Love You !



57




「ふあぁ〜〜」

目が覚めたらもう昼近い11時半だった。

「………」

しばらくベッドの上で放心状態。

「んーーー」

ガシガシと髪の毛を手で掻き分けた。
寝ぼけ眼で寝室からリビングに向かう。

「ふぁ…」

キッチンを覗いても智鶴はもういない…当たり前か…
昨夜日付が変わる頃追い込んでたドラマの撮影がやっと終わった。
その後何だかんだで家に戻ったのは3時過ぎてたからそのままさっきまで爆睡してたってわけだ。

「終わったか…」

今回は珍しく真面目なエリート会社員役だった。
普段は掛けない眼鏡まで掛けて…智鶴には言ってないが最後に相手の女優と
キスシーンがあった…まあテレビを見ればバレる事だが……智鶴はどう思う?

「………」

考えても仕方ねぇか…仕事と割り切ってもらうしかねぇ…んだが…

「何だか緊張すんな………あーー!!やめやめ!」

考えても仕方ねぇ!
俺はまた同じ事を思ってソファから立ち上がった。

コーヒーを淹れようといつもの場所の戸棚を開けると智鶴には珍しく豆の入った缶が空だった。

「……買い置きあんのか?」

はっきり言って俺はキッチンのどこに何があるかなんてさっぱりわからねぇ。
だから片っ端から扉や引き出しを開けた。

「どこだ?」

何箇所か開けても新しいコーヒー豆は見付からなかった。
となると余計飲みたくなる。

「ん?お!あった。」

流しの上の戸棚に買い置きがあった。
その小袋を手に取る…

「ん?」

その奥にこの場所には不釣り合いな物が視界に入った。
不釣り合いだったから視界にとまったのか?

「何だ?」

取り出すと小さめな四角い薄っぺらいケースだった。

「あぁ?DVDか?」

真っ白なケースにタイトルも何も書いてない。

「何でこんな所に置いてあんだ?」

手早くコーヒーを淹れて見付けたDVD片手にリビングに戻る。
デッキに入れて再生を押すと画面に映像が映し出された。

『今日はお忙しい中お集まり頂いてありがとうございます。』

「俺じゃねーか。」

始まったのは記者会見の映像…

「何でこんなもんがここにあんだ?しかも隠してあったのか?」

何となくそう思った…そんな隠す様な内容じゃねーだろう?と思うが…
智鶴が戻ったら聞いてみるか。

そんな事を考えて自分が淹れたコーヒーを一口飲んだ。



「はい?」

お休みだったレンジさんが仕事が終わった私を会社まで迎えに来てくれた。
何だかそう言うちょっとの事が私にはとっても嬉しく思える…

一緒に暮らし始めて久しぶりのゆっくり2人で食べる夕食。
今までレンジさんがドラマの撮影で忙しくて…
でも昨夜でそれも終わってしばらくゆっくり出来るって言ってた。

そんなレンジさんが夕飯を食べ終わってリビングのソファに座りながら
コーヒーを持って行った私に言った。

「これ何だ?」
「はい?」

そう言ってレンジさんがヒョイと白いケースを私に見せた。

「…………え?」

それは…

「きゃあああああ!!そ…それは…!!!」

「あぁ?何でそんなに慌てる?」

智鶴の慌てぶりが凄くて俺はビックリだ。

「え?あ…いえ…」

そ…そうよ…べ…別に怪しいものでもないんだし…慌てなくたって…でも…

「黒柳さんから貰ったんです。」

何とか平静を装って何事も無い口調で話す。

「それがなんでキッチンにある。」
「えっと……それは……その…」
「まるで隠してたみてぇに…」
「そ…それは…その…」
「智鶴…」
「 !! 」

レンジさんがチョイチョイと片手を動かして自分が座ってるソファの横に来いって私を呼ぶ。

「…………」

仕方なく言われた通りレンジさんの横に座る。

「正直に話せ。」
「正直にって…言われても…別に何も…」

そう…別に何も他意はないもの…ただ…

「智鶴。」
「………い…嫌…です…」
「あぁ?」
「わ…私…何も悪い事してませんし…」
「誰も悪い事してるなんて言ってねぇだろ。」
「そ…そうですけど…」
「俺は正直に話せって言ってるだけだろ?ん?」
「…あ…」

そう言いながらレンジさんの指が私の顎を摘まんでレンジさんの方に向かされる。

えーーーー!!??なんで?どうしてこんな事に??

だってだって…レンジさんに会えなかったからその淋しさを紛らわすのと…
記者会見の時のレンジさんが…ううん…
とにかくレンジさんが素敵でいつも見てたかったからなんて…恥ずかしくて言えない!!

「うぅぅ〜〜」
「なんだ?その声は?」
「黙秘します。本当にただ貰っただけで…
あ!きっと買い物したものをしまう時に一緒に入っちゃったんですよ。」
「………」
「あ……えっと…」

咄嗟にいい加減な理由を言ってみた…
そんな言い訳にレンジさんが納得するはずも無くて…ジッと見つめられる…
ああ…もう…レンジさんの視線が痛いです。

「どうしてそこまで頑なに訳を話せねぇのか余計気になるな。智鶴…」
「あ…あの…」

またいつものいつもと同じじゃないレンジさんの笑顔が……うう…私…どうしたら?

「レンジさん…」
「ん?」

こんな間の会話もお互い向かい合ってて…レンジさんの指は私の顎を掴んだままで…
私は両手を自分の膝の上に置いてお行儀良くレンジさんの方を向いてる。

「本当に大した事じゃありませんから…もうお終いで…」

ちょっと引き攣った笑顔で言ってみた。

「あぁ?」
「………」

うわぁん……ダメ?

