Love You !



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「智鶴。」
「はい。」

レンジさんのご両親と会ってから数日後の朝……

「ちょっといいか?」
「はい?」

レンジさんが出勤する前にリビングのソファに私を呼んだ。

「智鶴…」
「はい…」

ソファに座ってるレンジさんの横に身体はレンジさんに向かい合う様に座った。
レンジさんが何となく言いにくそうにしてる…何だろう?

「あの…」
「ん?」
「私…何かしましたか?」
「は?」
「だって…何だかレンジさん言い難そうだから…ああっ!!」
「なっ…何だ??」

私が急に大きな声を出したからレンジさんがビックリしてる。

「も…もしかして…レンジさんのご両親がやっぱり結婚反対…とか?」

智鶴がいきなりそんな事を言い出した。

「何でそうなるんだよ…んなわけあるか。それに反対されたって俺は智鶴と結婚する。」

「!!………はい…」

俺のそんな言葉に智鶴が顔を赤くして俯く。

うっ…やべぇ…可愛いじゃねーか……
未だに俺は智鶴のそう言う 「可愛い」 と思える仕草に免疫が出来ないらしい…

ホント…胸のど真ん中にストレートパンチを叩き込まれた様に衝撃を食らう。
しかも 「赤面」 と言うおまけまで付いてくる…まったく…

って…今はそんな事じゃねーんだよ!!!

「………あーー」
「?」
「今夜…この前のドラマの撮影の打ち上げがある。」
「え?そうなんですか?」
「本当ならもう少し前にやるもんなんだが…共演者のスケジュールとかで今日になっちまったんだが…」
「じゃあ今日は夕飯いりませんね。」
「ああ…」
「わかりました。」

そう返事をして智鶴が立ち上がろうとする。

「智鶴!」
「はい?」

そんな智鶴の腕を掴んで引き止めると智鶴がちょっとビックリした顔をした。

「まだ…話は終わってねぇ…」
「………」

私はそんなレンジさんをじっと見下ろしてた…
だって…レンジさんの態度がいつもと違うから…本当にどんな話なんだろう?
もしかして…何か私に秘密にしてることがあるとか?
結婚前にちゃんと話そうとか決意したのかも……

「あ!」
「なんだ?」

さっきと同じ様にソファに座るとまた智鶴がわかりました!って顔しやがる…
ただ智鶴のそんなのが当たったためしがねぇ…

「か…」
「?」
「隠し子……ですか?…やんっ!!」

真面目な顔でそんな事を言ってくる智鶴の額に無言で軽くデコピンだ!

「んなわけねーだろ!一体どんな目で俺を見てる?智鶴!」
「だって……レンジさんがなかなか言ってくれないから……」

智鶴が額を両手で擦りながらそんな事を言う…
ってか飛躍しすぎだろう?なんで隠し子なんだよ!!

「…………今夜…」
「今夜?」
「無理して見なくていいぞ。」
「え?」
「………ドラマ…」
「あ!そう言えば今夜最終回なんですよね ♪」

レンジさんがエリート会社員役で出てたドラマが今日最終回を迎える…
犬猿の仲だった主役の2人…
レンジさんと兎束さんがやっとお互いの気持ちに気付いて結ばれる結末…

「お疲れ様でした。やっぱりハッピーエンドって良いですよね ♪ 」
「……ああ…そうだな…」
「え?違うんですか?ハッピーエンドじゃないんですか?」
「は?あ…いや…まあ詳しい事は話せねぇが…きっと智鶴が想像してる通りだ。」
「本当ですか?良かった。」
「………で…だな…」
「はい?」
「…………」

俺から話の結末が円満で終わる事を知って智鶴はニコニコだ…

「…………」
「レンジさん?」

どう…言えば良い??

『今日の放送でキスシーンがあるが気にするな。』

だよな?これが一番簡潔だよな?

「?」

「…………」

言ったら…智鶴はどんな顔をするんだ……

「レンジさん?」
「………智鶴…」
「はい?どうしたんですか?」
「……今日の放送で……相手役の兎束とキスシーンがある…」
「……え?」
「だから…無理して見なくていいぞ…」
「……でも…」

今まで付き合ってた相手にそんな気を使った事なんか無かった…
俺は役者でそれが仕事で…別に自分から意図的にやってるわけじゃなく…
ちゃんと台本があってセリフがあって…架空の設定での話しだし…

演じてる自分が演じてる相手とした事なんだが…

今回だけは…どうもいつもと気持ちが違う……

「……智鶴?」
「……は…い?」
「大丈夫…か?」

やっぱり気になるのか…智鶴は心ここに有らずって感じだ。

「え?……あ…いえ…はい…や…やですよぉ…大丈夫ですよ。はい!」
「本当か?」
「はい。だってそれがレンジさんのお仕事じゃないですか。私は大丈夫です。」
「……そうか?」
「だってあのお話の流れだとそう言う場面って必然じゃないですか。
無い方が見てる皆さん納得しないんじゃないですか?」
「…………智鶴…」
「本当に大丈夫ですから!これからだってそんなシーンあると思いますし
その度に気にしてたら役者さんの奥さんやっていけませんよ。」
「……無理…してねぇか?」

レンジさんが心配そうに私の顔を覗き込む。

「む…無理なんてしてないです。これでも 『鏡 レンジ』 の奥さんになるんですよ!
それなりの覚悟はしてますから。」
「そうか?ならいいが…ホントマジで気にするなよ。仕事なんだからな!仕事!」
「わかってます。本当に大丈夫ですから。私も結末楽しみにしてるんですから。
ってレンジさんは見ないんですか?」
「会場で皆で見るらしい。」
「そうなんですか…あ…ごめんなさい会社遅れちゃう…」

私はそう言うとレンジさんから視線と顔を逸らして立ち上がった。


『 本当に大丈夫ですから。 』

レンジさんに心配掛けない様にそう言ったけど…

本当はずっとドキドキしてた…
先週の予告ではそんなシーンは映ってなかったからもしかしたらそんなシーンは無いんじゃないか…
なんて淡い期待をしてたんだけど…

レンジさん本人からハッキリ言われて…そんな期待はものの見事に打ち砕かれちゃった…
きっと黙ってるのは悪いと思って言ってくれたんだと思う…でも…

私…そんなシーンを見て…大丈夫かな…

なんて…そんな不安がよぎるのは仕方の無い事なのかな……


そんな不安になってる事はレンジさんに悟られない様に…

私は会社に行く支度を続けてた……





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