Love You !



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会社の帰り際私を呼び止めて週刊誌片手に話し掛けて来たのは…永井さんだった。


「あの時 『鏡レンジ』 がやった事って立派な器物破損行為だよな?」
「あ…あれはあなた達が…」
「オレ達は何もしてないだろ?同僚を誘っただけだぞ?だろ?勝手に勘違いしたのはそっちだ。」
「な…何言ってるんですか?あの時私を無理やり…」
「証拠あんのか?」
「証拠は……」
「オレは何も言った憶えはないね。」
「!!」
「なのに鏡レンジは謙吾の車のドアを蹴って壊したんだんだよ。」
「…………」
「今も謙吾の奴あの凹んだドアのまま乗ってるんだぜ。可愛そうになぁ〜」
「だから……何なんですか…」
「ちょっとこっちに来い。」
「あ……」

ロビーの端の柱の影に連れて行かれた。

「やめてください!大きな声出しますよ!」
「だからそんな態度していいのかって言ってるだろ?」
「…………」

さっきからこの人は何を言いたいのかしら…もう…こんな風に話すのも嫌なのに…
心臓はずっと同じにドキドキドキドキ…気を緩めると身体が震えそうになるのを必死で堪える…

「謙吾がその事訴えたら鏡レンジはどうなるだろうな?」

「え?」

「だって立派な犯罪だろ?まあ捕まらないにしても俳優の仕事はどうかな?」

「!!」

永井さんがグッと近寄って来て私の顔を覗き込む…

「ちょっとしたスキャンダルも命取りだよな〜」
「…………」
「今主役頑張ってるのにな〜そんな事件起こした俳優使わないよな…普通〜
もしかして番組打ち切りだってありえる。今まで何人もそんな奴いたもんな…くっくっ…
ね?小笠原さんどう思う?君の彼氏役者人生終わっちゃうかもよ。」

「…………」

確かに何かしら騒動になった人が役を降ろされたりCMが使われなくなったりするのは
私も知ってる…

「君のせいでね。」
「私の…せい?」
「そうだろ?君が変に騒いだから彼が勘違いしてあんな事したんだから。
それにきっと自分がやったって認めるだろうしね〜あの性格じゃ。
今特に注目されてるからこんなネタどこのマスコミも飛びつくだろうな。」
「だからあれは…」
「マスコミなんて最初の理由なんてどうでもいいんだよ。『鏡レンジ』が一般人の車を蹴りつけたって事実さえあれば…
それにもともと気性が荒い奴なんだろ?やっぱりなんて書かれて過去の事まで持ち出されて叩かれるね。」

「そん…な……」

ふん…まったく…チョロイもんだよな…
考える間も与えないで最悪な状況を連想させるだけでこうやって黙りこくって悩んでんだからさ…

こう言う大人しいタイプは他人に迷惑が掛かるのを特に気にするからな。
相手が芸能人じゃ余計だろうと思ってソコを重点的に責めればこっちの思う壺だ。

朝の駅の売店で何気なく目にした雑誌でこの写真を見た時すぐにわかった。


「………」

頭も気持ちも急に色々言われて真っ白のいっぱいいっぱいだった。
こんな人の言ってる事は聞いちゃいけないと思いながら言ってる事は言い当ててる気がする…

きっと聞かれればレンジさんは謙吾さんの車を蹴った事を正直に認めるだろうとわかる。
でも認めたらレンジさんにどんな噂が立ってしまうんだろう…

仲村さんの事でさえあんなに興味本位に騒いでたのに…

「警察にもマスコミにも黙っててやってもいいぜ。」
「!?」

彼が私の背中の柱に手を着いて身体を屈めて私に顔を近付ける。

「1度で良いからオレを満足させてくれればいいよ。」
「なっ…何言ってるんですか!!そんな事出来ま…」

壁に背中を擦りつけながら彼から離れようと横に逃げようとした私の右肩を
彼の左手が掴んで止めた。

「それで彼氏が役者としてこれからもやっていけるんだ…
元は自分のせいなんだから君が自分でどうにかするべきだろ?」
「でも…そんな…」
「そしたら警察にも言わないし謙吾にも思い留まる様にオレが話をつけてやるよ。
良い話だと思うけどな…君が彼氏の役者生命を守るんだよ。
『鏡レンジ』  にずっと役者の仕事続けて欲しいだろ?」