「智鶴。」
「は…はい…?ンッ……」

チュッっと触れるだけのキスが私の唇に触れる。

「口で言えないなら身体に聞くまでだ。」
「………はい?きゃっ!!」

背中にレンジさんの腕が廻されたと思ったらそのまま後ろに倒された。

「あ…あの…」

あっという間に私の両手はレンジさんの片手にまとめられて頭の上に押さえ付けられる。
最初から私の足の間にレンジさんが入り込んでて足は閉じられない……

「レンジさん…」
「正直に話すなら今のうちだぞ…智鶴。」
「…あっ!」

言いながらレンジさんの手の平が私の腿の外側を滑ってスカートを捲くり上げていく。

「やっ…レンジさんやめて下さい!」
「じゃあ話せ。」
「……うぅ…」

何だか今更改まって話すのがとっても恥ずかしいんですけど…

「まだ言わねぇか?」
「ひゃっ…!!」

首筋にレンジさんの唇の触れる感触がして…すぐに舌も使って耳まで一緒に攻められる。

「…アンっ!!」

首筋にレンジさんの息も掛かって身体中がゾクゾクする。
その反動で身体が大きくのけ反った。
片足も膝の後ろに手を入れられて持ち上げられて……え?本当に?ここで?今?

「……わっわかりました…話します…ちゃんと話しますから…も…やめ…」
「最初から素直に話せ。」

私から身体を起こして見下ろしてる…
何とか思い止まってくれたらしい…良かった…ちょっとホッとした。

「……だって…」
「だって?」
「………」
「智鶴?」
「あんっ!」

それで黙ってたらムギュっと胸を軽く揉まれた。

「わ…わかりましたから…待って…」
「………」

「………レンジさんに……会えなかったから…」

仕方なく…渋々と話し出す…

「ん?」
「撮影でずっと忙しくて会えなかったから…せめて映像でって思って…
あの時は記者会見…見れなかったから…そ…それで記者会見見たら
レンジさんがとっても素敵で…そしたら何度も何度も見たくなって……それで…」
「なら別に隠す必要なんてねぇだろう。」

「こっそり見るのが楽しくて…」

「あぁ?」

「編み物しながら…自分1人でレンジさん独り占めしてるみたいで…嬉しかったから…」

「智鶴…」

「だってレンジさんが全国の人に向かって私との事話してるなんて信じられなくて…
堂々と言ってくれてたから…嬉しくて…だからこのDVDは私の宝物なんです。」

真っ赤になりながら智鶴が一生懸命説明するのを眺めてまた俺の胸に衝撃が走る。
俺にとってあの記者会見はけじめの様なものだったんだが…
智鶴にとってはまったく違った意味があったんだな…

「素敵だったか?」
「え?」

レンジさんが優しい眼差しで私を見つめてくれてる…

「……はい。レンジさんとっても素敵でした。」

私は正直に自分が思ってる事をレンジさんに伝える…だって本当にレンジさんは素敵だったもん。
今も…いつも素敵だけど…

「じゃあ俺もその智鶴の気持ちに応えなきゃな。」

「え?」

それはどういう…?

「本当に智鶴は可愛い女だな…」
「……レンジさん…」

レンジさんはそう言うと私の頬を優しく撫でて…そのまままた私の顎に指を掛けて
自分の方に向かせると今度は深い深い…気持ちのこもったキスを長い時間してくれた…

「ふ……んっ……」
「智鶴…好きだ…」

レンジさんが囁く様に私の耳元でそう言ってくれた…
私はそんなレンジさんの言葉とキスで訳がわからなくなっちゃう…

「レンジさん…私も…好き…です…大好き…」

時々離れるお互いの唇の合間をぬって私も自分の気持ちをレンジさんに伝える……
そう言うとレンジさんが優しく微笑んだ気がした…

「あ…え?レンジさん?」

上着が胸の上まで捲くり上げられる。
私は両手を自分の頭の上にレンジさんの手で押さえつけられたままだから抵抗出来なくて…

「たっぷり時間掛けて俺の気持ち受け取ってもらうからな智鶴。」
「へ?あ…あの…話したら止めてくれるんじゃ…?」
「追求するのは止めてやる。こっからは俺の気持ちだ。」
「ええ?」
「しっかり受け取れよ智鶴。」
「あの…なんか…顔が嬉しそうです…」
「そりゃ嬉しいからだろ。好きな女に素敵なんて言われりゃ誰だって気分が良いもんだろ。」
「………」

確かにそうかもしれませんけど…でも……

「せっかく…コーヒー淹れましたし…」

私は何とかレンジさんの気を逸らそうとそんな事も言ってみるけどまったく効果なしみたいで…

「ああ…冷めちまって勿体ねぇな…」

そんな事を言いながらテキパキと私から着ているものを脱がしていくレンジさん…

「あの…あの…あっ!アンッ!!」


諦めて 「加減して下さい」 と言う言葉はついに言えないまま…

せっかく淹れたコーヒーは…朝までリビングのテーブルの上に置かれたままだった……




「そんなに緊張すんな。」

「で…でも…」


レンジさんはそう言うけど…緊張するななんて言う方が無理で…

あれから数日後…今…私の目の前には…

『鏡 篤志』 っていう表札がでーん!!と言う音が聞えそうなくらいに堂々と掲げられてる…

そんな玄関の前に立ってるんですもん!!





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