さん、楽しいこと色々教えてよ?」
「お姉さんも満更でもないんでしょ? 期待してたんじゃないの〜♪」

言いながらソファの肘掛に腰掛けてたもうひとりが、素早く私の目の前に膝を着くと、私の両方の足に手をかける。

誰が期待なんかしてるかっ!
考えるより早く身体が動いた。

後ろから抱きしめられた状態で、一度前に頭を倒すとそのまま後ろにいる子の顔面目がけて後頭部を叩き込んだ。

「え!?」

ゴッ!!と鈍い音が響く前に間抜けな声が聞こえて、次には 「ウギャッ!!」 という呻き声の後、身体の拘束が解かれる。

「!!」

自由になった両手で、不用意に近づいてきた目の前の子の胸倉を掴むと、躊躇わずに顔面に頭突きを喰らわす。
無防備のままモロに顔面に頭突きを喰らった子は、両手で自分の顔を押さえたまま床の上でのたうち回ってた。
頭突きの衝撃でハナからずれたメガネを、指先で摘んで上着の胸ポケットにしまう。
ヤンチャをしてた学生の頃から私の石頭は保証済みだ。

私はスッと立ち上がるり、目の前の床で唸りながら蹲ってる子のお腹に蹴りを叩き込む。
スリッパ履いててよかった。

「ウゲッ!!ぐぅぅぅぅ………」

「舐めたマネしてくれるじゃないか?でもね、甘く見んじゃないよっ!」

もう一発お腹に蹴りを叩き込んで、痛みのために悶絶してるその子のシャツの襟首の掴むとそのまま引きずって、
今度はソファの後ろで蹲ってる子の傍に立つ。
さっきと同じように、その子のお腹にも蹴りを2発ほど叩き込んで動きを封じる。
その子の襟首も持って引き摺った。

さすがにそれなりにガタイのいい男ふたりを引き摺るのは苦労したけれど、床がフローリングのせいか思いのほか
スムーズに床の上を滑ってくれた。
ガタイのいいといっても今時の男の子で、ヒョロッとしてて思ってたよりは軽い。
そのまま玄関まで引き摺って、ドアを開けるとひとりずつ外の廊下に放り出した。

「ったく、人が話してんのに邪魔すんじゃないよっ!しばらくそこで大人しくしてなっ!
また邪魔したら、今度はしばらく外を歩けない顔にしてやるからねっ!!」

廊下に蹲って唸ってるふたりに向かってそう言うと、勢いよく玄関のドアを閉めた。
念のためにチェーンもかけておく。
さっきぐらいならハナの頭がちょっと赤くなって腫れるくらいだろう。
鼻血が出ていても自業自得だし。

「ったく、親の顔が見たいね」

鼻息も荒くリビングに戻ると、顔面蒼白な顔の由雅が未だにソファにアホ面で座ってた。

「いつもこんなことしてんのか?」
「えっ!?」

私の声にハッとして、やっと目の前に立ってる私を見上げた。

「いつもこんなコトしてるのかって聞いてんだよ!」
「……っ!」

返事をしない由雅の前髪を鷲掴んでグイッと引っ張り、さらに上を向かせた。

「……ときどき……外で声掛けて……気が合った子達しか連れてこない……よ……」
「はあ?嘘つくんじゃないよ。今のはどうみても無理矢理にしようとしてたじゃないか?ああ?」
「い……痛ぅ……」

髪の毛を掴んでる手に力を込める。

「痛いって!からかっただけだよ!」
「アレがか?」
「ときどき年上の女も声掛けてくるんだよ!だからあのままその気なったら相手してもらおうと思っただけだって!」
「怪しいな」
「無理矢理なんてしたことないって!」
「どうだか」

髪を掴んでる私の手を両手で押さえて下から見上げる由雅の顔は、痛みに歪んで涙目になってる。
その顔は少年のような幼さと、ちょっとだけ覗かせた男のなんとも言えない色気を醸し出していた。
自分の目に狂いはなかったらしい。

「いい加減離せよっ!」
「しばらくウチでやってみるって約束したら離してやるよ」
「はあ?ふざけんな!俺がその気になったらだろ!」

私に向かって拳を繰り出そうとする由雅の掴んでた髪を力任せにグイッと横に引っ張る。

「わっ!イッて!」

ヨロけてソファに仰向けに倒れ込む由雅の上に跨がって、膝で腕が動かないように手首を押さえつけた。
そのまま腿の上に腰を落として、足も動かないように押さえつける。

「ちょっ……」
「諦めな。大体、暇をもて余してるからあんなくだらないコトするんだ。そんな時間を有意義に使ったらどうだい」
「それがお姉さんのところで働くことかよ」
「アンタにはきっとそれが合ってるよ」
「…………」

プイッと横を向いた由雅の顎を掴んで自分に向かせる。

「!!」
「由雅」

なんでだか若干はにかんだ顔が加算されたみたいなんだけれど、ナゼ?

