好きだなんて言ってあげない



01




嫌になる……本当に嫌になるったらありゃしない。

私、“ 杜川 永愛 ”(morikawa eina) もうすぐ17歳の高校2年生。

何が嫌って?
それは自分のせいでもないのに、こうやって他人から敵意丸出しの眼差しと、
棘ありまくりの言葉を投げつけられること。

自分のせいなら私だって、素直に受け入れるかそれなりの対応をみせるわよ。

でもね、本当に私には関係のない、しかも人の恋路なんて興味ないっていうのに……。
お門違いもいいところなのに……なんで私はいつもこうやって、嫌な気持ちと嫌な目に
遭わなきゃいけないっていうのよ。

それも私にはまったくの関係ない、幼なじみのせいなんだ。

あ!幼なじみだったら関係あるのかな?
ううん。私自身は、まったく関係ないって言い切りたい!

だって絡んでくるのはあっちだもの。

私は被害被ってるだけで……そう!私は被害者なのよ!!


「ねえ聞いてんの?もう颯希に馴れ馴れしくしないでよ」

滅多に人の来ない、放課後の特別教室校舎の階段の踊り場に、私は上級生4人に囲まれてる。
しかも全員女子。
もう、何度こんな目に遭ってるんだろう。

中学の時からだから、両手両足の指を合わせても数えきれないほどだ。


“ 木梨 颯希 ” (kinashi satuki) 確かもう17歳になったのか?
私と同じ高校に通う、小学校の時からの幼なじみの、いわゆるイケメン男子だ。
そのうえガラが悪く、良く喧嘩もしてるみたいなんだけど、女子にはなぜか昔から受けがいい。
硬派にでも見えるのかしら?確かに女子には優しいみたいだけど。

それは、私以外の女子のことだけど。

私は見た目でもわかる真面目っ子。
真っ黒なストレートな髪の毛を、学生らしい黒いゴムで二つに縛ってる。
流石に三つ編みはしてないけどできるくらいの長さはある。
化粧なんてしたこともないし、アクセサリーもつけたことがない。

そんな真面目一直線の私に、なんであんな幼なじみがいるんだか?
しかも、私はこっそりと離れようとしてるのに、何かとチョッカイを出してくる。

チョッカイというか、あれはイジメ?

昔からヤンチャだった颯希くんは、よく私をイジメたり驚かしたりして泣かしてくれた。
毛虫を肩に乗せられたこともあるし、水を頭からかぶった記憶もある。
スカートだって何度めくられたか……。

そんな悪ガキが、いつのまにか女の子にキャアキャア言われるようになって、
彼女だっていたんじゃないのかな?って思うけど、その辺はよく知らない。

女の子と2人で、仲良さそうにしてるのは何度も見かけたことはあるけど、
私にはどうでもいいことなのだ。

そう!颯希くんが誰とどうなろうと、誰と付き合おうとまったく関係ないのに!!

颯希くんがモテるようになってから、こうやって女の子の集団に呼び出され、
文句を言われ、意地悪されること多数!!

「幼なじみだからって、いい気になんないでよ」
「幼なじみだから颯希は相手にしてるだけなんだからね」

はいはい、そうですか。
わかってるならいいじゃないですか。
それで納得してくださいよ。

「ったく、あんたみたいな色気もない女のどこがいいんだろう。胸だってあんの?それで?」

「!!」

ううっ!!ちょっと!人の肉体的欠陥をそんなふうに言うことないじゃない!
こっちは大人しくあなた達の文句を、お門違いだって思ってても聞いてあげてるんだから!

言い返しても納得してくれないのは今までの経験上わかってた。
どうして今まで彼女達が、自分にこんなにまでも文句を言ってくるのかといつも不思議だったけど、
どうやら颯希くんは特定の彼女を作ってないらしい。

その原因が私にあると、この人達は言う。

いや、それはナイんじゃないかしら?
っていうか、他に理由が見当たらないから強引に私ってコトにしちゃってるんじゃないの?

でもそれが、中学の時から続いてるの?
いや……たまに私と颯希くんのことを、本当に付き合ってると誤解してた人もいたかな?

もうあまりにも多すぎて、思い出せないくらい。

ってさぁ〜私、いつまでこんな目に遭ってなきゃいけないわけ?
毎回毎回……いくら大人しい私だって、いい加減腹の虫が治まらないですよ!

そんな文句さぁ〜私より颯希くんに言えばいいじゃない。
ホントお門違いでしょ?

「いつかは颯希に相手にされるとか思ってんのぉ?」

ヤンチャな颯希くんのとり巻きとあって、見た目ちょっと怖そうな先輩たち。
だけど、やっぱりいい加減にウンザリなんですよ!

5年間の鬱憤を思い知れ!!ってんだ!
もう相手が誰だろうが気にならない。

目の前にいるこの4人の先輩が、今まで私にお門違いな文句を言った女達の集合体に見えた。


「だからそう言うコトは、颯希くんに言ってもらえませんかねぇ?」

まさに “ケッ!” ってのが最後につきそうな言い方になった。
つけなかったけど。

「はあ?なにその態度」

「だから私には、まったく身に覚えがないっていってるんですよぉ〜。
どうして颯希くんが彼女作らない理由が私だなんて思うんですかねぇ〜。
私は颯希くんのことなんて、なんとも思ってないって言ってるじゃないですか?
聞えないんですか?記憶に残りませんか?」

「ちょっとあんた!強がんのもいい加減にしなよ!」
「強がってなんていませんよぉ〜もういい加減ウンザリなんですよねぇ〜。
こんなお門違いな言いがかりホント、ウンザリ!」
「ちょっと!!」
「直接颯希くんに言ってくださいよ。そんなこと、私に言われても迷惑です」

