「レンジ…さっきから何してんの?」
「 !!! 」
聞き覚えのある声に名前を呼ばれ仕方なく顔を上げると…
一番会いたくない奴がニヤニヤ笑いながら立ってた。
「……別に」
「別にのわけ無いだろ?さっきから携帯とにらめっこじゃん。」
「……惇お前どっから見てた?」
聞くのも怖いが…
「えー?レンジがズボンのポケットから携帯を出した所?」
「!!」
まるっきり最初っからじゃねーかっ!!
「何?彼女からの電話待ってんの?」
「うるせえ。」
「嘘つくの下手だな。」
「嘘なんてついてねー」
俺に ズケズケ言ってくるコイツは俺の俳優仲間の 『 楠 惇哉 (kusunoki syunya) 』
確か同じ頃にデビューした気がするがその辺はあんまり気にした事は無い。
最初会った頃はチャラチャラした奴だと思った。
現に女と一緒の所も何度も見掛けたし誰にでも愛想笑いで…
だから最初の頃は会えばコイツに噛み付いてたな。
でもそんな外見とは裏腹に仕事には真面目でいい加減な事はしたことはない。
役者としてもその頃から他の奴等より群を抜いてた。
それからコイツとは色々あったがいつの間にか親しくなって
今じゃお互い好き勝手な事言い合う仲だ。
確か 『 抱かれたい男 』 で殿堂入りしたんだよな…皆騙されてるって思ったのを覚えてる。
どんだけ上手く遊んでたか…
それが今じゃ結婚してもうすぐ一児の父親だ。
しかもカミさんにベタボレのヘタレの俺にはストーカーとしか思えない程の溺愛だ。
「何?前に付き合ってた子とは別れたんだ。」
「ああ…」
何気に俺が誰かと付き合うとコイツはどっから情報を仕入れてくるのかそれを知ってんだよな…
「まあレンジには似合ってないとは思ってたけどね。」
「 ! 」
「今度はちゃんと自分の好みの相手だろうな?
レンジはいつも自分の好みとは真逆の相手と付き合うんだからさ。」
「そんな事ねーよ。」
「だからすぐに別れんだろ。自分でわかってないの?」
「………」
そうなのか?あんまり考えた事はねーけど…
「で?彼女から連絡が来ないんだ?」
「!!」
「あ!図星〜 ♪ 」
本当コイツはこう言うことに鋭い。
「なら自分から連絡しろよ。携帯見てたって相手には繋がんないぞレンジ。」
「わかってる。」
「そう?本当レンジは恋愛に不器用だもんな。」
「ああ?」
「他の事は合格点やれんのにな…くすっ…」
「………」
「イテテテテ!!」
「笑ってんじゃねーよ。」
げんこつをグリグリと惇の頭にメリ込ませてやった。
「痛って!照れ隠しにオレにあたんな!」
生意気に俺の手を逃れたな。
「なんなら話聞いてやろうか?」
俺にゲンコツをメリ込まされた頭を擦りながらまだ笑う。
もうお互いの行動も慣れたもんだ。
「結構だ。お前の恋愛講座なんて聞いてたらまとまるもんもまとまらないだろうが。」
「そうか?これでも幸せな結婚生活送ってんだけど ♪ 親友のお前の事が心配で心配で。」
「……顔が笑ってんだよ。それにお前の結婚生活が続いてんのは
メガネちゃんのお陰だろうが。出来た嫁もらうと助かるな惇。」
「選んだのオレだし ♪ 」
「だからノロけんな!」
「まあいいや…何だかまだこれからみたいだし…もうちょっと様子見ててやるよ。」
「だから俺に構うなっての…」
「じゃあ由貴待ってるからさ ♪ 」
「帰れ帰れ!」
「じゃあな。」
「ああ…」
「レンジ…」
「ん?」
数メートル歩いた惇が振り向いた。
しかも真面目な顔で…
「ちゃんと相談しろよな。お前本当に不器用なんだから…」
「ああ…わかった…」
そう言うと惇の奴はにっこりといつもの笑顔で帰って行った。
「………さて…」
俺は携帯を開いて登録したての人物の名前を押す。
通話を押して携帯を耳に当てるとちゃんと呼び出し音がした。
現在使われておりません…なんて流れないよな…
夕方と言う時間はちょっと過ぎたあたりで…まあ一般の仕事なら一段落してるか?
