好きだなんて言ってあげない



颯希は王子様? 03




「あ!」
「げっ!」
「あら」

病室に入って飛び込んできたのは、上半身裸の颯希くんとあのお嬢様のさんがベットの上で抱き合ってる姿。

「へ〜ほ〜ふうん〜」

私は目を細めてそんなふたりを眺めてる。
私が来たっていうのに離れようともしないとは…なんだ、そういうコトですか。

「颯希くん、逆玉の輿おめでとう」
「なっ! ちょっと待て永愛! 早とちりすんな!」
「は? この状況を見られてどんな言いワケが?」
「だから誤解だって! ちょっと、どけって!」

苛立った言い方で颯希くんに抱きついてるお嬢様をベリベリと引き剥がした。

「いいよ、別に。そりゃ将来お金に困らない生活が約束されてる相手のほうが魅力的なの仕方ないし」
「だから! 永愛!」
「ええ、誤解ですわ。わたくしは颯希様のお身体を拭いて差し上げてたんですのよ」
「俺はいいって言ったんだ!」
「はいはい、どうだっていいよ。そんなこと」
「よくないだろう!」
「いいって」

もう言いワケいらないとばかりに颯希くんの言葉を遮って、背中を向ける。

「永愛!」
「飲み物買ってくるだけ」
「じゃあ俺は炭酸な」
「……わかった」

病室を出てノタクタと廊下を歩く。

「このまま帰ってやろうと思ったのに」

そりゃあねぇ〜あんなの見せられていい気分じゃないですよ。
ふたりっきりでなにをしてるんだかさ。

お仕置きでこのまま黙って帰って、携帯にも出てやらないつもりだったのに。
戻ってくるように自分の分の飲み物も頼んだ颯希くん。

「その必至さに免じて買って帰ってやるか」

販売機の前でちょっと悩む。
お嬢様の分も買わないとダメかな?
でもペットボトルの飲み物なんて、あのお嬢様飲むのかな?

「1リットル何千円とかのミネラルウォーターしか飲みませんのよ、とか言いそう」

散々迷って一応高級茶葉使用のお茶を買った。
自分の分の飲み物も合わせて、3本のペットボトルを持って病室への廊下を歩いてた。
もう少しで病室というところで、前からキラキラしたお嬢様が歩いてきた。
なんだもう帰るんだ。
飲み物どうしようか?

「あら杜川さん、わたくし今日はこれで失礼いたします」
「はあ…」
「ああ、颯希様のお世話はわたくしが責任をもっていたしますので、杜川さんはお気遣いなさらなくてもよろしくてよ」
「はあ……」
「颯希様はわたくしがずっと待ち焦がれていた王子様ですの」
「王子様?」

あの颯希くんが? 大丈夫ですか? お嬢様!

「紳士的で強くて素敵な方ですわ。まさしく王子ですわ」
「は…あ……」

いやもうお嬢様の妄想に完敗ですよ。
あの颯希くんが紳士? どこが?

いつも鬼畜の一歩手前で、この清らかな乙女の身体をいいように弄くりまわしてる男が?
今は知らないけど、きっと今までは毎日のように女の人をとっかえひっかえしていやらしいことをやり尽くしてた、
どうしょうもないエロ男が?
まあ、髪の毛はちょっと金髪よりで王子様に見えなくはないけどねぇ。
顔もまあそれなりに整ってるといえば、整ってるのかな?

「今は貴女とお付きあいなさってるかもしれませんけれど、先のことはわかりませんわよね」
「そうですね」
「では、ごきげんよう」
「…………」

ニッコリと微笑んで私の横を通りすぎた。
そのあとをいつものお付きのお兄さんがうっすらと笑いを浮かべた顔で私に頭を下げた。

今の笑いは……ちょっと呆れ気味な感じがしたのは私の気のせいかな。
お嬢様に付き合うのも大変ってことなのかな?
雇われの身じゃ従うしかないか。
就職先はよく選ばなくちゃね〜



「遅かったな」
「あー高級志向のお嬢様にはどんな飲み物がいいのか悩んじゃったから。そのあと廊下で
そのお嬢様に呼び止められて予言めいたことを言われてた。だから遅くなったの」
「は? 予言?」
「そう、自信満々で予言してったよ」
「なにを?」
「私と颯希くんが、この先お付き合いしてないだろうって」
「なっ!」
「まあ当たってるかもしれないけどね。はい、炭酸」
「…………当たらねぇよ」
「いや〜かなりの確率で当たりそうだけどね。きっとそのころは颯希くんの未来は逆玉の輿で
順風満帆な人生になってるんじゃないかな?」
「なってないって!」
「どうだか?」

ツ〜ン! というようにそっぽを向いて自分の飲み物の蓋を開けた。

「ったく、あの女……いい加減に我慢の限界だな」
「またまた〜〜本当は満更でもないんでしょう?ん〜〜?」
「永愛」
「な……なに?」

あ! なんだか雰囲気が変わった? ちょっとヤバイ……かも?

