好きだなんて言ってあげない



これはなんの気持ち?




「ちょっと」
「!?」

担任の先生に用事があって、職員室から帰る途中の廊下で呼び止められた。
でも、名前を呼ばれたわけじゃないし、しかも呼び止めたのが髪を茶色く染めて整えられた眉毛につけ睫毛。
ケバくはないけど化粧もしてて、本当に高校生かと思えるほどに綺麗な女の人が立っていた。
服の上からでもわかるほどの胸のボリュームと、短めのスカートから伸びたスラリと伸びた生足。
同性の私から見ても生唾ものかもしれない。

一瞬先生かとも思ったけど、高校生と思えたのは私と同じ制服を着てたから。

でも、そんな超美人さんが私なんかになんの用が?
思い当たる節もないので、きっと人違いだろうと思って周りを見回してしまった。

「あなたよ、あなた!あなたを呼び止めたの」
「へ?」

そんな素っ頓狂な声を出して、自分を指差した。

「私?ですか」
「そうよ、他に誰がいるっていうのよ」
「えっと……」

マジマジと彼女の顔を見たけど、やっぱり憶えがない。

「どちら様でしたっけ?」
「あなたとは初対面よ、多分ね」
「はあ……で?」
「私は3年の “藤木 沙耶” 」
「はあ」

名前を聞いてもやっぱり聞き覚えがない。
まあ初対面って言ってたし。

「その藤木先輩が私に何の用でしょうか?」
「…………」
「?」

尋ねたのに藤木先輩は返事もせずに目を細めて、片手の人差し指を顎に当てもう片方の手は腰に当てて、
私を上から下まで何度も往復して見てた。
そんな視線もカチンときてたのに、なんとそのあと藤木先輩は “クスッ” っとハナで笑った。

「な、なんですか?」

うう〜〜感じ悪い。

「あなたが颯希の新しい彼女?」
「は?」
「なにかの間違いじゃないの」
「…………」

なんだ……颯希くん絡みか。
理由がわかってウンザリした。
最近、颯希くん絡みで呼び出されたことも、文句を言われたこともなかったから察することができなかった。
う〜む、不覚。

「まったく、人がちょっと学校休んでる間に」

ほう、藤木先輩は学校を休んでいたのか。

「で?本当になんの用でしょう」
「別れて」
「は?」
「どうせ颯希の気まぐれだと思うけど」
「はぁ」
「あなただってわかってるんでしょ?自分が釣り合ってないって」
「…………」

別にそんなことを思ったことはなかったけど、自分がなんで颯希くんの彼女なんてものをやらされてるのか
毎日疑問に思ってたから、 “またお門違いの言いがかりかよ” なんてゲンナリしてた。
まあ、今まで彼女だからと毎日キスされたり、身体を弄られたりしてるのをなんだかんだと受け入れてしまってるのはナイショ。

でも、まだ最後までは許してない。
許したが最後、興味がなくなったとポイッと捨てられてもムカつくし。

私だって、そこまで颯希くんを信じてるわけじゃないし。

なんて、そんなことを颯希くんに言ったりしたら、どんだけの倍返しで自分の身体に返ってくるか
想像するだけで怖いから言わないけど。
どこまで本気かわからないけど、颯希くんは私のことを彼女だと言い切ってるし、私にもわかるくらい私に執着してるみたいだし。

私がいいように、颯希くんにあんなところやこんなところを弄り倒されて翻弄されたあと、それが悔しくて悔し紛れに
『もう別れるぅ〜 彼女のふりもやめてやるんだからぁ〜 ひっく!』 と泣き喚くと、

『絶対、別れねぇから』

そう答えて、まるで極悪非道なヤクザか悪魔のようにニヤリと笑う。
“それ以上言うと最後までするぞ” とさらに脅すので黙るしかない。

だからって、いつも極悪非道なことをするわけでもなく、至って普通で鬱陶しいと思うほど私にまとわりついて世話をやくから、
もう余計わけがわからなくなる。

「じゃあ、別れるのね」
「!」

そんなことを考えていたら、言い返せないと判断されたらしく、藤木先輩が勝ち誇ったような顔と態度をするから、
またもやカチン!ときてしまった。
どうもあの颯希くんの彼女に(フリだけど)なることになってしまったときから、相手の高飛車な態度に反応してしまう。
昔は “ハイハイ” なんて簡単にスルーできてたのに。