「はあ…」
会社帰りに夕飯の買い物をして買った品物を流しの上に置いてまた溜息…
3日前からもう何度ついた溜息なんだろう…
あれから1度も鳴らない携帯…
やっぱりと言う気持ちともしかしてと言う気持ちが入り混じってる毎日…
「鳴るわけ…無いよね……」
なんて言いながらいつも目の届く所に携帯を置いてたりする…
『ホントマジで付き合って欲しい。』
って…言ってくれたよね……
やっぱり役者さんだからあれもセリフを言う感覚で言っちゃっただけ…?
♪ ♪ ♪ ♪ ♪
「 きゃあっ!!! 」
いきなり見つめてた携帯が鳴り出して思わず大きな声が出ちゃった!
もう心臓はドキドキで…ま…まさか?
恐る恐る覗いた携帯の電話の相手は…
「かっ…鏡さんっ!?」
うそっ!!本当に??どうしよう!!でも……出なきゃ…
携帯の通話のボタンに置いた指先が一瞬止まる…やっぱり付き合えないって電話かも…
「……はい…」
『俺だけど…』
「鏡さん…?」
携帯越しに聞こえて来たのは…聞き覚えのある鏡さんの声…
『今…平気か?』
「はい…」
鏡さんにわからない様に息を飲み込んだ…緊張する…
『明日…会えるか?』
「えっ!?」
『無理なら…別の日でも構わないが…』
「あっ…いえ…大丈夫です!!」
折角のお誘いの電話なのに…慌てて頷いた。
『本当か?』
「はい。本当です!」
『何時に仕事が終わるんだ?』
「え?…あ…えっと…5時半には会社出れると思います。」
サッサと切り上げればその時間には会社を出れる…
『会社から一番近い駅はどこだ?』
「え?あ…○○駅です…」
『じゃあその頃駅に車で迎えに行く。』
「え?…あ…はい…」
『会社の前じゃ何かと気になるだろ。』
「あ…はい…」
『じゃあ明日な。』
「はい…わかりました…」
そう返事をするとちょっとの間も無く電話が切れた…
「………うそ…本当に?ほ…本当に???」
鏡さんから…これってデートのお誘いよね?そうよね…そう解釈していいのよね??
どどどど…どうしよう〜〜〜!!どうしよ〜〜〜〜!!
私はもう携帯を握り締めながらその場で震えちゃった…
きゃあ〜〜今までで一番ドキドキしてるかも…でも…
お断りの…話されるかもしれないな……
なんて心の隅にそんな気持ちも無かった訳じゃ無い…
「はぁ〜〜〜〜」
俺は長い長い息を吐く…
もう…すげー緊張した!!何でだ?たかが会う約束しただけなのに…
今までこんな会話サラリと出来ただろうに…
緊張してるのがバレない様にサッサと切っちまったが…大丈夫だったか?
明日の予定では昼過ぎには仕事は終わる…
余裕で迎えに行けるだろう……
「…………」
とりあえず…連絡がついてどうやら避けられてはいないらしい事がわかってホッとした…
ホッとかよ…まったく…
なんて自分に自分で突っ込んだ。
新しいタバコを取り出して…今度はゆっくりと吸えた…
明日…俺はまともに話せるのか?
そんな変な心配が自分の中に芽生えてる…
何だかとんでもなく情けねぇ気もするが…それが今の俺の状況だった…
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