「本当はね…女の子が欲しかったのよねぇ…」
お義母様が箸を止めて溜息混じりに呟く。
あの後…額を冷やしてからお義父様が持って来てくれた冷えピタを額にはって夕食を食べてる。
(湿布は沁みるかもしれないからってやめたの。)
本当はお手伝いしたかったのに怪我に障るからってあんまり手伝わせてもらえなかった…
本当に情けないな…
「一人息子を目の前にして良くそんな事が言えるな。」
そんな事を言いながらレンジさんがお義母様に呆れた眼差しを向けたから…
も〜〜レンジさんってば!
「だったらもう1人でも2人でも産めば良かっただろ。」
「仕方ないじゃない何でだか出来なかったんですもん。ね!お父さん!」
「…ぐっ!……ああ…」
お義父様…そんなに焦らなくても…
「もう今更だろ。俺は別に1人っ子でも全然平気だった。」
「そう?智鶴さんの所は?ご兄弟は?」
「兄が1人…」
お騒がせ兄貴だけどな…俺は智鶴の兄貴が来てた時を思い出して嫌な気分になる。
はぁ…3人にわからない様に溜息をついた。
「漣迩はあちらのご両親には会ったのか?」
「ああ…先週。」
そう…レンジさんのお家に伺う前に実はウチの両親にレンジさんはちゃんと挨拶に行ってくれた。
「初めまして。ご挨拶が遅くなりましたが鏡漣迩と申します。
智鶴さんとは結婚を前提にお付き合いさせて頂いてます。」
そう言ってレンジさんはちゃんと畳に両手をついて私のお父さんとお母さんに頭を下げてくれた。
「本来なら先にご挨拶に伺わなければいけないところでしたのに
自分の仕事柄お2人にはご心配をお掛けしました。」
「…………」
ひゃあ〜〜〜〜〜〜レ…レンジさんが…レンジさんが……標準語で…話してます!!
って違う!!
私の両親に挨拶してくれてます!!!
落ち着いたグレーのスーツに身を固めて…とっても素敵!!
レンジさんがそんな事をしてると本当にドラマのワンシーンみたいに思える。
ただ…普通のサラリーマンには見えない様な気がするのはちょっとこっちに置いておいて…
(本当は仁侠映画に出てくる切れ者の若頭って感じに見えなくもない事はレンジさんには内緒です。)
夢?夢ですか??そんなはず…もう私の方が舞い上がっちゃって…
思考回路がショート寸前ですぅーーーー
「……ふぅ……」
あまりの緊張と嬉しさで私は小さな息をついた。
「智鶴から話しを聞いた時は驚きましたが…こうやってご本人とお会いすると
本当の事なんだと改めて納得しますよ。」
「お父さん私の言ってる事全然信じてくれないんだもの…」
何度言っても 『冗談だろ?』 って信じてくれなかった。
週刊誌も見てなかったみたいだし…
「まさか自分の娘がテレビで活躍してる俳優さんとお付き合いしてるなんて信じられる訳ないだろ。」
「そうよ。それがいきなり 『鏡レンジ』 さんとだなんて…
でもテレビでも素敵ですけど実物も素敵でらっしゃって…」
お母さんが頬を赤らめながらそんな事を言う。
そうでしょ ♪ そうでしょ ♪ レンジさんってば男前だもの。
「恐縮です。」
そう言って優しくお母さんに微笑む。
「ふふ…」
お母さんもニッコリ。
もしかしてレンジさんってば 「マダム・キラー」 ?
初めて会った智鶴の両親は智鶴に似た雰囲気を持つ親だった。
父親は会社員で身体つきは細身で白髪が頭に目立つ。
母親は智鶴よりも背が低い…確か専業主婦と言ってたな。
智鶴から感じるホンワカとした雰囲気はこの2人だからなのか…
とりあえず一通りのお互いの挨拶を終えてホッと一息ついた。
先に週刊誌に智鶴との事をすっぱ抜かれてその事で何か言われると思ったが
話しはその後の記者会見の話しになってくれて助かった。
あの告白事件はその後の「仲村留美」の父親の記者会見で俺との間は何も無かったと
納得してくれてて…そこはウチの社長に感謝する。
「そう言えば敦(tutomu)がご迷惑をお掛けしたみたいで…」
「は?ああ…」
「どうもアレは少し智鶴に対して過保護な所があって…私達が言ってもどうにも
自分の意志を曲げなくて…きっと鏡さんにご迷惑掛けたんではないですか?」
「いえ…そんな事は…」
フッ…一応智鶴の兄貴だからな…立てといてやる。
「そう言えばこの前敦が彼女を連れて来たのよ ♪ 」
「そうそう…しっかりした人だったな。あの敦が大人しかったよ。」
確かに…既に尻に敷かれてそうだったしな…
「敦達も結婚を前提に付き合ってるって言ってたな。」
「そうね。一緒に暮らしてるらしいし…あなた達は?」
「え?」
「だって結婚まで考えてるんでしょう?
まあだからって一緒に住む必要も無いって言えばないんだけど…」
「その事なんですが…」
レンジさんが切り出した。
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