Love You !



69




楠さんが帰った後…レンジさんは黒柳さんに散々嫌味を言われ小言も言われ……

でもレンジさんはずっと黙って全部を聞いていた……

ピクピクと眉と頬が最後まで引き攣ってたけど……


「今日は歩いて帰るぞ」
「え?」

レンジさんと事務所の入口から出るとそう言って私の目の前に手を差し出した。

こうやって外で……レンジさんと手を繋いで歩くなんて珍しい……

「早くしろ」
「はい……」

私は嬉しさ半分恥ずかしさ半分で……でもやっぱり嬉しくて差し出されたレンジさんの手を握った。

「…………」

大きくてあったかくて……
大好きなレンジさんの手をぎゅっと握るとレンジさんもちょっと力を込めて握り返してくれた。

家を出た時はあんなに苦しかった胸も今はホンワカと暖かさが生まれてる……

「あの…車は?」

きっと車でここまで来たはずなのに……

「事務所に置いて行く。明日にでも取りに来ればいい」
「はい……」

何だか……いつもと違う雰囲気……
でも歩く速度は私に合わせてくれてて……

しばらく2人で歩いて都心の真ん中に設けられてる緑が大半を占める大きな公園に辿り着いた。
公園の中にはまだサラリーマン風の人やジョギングをする人やら十代らしきカップルもいたり…

私達はそんな公園の淡い茶色のレンガで造られた遊歩道を手を繋いで歩いてる。

「レンジさん?」
「あぁ?」
「まだ……怒ってますか?」
「……怒ってるのは……智鶴の方じゃねーのか?」
「え?」
「……セロリに……ワイシャツが洗面所の床に広げてあったぞ」
「…………あっ!!」

そうだ!!私……怒りに任せてそんな事を……

「あ…あの時はその……普通じゃなかったというか……えっと……その……」
「智鶴がムカつくの当然だよな……俺だって智鶴の首にキスマークなんて付いてたら怒りまくる」
「私に……ですか?」

その時の状況を想像してちょっと怖くなる。

「いや……つけた相手に……だ……」
「レンジさん……」
「智鶴には……きっとショックで何も言えねぇかもしれねぇな……
つけられた理由にもよるだろうけどな……」
「理由?」
「愛想を尽かされて他に好きな奴が智鶴に出来た時……」
「レンジさん!!」
「記憶が無かったからな……今回ちょっと自分では焦った」
「え?」
「智鶴が怒ってこのまま許してもらえなかったら俺はどうしたらいいんだろうってな……」
「レンジさん……」
「智鶴は俺を許してくれるのか?」
「ゆ…許すも何もレンジさんは何もしてないじゃないですか!酔ってても傍にいた飛田さんに何もしなかったし!」
「酔い潰れてたってのもあるが……飛田に手を出してたら自分で自分が許せねえよ……」

2つの理由でな……

「これからはお酒……ほどほどにして下さいね」
「ああ……昨夜はちょっと色々あったからな……飲み過ぎた」
「色々?」
「……本当は智鶴にはあの最終回は見せない方が良かったのかとか……
一緒にいなくて本当に大丈夫なのかとか……いくら仕事でもやっぱり他の女とキスしたのが
許せないんじゃないのかとか……まあ色々だ……」

「レンジさん……」

そんなに色々考えてくれてたんですか……

「私…あのキスシーンは別に何とも思ってませんよ……
まあまったくショックじゃないと言えばウソになりますけど……」
「やっぱりショックなんじゃねーか」
「そうですけど……でもドラマのお話の流れからいったら必要なシーンでしたし…
それがレンジさんのお仕事ですし…それに……」
「それに?」
「………です……」
「ん?」

智鶴が俯いて小さな声で何かを言った……だがあんまりにも小さな声で聞こえねえ。

「智鶴?」

俯いてる智鶴の顔を覗き込む。

「それに……やっぱり……レンジさんは……かっこよかったです……」

「智鶴……」
「うぅ……」

きゅううと顔が赤くなるのがわかる。

「ひゃああああ〜〜〜」
「智鶴?」

智鶴がいきなり変な声を出してその場にうずくまる。

「だ…大丈夫か?智鶴?」

俺も一緒になって智鶴の隣にしゃがんで肩に腕を廻す。

「やぁああ〜〜〜見ないで下さい。は…恥ずかしいですからぁ!!」
「智鶴……」

智鶴が両手で自分の顔を覆って顔をあげねぇ……

「智鶴」

もう一度名前を呼んで顔を隠してる両手を掴んで離す。

「智鶴……」
「レンジさん……」
「スゲエ顔だな……真っ赤っかだぞ」
「だって……」
「ありがとう……智鶴」
「え?」
「俺の事褒めてくれたじゃねーか」
「あ……はい……」

