Love You !



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昨夜初めてレンジさんが私の部屋に来てくれた…
って言っても私が作ったお料理を取りに来てくれただけなんだけど…

部屋の中で2人でイチャイチャするわけでもなく…

でも…ぎゅって抱きしめてくれて…頬っぺたにキスもしてくれて…
それを思い出すだけで私はホワンってなっちゃうけど…

順番が逆だったから仕方ないのかもしれないし…
レンジさん真面目だから…きっともうちょっとお付き合い続いたらって思ってるのかも…

「……でも…」

キスくらいは唇にしてくれても良いと思うのよね…なんて事を昨日から気にする様になっちゃって…
だって…普通はいくらなんでもそうするんじゃないかなって…
初めは気にならなかった私もそんな事が気になりだした…

レンジさんとちゃんとしたキスがしたいな……

なんてレンジさんにお願いしてみる?それって…私レンジさんに対して図々しくなって来たのかしら?
彼女面しちゃってる?え?そんな事を思うなんてそれって嫌われちゃうのかしら??

わかんない……

でも…あれから大分日にちも経って…
もともと酔ってた事もあって…あの時の事も…レンジさんのぬくもりも…キスも…
忘れてきちゃった気がする……

あの日から…あの酔った勢いで一夜を過ごした後からレンジさんは私を求めてこない…
でも…もう一度は一線は越えちゃってるんだからいいのに…………

って!!う〜〜〜何考えてるの!!私ってば!!消えて消えて〜〜〜!!!

妄想をかき消す様に…両手で頭の上をブンブンと振る。

レンジさんはこう言うのに慣れててあんまり関心が無いのかも…

慣れてる?そっかレンジさんは私と違ってきっと慣れてるんだ!
だから慣れてない私とのキスに幻滅しちゃった??

私そんなにキス下手だった???もう2度としたくないほど??

うそーーーーーっっ!!!

私は軽く眩暈がする……
だから私とはキスしたくないのかな…


『ただいまの時刻7時15分です。』

「あ…もうこんな時間…遅刻しちゃう…はあーーしっかりしなきゃ!私!!」

そう言って自分の頬をペチペチと叩く。
7時半過ぎには家を出なきゃいけないのに朝からいろんな事を考えちゃって…

『今朝は今日の夜9時から始まる新ドラマのご出演のこのお2人に来て頂きました。
五島寧(gotou yasusi)役の「鏡レンジ」さんと木梨瞭子(kinasi ryouko)役の
「兎束友理(totuka yuri)」さんをお迎えしております。』

「え!?レンジさん??」

時計代わりになんとなく点けてるテレビからそんな言葉が聞こえて
テレビの方に振り向くと…本当にレンジさんが映ってた!!

「あ…レンジさんだ……え?これって生放送?」

あの後家に帰って色々やってたらもしかして寝ないでこの仕事だったのかしら…
大変だな…役者さんも…なんて暢気に考えてる私…

朝ちゃんと食べれたのかな…
ああ…一緒に暮らしてたらちゃんと私が朝ごはんの支度して送り出してあげれるのにな…

「…………」

ハッ!!やだ…私ったら何だか大胆な事思っちゃってる??

『鏡さんは今回今までと違ったエリート会社員の役と言う事ですがいかがですか?』

え?そうなの?そう言う役なの?

『新鮮ですよ。やってて楽しいし。』

「はぁ〜〜レンジさんが標準語喋ってる…」

っていつもレンジさんは標準語なんだけど…こんな普通の喋り方じゃないから…
俺様喋り…でも威張ってるわけじゃなくて…

「あ…」

今夜から始まるドラマの映像が映し出される…
その映像を見て驚いた…レンジさんが…スーツ着て銀縁メガネ掛けて…
すごいなぁ…本当に真面目なエリート会社員に見えた…

ちゃんとお仕事してるんだな…私レンジさんのお仕事の事全然わからない…
レンジさんもそんな話しないし…芸能界や撮影の仕事に興味が無いわけじゃないけど…
私は…レンジさんがいてくれればそれでいいから…

私がレンジさんの為にしてあげれることって…食事の支度くらいだろうな…
でも…それも今のままじゃたまにしかしてあげられない…

『どうですか?兎束さん鏡さん普段はお優しいですか?』
『え?鏡さんですか?そんな怖い方じゃないですよ。
とても優しい方でスタッフの方達にも気を配られて…』

そうよ…レンジさんは優しいんだから…
そりゃ怒ると怖いけど…私には優しいんだから……

「…………」

テレビの画面を眺めながらツーショットの2人を見てると…美男美女でお似合いだな…
なんて思っちゃう…

そうだよね…レンジさんの周りにはこんなに綺麗な人が一杯いる…
こんな綺麗な人といつも一緒にいて演技だとしても親密な関係で…
今までだってきっと綺麗で恋愛に慣れてる女の人とお付き合いしてたんだろうな…
私も社会人で大人だけど…それとはまた違う大人の女の人との付き合いじゃないかな…

撮影も楽しく進んでるって2人が微笑みながら話してる……

本当に私でいいのかな…
私がレンジさんのこと好きになっても……いいのかな?

それって本当はレンジさんにとって…マイナスなことなんじゃないのかな……


「…………」

『只今の時刻は7時25分です。そろそろお出掛けになる方もいらっしゃるのではないでしょうか?』


そんなキャスターの声が流れてるけど…

私はぼんやりとテレビの画面を眺めてた……




「………ったく」

あれから智鶴からの連絡が来なくなった…
俺もドラマの撮影があって帰るのはいつも夜中だしバタバタと忙しくて
なかなか智鶴に連絡が取れねぇ…やっと掛けれる時は智鶴の携帯の電源が入ってねぇし…
一体どうしたって言うんだよ!!

