Love You !



14




初めてのデートで入ったお店は本当にごくごく普通のカフェだった。

目の前に置かれたレモンスカッシュを一気に飲み干した。

「はぁ…」

ホッと一息。

「もう一杯頼むか?」

頬杖をついたレンジさんがクスリと笑った気がした。

「え!?あっ!いえ…」

やだ…恥ずかしい…

「随分走って来たんだな…そんなに喉が渇いてたのか?」
「…いえ…!!」

スッとレンジさんの頬杖をついて無い手が伸びて私の前髪を摘む。

「スンゲー跳ねてる。」

カァ!!

「わ…私!!」
「?」

ガタリと席を立ってしまった。

「ちょっと…し…失礼します!!」
「あ…オイ…」

立ち上がって速攻でトイレに駆け込んだ!



「きゃあああ!!何これ!!」

もう前髪は立ち上がってオデコ全開だし化粧も汗で所々剥げてるし…

恥ずかしいよーーーー!!

な…直さなきゃ…はや…早く!!!
初デートでこれって…もう…情けない!!


「………まずかったのか?」

跳ねてる髪の毛が面白くてつい摘んじまったが…その直後にトイレに駆け込まれた。

「やっぱ…いきなり触るのはマズイのか?」



「お…お待たせしました…」

「ああ…」

もう散々あんな悲惨な状態見られて今更だけど…
さっきよりはマシでしょう…この状態の顔をインプットし直してもらって…

「何食べる?」
「え?」
「ここじゃろくなもん食えねえし…何かリクエストあるか?」
「え…あ…」
「ゆっくり考えていいからな。」
「……あの…レンジさんは?何が良いんですか?」

「俺?まあ基本俺は食えないもんねえし…何でも。智鶴に合わせる。」

「 !! 」

あ…なんか…初めてちゃんと名前で呼ばれちゃった……

「ん?どうした?」
「いえ……」
「そういや智鶴は何の仕事してんだ?」
「え?わ…私ですか?えっと…ごくごく普通の会社の事務です。」
「何だ?そのごくごく普通の会社ってのは?」
「あ…それはですね…」

それから…色々質問されて…ずっとそれに答えてた…
そんな話から逆に私からレンジさんに質問したり…

って最後の方は私の方が質問攻めしてたかも…
だって…レンジさんって私の話ちゃんと聞いてくれるから…

結局そのお店で軽い食事を食べてしまった。
後は飲み物をおかわりし続け…何時間も居座ってずっと話してた…

こんな事初めてかも……



「何だか話し過ぎて顎が痛い…」

レンジさんの車が停めてあるパ−キングに向かって2人で歩いてる。
私はちょっと重たい感じがする顎を両手で擦る…

「智鶴は良く喋るな。」
「あ…ごめんなさい…喧しかったですか?ですよね……ごめんなさい…」

私ったら…調子に乗っちゃったから…

「呆れちゃいますよね…」
「別に呆れてるわけじゃねーよ…」
「ふ…普段はこんなにぺらぺらお喋りじゃないんですよ!今日はレンジさんが…」
「あ?俺が?」
「…………」

顔を覗き込まれちゃった…
もう夜でサングラスを掛けてないレンジさんの顔が近付く…

「あ…あ…あの!!えっと!!」
「何でそんなに焦るんだよ?」
「……いえ…」
「で?俺がなんだ?」
「レンジさんが……私の話を呆れずに聞いてくれたから…」
「ああ?普通相手が話せば聞くだろ?」
「そ…そうなんですけど…」
「けど?」
「私の話ってきっとつまらないんです…今までいつも話の途中で話題変えられたり…
適当に相槌打たれたり…仕方ないんですけどね…本当につまらない話してるから…だから…」

「俺は楽しく聞けたけどな…智鶴の話。」

「 !!! 」

「ん?」

智鶴が急に俺から顔を逸らすから…何なんだ?

「なんだ?俺気に障ること言ったか?」
「い…いえ…そんな事…」

ただ…嬉しいだけですっっ!!!

「変な奴だな…」

「だって……」


それって…嬉しすぎですもん!!


