Love You !



20




とにかく人目を気にせず智鶴を抱きしめられる所と思って自分の家に連れて来た。
怒りは収まらず本当なら再起不能くらいに殴ってやりたかったが
智鶴の事や仕事や事務所に迷惑が掛かるとブレーキが掛かって何とか思い止まった。

こんなに女絡みで怒った事なんて今まで無かったんじゃねーか?

ムカつくが…何となく惇の野郎がメガネちゃんの事で一喜一憂する気持ちがわかった気がする…
惇の野郎には口が裂けても言えねえが……

抱きしめて唇奪って押し倒して…なんて諸々の事はぐっと自分の中に押し込んだ。

最初が最初だからこっからは身体で繋ぎ止めるのも…先に進めるのも嫌だった…

気持ちから…本当に智鶴が俺を受け入れたと思えるまで唇へのキスも…
智鶴を抱く事も我慢する事に決めてた…

きっともう1度マジなキスをしたら…自分を止められねえ……

そんな俺の気持ちを知ってか知らずか…
なんでそんなとびきりの笑顔を俺に見せんだよっ!!!
ホント健気すぎるぞ!智鶴!!

「次からは会社の前に迎えに行く。」
「……はい」
「そういや腹減ったな…腹立ったから余計腹が減った。」

落ち着いて来たら急に空腹感が襲って来た。
それに無理矢理思考回路の切り替えが必要だ。

「じゃあ私何か作りましょうか?」
「ん?」

「あ…レンジさんが私の手料理で…嫌じゃなければですけど…」

今まで料理が何かと鬼門だったから…言ってちょっと後悔した…
またこれで引かれちゃったりしたら…やだなって…

「ロクな材料ねぇぞ。」
「適当に作りますから…私そう言うの得意ですから…ってあ…あの…
本当に無理にとは言いませんから!!押し付けてるわけじゃなくて…本当に…」

きゃ〜〜もう自分でも何言ってるか訳わかんないよ〜!!

「別に無理してねえ。」
「本当に?」
「ああ…」
「お…重荷とか…思いません?」
「何でだ?俺はそう言うのは大歓迎だって言わなかったか?」
「……そう言えば…」

おぼろげな記憶にある…

「じゃあちょっと失礼しますね。」

キッチンに入って冷蔵庫に手を掛ける。
流しもコンロもみんな綺麗…使って無いのかな?

緊張しながら冷蔵庫を開け……うっ!!!

「……………」
「な!何にも無いだろ。」
「は…はあ…」

本当にここまで何も無いなんて思わなかった…
飲み物のペットボトルに缶ビールに…本当…食べ物関係一切ない!!

「腐らせるだけだからな…ほとんど買わねーんだ。ビールさえあれば用は足りる。」
「い…いつもどうしてるんですか?」
「いつも?朝飯も夕飯も大体外だな。夕飯なんかは撮影があるからそこで食ったり
撮影終わった後皆で食いに行ったり…必要な時はその時にその分だけコンビニで買うくらいか?」
「ほ…本当ですか?」
「ああ…まあ俺みたいな1人暮らしの男の食事なんてそんなもんだろ?」
「もう…ダメですよ!ちゃんとした食事とらないと…身体が主本なお仕事してるんですから!!」

使ってないからこんなにキッチンが綺麗なのね…

「ちょっと拝見して良いですか?」
「ああ…」

そう言うと智鶴は流しの下やら上やら…色んな所を確認し出した。

「ゴキブリはいないと思うが…」
「そんなの探してません!もう…」
「ん?」
「調理器具もなんにも無いじゃないですか!フライパンも小さいのが1つに
鍋も小さい片手鍋が1つしかないじゃないですか!これじゃロクなお料理作れませんよ!」
「じゃあ今度一緒に買いに行くか。」
「え?」
「じゃないと智鶴の手料理が食べれねーんだろ?」
「ででで…でも…」

言ってちょっと後悔…

「今日は作るのは諦めろ。材料も無いんじゃこれから買って作るなんて時間が掛かり過ぎる。」
「はい…」
「次は智鶴の手料理だからな。期待してるぞ。」
「え…?ほ…本当に?」
「ああ…何も遠慮なんかしねーでじゃんじゃん作れよ。俺好き嫌いねぇ…あ!」
「はい?」
「ああ…アレだけはダメだ…」
「え?何ですが?甘いものとか?」
「いや……アレだ……『セロリ』だけはダメだ。」
「え?セロリですか?」
「ああ…あの匂いと味が好きになれねぇ…」
「でもあんなのドレッシングとかで誤魔化せば…」
「いや!そこまでして食べようと思わねえ…それ以外は大丈夫だ。」
「はい。わかりました。」
「でも…当分おあずけだな…」
「え?何でですか?」

