Love You !



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昨日智鶴に宣言した通り俺の今日の撮影は順調に進んで久しぶりに早目に切り上げる事が出来た。

「お疲れ様鏡さん!折角の早上がりだもんねゆっくり休んで。
明日の撮影も昼からでしょ?ごゆっくり!」

撮影のスタッフの1人がスタジオを後にする俺に声を掛ける。

「ああ…お疲れ!お先にな。」
「相変わらず1人ですか?」
「は?」

一瞬付き合ってる相手かと思ってどう返事をしようか迷った。

「鏡さんのマネージャー鏡さんの事心配じゃ無いんですか?」
「ああ…黒柳の事か?俺は放任されてるからな。余程の事が無い限りついてこねぇよ。」
「信用されてるんですね鏡さん。」
「信用されてんのか…見放されでんのか…まあ俺は気が楽だけどな。」
「じゃ気を付けて!」
「ああ…」

そう言って俺はスタジオを後にした。


イベントをやってるテレビ局は俺が撮影してたスタジオから通り3つ先だ。

テレビでも大々的に宣伝してるせいか通りは人の波…
うじゃうじゃ…どっから湧いてきたんだか…

普段なら誘われてもこんなイベントは来たりしねえ。
でも智鶴を引っ張り出したくて…きっとあのまま部屋で会っても
何となく気まずい気がして何度か話を聞いてたこのイベントに誘った。

智鶴の奴態度が変だったな…また何か余計な心配して…

「レンジく〜〜〜ん ♪」
「!!」

名前を呼ばれながら後ろから肩を組まれた。
この声は……

「最近付き合い悪いんだって?もしかして彼女に夢中?」
「何で惇がここにいんだよ。」
「オレもこのスタジオで雑誌の撮影 ♪ 久しぶりにご飯一緒に食べない?レンジくん。」
「断る!用事があるんだよ!離せ!」
「デート?」
「違う!」
「じゃあオレもついて行こうかな。久しぶりにレンジと飲みたいし。」
「こんな昼間っから飲めるかっ!」
「前はそんなの気にしないで飲んでたじゃん。ホントお前わかり易い。くすっ ♪ 」
「絶対ついてくんな!ついて来たらど突く!」
「人の恋路は邪魔しないよ。楽しませてはもらうけど ♪ 」
「はあ?」
「ちゃんと上手くやってんのレンジ?」
「……余計なお世話だ。」
「その様子じゃちょっと困ってる?」
「別に困ってなんてねえ。」
「そう?ならいいけどさ…不器用なレンジに忠告!」
「ああ?」
「「好き」の一言でも言ってあげないと女の子は不安になるからな。」
「は?」
「レンジ女の子相手に言った事あんの?」
「…………」
「どうせ今まで相手に「好き?」とか聞かれて「ああ」って返事するくらいだったんじゃないの?」
「おい…惇…」
「ん?」
「お前やっぱ人間じゃなかったんだな…どんだけ耳が良いんだ?」
「マジでそんな顔しながら言うなっ!!んなわけあるか!お前の事ならお見通しなの!」
「お前メガネちゃんだけに飽き足らず俺のストーカーまで…」
「変な事言うなっ!何でお前をストーカーしなきゃなんないんだよ!
それにオレはストーカーじゃないし!そこまで暇じゃない!」
「時間があったらすんのか?」
「するかっ!とにかく…ちゃんと愛情表現しろって言ってんの!」
「しすぎのお前はメガネちゃんに呆れられてるけどな。」
「呆れられてないし!親友の忠告は聞いた方がいいぞ!今までが今までなんだからさ!お前は!」
「余計なお世話だっての。」
「とにかくちゃんと自分の気持ちは相手に伝えろ!じゃないと…」
「じゃないと?」
「レンジの事だからとんでもなく誤解されるぞ!これオレの勘!」
「余計なお世話だっての!」
「いてっ!」

