好きだなんて言ってあげない


03




「……永愛」
「……はぁ……ん……」
「ちゅっ……ちゅっ……」

顔中にキスされる。
最後は唇に軽く触れるキス。

「俺と付き合うよな」
「…………」
「な?」
「……颯希くんなんて嫌い……だもん……颯希くんの……せいで……
いつも嫌な思いばっかりだったもん……」
「もうそんな思いさせねぇから、許せよ」
「どうせすぐに……私よりもっと綺麗で……色気のある女の人が好きに……なるもん」
「ならねぇって誓う」
「信じ……られない……もん」

いつもからかったり意地悪するためでも、私との繋がりを持っててくれた子供のころの颯希くん。
いつの頃からかそんな繋がりもなくなって、颯希くんは他の女の子のところに行っちゃったもの……。

大人しくて真面目だけが取り柄で、綺麗でもグラマーでもない私をおいて……。
颯希くんだけがかっこよくなって、どんどん私から離れて行った。

時々、思い出したようにからかわれたり意地悪されても虚しいだけ。
なのに颯希くんのことを好きな女の子に、文句だけは言われてた。

私が一番そのことを矛盾に思ってたのに、今さら気づいたなんて素直にOKするわけないじゃん!!

「じゃあ俺のこと好きじゃなくてもいいから付き合えよ」
「……なに?それ?」
「予約しとく。放っておいてまた清原みたいな野郎が出てきたらイヤだしな、
だから付き合ってることにしとけ」
「私にはメリットないじゃない」
「いや、あるだろ?もう俺のことで、色々文句は言われなくなるぞ」
「…………さっきも言ったけど颯希くんのこと好きになんてならないよ。それでもいいの?」
「フリでも彼女でいてくれるならかまわんぜ。そのかわりちゃんと彼女としての約束は守れよ?
浮気なんて許さねぇし、いつもちゃんと俺の傍にいろ」
「それって本当の彼女みたいじゃない。
でも颯希くんのことを、好きじゃなくてもいいんでしょ」
「ああ、いいぜ」
「なんか……変なの?」
「とにかく永愛は、俺の彼女のフリして俺の愛情を受け取ってればいいってこと。
無理して俺にかえさなくていいからな。オレが勝手に彼女だと思ってるだけだ」
「……なんか本当にそれでいいのかわからなくなってきた??」
「とにかく誰に聞かれても、俺と付き合ってるって言えよ。
告白されそうになったら尚更だからな」
「……うん……」

今のところ、誰とも付き合う気ないから、颯希くんの申し出もそのまま受ければいいか?
なんて思った。

悔しいけど、颯希くん以外の人の交際の申し込みは考えようとも思わないんだけど。
だからって颯希くんの告白は絶対OKしないんだ!!

ちょっとは落ち込めばいい!!
だけど、まったく落ち込んでるふうには見えないのがまたムッとするけど。

「じゃあ、今すぐ永愛を抱くのはしないから安心しろ」
「……うん」

そう言うと、今度は今下りてきた階段をまた上り始めた。

「颯希くん?」
「帰るんだよ、だからカバン。そういや永愛のカバンは?」
「教室」
「じゃあ俺のカバン取りに行ったら、一緒に教室まで取りに行ってやる」
「……うん……ねぇ颯希くん」
「ん?」
「自分で歩くから下ろして」

未だにお姫様抱っこのままの私。
落ち着かないのよね。

「屋上まで抱っこさせろ」
「重くないの」
「全然」
「……本当に屋上までだよ?」
「ああ」
「…………」

おとなしく抱っこされながら、階段を上がるたびに身体が揺れて
颯希くんの身体に制服越しに触れる。

いつの間にこんなにも逞しい体つきになったんだろう。
私を抱き上げてる腕も、密着してる胸もガッシリしてる。
背だってこんなに伸びちゃってさ。
昔は同じくらいの身長だったのに……。

逞しくてカッコいい男になったんだね、颯希くん。
だからあんなにたくさんとり巻きがいるんだろうけど。

そのあと、階段を上りきって屋上の扉の前で下ろされると、そのまま腰と後頭部を抱え込まれて、
またキスされた。

「ぷはっぁ!!もう彼女じゃないのにこんなことしないでよ!颯希くん!」

怒るところは、彼女じゃないのにってトコじゃないと思うけど、気づいてないのか私?