レンジさんがニッコリ笑って私の頭を優しく撫でてくれた。

「レンジさん……」
「たまには外で食って帰るか。その後久しぶりに飲んでいかねぇか?」
「え?」
「嫌か?」
「いいえ!嬉しいです ♪」

私は元気に返事をして本当に嬉しかったからニッコリと笑って頷いた。



「ここ……」

夕飯を食べてお酒を飲むために向かったお店は……

「あの日以来て無かったからな」
「…………」

私は言葉も出ずに目の前にあるお店をじっと見つめてた……
ここは……レンジさんと初めて会ったカフェバーだ……

「いらっしゃいませ」

バーテンダーさんの静かで落ち着いた声で迎えられた。
まだ時間が早いせいかあまり人はいない。
迷わずカウンターに2人で座る。

「懐かしいな……確かこの席だったな」
「そうですね……って私最後の方は全然おぼえてないんですけど……」
「俺が店に来た時はもう智鶴は完璧出来上がってたよな」
「へ?そ…そうでした?」
「ああ…もうベロベロだった。良く他の野郎にお持ち帰りされなかったな」
「お持ち帰り?ですか?」
「あんだけ酔ってたら狙われ放題だっただろう?」
「さあ?覚えてません……」
「ったく……」

「お待たせ致しました」

目の前に注文したお酒が置かれるとお互いグラスを持ってカチンと合わせる。

「何だか変な感じです。あの時謙吾さんにフラれてここにお酒を飲みに来なかったら
レンジさんに会えませんでした」
「俺も美佐にフラれてなかったらここで飲んだりしなかっただろうな」
「………」
「?」

智鶴が急にムスッとして真っ正面を向きながらグラスの酒をチビチビ飲み始めた。

「智鶴?何だもう酔ったか」
「ち…違います!!」
「じゃあなんだ?」
「別に……」

まさかレンジさんが元カノさんの名前を呼んだからちょっとムッと来たなんで言えないです…

そんな事を思いながらグイッと一気にグラスの中のお酒を飲んだ。

「おい…そんなに急ピッチで飲まなくてもいいだろう?また潰れるぞ」
「そうなったらまたレンジさんが私のことお持ち帰りして下さいね」
「は?別にあの時も最初からお持ち帰りしようと思ってた訳じゃねぇぞ」
「そうなんですか?」
「………」

ちょっとだけ首を傾げながらほんのりと淡いピンク色に染まった頬で智鶴が俺を見る。

だから!その仕草と顔は反則だっての!!
自覚してねぇのが始末に悪い!!

「まあ放っておけなかったのは事実だが……でも智鶴も何で俺について来たんだ?
酒が入ってて話が盛り上がったのは確かだが……俺が怖くなかったのか?怪しいとか思わなかったのか?」
「そんな事全然思いませんでしたよ。まあ酔ってたのもありますけど……」
「ああ……そうか……」

酔ってて判断力が鈍ってたからか……だよな……ホントベロベロだったしな……

「でも…」
「ん?」
「レンジさんあの時私のこと褒めてくれたでしょ……」
「んん?」

褒めた?
あの時の会話を記憶の奥の方から引っ張り出す。
元カレに散々な事言われたってのを俺はそれを全部智鶴のいい所だ!
みたいな話しだったか?

健気な女だな〜なんて思ったのは事実だし……

「今まで男の人に煙たがれてた事をレンジさんが全部褒めてくれたから……」

そう言ってまた淡いピンク色に染まった頬でニッコリと微笑む。

だから……その笑顔は俺にとってストレートパンチを繰り出された様に鳩尾に決まるんだっつーの!

「智鶴」
「はい?」
「帰るぞ」
「はい?って……え?もうですか?」

そう言うとレンジさんは早々に席を立って支払いを済ませた。
どうして?来たばっかりなのに……

いつもとは違うちょっと乱暴な素振りで私の手を握りしめたままサッサと歩く。
その速さは私にはちょっと速くて小走りになりながらついて行く……

「あ…あのレンジさん!!」
「あぁ?」

大通りまで出てタクシーを捕まえようとしてるレンジさんに向かって声を掛けた。
だって……

「あの……私何か怒らせちゃいましたか?」
「?」
「だって急に帰るなんて……」

ほろ酔いだった気分はいっぺんに醒めちゃって……思わず俯いた。

「違う」
「え?あっ!」

グイッと繋いでた手を引っ張られてレンジさんの胸にポスン!と納まった。

『今すぐ……智鶴を抱きてえ……』

「!!」

そんな言葉をレンジさんが私の耳元で囁いた。
それはそれは今までで……とっても優しくて……でもとっても艶やかな……甘い声……

私はほろ酔い気分の時以上に顔が真っ赤になる。
そんな私をレンジさんはクスリと笑って……そして……

「ちゅっ ♪」

こんな時なのに……唇じゃなくて……私の額にキスをした。


後から聞いたらあの時唇にキスしたら家までもたなかったからって……

「流石にタクシーの中でなんて嫌だろ?」

なんてとっても怖い話をしてくれた。

一体どんな事をしようとしてたんですか?レンジさん!!


きっと私は抵抗出来ないと予想出来たのでなんで額にキスなの?と思った自分を反省して……

その場でどうして唇にしてくれないのかと聞かなくて良かったと思った。







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