オレの愛を君にあげる…



01




「おい、椎凪!」

「んー?」

同じクラスの八神に呼ばれて、オレは咥えタバコで返事をした。
学校の帰りに飲み物の販売機が並ぶ街角で、友達数人と立ち話をしてた。

「お前さ、本当に警察官になんの?」

呆れたように、八神がオレに聞く。

「えっ?マジ?」

一緒にいた成島が、そんな八神の問い掛けに驚いて口を挟む。

「こいつさ動機が不純なんだぜ。初めての相手が刑事だったから、自分も刑事になるんだってよ」

八神がオレに視線を向けて、ニヤニヤ笑ってる。

「なんだそりゃ?」

成島まで呆れたように言うと、買ったばかりの炭酸のジュースをゴクゴク飲んだ。

「それもあるけどさ……警察官になって職権乱用しまくるんだ」

オレはふたりに、ニヤリと笑ってみせた。

「ゲーーお前腹黒っ!!」
「お前あんなに女が好きなら、ホストにでもなりゃあいいのによ。一週間に何人相手にしてんだよ?」

「オレは女が好きなんじゃないの。『H』するのが好きなの ♪」

「最低だな」

いつも真面目に女と付き合ったことなんてない成島までもが、呆れてそんなことを言う。
人のこと言える立場かよ。

「だって女の子抱いてるときが、オレがそこに居るって証だから」

オレはタバコの煙を、空に向かって吐き出しながら言う。

「出たよ。訳の分からない椎凪の自論!」

こいつ等はオレの言ってることが理解出来ないみたいだけど、
オレにとって女を抱くってことは、生きていくために必要なことなんだ。


オレの名前は「椎凪 慶彦」(しいな よしひこ)17歳。
まあ他の奴よりは、女の経験が多いかなってトコ以外は、ごくごく普通の高校生だと思ってる。

あっ、でもちょっと違うところは両親がいないってとこか?
生きてんのか死んでんのか分かんねー。
なんせ、生後一ヶ月で親に捨てられたもんで。

そのお陰でひどい目に遭った。

人間として扱ってもらえねーんだもんな……マジ……ムカつく。



小学校のときは、精神的にいじめられた。
中学に入ると、それが暴力に代わったのは、当然の成り行きだったかもしれない。

オレはよく体育館の裏に連れて行かれて殴られた。
殴られて体育館の壁にぶつかって、そのまま地面に蹲る。


「げほっ……ごほっ……」

オレの周りを5・6人の上級生と、同級生達が囲んで見下した眼差しをオレに向ける。

「顔はやるなよ」

別のひとりが、笑いながら言うのが聞こえた。

「判ってるよ〜〜 ♪」

オレはいつものことで、やられるがまま任せていた。
怖かったからでも、あきらめてたワケでもなく、ただ抵抗するのがカッタるいから。
こいつらの気が済めば、オレへの関心はなくなる。

「本当、お前がいてくれて助かるよ」

そう言って、オレのワイシャツの襟を掴んで、蹲ってたオレを地面から引きずり上げる。

「ムシャクシャしてると、お前の顔が浮かぶんだよなぁ〜〜 ♪」

そいつは薄笑いを浮かべながら言い続けた。

「親には必要とされてねーのに、俺達には必要とされるなんて嬉しいだろ?なあ、捨て子さんよぉ」

そういい終わると、そいつの膝がオレの鳩尾に食い込んだ。

「がはっ!」

鳩尾に膝が食い込んだ途端、堪えてた息が吐き出されてむせかえる。
そんなオレを、その場にいた奴等はニヤニヤと笑って見てた。

本当はその場にいた奴等全員を、メチャクチャに殴ってやりたいと思っていた。

でも…やり返したことはない。
オレがやり返してたことで問題になって、施設の人に迷惑をかけると思っていたから。

誰にも必要のないオレが、これ以上迷惑をかけることなんて出来なかった。

オレが暴力を振るわれても周りは問題にしないけど、オレがこいつらに暴力を振るうと問題にされる。

……世の中って、本当に不公平だ。



汚れた服の言い訳を考えるのが面倒で、施設には帰れなかった。
いつも転んだだとか、掃除中に汚れたとじか、休み時間に遊んでてとか……
思いつくことは言い訳に使ってた。

でも今日は、そんなことまで気を回すの億劫だった。

そのまま街をフラついて、薄暗い路地でボロボロのオレを見て数人の男達が
汚い格好でオレ達の前をうろつくなと、言いがかりをつけられた。

そのとき、オレの中の何かがプツリと切れたんだ。

その日……オレは初めて反撃した。

恐怖もあった。
だけど、手加減なんてするつもりなんてなかった。
どんな手を使ってでも相手を潰す……それだけは心に決めていた。
だから落ちていた鉄パイプで、無抵抗になった相手をいつまでも殴り続けた。

相手のことなんて知ったこっちゃない。

そんなのオレが今までそうされてきたように、気にとめる気持ちもない。

「はぁ……はぁ……」

辺りには血の匂いが立ち込めた。
オレは放心状態でしばらくいたらしい。

相手はピクリとも動かなくて、やっと終わったんだと自分で認識した。

認めた途端身体から力が抜けて、そいつらの血で濡れた鉄パイプが
オレの手の中からヌルリと滑って……地面に落ちた。


それからは、街で憂さ晴らしをした。
制服は汚れないように、駅や公衆トイレで着替えた。

相手のどこをどうやれば苦しいのか、オレは知ってる。

それから何度も何度も喧嘩をして、負けることもなくなってきた。
街でオレを見かけても、だんだんと誰も絡んでこなくなったし。

学校ではやられた振りをした。
コツさえ掴めば簡単なことだった。

やがて3年になり、やつらも高校受験というものが近づくと、オレのことどころじゃなくなった。
“余計なことは言うなよ” なんて今頃オレにしてきたことが、教師にバレるのを恐れたらしかった。

ホント、バカじゃねーの?ビビってんじゃねーっての。
オレは呆れたのと、間抜けすぎるのとで、笑いがとまらなかった。


「どうする?椎凪?」

クラスの担任が、進路指導でオレに聞いてきた。
親がいなくて捨て子で施設で生活してて……クラスでも浮いてたオレに担任は、
進学はしないとでも思ってたのか?

「行きますよ……高校。ここの中学の生徒が誰も行かないところならどこでもいいです」

オレは目の前にいる担任には視線を合わせずに、そう答えてた。








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