「俺の愛情を受け取れってさっき約束したよな?拒むのは許さねぇよ」
「そうだけど……なんかおかしくない?」
「永愛が俺のこと好きじゃなくてもいいって言っただろ?それでいいんだろ」
「そ……そうかな?だったら別に付き合ってるフリしなくても?」
「だから、俺と付き合わないんだったら身体に先に教え込むってさっき言っただろ?
お前それイヤなんだろう?だから付き合うってのにはOKしたんだろうが」
「え??なんかワケわかんない??」
「俺と付き合うことをOKしなかったら、お前は俺に今すぐ抱かれることになるんだよ。
それがイヤだったら付き合うことをOKするしかねぇの、わかったか」
「……う〜〜ん……わかったような……わからないような??」
「じゃあ、今すぐ身体でわかるか?」
「え?それはイヤ!」
「だろ?だったら素直に俺と付き合うこと認めればいいんだよ」
「そうか……え?本当にそうなの??」

なんだかますますワケがわからなくなってしまった。
悩んでたら手を恋人つなぎで繋がれて、屋上に連れて行かれた。
そこにいた颯希くんの友達に、聞かれもしないのに交際宣言と恋人宣言をしてカバンを掴むと、
サッサと屋上を後にした。

ほとんどの人が下校か部活中であまり人に会うことはなかったけど、何人かはすれ違った。
みんな 『え!?』 って顔して通り過ぎたあとも、私達を見てるみたいだった。

教室に置いてあった私のカバンを持って、私は逃げるように学校を後にした。
普通に歩く颯希くんを、早く早くと促して。
上履きを履きかえるときに一度手を離したけど、そのあとまたすぐに恋人つなぎで手を繋がれた。

「ねえ!もう手、繋がなくてもいいでしょ?人に見られるよ」
「いいから」

抗議するとそう言って、ただクスリと笑うだけ。

「恋人じゃないからね!フリなんだからね!」 
「彼女のフリでも傍(はた)から見たら、そんなのわかんねぇんだからいいんだよ」

って言って笑う。
これってどうなの??

「まだ納得してないみたいだな?ならこのまま俺んとこ来て身体でわかるか?」
「わ……わかってるもん!」
「ならいいけど」
「…………」

もう頭の中ゴチャゴチャ……糖分欲しい……かも。
アメ……チョコ……あったかな?

「甘いもん食べさせてやる。好きなトコ言え」
「え?」
「パフェか?アンコか?クレープとかか?それともアイスか?」
「え?ホントに?」
「ああ」

今、そういうの食べたいと思ってたのわかったのかな?
私は颯希くんに遠慮なんてしないから、奢ってくれるって言うなら素直に奢られる。
やったーーー♪

「永愛」
「ん?」

どこのお店にしようかと考えてたら、颯希くんに名前を呼ばれた。

「好きだ」
「え?」
「好きだからな……永愛が俺をまだ好きじゃなくても、俺は永愛が好きだ」
「…………颯希くん……」

ボンっ!!と私の顔は真っ赤になって破裂したらいし。
キスよりも恥ずかしい気がする。

「永愛?」
「…………」
「永愛」

──── ちゅっ 

また名前を呼ばれて道路の真ん中だって言うのに触れるだけのキスをされた。
まったく!誰かに見られて、学校に通報されたらどうしてくれるのよ!

「どこ行くか決まったか」
「……まだ考え中」
「そう」


前を向いたまま繋いでた手がぎゅっと強く握られた。

颯希くんが昔から見せてくれてた笑顔を、さっきからずっと私に見せてくれる。

もしかしたらもう颯希くんは私の気持ちなんて手に取るようにわかってるのかもしれないけれど、
でもそれでいいんだ。

散々捻くれてしまった私の気持ちは、そう簡単に真っ直ぐになりそうにないらしい。

真っ直ぐに颯希くんに向かうようになるまで、颯希くんは私を好きでいてくれるかな?


好きだよ……私だって本当は颯希くんのこと……好き。

多分、子供の頃からずっと好きだった。

でも……そんな簡単に言ってあげないもん。

もっともっと、私のことを好きになって……もっともっと、私を必要としてくれて……。


もっともっと、私がいなくちゃ生きて行けないくらい好きになってくれなきゃ、

私から好きだなんて絶対言ってあげないんだから!





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