「由雅?」
「あんたがついててくれんのかよ……」

ボソリと由雅が呟いた。

「!?」

なんだ?その潤んだ瞳は?
いきなりしおらしくなってどうした?

「ああ!仕事が不安なのかい?大丈夫ちゃんとあんたが一人前になるまで私が責任もつからね。
ご両親にもちゃんと話を通すから心配しなくていいよ」

そう言って前髪をクチャクチャと撫で回してやった。

「わかったからサッサとどけよ!いつまでも男の上に乗ってんな!」
「ああ、悪かったね」
「別にこのまま相手してやってもいいけど?」
「餓鬼が色づくんじゃないよ」
「んなことないって。ちゃんと相手くらい……いてっ!」

由雅の上から退きながら頭をペシリと叩いた。

「あんた、今はそれほど女とかに興味ないんじゃないの?」
「え?」

ソファの上に身体をお越して、叩かれた頭を擦ってた手が止まる。

「ずっとつまんなそうな顔してたじゃないか」
「…………」

唇をちょっと尖らせて、また頭を擦り始めた。
そんな由雅を見ながら服を整えてメガネかける。

「明日夕方なら時間空いてるかしら」
「は?」
「携帯の番号とアドレスを教えてください。後程、明日の時間を連絡しますから」
「ちょっと……お姉さん二重人格なの?」

急に言葉遣いが変わった私に驚いた顔で由雅が聞いてくる。
いや、ただ単にさっきは “地” が出ただけなんだけどね。

「時と場合で使い分けてるだけです」
「えー?さっきのが地なんじゃないの」
「違います」

当たってるけど。

「そうかな?あれってなに?なにか武道でもならってんの?」

ソファに座ったまま私の顔を下から覗き込んでくる。

「昔取った杵柄(きねづか)です。いいから、携帯貸してください」
「ふーん、まあそういうことにしといてあげるよ」
「どうも」

目の前に立つと、由雅が座ったままズボンのポケットを探って携帯を取り出す。

「はい」
「ちょっと失礼します」

差し出された携帯に手を伸ばすと、携帯を持っていない由雅の手で手首を捕まれて引っ張られた。

「わっ!」

そのまま由雅の胸に飛び込むような形で倒れこむ。
由雅の足の間に身体が入り込んで、由雅の身体を囲うようにソファに手を着いた。

「“わっ” なんて色気のない言葉」
「う、うるさい!もう、危ないでしょ」

クスクスと笑ってる由雅は私の両腕を掴んで離さない。

「ちょっと!」
「お姉さんやっぱり美人だね。近くで見たらますますそう思うよ」
「お子様に言われても全然嬉しくもないし、トキメキもないですから」
「ふーん、これから先もそんなこと言ってられるのかな」
「?」

チュッ♪

「!!」

自分の頬に柔らかくて、あったかい感触が触れてキスされたんだとわかった。

「今は頬っぺたで我慢するよ。いつかお姉さんのその潤った唇にするからね」

ニッコリと微笑んだ由雅は、一人前の男の顔をしてた。
実際は二十歳にも満たない餓鬼なんだけれど。

「調子に乗るんじゃねぇ!この馬鹿者がっ!!」
「痛っぅ!!」

ゴイン!と由雅の額が鳴った。
私が由雅の額に頭突きを喰らわしたからなんだが。
まだ使うことはないけれど、これから先でお世話になるであろう由雅の顔なので多少加減して叩き込んだ。

床に落ちていた携帯を拾って、お互いの情報を交換して由雅に携帯を返した。

「なにかあったら遠慮しないで連絡しなさい」
「わかったよ、お姉さん」

額を手の平で擦り擦り笑いながら返事をされた。

「黒柳」
「え?」
「黒柳恭子です。今後はお姉さんなんて呼ばないように」
「…………」

メガネを直しながらそう言うと、由雅がキョトンとした顔をした。
そしてニッコリ微笑むと、 「は〜い、恭子さん♪」 と元気な返事がかえってきた。


帰り際、未だに玄関前の廊下で座り込んでるふたりに、ちゃんと腫れてるところを冷やすようにと
声を掛けてマンションを後にした。





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