それから車で私の家まで送ってくれた…
道案内なんて私がしたのが悪かったのか途中道がわからなくなって…
とにかく使ってる駅まで戻るとそこから何なく家に着いた。

初めっからそうすれば余計な回り道しないで済んだのに…

「本当にごめんなさい…私が余計な事言ったから…」
「無事に着いたから気にすんな。」
「でも…」
「部屋まで送る。」
「そんな…大丈夫ですよ。すぐそこですから。」
「この前送れなかったからな。今日はちゃんと部屋まで送り届ける。」
「……はい…」

そんな返事をしながら…もしかして…レンジさん…


「205号室か。」
「はい…あの……ちょっと…上がって…行きますか?お茶くらい…」
「いや…明日朝仕事早えんだ…今日は帰る。ちゃんと戸締りして寝ろよ。」
「え?」
「ん?」
「いえ…あの…本当に良いんですか?上がって行かなくて?」
「ああ。」
「…………」
「なんだ?」
「いえ……」

だって…きっと…するんだろうなって思ったから……
その為に部屋の前まで送って来たんだと思ったから…

男の人ってそう言うのが目的で送ってくれるんじゃないのかなって思ってたし…

それにレンジさんはとは酔った勢いでとはいえ…私達もう…


「また連絡する。智鶴からだって連絡寄こせよ。その時出れなくても後で必ず連絡する。」
「はい…」
「ホント何だよ?」
「いえ…送って頂いてありがとうございました。」
「じゃあな。」
「あの…」
「ん?」
「あの……あんまり…無理しないで下さいね…私…大丈夫ですから…」
「何がだ?」
「色々です……お休みなさい…明日お仕事頑張って下さい。」
「……ああ…」


レンジさんが歩きながら私に手を振る…

そうよね…まだお付き合い始めたばっかりですもんね…
普通はこう言う流れよね…今まで私だってそう思ってた……

でも…何だろう…レンジさんとは…ちょっと違うの……

だから…もし…無理してお付き合いしてくれてるなら…
私なんかに気を使ってくれなくて良いから…

さよならが辛くなる前に……言って欲しい……

今なら…まだ…そうなっても立ち直れると思うから……


「…………」

「レンジ…さん?」

気付けばレンジさんが廊下の途中で立ち止まってる。

「 !! 」

いきなりこっちに振り向いて戻って来た!

「え?あ…」
「智鶴……」

ギュッと…両腕で抱きしめられた……
目の前がレンジさんの胸で一杯なる…

「や…」

どうしよう…抱きしめられて…レンジさんの身体にすっぽりと包まれて…
身体の中が きゅん! ってなる……

「…………」

「レ…レンジさん?」

耳元にレンジさんの息遣いが聞こえる…ちょっと早い呼吸…

「ひ…人が…人が来ちゃいます…」

ってもう夜の10時過ぎでそんな時間にこんな通路を通る人なんているはず無いけど…
そんな事を口走っちゃった…

「そうだな……」

言うんじゃ…無かった…
きっとレンジさんはこの腕を離しちゃう…

もうちょっとこの暖かい腕の中にいたいのに…

「え?」

額の髪の毛がレンジさんの手の平でよけられて…

「チュッ……」
「ひゃっん!」

オデコに柔らかくて暖かい感触が長い間…押し付けられた…
その瞬間身体の中に電気が走ったみたいに痺れて……これって…なに…?

「じゃあな…」

「………ふぁい……」

もう…心臓がドキドキで…頭がクラクラで…
情けない返事になっちゃった…

今度はちょっと微笑んだ顔でレンジさんが階段を下りていく…

踊り場から目の前の道路を見下ろすとレンジさんが車に乗り込む所だった。
乗る直前にこっちを見上げて私と目が合った。

軽く片手を挙げるから私も思わず手を振った…

ああ…何だか本当に恋人同士みたい…


夜の道でレンジさんの車のテールランプがあっという間に小さくなって…

ついに見えなくなった…


今までの恋愛経験でこんなの初めてで…
すごく胸が高鳴るし…ウキウキするし……それに…

今別れたばかりなのにもうレンジさんに会いたい気持ちで一杯になる…

このまま……続いていくのかな…でも…私は自分を知ってる……

それでも…ちょっとでも長く…少しでも長く…

この恋が…続きます様に…



そんな事を星なんて何一つ見えない夜空を見上げて…

きっとそこにあるであろうお星様にお願いしてる自分がいた…





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