この前と同じ時間に駅に着いた。
智鶴は今日は遅れる事は無いと思ったから車をそのままロータリーに乗り入れて智鶴を探す。
もう来てるはずだと思ったのに智鶴の姿は無い。
しばらくそのまま周りを見回すと1台の車がオレ車のちょっと先に停まった。
何となく見てるとコンビニの店の陰から人が出て来た。
相手は2人…カップルに見えた…
男が女の肩を抱きかかえて…って…ん!?ちょっと待て!
あれって…あれって……智鶴じゃねーかっ!?
もうその後は勝手に身体が動いてた!
どう見ても連れてかれる所だろ?オレと待ち合わせしてんのに他の男について行くわけがねえ!
智鶴も抵抗してる!くそっ!車に乗せられたらアウトだ!!
駆けつけて後ろから開けられたドアに足を叩き込んで閉めた。
「智鶴に…何してる……」
ふざけんじゃねーぞ!!!人の女に無理矢理何しようとしてる…この野郎っ!!!
突然俺が後ろから声を掛けたもんだから男の方が驚いて智鶴の口を押さえてた手を離した。
だが智鶴の身体に廻されてる手はそのままだ…余計ムカッと来た。
「!!」
え?この声は…レンジさん…?
永井さんがビクリとなって声の方に振り向く…私も声の方に振り向いたら…
「智鶴に何してるって聞いてんだよっっ!!」
またドカリ!とドアが蹴られる。
その勢いでドアがヘコんだ!
「あっ…」
グイッとレンジさんの方に引き寄せられてレンジさんの腕の中に抱きしめられた…
「…………」
レンジ…さん…?本当に…レンジさんなの?
見上げたらもの凄い怒った顔のレンジさんが車のドアを足で押さえたまま
永井さんを睨んでる…
本物だ…本物のレンジさんだ……
レンジさんの洋服をギュッと握った…
握って…身体に抱きついたらホッとしちゃって……涙が…
「智鶴コイツ誰だ。」
「え?」
「知ってる奴か?」
「あ…あの…お…同じ会社の…」
「同僚?テメェ同僚にこんな事すんのか?」
「な…何か勘違いしてるんじゃないか?君…」
「ああ?」
「オレは別に…」
ド カ ッ !!
「!!」
またレンジさんが車のドアに足を叩きつける。
「ふざけた事言ってんじゃねーぞ…どんな勘違いで智鶴が泣くんだよ!!」
「!!」
私の身体に廻された腕に力がこもってレンジさんの方に抱き寄せられた…ぎゅうって…
抱き寄せられて…レンジさんの温度が洋服越しにも伝わって…あったかい…
「ただ…今日彼女と約束したから一緒に行こうとしただけだよ。
なんだ小笠原さん先客があるなら言ってくれればいいのに…じゃあまたの機会でね。」
「………」
またなんて無い!!そう心の中で叫んでレンジさんにぎゅっとしがみついた。
「何逃げようとしてんだ?話はまだ終わってねえ!!」
「何言い掛かり…」
「オイ!運転席にいる野郎降りて来い!」
「………」
車の中からは何も返事がねえ…
「智鶴中の奴は?」
「………あの…」
な…なんか言いにくい……
「智鶴…」
もう1度レンジさんに名前を呼ばれて…
「は…はい…あの…ま…前付き合ってた人……」
「この前話してた相手か?」
「はい……」
「だったら尚更降りて来い!はっきり話つけてやる!今更智鶴に何の用があんだ?ああ?」
そう言って車を足で揺する。
そう言えばレンジさんって普段優しいから忘れてたけど…元ヤンキーで色々武勇伝があって…
それにレンジさんが 『 鏡 レンジ 』 ってこの人達にわかっちゃったら…
やっぱりマズイよね…今はサングラス掛けてるから気付かれて無いみたいだけど…
「ちょっとあんた本当変な言い掛かりつけると警察呼ぶぞ。」
「呼べよ。俺はかまわねえぞ。」
「………」
「呼ばれて困るのはそっちじゃねーのか?
男2人で女1人車に連れ込んで拉致ろうとしてたんだろーがっ!!!」
「!!」
レンジさんの車を踏んでた足が大きく後ろに振られると
今までで一番力強く思い切り車のドアに蹴りが入った。
ド カ ン ッ !!!と物凄い音がして車が揺れてドアが大きくへこんだ。
流石に歩いてる人達もこっちを気にし始める。
「このクズ野郎が!!」
「ちょっ…」
レンジさんが永井さんの胸倉を掴んで引き上げる。
「ご希望通り警察に行くか?なんならすぐそこの交番に行ってもいいぜ。」
「………」
「その顔じゃ別の埃も出ちまうか?ああ?」
「あ…あの!!も…もう良いですから!!!」
「ああ?」
「だって…」
レンジさんに睨まれちゃったけど…だってこのままレンジさんに迷惑掛かったら…私…
「本当に……もう…良いですから…」
レンジさんにぎゅっとしがみついて半ベソで見上げた…
「………」
「か…彼女もそう言ってるじゃないですか…」
永井さんが上ずった声でそんな事を言うもんだから…
「ああ?」
「ぐっ!」
「あ…あの…」
レンジさんが永井さんを胸倉を掴んだまま車に押し付ける。
私の言う事…聞き入れてもらえないのかな…
「今度智鶴の口からテメェ等の名前が出たら遠慮無くやらせてもらうからな。
俺はやるっつたら必ずやる…」
「や…やるって…な…何を?」
「ああ?二度と女に悪さできねえ様に決まってんだろーが。」
これ以上無いってくらいの邪な顔でレンジさんがニヤリと笑う…
素なのか演技なのか…私にはわからないけど…永井さんは本気って思ったみたい…
「今日は智鶴に感謝するんだな…」
「…………」
「二度と智鶴に近付くんじゃねーぞ!中に乗ってる奴にもちゃんと言っとけ!わかったな!」
「………」
永井さんが真っ青な顔で何度も何度も無言で頷いた。
「仕方ねえ…今日は見逃してやる…行け。」
そう言ってレンジさんが永井さんの掴んでた胸倉をゆっくりと離した。
「………」
解放された永井さんが蹴られてヘコんだドアを開けて慌てて車に乗り込むと
物凄いスピードで車が走り去った。
「……あ…あの…」
しばらく走り去る車をじっと見てたレンジさんに恐る恐る声を掛ける。
だって…今もすごい怒った顔してるから…
「ご…ごめんなさい…私のせいで迷惑かけちゃって……あの…」
だから今日はこのままここでさよならしようかと思って…
「あっ!」
いきなりレンジさんが私の腕を掴んで歩き出したから引っ張られるみたいに私も歩き出した。
「きゃっ…」
すぐ側に停めてあったレンジさんの車の助手席に押し込まれる。
乱暴にバタンとドアが閉められてレンジさんは車の前を廻って運転席に乗り込む。
どう見てもレンジさんは怒ってて…私…どうしたらいいんだろう…
きっと帰るって言ったらそれも怒られそうで…
ただただ黙って俯いて…大人しくしてた…
それに今何か言ったら泣いちゃいそうだったし……
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