好きだなんて言ってあげない



颯希は王子様? 02




「あら、お客様でしたの。気づかず申し訳ありません」
「いや……」

大きな花束を持ってニッコリと笑う女の人は、ひと目で上品とわかる容姿と雰囲気だった。
堅苦しくなくて、それでいてこれからどこに行くんですか?と思えるような改まった服装だったけど、
白色のスカートは似合ってる。
控えめだけど、多分高価な宝石のついたピアスにネックレスもしてる。
爪だってちゃんと手入れをしてて、服に合わせてパールホワイト。
きっとネイルサロンとかにちゃんと通ってて、お手入れしてるんだろう。
しっかりと控えめな飾りが爪に施されてて、キラキラ輝いてる。

全体的に、まるで絵に描いたようなどこぞのお嬢様。
年は私達よりちょっと上かと思うけど、とんでもなく年上とは思えなかった。

「わたくし “愛田 カンナ” と申します」
「あ、杜川 永愛です」

慌てて立ち上がって、名前を言ってペコリと頭を下げる。

「わたくし、昨夜暴漢に襲われているところを颯希様に助け頂いて。ですのに、その恩人の颯希様に、
このようなお怪我をさせてしまって……わたくし時間の許す限り、颯希さまのお怪我が治るまでお傍について
お世話をさせていただこうと決めておりますの」
「はあ……」

まあ、助けてもらった相手が自分のせいで怪我をしちゃったんだから、責任感じるのもしかたない……よね?

「諸橋これを」
「はい」
「!!」

うわっ! ビックリした!! 彼女の後ろにいつの間にかスーツ姿の男の人がいて、彼女が持っていた
花束を差し出すと “ははっ” て感じにお辞儀をして彼女から花束を受け取った。
そして花を大事そうに持って、そのまま廊下に出て行く。
多分花瓶に花でも生けるつもりなのかな?
どうでもいいけど、いつからそこに居たのよ?お兄さん。

「お加減いかかですか? 足、痛みますか?」

優雅な物腰でそそっとベッドに近づくと、私の前に割り込んできた。
目の前には彼女の後ろ姿しか視界に入りませんが?

「いや、大丈夫」
「なにか不自由はございませんか? 必要なモノがあればすぐに用意いたしますので、遠慮せずに申し付けてくださいませ」
「あ……ああ」

ほぉ〜〜〜颯希くんが物怖じしてるじゃないの? どうしたのかしら。

「あの、失礼ですが貴女が颯希様とおつき合いなさってる方でしょうか」
「え!?」

いや……彼女かって聞かれると、仮っていうかフリっていうか……えーっと、どう言えば?
なんか今はそういう説明は、あんまり宜しくないかな?なんてナニかが訴えてくる。

「!」

と思ったら、颯希くんが目で “余計なことは言うな!” って訴えてきてる? なんだ颯希くんだったのか。

「はあ……」

まあ一応肯定しとくかな。
というわけで、コクリと頷いておいた。

「そうですか……わたくし、颯希様に身を挺して護っていただいて、とても感激いたしましたの」
「ほう」

えっと……なんだかとんでもなくウットリと思考がイッちゃってるんですけど?
どうかしましたか?お嬢様。

「いや……そんな大したことじゃねーし」
「そんなことございません!! 一歩間違えば命に係わることだったのですよ!」

その原因は颯希くんの話によると、お嬢様のせいなのでは?
大人しく助けられてれば、多分颯希くんはこんな怪我しなかったと思うよ。
と、ひとりで盛り上がってるお嬢様を見て心の中でそう思った。

「わたくし、ずっと颯希様のお傍で支えて差し上げますわ」
「いや……だからこんなの数ヶ月で治るし……」
「いえ! どうかお怪我が治っても、ずっとお傍にいさせてくださいませ」
「…………」

んーーーなんだコレ? いつ生まれの、なに時代の人なのよ?

「わたくし……わたくし……」
「…………」

おおーー自分の世界に浸っちゃってるお嬢様を見る颯希くんの引き攣った顔ったら……ぷぷぅ♪

「カンナ様」
「!!」

うわっ! ビックリした!! いつの間に戻って来たの? お付のお兄さん。
病室に入ってきたのも気づかなかったから、いきなり声がして驚いた。

「なんですか」
「お時間が……」
「そうですか……颯希様、わたくしこのあと所用がございまして、今日はこれでお暇させて頂きます。
また後日お伺いいたしますので」
「そんな気を使わなくていいから」
「いえ……わたくしがそうしたいのです。では、お大事になさってくださいませ。失礼いたします」

そう言って颯希くんに深々と頭を下げると、私にはチラリと視線を向けて軽く頭を下げただけだった。
お付の人が病室のドアを開け閉めして、お嬢様は帰って行った。


「えっとぉ……なにあれ?」
「はあーーーーな? 疲れるだろ」
「まあ、どこぞのお嬢様なんでしょ? あの感じじゃ」
「ああ、結構なお金持ちらしいな」
「だから病室も個室なの」
「そう、俺は大部屋でいいって言ったんだけど、あっちが強引に……ふぅ」
「なんだかああいうのって、古風っていうのかな?あの、お嬢様」
「そうなんだよな……なんか助けられたことにえらく感激してて、俺を神様か仏様みたいな眼差しで
見つめてくるんだぜ。いい加減にしてくれっての」
「時間の許す限り傍にいてくれるってさ。怪我が治ってもずっと一緒にいてくれるって。よかったね、
颯希くん逆玉の輿じゃん。私も来なくてイイよね?」
「バカか! 冗談じゃねーっての!あの分じゃ、マジ退院してもウチまで追っかけて来そうで怖えぇっつの!」
「ハハ、お嬢様の家に監禁されたりしてね〜」
「冗談に聞こえねぇからやめてくれ」
「…………」

お互いに沈黙。
ジッと颯希くんを見てたら、颯希くんがキッと睨み返してきた。

「俺はちゃんと彼女がいるって言ったし、世話も親もいるしお前もいるからって断ったぞ」
「ふーん」
「だけど聞く耳持たねぇんだよ! “運命の出会いです!運命の人です!” とか言いやがって」

頭をガシガシとかきながら、颯希くんがイライラしてるのがわかる。
颯希くんは基本、女の子には優しいから露骨に邪険にできないんだろうな。

「永愛」
「ん?」
「…………」

チョイチョイと颯希くんが、おいでおいでをする。

「むぅ」
「いいから……頼む」
「しかたないなぁ〜」

ホント仕方なく、颯希くんの足元のほうのベッドの端に腰を下す。

「アホか! そこじゃ届かないって」
「えー」
「永愛」

こういときは、子供のころの感じが甦ってしまう。
からかわれもせず、ごくごく普通に話したり、一緒にいたころのこと。

「きゃう」
「んーー永愛」
「苦……しいよ、颯希くん」

私に伸ばされた両腕が、私の身体に回されたと思うとぎゅっと抱きしめられる。
ちょっと背中が反り返った感じになって、苦しかった。

「くすぐったい」
「少し我慢しろって」

今度は私の首筋にうずめてた頭をスリスリするから、首に触れる髪の毛と頬がくすぐったかった。





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