Love You !



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「何?マネージャー?なんで…」
「貴方がマヌケだからじゃないですか?」

本当に顔もマヌケなほど驚いてるからそう言ってやった。

「しっかりと今の会話携帯に録画させて頂きました。
これで貴方が智鶴さんを脅して無理矢理関係を迫ろうとした事は明白です。
これはれっきとした強要罪です。」

「でもその話に乗って来たのはそいつだろ?だったらもっと抵抗すれば良かったんだよ。
なのにそいつは逃げもせず誰かに助けを求めもしないでオレに黙ってついて来たんだ!
オレの出した条件を呑んだって事だろう!納得してついて来たんだ!
今だって逃げようともしないでオレを待ってただろう!!
本当はそいつだってオレとヤル気満々だったんじゃねーの?」

「……ちが…」

  プッチーーーーンン!!!

違うと言おうとした時…目の前に立ってる黒柳さんからそんな音が聞えた気がした…

「 惚れた男人質に取られて逃げられるわけねーだろうが!!このクソ野郎っっ!! 」

「!!」 「!!」

ド カ ン !! 

と黒柳さんのハイヒールが目の前にあったテーブルの上に叩き着けられる。

「こっちが大人しくしてりゃふざけた事言ってんじゃねぇっ!!!」

「……く…黒柳さん?」

一体…どうしちゃった…の?
片足はテーブルの上に乗ったまま…腕を組んで永井さんを睨みつけて…
もの凄く怒ってるのがわかる…

「智鶴さん!!」
「はっ…はい!!」
「あんたも覚悟決めな。」
「え?覚…悟?」
「一瞬でもこんなクズ野郎に仕方なくだろうが身体許すしかないと思ったんだろ?」
「………それは…」
「その覚悟があるならこいつと公の場で戦う覚悟決めな。」
「え…?」

「この女の敵のクソ野郎を徹底的に叩き潰す事にしたから!
アンタも覚悟決めてちゃんと自分でケリをつけな。」

「…は……はい!」

「な…いいのかよ…そんな事をして…オレが週刊誌にあの事バラしたら…」

「勝手に言えばいい。」
「!!」
「黒柳さん!?」

「大体そんな事であのレンジが潰れると思ったら大間違いだからね。
それはあんたにも言える事だよ。智鶴さん…レンジを見くびるんじゃないよ。」

「…………」

その言葉は私の胸の中にとっても重く…ズシリと響いた……


「チッ!ならお望み通りバラしてやるよ!覚えてろよっっ!!!」

そう叫ぶと永井さんが足早に部屋を出て行こうとする。

「!!」

そんな永井さんの肩を黒柳さんがグッと掴んでまた部屋の中に押し戻す。
女の人なのに凄い力…?

「何しやがる!」
「まだ話は終わっちゃいなんだよ。何勝手に帰ろうとしてんだ。」
「ああ?何の話が…」
「あんた気付いてない様だから教えてやるけどねもうこの問題はあんたと智鶴さんの問題じゃ無いんだよ。」
「は?」
「『鏡レンジ』はウチの事務所に所属してる俳優だよ。そのレンジの名前使ってこんな事しでかしてくれて…
これはウチに喧嘩売ったって事だろう?」
「は?」
「ホントバカな男だね…もうあんたの相手はこの子じゃ無いって事だよ。」
「………」

永井さんがわからないといった顔で黒柳さんを見てる。

「だからあんたをウチの事務所で訴えるって言ってるんだよ!」

「なっ!!」

「そうだね…あんたの会社も訴えるのもいいかもね。」
「な…なんでそうなるんだよ!」
「自分の会社の社員が同じ会社に勤める社員にこんな事してるのに気付かないなんて
会社の管理不行き届きだろ?大体今度の事だって3度目らしいじゃないか。
会社の資料室でも智鶴さんに迫ってフラれたんだってね。それって十分会社の責任もあると思うけどね?」

「…………」

「まず責任取らされるのは直属の上司だね。その次にあんたを採用した人事関係のお偉いさんか?」

「じょ…冗談だろ…」

「さあ?事務所に帰って弁護士と相談してそれが成立すればやらせてもらうよ。」

「や…やめてくれよ…そんな事されたらオレはあの会社にいられなくなっちまうだろ…」

「何言ってんだ…自分がそれだけの代償を払うほどの事をしたんだよ。
智鶴さんからだってあんたはそれだけのものを奪おうとしたんだからね。
自業自得だろうが!どんな気持ちでこんな事したのか知らないけどね。
自分のやった事にはちゃんと責任取ってもらうからね。」