ベシン!と後頭部を叩いてやった。

「じゃあな惇急ぐから。お前と話してるときりがねぇ。」
「いつ会わせてくれんだ?」
「ああ?」
「彼女。」
「免疫ねぇからな…もう少しな…」
「オレに会わせたらオレに夢中になっちゃうか?」
「そんな女じゃねぇ!」
「ふ〜〜ん」
「じゃあな。今度飲みに付き合ってやるよ。メガネちゃんの愚痴聞いてやる。」
「オレんとこ円満だから。それこそ余計なお世話だっての。」
「あっそ!」
「じゃあなレンジ。」
「ああ…」

久しぶりに会った惇だったが相変わらず勘が良い…
特にこう言う恋愛絡みは敏感で…まあ俺の事にいちいち口を出す様な奴じゃないが…

「好き」か…

そういやお互いその言葉は言った事も聞いた事もなかったな…
愛情表現って…俺にしてみたらあんなにキスしまくってバッチリだと思うんだが…

やっぱ伝わってねぇのか??わかんねぇな……


そんな事を思いながら待ち合わせの駅に向かう。
駅はイベント会場に向かう通りの1つ目を曲がってすぐだ。

駅を出た所で待ち合わせた。
惇と話してる間に時間が来ててもう智鶴は待ち合わせの場所に立ってた。

良かった…来なかったらどうしようかと思ったが…
どうしよう?……この俺がそんな心配かよ…まったく…

「智鶴!」
「あ…」
「身体大丈夫か?」
「はい…」
「すぐそこだ。顔パスで食いもんも食べれる様にしてもらってるから遠慮すんな。」
「はい。でも顔パスですか?すごいですね…」
「まあ知り合いもいるしな。とにかく人が多いから俺からはぐれるなよ。
特に智鶴はちっちぇんだから。」
「だ…大丈夫ですよ!小さくても大人ですから!」
「そうか?でも危ねぇからほら。」
「!!」

この前と同じに俺の腕を差し出した。

「す…すみません…で…でも人に見られちゃいますよ…それはまずいんじゃ……」
「誰に見られても構わねー。」
「………はい…」

テレビ局前にはこのイベント限定のオブジェやら売店やら…
毎年同じ時期に行われるらしいがとにかくワンサカ人がいやがって歩きにくいったらありゃしねぇ!!

「大丈夫か?智鶴!」
「はい。大丈夫です。」

智鶴の感じはいつもと同じ…ただ違うのは何となく心此処に非ずの様な…そんな感じだ…

俺の腕を掴んでる智鶴の手は強くも無く弱くも無く…
でも気を許すと離れそうな感覚が襲う。

「智鶴。」
「はい?」
「もう少し力入れて掴まってねーと腕外れるぞ。」
「あ…はい…」

そう返事をしながら…でも強さは変わらねぇし…

「智…」

ちゃんと握れと言おうとした時人の波が揺れた。

「?」

「あっちでゲリラライブ始まったんだって!」
「ホント?場所は秘密だったのにね!近くてラッキー!!」

ゲリラライブ?

どうやらどこかの歌手がこの近くでライブを始めたらしい。
それに向かって人の波が俺達とは逆に流れ出した。
必然的にその波に身体を持って行かれる!

「智鶴!」
「は…はい…あ!!」

そんな返事と小さな声の後俺の腕から智鶴の掴まってた感触が無くなった。

「智鶴!!!」

「………!!」

何となく智鶴の声が聞えた気がしたがあっという間に人の波にまみれて
智鶴の姿が見えなくなった!!!

「智鶴!!!」

だからしっかりと掴まってろって言ったじゃねーか!!
ってか俺の腕の中に掴まえときゃ良かったか…


「きゃっ…」

いきなり人の波が逆に流れ始めて小柄な私は身体を持って行かれて
力を抜いて掴んでたレンジさんの腕からあっさりと引き離された。

周りは人だらけでそれにみんな歩くスピードが早い。
口々にライブだとかあのグループのファンだとか言ってる…

きっと何かのイベントが始まったんだ…
周りの活気とは裏腹に私の気持ちは浮かれる事なんてない…

だって…今日でレンジさんに会うのが最後だから…
もう…サヨナラしようって決めて来たから……無理に笑っても笑えなくて…

ド ン ッ !!