「ちょっとこっちに、こい」

ニッコリ笑顔が怖い。

「やあよ」
「今、俺の傍にくるのと、退院したあと裸で縛られるのどっちがいい? 選ばせてやる」
「お邪魔します」

そんなの決まってるじゃないのよーー! 即行で颯希くんのすぐ近くのベッドの端にチョコンと座った。

「永愛」
「なに?」
「俺はあんな女興味ない」
「ふーん、でもあとで後悔するんじゃないの?」
「しない」
「なに?」

颯希くんがうっすらと笑ってるから……。

「こんな健気な彼女がいるのに他の女なんかに目がいくか」
「はい? どこに健気な彼女なんているの」
「お前、毎日見舞いに来てくれてんじゃん」
「え? そ、そう?」
「そうだよ」
「わっ!」

颯希くんの両腕が伸びてきて、背中から抱き寄せられた。

「可愛い奴」
「ちょっ……くすぐったい」

項に颯希くんの唇と鼻先が擦り付けられて、くすぐったかった。

「暇だからだもん。ただそれだけ」
「毎日放課後は一緒だったからな。俺がいなと淋しいか」
「だれが……」
「永愛」
「ちがうから」
「早く退院してぇ、これも全部あの女のせいだ」
「颯希くんは王子様なんだって」
「は? 誰がなんだって?」
「だから颯希くんがお嬢様の」
「はあ? アホか」
「見た目は、多少被るところもなきにしもあらず、だけど」
「俺のどこが王子様なんだよ」
「髪の毛の色? あとは女っ誑しなとことか?」
「王子はタラシなのか?」
「でしょ? 色んなところの王女様や令嬢をより取り見取りなんだよ。それにどんな汚い手を使って
女の人を手に入れても、王族だからってお咎めなしだしね」

ふん! と鼻息も荒くひとりで納得するあたし。

「なんだそりゃ。お前小説の読みすぎじゃね? てか、偏見?」
「そんなことないもん。ね? 当てはまるでしょ? 颯希くんと」
「当てはまらないって! とにかく、あの女には現実ってもんを教えてやらないとな」
「え?」
「人の恋路を邪魔するヤツは馬に蹴られるんだよ」
「颯希くん?」
「俺には永愛がいるっていい加減わからせねぇとな」
「別にそこまでムキにならなくてもいいんじゃない」
「なんで」
「だって彼女のふりしてるだけだもん、私。仮でしょ? 仮の彼女」
「いい加減、仮は卒業じゃね? なあ、永愛」
「ご冗談を〜いつでも違う人にお譲りいたします…わむっ……んっ…んんっ」

颯希くんが私を背中から抱きしめたまま、起こしてたベッドに私を横抱きにして寄りかかる。
そのまま顎を掴まれて顔を颯希くんのほうに向かされると、いつものように口を颯希くんの口で塞がれる。
久し振りに長い時間、貪るように口を塞がれて舌を絡ませられると息も上がってクラクラしてくる。
欲求不満なの? 颯希くん!?

「あふっ……ちょっと……颯希くん…やん…苦し…息…」
「永愛……」
「やだぁ…耳…息……」
「浮気してないだろうな」
「バッ…するわけ……颯希くんじゃ……あるまいし……」
「俺だってするかっつーの」
「あっ…やぁ…」

首筋に舌を這わせながら脇腹の辺りの洋服の裾から、颯希くんの手がスルスルと素肌を撫でながら胸のほうに上がってくる。
そのままブラの縁を潜って、胸の膨らみにたどり着く。

「ひゃん!」

何度かモキュモキュと胸を揉まれて、指と指の間に胸の先を挟まれてキュッと捻られた。
だから勝手に身体がビクン! と跳ね上がって、恥ずかしい声が出ちゃったじゃないのよ! 颯希くんのおバカァ!

「も…外に…聞こえちゃう」
「来週あたりに退院できるらしい。いいか永愛、それまでにあの女のことは決着つけるから、お前は今までどおり
毎日ちゃんと見舞いにこいよ。わかったか?」
「ひゃう! あっあっああ!」

話してる間も、颯希くんの手の動きは止まらなくて、私の身体もピクピクと動く。

「仮の彼女なんて、とっくに正真正銘の彼女になってるっつの」
「ふぁん! あんっ……」

颯希くんがなにか言ってたけど、いつの間にか両手で胸を揉まれまくられて、私はそれどころじゃなくて……。

最後はいつもの如くクッタリとなった身体を、颯希くんにもたれ掛からせてた。
疲労感と身体に感じる心地よい温度と、颯希くんの呼吸でゆっくりと揺れる振動で、私はウトウトと睡魔に襲われる。

そんな私を颯希くんはクスクスと笑いながら、ぎゅっと抱きしめてた。

うぅ……苦しいって。





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