Love You !



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「飛田〜〜〜〜ちょっとこっち来て!!」

楠さんがレンジさんと一緒に写ってた女優さんに会わせてくれるって言って
撮影現場に連れて来てくれて……今私の目の前に立ってる。
心臓がドキドキ…痛いくらい……私は俯いてた顔を上げた。

「楠さん帰ってたんだ。でもまだ撮影始まんないよ〜何だか撮影機材の調子が悪いんだって」
「そうなんだ。じゃあまだ時間あるんだ…良かった」
「また押しちゃうじゃん……今日帰れっかな〜」
「………」

この人が……飛田…さん?

「ん?楠さんこの人誰?」

目の前で呆けてた私を見て遠慮がちに楠さんに尋ねる。

「レンジの彼女…ああ!今はフィアンセだよね」

そう言ってニッコリと微笑んだ。

「フィ…フィアンセ!?」

いきなりそんな事言われて私は焦っちゃう!!って今はそんな事で焦ってる場合じゃ!!

「あ……あの……楠さん?」
「え?ああ……」

そう言うとポケットから携帯を取り出してあの写真を表示させる。
それを目の前に立ってる飛田さんと言う人の顔の横に画面を私の方に向けて並べると
私の方を向いてまたニッコリと笑う。

「彼女」
「へ?」
「?」

楠さんは微笑んだまま…私は間抜けな声を出して飛田さんはハテナ?みたいな顔をしてた。

だって……私の目の前にいるこの人……男の人よね?どう見ても男性……ですよね?
年齢は写ってる人と同じ位の若い方ですが……スーツ姿だし……

「え?なんですか?」

言いながら飛田さんが楠さんの持ってる携帯を覗き込む。

「ああーーーーっっ!!ちょっと!!楠さんこれ!!」
「良く撮れてるだろう ♪」
「撮れてるって……鏡さんとツーショットじゃないですかーーー!!いつの間に……」
「帰る時一緒の車に押し込んだだろう?そしたらいつの間にかこんな事になっててさ。
こんなツーショット滅多に無いしいつかレンジをからかうネタにしてやろうと思ってたんだけど……」

そう言って私の方を見てクスリと笑う。

「あ!」

飛田さんも気付いたみたい。

「ごめんね智鶴ちゃん辛い思いさせちゃったみたいで」
「え?あ…その……そんな……って言う事は……この女の人……」
「そうオレの女装した姿で〜〜〜す ♪」
「ええーーーー!!」

う……うそ……だってどう見ても携帯に写ってるのは女の人にしか見えない……
こんな綺麗なのに……この女の人が……彼?
私は飛田さんと携帯の画面を交互に何度も見直しちゃった。

「メイクの力って凄いよね。それに皆酔ってたから余計判断つかなかったみたいでさ ♪」

飛田さんがニッコリと笑う。

「はあ……」
「打ち上げってのもあってちょっとしたサプライズっぽかったんだけどね。
レンジの奴よっぽど酔ってたらしくて憶えてないらしい」

今度は楠さんがニッコリ笑う。

「サプライズって言うかあれは罰ゲームっぽかったですよ〜〜
嫌がるオレにあんな格好させて……オレお婿に行けないですよ〜〜」
「だって女装でイケそうなの飛田くらいじゃん。見事皆騙されたしお前だって結構ノリノリだったくせに」
「まあ楽しんだって言えば楽しみましたけどね……しかも飲み過ぎたし……」
「…………」

私はまだマジマジと飛田さんと言う人を見つめてしまう……
確かにお化粧したら女の人でも通じるかも……写真では髪の毛も長かったし……

「で!帰る方向一緒だったからレンジと同じ車にベロベロだった2人を押し込んだんだけど
きっと乗る時とか走ってる時にレンジに口紅がついたんだと思う」
「え?!鏡さんに口紅??マジで?」
「そう首筋とシャツについたらしいよ」
「げーーー!!マジで?やべーーー!!オレ鏡さんに殺されちゃいますよーーー」

真面目に焦ってる飛田さん……そんなにレンジさんって怖い人って思われてるのかしら?

「大丈夫じゃない。今レンジそれどころじゃ無いみたいだし」
「へ?」
「あ!黒柳さん!」

私は今2人が事務所で話し合ってることを思い出した。

「いいのいいの!あんな奴ちょっと焦らせればいいんだよ。恭子さんに喝入れてもらえばいいんだ」

「楠さん?」

私はそんな事を言う楠さんを不思議な気持ちで見上げた。
『今回はオレもちょっとムカついてるし』 そう言えばさっき楠さんそんな事言ってたっけ?