「でも、颯希くんが別れてくれるかどうか」
「は?」
「颯希くんは別れたくないらしくて」
「なんですって……そんなこと……」
「本当のことですよ。なんなら本人に聞いてみてくださっても結構ですよ」
「!!」

今度は私が勝ち誇ったような顔と態度で、藤木先輩に向かって言い切る。

「……フン、じゃあそうするわ。どうせ今までいなかったタイプで、珍しいだけでしょうから。
颯希のタイプはあなたみたいな子供じゃないんだから」

あーそうですか。
それはそうかもしれませんね。

「あなたは別れることをあんまり気にしてないみたいだから、あたしが颯希と付き合ったってかまわないわよね?」
「え?」
「まあ、当然の成り行きだと思うけど。今カノのあなたからお許しが出たんだから、堂々と誘惑させてもらうわ」
「…………」
「誘惑もなにもそんなことしなくたって、もとからそれなりの付き合いだし」

ふふん♪ とまたハナで笑って藤木先輩は廊下を歩いていった。


私はひとり、誰もいない廊下で立ったまま。
肩を震わせ……

「ふっ…ふふふ……」

笑った。

「やったぁ!これで颯希くんと別れられるかも!」

私は両手を上げて、万歳のポーズ。
なんだ、あんなお色気ムンムンのセフレさんがいたんじゃない。
藤木先輩ならきっと、颯希くんをその気にさせてくれるはず。
そしたら私との関係も、なかったことになる可能性大じゃない。
やった!

「でも、ちょっとまって。もしかして藤木先輩と付き合いながらも、私とのことも続けるかもしれない。
藤木先輩の言うとおり、今までいなかったタイプだからって。んーそれはマズイわ」

それに、最後まで許してないし。
あんなに色々弄っておいてお預けのままで終わらせるなんて、あのエロ男がするわけがない。

「そうだ!藤木先輩とのイチャコラを撮って、浮気を理由に別れればいいんじゃない♪ 私って頭いい〜」

私はそのとき、なんて名案なんだと廊下で小躍りしたくらいだった。



「いざ!」

私は携帯をムービーモードにして保健室に近づいた。
普段帰宅部の颯希くんは、私の部活が終わるまでいつも保健室で待ってる。
たまに友達と教室で話してたりすることもあるけど、今日は私が保健室で待っててと言った。
藤木先輩にチャンスを与えるために。

意外なことに、颯希くんは幼稚園のころから柔道を習ってた。
中学の終わりごろから真面目にやらなくなって、気が向けば練習するって感じになってしまった。
でも実力はあるみたいで、高校に入ってからはときどき部員さんの練習相手として助っ人を頼まれたりしてるみたい。
柔道部の部長さんが、颯希くんの友達だから頼まれるらしいけどだけど今日はそれもない。

でも柔道なんてしてるからあんなにも寝技が……。

「はっ!!」

な、なに変なことを考えてるんだかっ!
今はそうじゃなくて、颯希くんの浮気現場を映像に収めるのか目的なんだから。

出入口の引き戸のドアから、コッソリと中を覗く。
ドアに小さく正方形にガラスの窓があって、そこから中が見れた。

私の思惑どおりに、藤木先輩がいた。
3台あるベッドのひとつに腰かけてる。
そのベッドの上には、頭のほうの壁に背中を寄りかけて片足を曲げて、無表情な顔の颯希くんがいた。

2人の他に誰もいない保健室に、ベッドの上。
これ以上ないくらいのシチュエーションでしょ。

「なんとかバレないように撮らないと」

囁くように呟いて、携帯を必要最低限出して中を撮す。
さすがに喋ってる声は聞こえないけど、大体想像はつく。
寄りかかって足を伸ばして寛ぐ颯希くんに向かって、にこやかに笑いかけてる。

最初はベッドに腰掛けた藤木先輩は、段々とベッドに身体を乗せて颯希くんのほうに身体を傾ける。
伸ばした藤木先輩の手が颯希くんの肩に触れた。

「うわ〜〜これは時間の問題じゃないの〜〜」

傍から見れば、私ってばとんでもないのぞき魔なんじゃないの?アレ?こういうのって “出歯亀” っていうんだっけ?