メールなんてまどろっこしいモノ俺に出来るかっ!

やっと智鶴の会社が休みの日になって撮影の途中で抜け出せる時間が出来たから
速攻で智鶴の家に向かう。

まさかまたあの野郎共に何かされたんじゃねーだろうな…
なんて最悪の事も考える。

智鶴のマンションの階段を駆け上がって智鶴の部屋のチャイムを押す。
なかなか反応が無くて…留守なのか?

「智鶴!いねぇのか?」

…………

反応無し!でも居る!絶対居る!!

「智鶴…今すぐここ開けねぇとドアぶち壊す。」

…………カタ!

「!!」

中で物音がして人がいる気配がする。

「智鶴開けろ!」

そんな命令の後カチャリと音がしてドアが開いた。

「智鶴一体どうし………」

玄関のドアにチェーンが掛かってる。

「これはどう言う事だ?」
「だって……確かめてから開けなさいって…レンジさんが…」
「どうみても俺が訪ねて来てんだろ?チェーン外せ。」
「……はい」

本当に…一体どうしたって言うんだよ!智鶴!!

その後玄関の扉が開いて中に入る。
そのまま玄関先で2人立ったまま無言…

智鶴は俺から顔を逸らしたままだ…

「どうしてシカトする?携帯も何で電源切ってんだよ。」
「ちょっと…調子が悪くて…話せる状態じゃなかったから…」
「調子悪いのか?病気か?」
「そう言うわけじゃ…」
「ま…まさか…」
「え?」

何だかレンジさんが真面目な顔してる…

「ガキが出来たのか!?」

「え?!」

「そうだよ…出来てたっておかしくねぇし……」
「…………」
「つ…つわりってやつか?」
「…………」
「い…医者は?確かめたか?」

肩を掴まれて視線を合わせられて…レンジさん…スゴイ真剣…

「ぷっ!!」

「ああ?」

「くっくっくっ………やだ…レンジさん…」
「は?な…何だよ…」
「子供なんて出来てませんよ。」
「………出来て…ねぇ…?」
「はい…がっかりしました?」
「そりゃ…まあ…な…」
「そうですか……そっか…」
「何だよ…」
「ううん…もう大丈夫です。気分良くなりました。」
「は?そ…そうか?」
「はい。レンジさん撮影は?」
「休憩時間抜け出して来た。」
「だからその格好なんですね。」
「え?ああ…急いでてそのまま来たからな…」

目の前に立ってるレンジさんはあの日の朝テレビで見たレンジさん…
スーツ姿に整えられた髪の毛に銀縁の伊達メガネ…

「何だか違う人みたいです。」
「ああ…今回エリート社員の役だし…ちょっと肩凝るが撮影が始まれば気になんねぇし。」
「本当に役者さんなんですね…」
「今更何言ってんだよ。」
「やっと実感したって言うか…」
「役者だが俺は俺だ。」
「そうですね…」
「ああ…智鶴。」
「はい?」
「明日空いてるか?」
「はい…何か?」
「撮影やってるスタジオの近くで土日にテレビ局でイベントやってるんだと。
明日は早く撮影終わりそうだから一緒に行くか?」
「大丈夫なんですか?お仕事は?」
「明日からセット撮りになるし撮影も他の奴のシーンがメインだし俺の撮影は昼過ぎには終わる。」
「わかりました…」
「だから○○駅まで来れるか?その方が時間短縮出来る。」
「はい…」
「終わる頃連絡するから携帯電源入れとけよ。」
「はい…」
「今入れろ!俺の目の前で!」
「はい…」

奥の部屋から携帯を持って来てレンジさんの目の前で電源を入れた。

「絶対電源切るなよ!」
「はい…」
「智鶴?」
「はい?」
「何かあったのか?」
「ううん…調子が悪かっただけです。でも今はレンジさんに会えたから大丈夫です。元気出ました!」
「そうか?」
「はい……あ…」

ぎゅっとレンジさんの腕の中に抱きしめられた……

「…………」

夢にまで見たレンジさんの腕の中……離れたくないな…このままずっと傍にいて欲しい…

レンジさんの温もりを感じたいのに…このスーツが邪魔……レンジさん……

でも………でもね……


「じゃあ明日連絡するから待ってろよ。」
「はい……」
「ちゅっ……」
「…………」

また…額にキスされた……やっぱり…唇にはしてくれない……

「行くけど無理すんなよ。明日の為にグッスリ休んどけ……」
「はい……」

抱きしめられて…頭に頬ずりされて…撫でてくれてる……
私そんな子供じゃないですよ…レンジさん……

「じゃあな。」
「はい…明日…」

レンジさんが離れていく……
いつもの様に軽く手を振って玄関の外にレンジさんが消えて行く……

玄関のドアが閉まって……足音が遠のいて行った……


「…………」


レンジさんの言ってくれた言葉は…とっても嬉しかった…
今まで男の人に好かれた事も…あんなに優しい言葉も態度もしてもらった事無かったし…

今だって子供が出来てるかもなんて…出来てなかったらがっかりもしてくれた…

でも…レンジさん…私やっぱり無理みたい…

だって私と付き合ってもレンジさん大変なだけだもの…
恋愛に不慣れな女なんて手がかかるだけだもん……

私はレンジさんに何もしてあげられなくて…綺麗でも…洒落てもいなくて…
レンジさんには釣り合わないよ……

レンジさんにはもっと綺麗で…仕事にプラスになる様な人と付き合った方がいいもの…

あれからずっと考えてた……
自分からは踏ん切りがつかなかったけど…明日会えるなら…ちょうど良かった…

私…さよならするから…
レンジさんと会うの…明日で…最後にするから……

最後に……想い出…作るから……





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