Love You !



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「良く食えるな」
「そうですか?サクサクしてて美味しいですよ」

怒りに任せて買ったセロリを智鶴がカリカリと食ってる……

口紅のついたワイシャツは結局洗ったくらいじゃ落ちなかったが
別に何が何でも口紅を落とそうなんて思ってねえから何の躊躇も無く捨てた。

ただセロリは食いもんだし捨てるのは勿体ないと智鶴が食べることになって
今目の前で食べてるってわけだ。

自分の責任で!と言い切ってたが……


「お料理の材料としても使いますけど私は一番シンプルにサラダとして生で!」
「………」

俺はもう何も言えず目の前でセロリを何事も無く強いて言えば美味そうに食ってる
智鶴から視線を外してコーヒーを飲んだ。

モシャモシャと智鶴がサラダを噛む音がする。

「レンジさん」
「ん?」
「1度もセロリ食べたこと無いんですか?」
「何度かはある。本当に仕方なくであとは知らずに食った」
「もしかして酔ってて……ですか?」
「…………」
「図星なんですね?」
「惇の奴が……な……」
「……」

また楠さんですか?

「ぷっ!!」

堪えきれずに思わず吹いちゃった。

「笑うな」
「だって……クスクス……」
「ホントマジムカつく野郎だ」
「本当に仲が良いんですね」
「……嬉しくねえ……」
「食べるとどうにかなっちゃうんですか?」
「いや……ただ苦手なだけだ」

そう呟いてコーヒーを飲んでカップを置いた。

「クスクス」

智鶴がまだ笑ってる……
笑いすぎだろ?まあでもこんな事で笑ってくれるなら悪くは……

「レンジさん」
「ん?」

急に呼ばれて顔を上げると智鶴がにっこりと笑って俺を見てた。
だから俺も笑い返す。

「あ〜ん ♪」

いきなり……本当になんの前触れも無く俺の方に身体を乗り出してそう言った。

「…………」

だから俺も何の警戒も無しに口をあけた。

ポン!
そんな俺の口の中に何か放り込まれた。

「好き嫌いはダメですよ ♪」
「☆△※□〜〜!!!!」

智鶴〜〜!!!何入れたぁ―――!?

「グッ!!」

俺は口を手の平で押さえて智鶴を睨む。
この味この臭いこの感触………セロリ食べさせたな〜〜〜!!!

「智鶴〜〜」
「大丈夫レンジさんなら食べれますよ ♪ ドレッシングたくさんつけてありますから ♪」
「………」

そう言う問題じゃねーだろ?

「はい!噛んで噛んで ♪」

そりゃ確かに食えねぇ事はねえよ……
だがな……苦手っつってるのをこんな騙し討ちみたいに口の中に放り込むなんざ
それなりの覚悟があってやってるんだろうな?智鶴……

仕方なく必要最低限の回数で噛み砕いて無理矢理飲み込んだ。

「食べれましたね ♪」
「まあな……で?」
「はい?」
「苦手なセロリを食べた俺にどんな見返りがあるんだ?」
「え?」
「まさか何も無しか?」

普段は見せない眼差しを智鶴に向ける。
もちろん本気じゃねえが少しは焦ってもらう。

「あ……えっと……じゃあ……」

少しは焦ったらしい……慌てた様に何か考えて思い付いたらしい。

「チュツ ♪」
「!!」

テーブル越に身体を乗り出すと俺の唇に触れるだけのキスをした。

「ご褒美です。これでいいですか?」

智鶴の顔が一気に赤く染まった。
いや身体全体が染まったのか?

「ほう……」
「レンジさん?」
「貸せ」
「え?」
「その残ってるヤツだ」

智鶴の目の前にあるサラダの入ったガラスの容器を見つめる。

「これですか?」
「ああ」

智鶴が一体どうするのかと言う様な顔で俺を見る。

「食うから寄越せ」
「へ?」

智鶴がキョトンとした顔で俺を見る。

「え?食べるんですか?」
「ああ」

戸惑いながらサラダの器を持つ智鶴から俺はサッとそれを受け取った。

「あ…」

受け取ってすぐに俺が器に残ってるセロリ入りのサラダを食べ始めたもんだから智鶴が慌て出した。
でも俺が何も言わせない雰囲気だったからか智鶴は黙って俺がサラダを食ってるのを緊張しながら見てた。



「……食った」
「………」

そう言ってコトンとテーブルの上に綺麗に平らげたガラスの容器を置いた。
器に残ってたのは最初にあった量の半分位だが元々独特な臭いと味と……
他の野菜に紛れても自己主張してくるこの感触もやっぱあんま耐えられたもんじゃなかったが
根性で食い切った。
いい大人がたかがセロリを根性で食べるなんざ情けねえが苦手なもんは仕方がねえ。
ドレッシングの味以上に口の中に残ってるセロリの味に不快感を覚えながらそれでも平気な顔で
目の前で呆けてる智鶴に向かってニヤリと笑う。
それに仕事だったら苦手だなんて言ってらんねーしな。

「レンジ……さん?」

「さっきはセロリ一口でご褒美はキスだったがこんだけ食ったら一体どんだけの
ご褒美貰えるんだろうな……なあ智鶴?」

「へ?」

テーブルに片手を着きながらガタリと席を立つ。
智鶴は咄嗟のことで立ち上がった俺をイスに座ったまま見上げてた。

「智鶴」
「……は……い?」
「ご褒美は?」
「……え…っと……あの……」
「やっぱキス以上のものくれんだろ?」
「ええっと……あの……」
「ここじゃ無理か?」
「え?…ちょっ……」

俺は智鶴の腕を掴んで立たせるとそのまま寝室に向かう。

「え?あ…あの!レンジさん!?」

流石に察したのか智鶴が慌て出して焦り出して……顔が茹蛸みたいに赤い。

「智鶴が!俺にご褒美くれんだろ」
「あの……」
「やりだしっぺは智鶴だからな。ちゃんと責任取れよ」
「ええ!?わ…私は別にっ…ンッ!」

とりあえず寝室入ると立ったまま口直しに智鶴とのキスを堪能する。
不快だった口の中があっという間に心地いいモノに変わる。
初めて知った……

「んっ……んんっっ……」
「まだ全然足んねぇからな……智鶴……」
「んっ……はぁ……」

まだ唇が触れたままで囁いた。

「レンジ……さん……」

とんでもなく困った顔の智鶴……可哀相なんて思わずに可愛いと思う。

「楽しみだな……智鶴のご褒美」
「い……意地悪です……レンジさん……」
「最初に意地の悪い事したのは智鶴だろ?」
「…………」

俺の言葉に智鶴は黙ったままで俺はまたニヤリと笑う。


その日の智鶴にはきっと初めてと思う事がいくつかあったかもしれねえが……

まあそれもご愛嬌ってやつで……

俺と言えば大嫌いなセロリを我慢して食べた見返りをたっぷりと味わうことが出来て大満足だったがな。


そういやこの時から食卓にセロリが出る事も無かったし智鶴もセロリを食べろとも言わなくなった。







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