言いながら携帯を出して、ボタンを押す。

「ちょっとあんた何してんのよ!」
「うるさいです。……あ!颯希くん?永愛ですけど、今すぐ特別教室校舎の中廊下側の
3階の階段の踊り場に来てください。
え?そんなの知りませんよ。今すぐ来ないと絶交ですよ。
……ああ、そうですか、ならちょうどいいです」

話し終わると、サッサと携帯を切ってポケットにしまう。

「今来るそうです。さっき私に言ったことを、直接颯希くんに言ってください」
「ちょっと……あんたなにしてくれんのよ!」
「は?なにか問題でも?」
「……くっ!」

ギッと睨まれて、先輩たちが引き上げようとしたしたとき、階段の上から声がした。

「永愛のくせに、俺様を呼び出すなんざいいご身分だな」

「きゃっ……」
「うそ……」

先輩たちがその場に凍りつく。
運の良いことに、颯希くんはこの特別教室校舎の屋上に友達といたらしい。
だから屋上のドアを開けて、1階分下りてくればいいことだったから簡単だし、時間もかからない。

「ん?なにしてんだ?永愛」
「なにしてんだじゃないです。先輩たち颯希くんに言いたいことがあるそうですよ」
「ちょっと!誰もそんなこと……」
「さっき私に散々言ってたじゃないですか!同じコトを颯希くんにも言えばいいんですよ」
「…………」
「あぁ?なんだよ?永愛なんて言われたんだ」
「颯希くんに特定の彼女ができないのは、私のせいだそうです」
「あぁ?」
「ハッキリと言ってやってくださいよ!そんなことないって。
じゃないと私はエライ迷惑だし、いつもお門違いの言いがかりで嫌な思いばっかり」
「颯希あたし達は別に……」
「…………」

何が別にだ!さっき散々人のこと脅してけなしたくせに!
かわい子ぶっちゃって!!

「なんで……フガッ!」

彼女達に文句を言おうと思ったら、後ろから颯希くんに羽交い締めにされて口を手で塞がれた。

「否定はしねぇな」
「ふごっ(はあ)!?」

なに言い出すんだ!この男はっ!

「なら、そろそろその噂を本当にしてやろうか。なぁ永愛」
「ふぅ(なに)??」

「颯希?」
「決めた。今、この瞬間から俺は永愛と付き合う」
「ふんごぉ(ちょっと)ーーーー!!!」

さっきから何言ってんの??この男!!!

「え?なんで?冗談言ってるんでしょ?颯希?」
「いや冗談じゃねぇ。だから今後コイツにチョッカイ出したら俺が容赦しねぇからお前ら覚えとけよ」
「颯……希?」
「お前等には感謝するぜ。お前達のお陰で自分の気持ちにケリつけられたからな。
もうお前ら行けよ。俺は永愛と話しがある」
「……颯希……」
「…………」

先輩達が、私と颯希くんを振り返りながらその場を後にした。

「……いっ!」
「ぷはぁ!!」
「ってーな!なにすんだ!」

あんまりにも人の口を押さえたままだったから、指に噛み付いてやった。

「離してくれないからでしょ!それになに勝手なこと言っちゃってくれてるのよ!バカ!」
「ったく……この俺様にそんな暴言を吐く奴なんて、女じゃお前くらいなもんだぞ」
「そんなこと知らないもん!それより、なんてこと言ってくれるのよ!誤解されるでしょ!」

それにまた、今まで以上に絡まれるじゃないのよーーーー!!

「さっき言ったことは冗談じゃないからな」
「はあ??」
「ついさっきから、永愛は俺の女。俺は永愛の男。浮気は許さねぇ」
「だぁ〜かぁ〜らぁーーー勝手に話し進めないでよ!私、颯希くんの彼女なんてなりたくないっての!」
「却下」
「はあ?こっちこそ却下なんだからね!大体今まで私がどんだけ被害被ってたか知ってるの?」
「知ってるよ」
「はあ?」

知ってた?知ってて放っといたの?この男は!!

「なんでよ!私がどれだけ嫌な思いしたかわかってるの?小突かれたりもして
軽い暴力まで振るわれたりしたんだよ!!」

「だから……だから永愛がそのことを俺に言ってくるのをずっと待ってたんだよ」
「はあ?」

もう、さっきから私の頭の中はショート寸前!?

「そのことで、俺を頼ってくれるのをずっと待ってた」
「……な……」
「それなのに、お前何気に根性あったしな。まさかここまで粘るとは思わなかった。
しかも、最後はキレてあいつ等に言い返すほうを選ぶなんて思わなかったぜ。
いい加減、俺に泣きついてくるかと思ってたのによ」
「……颯希くんなんて嫌いだもん……頼ったりなんてしないよ」
「そうかよ、でもこれからは俺を頼れよ。俺がお前まもるから」
「結構です!」
「言っとくけどな、お前に文句言った女はそのあとちゃんと俺から話しつけてたんだからな。
同じ相手から文句言われたことなかっただろ?」
「え?」

私は腕を組んで、頭を傾ける。
はて?そうだったか??そう言えば、同じ相手に言われたことはなかったかもしれない。

「新規で行く奴は放っておいたけどな」
「もう最低!!」
「流石に俺も事前に誰が行くかなんてわかんねぇし」
「…………」

確かにそうだけど。

「オイ、行くぞ」
「わっと!!どこに?」
「屋上にカバン置いてあんだよ。取りに行って、そのあと永愛と一緒に帰る」
「ちょっ……ひとりで行ってよ!私はもう帰……うぅっ!!」

信じられない!!
腕を引っ張られて颯希くんのほうによろけたら、いきなりキスされた!?





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