Love You !



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「はぁ…はぁ…はぁ…」

昨日約束した時間に間に合いそうも無くて私は今必死に駅までの道を走ってる。

いつもなら何のハプニングも無く就業時間ちょっと前に帰る仕度を始めれば
なんなく自分の思ってた時間に会社を出れたはずなのに…

今日に限って臨時の企画会議の資料30人分と始まる前のお茶出しなんて頼まれちゃったから…

時間が押しに押して会社を出たのはもう昨日言ってた5時半を10分も過ぎてた…

きっと鏡さんも会社からの時間を計算してくれて待っててくれてると思うけど…

やっぱり遅れるって…連絡入れた方がいいかしら…
でも初めての待ち合わせでいきなり遅れます電話やメールなんて送りたくない…

走って駅に向かった方が早い気もするから今私はひたすら駅目指して走ってる…

あ…でも駅のどこで待ってるんだろう?
車って言ってたから…ロータリーのどこかに止めてあるのかな?

ひたすら走って何とか最初の予定よりも5分遅れで駅に着いた。
やれば出来るじゃない私!!

なんだけど…それと引き換えに乱れた髪の毛と後から後から流れ出てくる汗と
未だに落ち着かない乱れ切った呼吸がついて来た……

「ゼーハーゼーハー……ごほっ!」

こんなに走ったのなんて…高校以来?

「どこだろう?…まだ来てないのかしら…」

息を整えながら駅前に停めてある車を見渡す…って言っても私鏡さんの車知らないのよね…

って……あ…

一目で…わかってしまった…だって…
駅の真正面のロータリーに沿った遊歩道に鏡さんが… 『鏡 レンジ』 さんで立ってたから…

通り過ぎる人がチラチラ見て行く…なんとなく半信半疑な顔で…
きっとこんな所に 『鏡 レンジ』 さんがいるはずないって思ってるんだ…


「あ…あの…」

また小走りで近付いて声を掛けた。

「ん?」

「ご…ごめんなさい!!遅れちゃって!!」

思いっきり頭を下げる…だって怒ってる?

「…………」

顔を上げて見上げた鏡さんはサングラスを掛けてたからあんまり目の感じがわからなかったけど…

「鏡…さん?」

やっぱり怒ってる?

「あ…いや…俺もちょっと前に着いたばっかだし…」
「そう…なんですか?すみません…会社を出る時間が遅くなっちゃって…」

まだ肩で呼吸しながら…でも何とか詰らずに話せた。

「走って来たのか?」
「え…?あ…はい…走れば間に合うと思って……ごめんなさい…みっともないですよね…」

ハナの頭に浮かんでる汗を手の甲で拭いながらまた謝っちゃった…
汗は未だに止まらないし…何だか…情けないな…

「車はパーキングに停めたからとりあえずどこか入って飲み物でも飲むか。」
「あ…はい…」

そう言うと鏡さんは私に背を向けて歩き出す。結構足早に…
やっぱり…機嫌が悪くなっちゃった…かな…

彼との身長差はどうみても30センチ近くありそうで…
必然的に私とのコンパスの差もあるわけで…

早歩き状態で彼の後ろをついて歩いた。
まだ息も整ってないままこの速さで歩くのはちょっとキツイけど…頑張る!



「…………」

駅に着いたのは約束の時間の20分前…
長い時間路駐は出来ないから車は駅の近くのパーキングに停めた。

はっきりと時間を決めたわけじゃなかったからそれらしい時間に駅前に立ってた。
5時半に会社を出ればまあどんなに遠くても10分やそこらで来るだろうと思ってたが…
このくらいと思ってた時間に来る気配が無くていきなり心臓が小さく波打つ…

時計を30秒間隔で確認してた……

1分…1分30秒…2分……もしかして来ないのか?
なんて2分経っただけでそんな事を思った…

バカじゃねーの?なんて頭を振ってそんな考えを追い出す。

思わず携帯も確認する…着信もメールもない…
やっぱ会社まで迎えに行けば良かったか?
でもな…それで目立って余計な騒ぎになるのも避けたかったし…仕方ねえ…

3分30秒…更に心臓がドキドキ言い出した…
女との待ち合わせにこんなにも時間を気にしたのは初めてだな…

そんな事を考えてたら声を掛けられた。

「あ…あの…」

声を聞いただけでホッとした…聞き覚えのある声…俺が待ってた相手の声だ。
声の方に視線を向けると深々と頭を下げて俺に謝ってる。

今まで付き合ってた女はちょっとくらい遅れて来たって「ごめんね〜」の軽い一言で終わりだ。
それがこんなにも丁寧に頭下げられて…

「 !!! 」

上げた顔に ドキン!! と心臓が跳ねた!!