「ちがう、ちがう!証拠を撮ってるんだから!これは正当な行為なのよ!!」

そんなことを呟いてるうちに、藤木先輩の両手が颯希くんの肩に触れてた。
そのまま体重を傾けて、颯希くんにしなだれかかる。

そんな先輩を見て、ナゼか心臓がドクン!となった。

「ん?なんでドクンってなったの?ああ!刺激が強すぎたかな」

なんせあの藤木先輩だもんね……私と違ってボン!キュッ!ボン!だもん。
颯希くんがその気になったら、もうとんでもない濡れ場が撮れるんじゃないの?
だからドキドキするんだよ。

しなだれかかる藤木先輩の両方の手首を、颯希くんが掴むと自分から引き剥がした。
そして、伸ばしてた身体を下してベッドに座りなおした。
そんな颯希くんに合わせるように、藤木先輩もベッドに腰掛ける。
そのまま颯希くんの腿に手を乗せて、颯希くんの顔を微笑みながら覗きこんだ。
視線だけ藤木先輩を見る颯希くんとの距離は近い。
そのままキスできそうなくらい……キス……。

私は自分がいつも颯希くんにされているキスを思い出してしまった。
そしてそのときの私が、藤木先輩と入れ替わる。
いつも身体をいいように弄られる私とも入れ替わって、2人が笑いあってるところまで想像してしまった。
まあ、私達は笑いあったりしないけど……。

「!!」

どうしてだろう?胸の奥が一瞬で重くなって、嫌ぁ〜〜な気分になった。

「あ」

そんなちょっとした時間2人から目を逸らしてただけなのに、いつの間にか2人はベッドから立ち上がって
向かい合って立っていた。

「…………」

藤木先輩の手が、颯希くんに伸ばされる。

──── イヤ

颯希くんが、その手に自分の手を伸ばす。

──── イヤダ
──── サワラナイデ

ガラガラガラ!!ビッシャーーーーーン!!!!

「!」
「!」

何も考えず、思いきり入り口の引き戸を開けた。
けっこうな勢いで端まで移動した引き戸が、当たった勢いで跳ね返るほどだった。
跳ね返った引き戸を、無意識にガシッと掴んでた。
そんな入り口で戸を掴んで仁王立ちしてる私を、颯希くんと藤木先輩が呆気にとられた顔で見てる。
見れば藤木先輩に伸ばされてた颯希くんの手は、先輩の手を振り払うためだったらしい。
不覚にもそれがわかってホッとしてる自分がいて、ちょっと納得できなかったけど今はそれは置いておく。

「颯希くんお待たせ!帰ろう!!」

ハッキリ、キッパリと私の声が保健室に響く。

「……お…おう」

私の声にやっと我にかえった颯希くんが、間抜けな返事をして私のほうに歩き出した。
視線は私と合わせたまま。
なぜかニヤリと笑ってるのがイマイチ不思議だけど。

「ちょっと、颯希!」

慌てた感じで、藤木先輩が颯希くんの名前を呼んだ。
それはすがるような媚びるような……。
私にはちょっと、蔑むような視線。

「まさか、本当にそんな娘(こ)がいいっていうんじゃないでしょうね?あなたにはそんな色気もなにもない、
普通の娘なんて似合わないわ。こっちに戻ってよ。また前みたいに楽しみましょうよ。ね?」

前みたいに楽しむ?ワザと言ってるんだと思った。
だって、私を見ながらそう言って、バカにしたような顔で微笑んでたから。

でも颯希くんは立ち止まりもせず、振り向きもせず、私のところまでやってきた。

「遅せぇんだよ、待ちくたびれた」

そう言って私の頭をクシャクシャと撫でまして、頬に手を滑らせて優しく撫でる。

「帰る!」

私はその手を掴んで引き離すと、自分ではそんなつもりなかったのにムッとした声になった。

「ああ」

なにが可笑しいのか、クスクスと笑ってる。
そんな颯希くんを腹ただしく思いながら睨む。
そんな私を見て、さらに機嫌よさそうに颯希くんがクスクス笑う。
もう一体なんだっていうのよ!?