「きゃっ!……あっ!!」

思いきり身体に人がぶつかってよろめいた…その拍子に履いてた靴が片方脱げた!!うそ!!

「あ…あの…すみません!!」

そんな叫び声も誰も聞いてくれるはずも無く…
人の波はどんどん流れ続けてる…

探すにもしゃがんだら最後私なんて踏み潰されちゃうわ!!

「はぁ〜〜最悪…」

脱げた片方のパンプスはもうどこにあるのかもわからない……最後の最後で…これ?

ちょっとずつ人の波に押し流されながら片足は靴なしで…どうしよう…

やっぱり来なければ良かったのかな…
最後に想い出なんて作ろうなんて…そんな事考えるから…

どうしよう…このまま帰ろうかな……はぁ……レンジさん……

「智鶴!!!」

「!!」

レンジさんの声に顔を上げたら目の前にレンジさんがいた。

「こっちだ!」
「あ!」

人の波の間をぬって何とか人通りの少ない場所まで腕を掴まれて連れて来られた。

「ふう〜〜すげぇ人だな…大丈夫か智鶴?」
「…………」
「ちゃんと掴まってねぇからだぞ!ったく揉みくちゃにされたんじゃね?」
「……く…靴…」
「あ?」
「靴が片方無くなっちゃいました……」
「は?」

見れば智鶴の足には靴が片っぽしか履いてねぇ!!!

「で?脱げた靴は?」
「わ…わかりません…凄い人で探せなくて…」
「当たり前だ!あんな所で探したらちっちぇ智鶴なんてペッチャンコだぞ!」
「………う…どうしよう…」
「買うか?」
「でも…家に帰れば他の靴あるし…」
「だよな…でもこのままじゃ歩けねぇだろ?」
「はい…やっぱり買うしか…あっ!!」

レンジさんがいきなり私をお姫様抱っこで抱き上げた!

「レンジさん!?」
「すぐそこのスタジオの駐車場に車停めてある。そのまま智鶴の家まで乗せてってやる。」
「え?でも…イベントは?」
「何かお互いそんな気分じゃねーみたいだし…もう良いだろ?智鶴…」
「……レンジさんが…それでいいなら…」
「行くぞ。しっかり掴まってろ。」
「は…はい…でも……」
「ん?」
「ちょっ…ちょっと恥ずかしい…かも…」

こんな人がたくさんいる中でお姫様抱っこされてるなんて…

「誰も見てねーよ!」
「え?ウソです!見てますよ!!!」
「じゃあ智鶴が目を瞑ってろ。誰も見えないだろ。」
「そう言う問題じゃ…」

そう言ってる間にもレンジさんは歩き出して…

「あの…」
「ん?」
「腕…廻しても?」
「遠慮なんてすんな。しっかり俺に掴まってろ!」
「……はい…」

言われるまま…レンジさんの首に両腕を廻して抱きついた。

レンジさんの身体の体温が洋服越しに伝わって来る…
ちょっと見上げればレンジさんの顔が直ぐ目の前にあって……

「重くないですか?」
「軽すぎ!智鶴ちゃんと飯食ってるか?」
「食べてますよ…」

ここ2・3日はあんまり食べてませんけど…

「…………」

落ち着くな……レンジさんの傍にいると……

やっぱり…ずっと傍にいたい……ずっと一緒にいたい……

でも…でもね……きっと私なんかじゃ絶対後でレンジさんに迷惑掛けちゃう…

「……う…」
「智鶴?」
「…………」
「靴…無くなったのそんなに辛いか…」
「…………」
「俺が新しいの買ってやる…だから泣くな。」

違うの〜〜〜〜〜!!レンジさん!!!!





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