「智鶴ちゃん……ちょっと話そうか?」

楠さんが私の顔を覗き込むとふっと微笑んでそう言った。

「はい……」
「飛田サンキュ!」
「え?ああ……いえ……」
「あ……お忙しい中すみませんでした」

そう言って飛田さんにペコリと頭を下げる。

「い…いえいえこちらこそ……何だかおふざけが迷惑掛けちゃったみたいで……
ホントオレそっちの趣味無いし鏡さんの事も何とも思ってないですし……えっと……」
「わかってます。ありがとうございます」
「わかってもらえたんならいいんだけど……鏡さんとその……仲直り出来るのかな?」

初対面の人なのに気を使わせちゃったみたいで……

「はい。大丈夫です」
「そ?良かった……じゃ楠さんまた後で」
「ああ……サンキュ!」

そう挨拶を交わして飛田さんはスタッフのいる方に戻って行った。

「ビックリした?」
「はい……でも役者さんって凄いんですね……女の人にもなれちゃうなんて……」

本当にビックリ!

「まあ誰でもって事じゃないだろうけど……飛田は顔つきも女で通用しそうだったからね」
「皆さん気付かなかったんですか?」
「所々でバラしてたんだけどね……わからないで終わった人もいるんじゃないかな?
その内の1人がレンジだけどね。結構酔ってたし……」
「はあ……」

そう言えば帰って来たレンジさん大分酔いが廻ってたものね……

「レンジが酒にのまれるってあんまり無いんだけどね」
「お酒強そうですもんね……きっとドラマが終わってホッとしたんですかね」
「きっと違うと思うよ」
「え?」
「あっちで座って話そうか?」

そう言って向けた視線の先には大きな木の下にテーブルとベンチが何対かあった。
どうやら撮影での休憩場所になってるらしくテーブルの上や周りには色々な機材や荷物が置かれてた。

「昨夜は1人でレンジのドラマ見たの?」

急に楠さんがそんな話をするから最初は何の事を言ってるのかわからなかった。

「え?あ……はい……」
「話は……聞いてた?」
「え?」

いつもの明るい感じは無くて真面目な顔で聞かれて……
聞かれたことがキスシーンのことだとやっとわかった。

「はい……レンジさんにそう言うシーンがあるって聞いてました」
「智鶴ちゃんは大丈夫だった?」
「……はい……」
「本当?」
「……ちょっとショックでしたけど……それがレンジさんのお仕事だって思ってますから……」
「無理矢理割り切るしか無いよね……」
「…………」

返事のしようがなくて……黙って俯いちゃった。

「だからレンジに言ったんだ。ちゃんと智鶴ちゃんの事見ててあげなって」
「?」
「オレもね今まで結構キスシーンあったからさ……
由貴も仕事だって割り切ってくれてるらしいんだけどさ……やっぱ気にはなるよね……」
「由貴さんも……ですか?」
「そう……まあ付き合う前からそう言うのバンバン見てから免疫は付いてるみたいだったけど
オレが由貴の事好きって気付いてからはオレの方が気にしちゃってね……」
「楠さんがですか?」
「そう……別に自分は仕事って割り切ってるから良いんだけど由貴がどう思うか気になっちゃって……
由貴ってもの凄い意地っ張りだから気にしてても全然それ表面に出さないからこっちは余計気になるわけ。
智鶴ちゃんみたいに表現してくれたら嬉しいんだけどね ♪」
「え?あ……いえ……そんな……」
「だからオレはそんなシーンの前後は由貴に愛情表現一杯しまくるの ♪」
「!!」

楠さんが今までとは違う笑顔で笑った……それは前由貴さんと一緒にいた時の笑顔……

「本当に好きなのは由貴だからって……気持ちを込めてね ♪
まあそれってオレの自己満足かもしれないけど……でも少しでも由貴には気持ち楽になって欲しいからさ…」
「楠さん……」
「それをね昨夜レンジにも話したんだけどアイツ酔っ払ってて全然話し聞いてないみたいだし。
まあレンジの性格から言ってきっと智鶴ちゃんの大丈夫で安心しきっちゃってると思ってさ」
「え?なんで?」

どうして私が大丈夫って言ったって?