「颯希!」

存在を無視されてた藤木先輩が、焦ったようにまた颯希くんの名前を呼んだ。

「俺の彼女、可愛いだろ」

私の頬に触れていた手を私に掴まれて引っ張られながら、かなり機嫌のいい声で藤木先輩にそう答えてた。
呼び止められた返事になってるのかどうかわからなかったけれど、私は颯希くんも藤木先輩も見ずに
スタスタと歩いて保健室から離れた。


「…………」
「永愛」
「…………」
「永愛〜〜♪」

放課後で人気のない廊下を黙々と歩いていると、颯希くんが私の名前をからかうように呼ぶ。
私はあえて無視して歩き続けると、颯希くんは立ち止まって私に掴まれてた手をグンと自分のほうに引き寄せた。
体格差か男女の差か、そんな動作に私はあっさりと引き寄せられて颯希くんの腕の中だ。

「お前、ホント可愛いよな」
「……なにが?」
「いや」

クスリとハナで笑われてしまった。
なんかムカつく。

それに颯希くんの制服から、藤木先輩の香水の匂いがフンワリと匂うのも気に入らない。

「ああ、ごめんね?“イイトコロ” 邪魔しちゃって」
「はあ?なにが?」
「藤木先輩と……一緒にいたかったんじゃないの!昔のよしみなんでしょ」
「あのな、お前が保健室で待ってろって言うから仕方なしにいたんだろうが。じゃなきゃサッサと保健室、出てたって」
「ふ、ふ〜ん、どうだか?」
「永愛」
「だ…だって、私なんかよりよっぽど魅力的な人じゃない。颯希くんの扱いも慣れてるみたいだし……
あ、相性だってい…いいんじゃないの?」
「相性?ああ!てかお前アイツになにか言われたわけ?」
「べ、別に……」
「ま、いいけど」

またクスリとハナで笑われてしまった。
なんか、さらにムカつく。

「永愛」
「あ!やっ……」

背中から抱きしめられて、私が掴んでない方の腕が腰に回ってグッと颯希くんの身体に引き寄せられて密着する。
身長差があるから上から抱え込まれるように覆い被さられると、私は逃げることができない。
そんな私の唇を奪おうと、颯希くんが顔を近づけてくる。
顔を逸らして逃げようとするけど、逸らした顔を追いかけるように颯希くんの顔が私に密着して、
顎や頬を颯希くんの唇が触れながら私の唇を目指して移動してくる。

「ちょっ……」

つい、そんな颯希くんの行動をとめようと颯希くんの掴んでた手を離した瞬間、空いた腕で顎を掴まれてしまった!
ぎゃーーー!!失敗!!

「……ふぅ……んんっ」

ちょっと無理な角度で散々唇を貪られ、口の中まで嫌ってほど堪能された。

「ぷはっ!!……もう……香水……臭い!ハァ……ハァ……離し…て!」

やっとの思いで颯希くんのキスから逃れるて、息も切れ切れで叫んでた。
学校のしかも廊下でこんな濃厚なキスはやめてほしい。

「もうちょっとこうしてろ」
「やだ!他の女の人の匂いさせてる颯希くんなんて傍来ないで!!」
「!!」
「?」

私、なにか変なこと言った?
颯希くんがなんだかビックリした顔で私を見てる。

「なに?」
「わかった、サッサと帰ろうぜ」
「え?」

急に態度の変わった颯希くんがわからなくて、でも今度は私が手を掴まれて連れて行かれた。
靴に履き替えてからも、手を繋いでいつもより早めに歩く颯希くん。

「ねえ?どうしたの?なんでそんなに急ぐの?」
「俺から他の女の匂いがすんのが嫌なんだろう?だから、早く家に帰ってシャワー浴びんだよ」
「はあ?」

なんでそんな展開に??

「そのあと、永愛んとこに行くから待ってろよ」
「ええ!?なんで??」

まったくもって意味がわからない??

「お前が可愛いことするからだろ。それに可愛いことも言ってくれたしな。ご褒美やんなきゃな」
「は?可愛いこと?ご褒美??」

ますます意味がわからない??

「どうやら自覚も出てきたみたいだし」
「は?」

自覚??なんの自覚??
まあいいけどさ。
このまま颯希くんが自分ちに帰るならそれに越したことはないし、ウチに来たって居留守使って
入れなければいいことだし。

「ああ!」
「?」
「俺を締め出したら次会ったとき、どうなるかわかってるよな?」
「へ!?」
「どうせ俺を家に入れないつもだったんだろ?」
「え″!?なんで??」

わかったんだろう?