この一生懸命走って来ました!!ってのが一目でわかる上気した顔に
何気にピンク色の頬と唇…汗ばんでる額に肩で息してる身体……

健気すぎるだろっっ!!!

「鏡…さん?」

小首傾げられて…見上げられて…

ヤベェっっ!!マジ…ヤベェ!!!!ドンピシャで俺の何かにハマる!!


「あ…いや…俺もちょっと前に着いたばっかだし…」

何とか平静を装って話し始めた…誤魔化す為に別な場所に誘って歩き始める。

俺は歩きながら気持ちを落ち着かせる事に専念する。
なんなんだ…マジで…これは……

「はぁ…はぁ…」

「 !! 」

そんな息遣いに気付いて後を振り向くと俺のちょっと後ろを早歩きで必死について来てた。

「ああ!!悪りい…そうだよな…こんだけ身長差があんだもんな…サッサと歩いて悪かった…」

「はぁ…はぁ…いえ…私が……トロイから……気にしないで…はぁ…下さい…」

「無理すんな…どうみても俺が気を使ってやってねえだけだ…ほら。」

「……え?」

そう言って目の前に鏡さんの腕が差し出された。

「俺の腕に掴まれ。」
「え?…あ…でも…」

そんな良いのかな?これって腕組むって事でしょ?そんな恋人同士みたいな事…

「なんだ?手繋いだ方がいいか?」
「へ!?あっ!いえ!!腕に掴まらせて頂きます!はい。それで十分です!!」
「そうか?」

そうよ…手なんて繋いだら余計汗が出ちゃって繋いだ鏡さんの手まで私の汗で湿っちゃうもの…
そんなの恥ずかしすぎる!!

「じゃあ…遠慮なく…」
「ああ…」

遠慮なくと言いつつ恐る恐る鏡さんの腕に軽く掴まる…指先でホンのちょこっと…

「そんなんじゃすぐ離れて落ちるぞ。」
「え?あ…はい…」

そんな事を言われて仕方なく自分の手首まで通してギュッと腕に掴まった。

「行くぞ。」
「はい……」

今度は私の歩調に合わせて歩いてくれてる…でもすごいゆっくりで…

「あ…あの…」
「ん?」
「もう少し早くても大丈夫ですよ。」
「そうか?じゃあ…」

ちょっとだけ早く歩き出した速さは私の歩調と同じで歩きやすくなった…
こんなに私に合わせてくれるなんて…

謙吾さんは1人で歩くか…気が向けば肩を抱いて歩いたりしてたっけ…
何も言わずにそのまま一緒に歩いてたけど…本当はとっても歩きずらかったのよね…

それにちょっと恥ずかしかったし…


一緒に歩くのに腕を差し出した。

流石に会ってすぐ手は繋げねえから……
いきなりそんな事恥ずかしくて出来るかっ!

今までも手なんか繋いで歩いたことなんかねえ…
せいぜい腕が良いところだし手を繋ぎたがる様な女はいなかったし…

ああ…そうだ…

「智鶴…」

「はい!……あ…」

急に名前を呼ばれてドキリとなっちゃった!
しかも反動で思いっきり返事しちゃったし…もう…やだ…

「って呼ぶ…俺「ちゃん」とか付けて呼べねえし…」

惇の嫁さんは流石に名前で呼ぶわけにもいかねえから…
トレードマークの1つでもある「メガネ」でそう呼んでるんだが…まあ特別と言えば特別か?

「俺の事は 「レンジ」 でいいから…」
「……はい…じゃあ…レンジさん…で…」
「呼び捨てでも構わねーけど?」
「とっ…とんでもない!!年上ですし…それにそんな恐れ多い事…」
「そうか?まあ…それでいいなら構わねーけど…」


今まで普通に「レンジ」って呼び捨てだったからな…

だめだ…こんな事ですら健気に思えて……


「レンジ…さん?」

レンジさんが立ち止まったまま俯いて自分の口を手の平で押さえてるから…

「気分悪いんですか?」
「いや……大丈夫だ…心配すんな…」

そんな心配そうな顔されるだけで俺の自制心が崩れていく…何でだ??

「はい。」

しかも素直な返事じゃねーか……耳に心地良すぎる!!

「じゃあ…行くぞ智鶴。」

「はい!」


また同じ様に素直な返事が返って来て…

俺達は最初に入る店に向かって歩き出した。





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