「そう言うしかないもんね……それを真に受けてるレンジにムカついたからあの写真恭子さんに見せたの。
今頃記憶に無いから反論できずに恭子さんに雷落とされてると思うよ ♪」
「!!」

そうだ!レンジさん今頃……

「そろそろレンジの事助けに行こうか?オレとしてはもうちょっとお灸すえられてからで良いと思うんだけど……
智鶴ちゃんが限界っぽいから ♪」
「え?」
「凄い心配そうな顔してる」
「あ……えっと……」

私はちょっと照れ臭くて俯いちゃった……

来た時と同じ様に楠さんの運転する車でレンジさんの事務所に向かってる。

「どうした?」
「え?」
「何か言いたそうな顔してる」
「!!」

ホント楠さんって何だか鋭いと思う……なんでわかっちゃうんだろう……

「本当は……キスシーンよりも気になったことがあるんです……」
「キスシーンよりも?なに?」
「……あの……」
「ん?」
「レンジさんって……その……恋愛に慣れてますよね?」
「え?」
「だって……私の前にも何人かお付き合いした方いらっしゃいますよね?」
「まあ……ね……」

確かにオレが知ってるだけでも5・6人はいるはず……
間空けたりしてるから知り合ってからはそんなに多い方では無いとは思うけど……

「だから……その……私達ってあともう結婚するだけなんですよね……」
「?」
「えっと……お互いの両親にももう会いましたし……一緒にも暮らしてるし……
だからもう余程の何かが無い限り結婚すると思うんです」
「そうだろうね……レンジもそのつもりだと思うよ」

ここまで来てレンジが彼女を手放すとは思えないし……
逆に早く先に進ませたいはず……

「それで……その……だからなんでしょうか……その……最近……えっと……」

ここまで話して肝心なことが恥ずかしくて言えなくなっちゃった……

「…………」
「んっと……その……」

ダメだ!!言えませーーーん!!

「愛情表現が手抜きになった?」

「!!」

楠さんに言い当てられて私はビックリで……
ひゃああああーーーーー!!なんでわかるんですか??楠さん!!!

「ホントわかりやすいな……智鶴ちゃんってば……クスクス」
「あわわわ……えっと……その……」

自分から切り出しといて……こ…こんな……恥ずかしくなるなんて……

「あいつ結構人の気持ち察するんだけど自分の事に関しては時々鈍感だからね。
レンジ自身はこれっぽっちも気付いてないと思うよ。智鶴ちゃんがそんな風に思ってるなんて」
「そ…そうですか?」
「レンジ付き合った経験はそれなりにあるだろうけど中身の濃さはどうかな?」
「濃さ……ですか?」
「相手任せが多かったんじゃないかな。だから自分から動かなきゃいけない智鶴ちゃんとの関係は
レンジにも初めての事多い気がする」
「そう……ですか?」

レンジさんが……初めて体験する事が多い?本当?

「レンジにはハッキリ言った方がいいよ。あいつハッキリ言われないとわからないから」
「ハッキリ……ですか?」
「そう……でもきっと悪い様にはならないと思うけどな……レンジ智鶴ちゃんの事好きで好きで仕方ない筈だから」
「えっ!?そ…そんな……」
「だってさ付き合い始めた頃智鶴ちゃんに電話掛けるのに何十分も携帯と睨めっこしてたんだから」
「!!」

本当に?そんな事あったの??
でも楠さんが言うんだから……本当のこと?

「今回もきっと気になりながらどうしていいかわからなかったんだと思うよ」
「そうですか?」
「だってレンジだから。あいつ見た目あんなだけど純情だからね。不器用だし……
だからからかうと面白いんだ ♪」

そう言って楠さんは本当に嬉しそうに笑った……


レンジさんの事務所に着いて楠さんと2人でエレベーターで上に上がる。
ドアの空いた部屋から聞き覚えのある声が聞えて来た。

「フン!いい訳も出来ないって事はハッキリ否定できる自信が無いってことだろう?
いい加減認めろって言ってんだよ!」
「だから俺はこんな女知らねぇっつってんだろうがっ!!」
「じゃあなんでこんな写真が存在するんだよ!!シカトすんじゃねー!!
ったく無防備にもこんな写真撮られやがって!自覚が足んねーんだ!」

もの凄い剣幕の黒柳さんの声とレンジさんの声が廊下にまで響いてる。

「レンジさん!!」

私は2人の声のする部屋に飛び込んだ。







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