「…………」

色々な言葉が頭の中でグルグルと廻ってる…
早くこの人から離れなきゃって思うのにレンジさんの言葉も頭の中に浮かんでる…

『俺は…この仕事…役者を辞める事は出来ねぇ…』

私…レンジさんにはずっと役者の仕事してて欲しい…
私のせいでそれが断たれるなんて嫌……でも…

「君がやれる事は1つだよ…」

「!!」



その後はあんまり覚えてない…

とにかく促されるままフラフラと歩いたみたい…

頭の中では2つの思いが交差してる…

今すぐこのまま逃げ出したい気持ちと…
レンジさんに迷惑を掛けたくない気持ちと…

永井さんの言った事も頭の中でグルグルグルグル……まとまならない…



「!!」

カツンとつまずいてハッと我に返った。

見慣れない場所で色々な看板が目に入る…
今まで1度だけ来た事がある…合コンで送ってくれるって言った人が無理やり連れて来た…
あの時と同じ…目の前にはホテルの看板だらけで…

「あ…いや…」

足を踏ん張って抵抗した。
なんで?いつの間にこんな所に…

「ここまで来て何言ってんだよ…彼氏の為だろ?いいのか?」
「……でも…こんな…」

だって…もう…ここに入ったら…取り返しがつかないもの…

「や…む…無理です…嫌…」

抵抗しようとしたけどガッチリと肩を掴まれてグイグイと押される。

「いい加減観念しろよ!いいのか!鏡レンジが役者を辞めることになっても!
お前が言う事聞けば奴の役者人生は守られるんだぞ!もしここでお前が帰ったら
オレはこのまま週刊誌にこのネタ持ってくからな!ゴシップネタで有名な所に売ってやる!
きっとある事無い事書いてくれるだろうぜ!!そしたら「鏡レンジ」はお終いだな!ははっ!!」

「!!」

身体から抵抗する力が抜けていく…
私が拒めばきっとこの人は今言った通りにするだろうと思う…

この人はそう言う人だ…

「自分のせいでそんな事になるなんて嫌だろう?1回だけだって…
黙ってりゃ良いんだよ…いいじゃんかそれで全て丸く収まるんだからよ。」

「…………」


「206 ♪ 206〜 ♪」

彼の鼻唄交じりの声がする…
私はもう込み上げそうな涙を堪えるのが精一杯……

部屋のドアの鍵を開けるをじっと見てた…
ドアが開くとグイッと背中を押されて中に押し込まれた。

ドアの閉まる音がして鍵の掛かる音がした…
ドクンと胸が痛んで…でも…私はそのまま立ち尽くしてた…


「さてぇ〜 ♪ まずはどうしようか〜 ♪」

「…………」

彼の手が私に伸びても私は逃げなかった…

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

「!!」

彼の携帯が鳴った…

「チッ!誰だよ!」

上着のポケットから携帯を取り出して相手を確かめるとまた舌打ちして通話のボタンを押した。

「はい!あ…いえ…はい…」

「……………」
「え?今からですが?ちょっと…あ…いえ…はいわかりました…はい。……チッ!」

また彼が舌打ちして携帯を閉じる。

「急用が出来たからちょっと待ってろ。」
「………」

会社からの電話で上司からだった…
オレ絡みの仕事でどうしても社に戻って来いと言う電話だった…

まったく…こんな時に…

日を改めてとも思ったがどんな邪魔が入るかもわからないしこの女の気も変わったら面倒だ。
バスローブの紐を使って女を後ろ手に縛ってベッドに突き飛ばした。
この感じじゃ逃げ出しはしないと思ったが念の為だ。

女は何の抵抗もしないでオレのなすがままだ。

「逃げようなんて思うなよ!逃げたらわかってるな!すぐ戻って来るからな!」

そんな声が聞こえてドアの閉まる音と鍵の掛かる音がした…
私は両腕を後ろ手に縛られたままベッド上でじっとしてた…

「うっ……」

堪えてた涙が込み上げてくる…

ごめんなさい…レンジさん…もう……ダメ……やっぱり私ってレンジさんに迷惑掛けちゃう……

それに……もう…レンジさんに会えない…それが辛い…
本当はこんな事嫌なのに…このまま逃げ出したい…

でも私が逃げたらレンジさんに迷惑が掛かる……
だから…こうするしか……

その後も涙が止まらなくてベッドに顔を押し付けて泣いた……

「!」

何か…聞こえる?

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

「…電…話?」

ベッドからちょっと離れた所に私のバックが落ちてた…そこから携帯の鳴ってる音がする…
私はベッドから起き上がってバッグの所に転げる様に近付いた。

「あ…」

両手が後ろに縛られてて思う様に手が動かない…
でもただ後ろで縛られてただけだったからそのまま足を通して前に持ってくる事が出来た。

「は…はい!」


誰だか確かめずに電話に出た……





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