「明日から夜の撮影が入ってる…しばらく会えねえ…」

そう言って本当に残念そうに優しく笑う…

「あ……そう…なんですか…」

そうよね…今までがこんなに会えたのが珍しいのよ…

「また会える時連絡する。」
「はい…」
「電話は遠慮なく掛けて来いよ。」
「はい…」
「じゃあ飯食いに行くか。」
「はい……」

まだ全然実感が湧いてないけど…レンジさんって役者さんなのよね…
そうよ…今までテレビでしか見た事の無かった人なのよ……

それなのに…今私の目の前にいて…私と話してる…

そんなレンジさんに助けてもらって…守ってもらって…優しくしてもらって……
抱きしめてもらって…キスまでしてもらって……

本当に私なんかでいいのかな……

「ちゅっ……」
「あ…」

レンジさんがそっと私の額にキスをした……
唇が触れるだけの…優しいキス…

「レンジさん……」

「そんな顔する必要無いんだぞ…智鶴…」

「でも……」
「まあ最初の始まりがあんなだったから俺の言葉も信じられねえかもしれねーが…」
「…………」
「俺は今…智鶴以外の女の事なんて考えてねえから…」
「…………」
「そんな顔すんな…」

理性が飛んじまうだろーが……

「…………」
「何か言えよ。」
「だって……信じられなくて…」

何でだか…涙かポロポロと零れる…

「俺の事が…か?」
「………ううん…」

そう言ってふるふると頭を振った。

「自分が…レンジさんに好きになってもらえてるのが…信じられないの…」

「は?」
「だって……今まで私…男の人に…す…好かれた事なんて…無かっ…たから…ひっく…」

謙吾さんだって私の事好きだったのかは今は疑問だし…

「そいつらは見る目が無かったんだな。」
「……え?」

「こんなに可愛くていい女をよ…」

そう言ってまっすぐ私と視線が合った。
優しく微笑んでくれて…涙で濡れた私の頬までレンジさんの手の平がそっと拭ってくれる…

「!!」

もう…泣くどころじゃなくて…顔から火が出るほど恥ずかしかった!!
だから恥ずかしくて両手で顔を隠してレンジさんから顔を逸らしちゃった…

「智鶴?」
「や…ダメです!!見ないで!!見ちゃダメです!!」
「はあ?何言って…」

そう言ってレンジさんが両手で覆った私の顔を覗き込むから…

「ダメです!恥ずかしいから!!」
「恥ずかしい?何がだ?」
「そ…そんな事面と向かって言われた事無いんですから!!」
「は?そうなのか?」
「そ…そうです!!」

ドキドキ…ドキドキ……もう…

「そう言うもんなのか?」
「そ…そう言うもんです!!」

心臓に悪いです…

「じゃあもう言わない方が良いのか?そう言うセリフは?」

レンジさんが真面目にそんな事を聞いて来た。

「………そ…そんな事…言ってません…」

だって…時々はそんな言葉…言って欲しい…から…

「わかった。じゃあ言っても良いんだな?」
「…………」

言葉では言えなくてコクンと頷いた。
恥ずかしいけど…でも…そんな言葉言われたらドキドキするし…嬉しい…

「出掛けられるか?」
「は…はい…」
「何食べたい?」
「……えっと…何だか胸が一杯で…」
「じゃあザッパリしたもんでも食うか。」
「はい…」


もうこの1週間で私の周りで色々な事が起きて…
一番はレンジさんと知り合って…お付き合いが始まったこと…

自分では…自分に自信が無くて…きっとすぐに呆れられて…サヨナラされると思ってたけど…

レンジさんは違うのかな……違うと…思いたいと思うのは…

図々しいことなのかしら……



次の日…ちょっと緊張で会社に出勤した。
永井さんに会ったらどんな顔しようかと思って…
でも何だか永井さんの方が私の事避けてる様な気もしなくもない…
レンジさんの一喝が効いたのかしら?

でもそれ以上に気になるのは何となく色々な視線を感じなくもない…
すれ違う人…同じフロアの人…気のせいかな?

なんて思ってたら服部さんがワタワタとやって来て声をひそめて話し掛けられた。
一体なに??

「小笠原さん!!」
「は…はい?」
「あ…あなたの彼氏ってヤンキーなの?」
「は?え?何でですか?どうしてそんな??」
「あなた昨日永井さんと何かあった?」
「え!?」

何で??どうしてそんな…??

「彼が昨日あなたとちょっと話してただけで彼氏に因縁つけられたって!
さっき女の子囲んでそんな話してたのよ。」
「永井さんが…ですか?」
「そう…本当?」
「…………」

昨日の事…腹いせにそんな噂流すつもりなんだ…
何よ…もとはと言えば自分がヒドイ事したからレンジさんにシメられたのに!!

「はい!そうなんです。」

「え?」

「今お付き合いしてる人と〜〜っても怖い人で怒らすととんでもない事しちゃう人なんです。
だから私にチョッカイ出したらとってもスゴイ目に遭っちゃうんですよ!!」

「ええ!?」


にっこりと周りに聞える様に大きな声でそう宣言した。
きっと永井さんにも聞えたはず…

レンジさんには申し訳ないと思ったけど…でも…きっと許してくれるわよね。





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