「…………」

「まあ智鶴さんがあんたを強要罪で訴えれば嫌でも会社にバレてクビだろうけど。」

「!!」

ガバッ!と永井さんがその場で正座した。

「わ…悪かった!謝る…今回の事は謝るから…許してくれ!小笠原さん!この通りだ。」

「!!」

今度はいきなり土下座された。

「謝る!本当に申し訳なかったと思ってる!もう2度とこんな事はしない!頼む!」

「随分虫のいい話だね。自分が何したか分かってないのか?」
「………会社にだけは…」
「もう1回ちゃんと謝ってもらおうか?」
「黒柳…さん…?」

いつの間にか黒柳さんが永井さんの目の前で携帯を録画してる。

「ちゃんと最初から自分がした事喋って智鶴さんに謝る所撮らしてもらうから。ほら!もう1回言いな!」


何度も何度も永井さんは謝らせられて最後はもう半泣き状態だった…
それを黒柳さんはずっと撮り続けてた。


そんな永井さんを部屋に残して私達は部屋を後にした…

「後はウチの事務所の社長次第だけどね。
でもウチの社長…私やレンジみたいに甘く無いから覚悟しといた方がいい…」

部屋を出る時黒柳さんが彼に向かってそう言った。

あんなに謝らせてたのに…どうなるかわからないなんて…


永井さんは床に座ったまま項垂れてた…



私と黒柳さんはすぐ近くに停めてあった黒柳さんの車に乗り込んで
レンジさんが記者会見してる会場に向かった。

5分程して車が地下の駐車場に入る。

車が停まっても2人共無言で…私は動けずに俯いたまま黙ってた…
今日自分にどんな事あって…どんな事して…どんな事されそうになったのか…
今から思い返しても怖くて身体が震える……

あの時…黒柳さんから電話がなかったら…そう思うと…

「智鶴さん…」

いつもの凛とした静かな黒柳さんの声で私は顔を上げた。

パ チ ン !!

「 !! 」

本当に軽くだけど…黒柳さんが私の右の頬を叩いた。

「もう2度とこんな事は起こさないで下さい。今回はたまたま私が駆けつけたから
大事には至りませんでしけど…もし相手が1度出ていなければ智鶴さんは確実に
あの男に襲われていましたよ!」

「は…い…」

そう…今日は偶然が重なって助かっただけ…

「今度から何かあったらすぐに私かレンジに連絡する事!これは絶対ですよ!」
「はい…」
「……今ここでレンジが何をしてるかわかっていますか?」
「はい……わ…私との…事を…皆さんに…話して…ます…」
「さっきも言いましたがレンジはあんな事でダメになったりしません。
レンジには社長も私もついてます。そう言う時の為に事務所と言うものがあるんです。
智鶴さんが1人で背負い込む事は無いんです。逆に勝手にそんな事をされると迷惑です。」
「は…い…ごめんなさい…」

もう涙が後から後から出てきて…止まらない…

「智鶴さんを犠牲にしてレンジが役者の仕事を続けて行くと思ったんですか?」
「い…今は…思いません…でも…あの時は…私がどうにかしないとレ…レンジさんがもう
役者のお仕事出来なくなると思って……」
「そのすぐに思い込む所もこれから直して下さい。」
「はい……」
「智鶴さんのお気持ちもわかります。役者と言う職業は少し特殊ですから
ちょっとした事で人気も左右されますし逆にその人気を嫉まれる事もあります。
これは芸能界で働いてる方に言える事ですがプライベートもあるようで無い時もあります。
今回だってレンジが俳優だからこうやって会見を開かなくてはいけないし
あの男もつけ込んできたんですよ。」
「はい…」

「そんな事にこれから先耐えられますか?」

「え?」

「やめるなら今のうちです。」
「………」

黒柳さんがジッと私を見つめて返事を待ってくれてる。
それは意地悪で言ってる訳じゃなくて私を心配して言ってくれてる…

「大丈夫です。もし次に同じ様な事があっても…もう今日みたいな浅はかな事はしません。」
「そう…まあ今日みたいな事はもう起こって欲しく無いですが…
あれもレンジの事を想っての事だったんだってわかってますが…
本当に次は無しです。反省して下さい!!」

「はい。本当にすみませんでした…そ…れから……あ…ありがとうござい…まし…た…」

頭を下げた彼女のスカートの上にポタポタと涙が落ちた。

「でもこれからが色々大変になるかもしれませんよ。」
「はい……わかりました…」

そう言って顔を上げながら手の甲で涙を拭った。

「あ!それから…」
「はい!なんでしょう?」

彼女が真面目な顔で聞いてくるから…

「いえ…あの…さっきの事は内緒にして下さいね。」
「え?さっきの事…ですか??なんの事でしょう?」

「………あの男相手に啖呵きった事です。」

「あ!」

黒柳さんがバツの悪そうな顔でそんな事を言う…
その仕草が何だかレンジさんに似てる様な気がした。

「どうも興奮すると我を忘れてしまうもので…」
「いえ…とっても素敵でした。」

そう言って彼女はハナと目を真っ赤にしてニッコリと微笑む。

「……智鶴さん。」
「はい?…あ…」

運転席から助手席に座ってる私をギュッと抱きしめてくれた。

「本当にこれからは自分を大事にするんですよ。」

こんな風に家族やレンジさん以外で抱きしめてもらったのなんて初めて…

「はい…」

抱きしめられたままトントンと背中を叩かれた。

「これからは遠慮なくビシビシいきますからね!覚悟してて下さい。」

私の耳元にそう囁くと黒柳さんは離れた。

「は…はい!宜しくお願いします。」

「じゃあレンジが待ってるから行きましょう。」

「はい。」


私と黒柳さんは車から降りて…エレベーターに向かって歩き出した。





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