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「なんでセロリが?」

智鶴のいないキッチンのテーブルの上にどう言う訳だか 『セロリ』 が1本置かれてた。






「はあ…」

私は1人レンジさんのマンションから少し離れた駅前の喫茶店で冷めたコーヒーを眺めながら
もう何度目かの溜息をついた。

「レンジさん起きたかしら…」

思わず…飛び出しちゃった……だって…だって……レンジさんヒドイです……

昨夜は打ち上げだって言ってた…きっと女性のスタッフさんや女優さんもいたんだろうなって思う…

「はあ〜〜」

相手は誰なんだろう…まだ洋服だけなら我慢出来た…でも…



「ふぁ……」

目が覚めて時計を見たらもう朝の8時近かった。

「うそ…もうこんな時間…」

確かに今日は仕事がお休みだけどこんな時間まで寝てたなんて珍しい。
身体にはまだレンジさんの腕が廻されてて背中越しに見たら気持ち良さそうに眠ってる
レンジさんの顔が目の前にあった。

「おはようございます…レンジさん…」

呟く様にレンジさんに朝の挨拶をして起こさない様に慎重にレンジさんの腕から滑り出て
ベッドから出た。

きっとレンジさんはまだ起きないだろうな…なんて思う。
だって帰って来た時あんなに酔ってたから…

「先に洗濯しちゃおう。その後ご飯の支度して……」

ベッドの足元の方に乗ってたレンジさんの洋服をまとめて掴んで洗面所に持って行く。
抱えてるだけでタバコの臭いがにおって来る…

「きっと盛り上がったんだろうな……レンジさんもあのドラマ見たのかしら…
でも皆で見るって言ってたから見たのよね……」

どう…切り出そうかしら…レンジさんから言い出してくれるかな…

「ふう……」

疲れじゃない溜息をついて洗濯機の蓋を開ける。

一応素材を確めて洗濯機の中に入れていく。

「ぽいぽいっと……あ…」

レンジさんの昨日着て白いワイシャツ……
タバコ臭くなかったら…いつもみたいに頬擦りしちゃうのにな……ってレンジさんには内緒!

「……ん?」

洗濯機に投げ込む寸前でふと何かが目に留まった…
それは本当に勘としか言い様のない……それって女の勘だったのか…

「………こ…これ……って……」

レンジさんの白いワイシャツをピン!と引っ張ってその場所をじっと見つめる……
ちょうどレンジさんの胸の辺り……

「…………」

一応何度か目をパチパチと瞬きしてみた……けどそれは消えて無くなる事はなくて……
そうよね?何度見ても……そうよね???
これって……これって………

「く……口紅???」



パタパタと問題のレンジさんのワイシャツを掴んで寝室に向かう。
でも…寝室のドアの前で立ち止まった……

どうしよう……

やっぱり…これは問い質すべき?
それとも…見て見なかった事にするべきなのかな?

どうするの私!!どうする??どうする??

寝室のドアの前で悩むこと数分……でも私は意を決して寝室のドアを開けた。


問い質すとかじゃなくてただ単にレンジさんの傍に行きたかっただけで…
1人で考えても上手くまとまらなかったから……

ベッドの中のレンジさんはまだ眠ってる…気持ち良さそう……

浮気なんて……してないですよね?レンジさんに限ってそんな事……

レンジさんの寝顔を見ながら起こしてまで問い質すのは止めようと思った。
普通に…起きて来たら…聞いてみようと思う……

『こんなのがついてたんですけど一体どう言う事ですか?フフ…』

って最後に笑うのは怖いかしら??
顔…引き攣ったりしないで聞けるかな??

「……ん……」

レンジさんがモソっとして寝返りをうった。
私の方に背を向ける形で今まで下になってた身体が反転して上に来る。

「!!!」

う……そ…………

今度も目の錯覚だったら良かったのに…
なんてことを1人で思ってた……

このワイシャツについてる口紅と同じ色の口紅が…
寝返りをうったレンジさんの首筋にバッチリとついてる!!!どうして??

「…………」

私は眩暈がして…思わず後ろによろめいた。
でも何とか踏ん張って堪えると持ってたワイシャツを更に強く握り締めた。

そしてそのまま静かに寝室を後にした……

「…………」


その後の行動は自分では曖昧で後からレンジさんにあのワイシャツが
洗濯機の前の床に広げられて置いてあったって聞いてビックリするやら
恥ずかしいやら気まずいやら…気が動転してたと言う事で許してもらうしか…

そんな事をした後キッチンでぼーっと佇んでた。

「買い物……」

ふとそんな事を思った。
そう言えばお味噌が残り少なかったんだ…タマゴもあったかしら?
アレはコレは?なんてブツブツ言いながらバックを持って玄関を出た。

早朝から夜遅くまで開いてる近くのスーパーに向かって歩く。
ああ今の世の中なんて便利になったのかしら…なんて現実逃避してたらしい。

スーパーに入って買い物カゴを掴む。
入って直ぐに野菜コーナーがあって何となく見てたらセロリが視界に入った。

「セロリ……」

レンジさんが嫌いなセロリ…レンジさんが唯一食べれないもの…
だから今まで料理に使ったこともない……

そんな事を思いながら……でも私の手は目の前にあるそのセロリを掴んでた。

他に何も買わなかった…ただセロリだけを買った。

その買ったセロリをキッチンのテーブルの上に置いた……

そしてそのまま家を出た。





「なんでセロリが?」

智鶴のいないキッチンのテーブルの上にどう言う訳だか 『セロリ』 が1本置かれてた。

今までの智鶴の料理でセロリは出て来た事なんかねえ…それはどうしてかなんて一目瞭然だ。
俺の唯一食べれねえ食べ物が 『セロリ 』だからだ。

「それがなんでテーブルに乗ってる?」

しかもどう見てもワザとで…置かれてる意味がわからねえ…

「昨夜俺…何かしたのか?」

確かに酔って帰って来た…
盛り上がって結構な勢いで酒飲んで…だが記憶は飛んでねえ…
誰かの運転でここまで帰って来て…智鶴は寝てたな…それでとりあえず着替えて寝たんだよ。

先に寝てた智鶴を抱き寄せて昨夜は何もせずに大人しく寝た…
よな?やっぱ何もしてねえよな?俺…

とにかく智鶴の携帯に電話だ。

『お掛けになった番号は…』
「………」

………なんで電源切ってる?

「チッ!」

仕方なく携帯を閉じて浴室に向かう。
シャワー浴びてスッキリしてからだ!ゆっくり考えるのは…

「 う″ っ !! 」

浴室に繋がる洗面所のドアを開けて思わず固まる。

「こっ…これは!」

頭から血の気が引いた…嫌な汗が身体全体に吹き出して来た…

「………」

洗面所の床に俺が昨夜着てた服が広げられて置かれてた!
しかもちょうど左胸の少し下の所に…これはどう見ても……口紅!?

「なっ!何でだ!?いつの間に???」

昨夜の事を思い出す……ってダメだ…いつつけられたのか思いだせねえ!

「げっ!!」

何気に視線が行った洗面台の鏡に映った自分の姿を見て驚いた!

「何でこんな……」

掠れてはいるが……どう見てもそれは……原型を留めてる…唇の形の口紅が……

俺の首についてんじゃねーかっっ!!なんでだ?!


セロリが1本置かれてた理由と智鶴がいない原因………

認めたくねえが………コレかぁーーーーっっ!!!





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