「お前の考えてることはお見通しだ。ならこのまま俺の家に一緒に行って俺が風呂に入ってる間、
恥ずかしい格好でベッドに縛り付けてやろうか?ん?」

「な″っ!?」

また、外道の顔でニヤリと笑ってる。
恥ずかしい格好……恥ずかしいってどんな??想像つかないけど、きっと颯希くんのことだから
本当に恥ずかしい格好なんだろうと思う。

「ちゃんと俺が訪ねたら、快く迎え入れてくれるよな?永愛」
「ひゃんっ!」

耳に息を吹きかけるようにして囁かれて、背筋になにかが走って身体がビクンと震えた。
ときどき、そんな感覚が私の身体に起こる。

「永愛」
「わ、わかったってばっ!!」
「ならいい、じゃあ後でな」
「う〜〜〜」

そう言うと、颯希くんはニッコリと笑って自分の家に向かって歩いて行った。
私はナゼかグッタリとなって、自分の家に帰った。



それから30分ほどして颯希くんが訪ねてきて、本当はあげたくなかったけど逆らうと
どんな恥ずかしい目に遭わされるかわからないから、仕方なくいつものように自分の部屋に案内した。

「永愛、こっちこい」
「え?なんで」

部屋に入るなりベッドに腰掛けた颯希くんが私を呼ぶ。
嫌な予感120%なんですけど?

「いいから」
「…………」

渋々と近づくと腕を掴まれて引っ張られて予想通り、颯希くんの膝に座らされた。
後ろ向きじゃなくて正面で向かい合うように……当然私は颯希くんの両足を跨いでるってことで……。
恥ずかしいんですけど?

「ほら、もう匂わないだろ」
「は?」
「他の女の匂いだよ。嗅いでみろ」
「え?」

そう言うと、私の腰を囲うように腕を回してグッと自分のほうに引き寄せると、クッと顎を上げて喉を露わにする。

「…………」

嗅げってか?そうなの??

「永愛」
「…………」

クンっと両腕で私の身体を軽く押し上げて合図送ってくる。
引き寄せられてる身体が不安定で、颯希くんの肩に手をついた。
仕方なく颯希くんの首に顔を近づけて、クンっとハナで匂いを嗅いだ。

いつものコロンの匂いじゃなくて、フンワリとした石鹸の匂い。

「どうだ」
「うん……しないね。わっ!!」

答えた途端、颯希くんに抱きかかえられたままベッドの上に組み敷きられた。

「ちょっ……!!」
「お前の匂い……つけさせろ」
「んなっ!?」

なんて失礼な!私ってばそんな臭くないと思うんだけど?
横目で睨んだ颯希くんは、またニヤリと笑ってた。


結局そのあと、いつもの如く嫌って言うほどキスされて、酸欠でヘロヘロになってる身体をいいように弄られて泣かされた。
颯希くんは “啼かされた” だろ、って言うけど私は真面目に涙が出て “泣かされ” てるんだってば!
この歳になって……って、まだ16だけど、こんなに涙を流すことが起きるとはまったくもって想像していなかった。

なんでこんなコトになったのーーーー!?やっぱり颯希くんの彼女のフリをOKしたからだよね?
最近では “颯希くんの彼女のフリなんてやめるーーーー” って言うと、とんでもないことになるからいえなくなってしまったけど、
言わなければいつまでたってもこの関係なんだよね。

どうしたらいいんだろう?なんて思いながら、颯希くんが言っていた “恥ずかしい格好” と、どこが違うの?
と思うことを多分今、自分はされてると思うのに放置されないだけマシなのかと変にホッとしてる自分。

きっと根本的にその考えは間違ってるはずなのに、いつの間にかそう思うように仕向けられてるのに気づいてないらしい。

「はぁん……やぁ……」

ほとんど脱げかけてるブラウスやスカートや下着。
でもそんな乱れた格好が “そそる” と颯希くんは私からそれらを剥ぎ取ったりしない。

“本番のときはお互い裸だからな” って、もう宣言されてるのってどうなの?自分??

本番って……最後までってことだよね?いつか本当にそんなことになるんだろうか?
なんて真っ白になりそうな頭でいつも考える。
断固として、阻止しなければ!とは思うのだけれど、成功するのか怪しい気もする。
それまでになんとか颯希くんの弱点でも探し出さないと。
なんて、颯希くんに弱点なんてあるのかな?


「永愛」
「んっ……」

ワケのわからない “ご褒美” と言われて、今日の颯希くんの手の動きと、
私に触れる唇がいつもより優しく感じたのはどうしてかな?

そういえば、保健室での颯希くんと藤木先輩を見たとき感じたあの気持ちは、なんだったんだろう?

なんて思いながら、もう何度目かわからない颯希くんのキスを受け入れてた。















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