オレの愛を君にあげる…



04




── 3年後。

25歳になったオレは、ひとり街をふらついていると携帯が鳴った。

「はい?……了解 ♪」

短い会話で電話を切って、携帯をズボンのポケットにしまう。

「お仕事♪ お仕事♪」

と、呟いてオレは目的の場所に歩き始めた。



夜の街に一際目立つ高級ホテル。
その大広間で事件が起こってるらしい。

広い廊下を抜けると、吹き抜けの天井に高そうなシャンデリアがいくつも光り輝いてる。
よく大物芸能人が披露宴で使うような場所だ。
きらびやか?ゴージャス?
まあオレには一生縁のないところだけど。

「近づくなっ!近づいたらこの女殺すぞっ!!」

20代前半くらいの若い男が、パーティドレスを着た人質の女の子の喉元に、握りしめたナイフを押し付けてる。
開放されてる扉から中に入ると、顔馴染みの刑事を見つけて近寄った。

「大竹さん」
「おお。椎凪!」
「どんな状況ですか?」
「ちょっと前の、衆議院議員の横田の献金疑惑って憶えてるか?」
「え?ああ確か複数の大手の企業から裏金貰ってたとか……そんなんでしたっけ?」

オレはその手の事件は興味ないからうる覚えだ。

「まあ簡単に言えば……な」

案の定、大竹さんに呆れた顔された。
スイマセンね。

「で、事件の鍵を握ってた秘書が死んだだろ?」
「ああ。自殺したってやつでしょ?黒幕だったんじゃないかって話ですよね?」

そのあたりのことはちゃんと覚えてた。
一番の手掛かりがなくなったって、当時担当だった奴が愚痴ってたから。

「その息子が父親は無実だ!自殺じゃない!って人質取ってるわけだ」

説明しながら、顔だけオレに向けて顎でクイっと犯人を指す。

「は?何ですかそれ?それでなんでこんなトコで?」

どう見ても、若い子対象のパーティ会場だろ?
政治家のオヤジが出席するようなパーティじゃない。

「あそこ見てみろ」

言われた方向を見ると、すぐ傍の壁よりに60代くらいの男がひとり難しい顔で立ってた。

「あそこに問題の横田がいるんだよ。このパーティに娘と参加してたらしいんだ。
そこにあの男が飛び込んで来て、娘を人質に取ろうとしたところを今人質に取られてる子がかばったらしい」

人質に取られてる子は、可愛い感じのごく普通の女の子みたいなのに、中々正義感が強いらしい。

「勇敢な子ですね」

率直な感想でホントにそう思った。

「横田っ!本当のことをここで全部話せっ!じゃないとこの女がどうなっても知らねーぞっ!
親父は無実だっ!!全部お前が仕組んだに決まってるっ!」

焦らされて、イラついた男が叫んだ。

「お父様……」

横田という男に若い女の子がしがみついて、涙を浮かべながら訴えている。
あの子が横田の娘か……自分のせいで見ず知らずの女の子が人質になってんだもんなぁ……そりゃ必死だよな。

「お父様?」

呼んでも返事をしない父親を、不思議そうに見つめながら娘が何度も父親を呼ぶ。

「……うむ……」

こんな公衆の面前で、本当のことなんて言うわけない。
しかも人質は赤の他人。
あーあ……こりゃ長引くな。

オレはこれから先にかかる時間を想像して、気分が重くなった。

そのとき、オレの横をスッと誰かが通り過ぎた。

「え?」

あまりにも自然に、スルリと通り過ぎたのは肩まで伸びた髪にパーティ用の
スーツを着てるところをみると、このパーティーの出席者か?
歩くたびにサラサラと揺れる髪で綺麗な整った顔と、一見華奢に見える身体は
女かと思ったけど、どうやら男らしい。

「おいっ!君っ!!」 「待ちたまえっ!!」

周りの静止も聞かず彼はどんどん犯人に近づいて行く。

「な……何だお前!ち……近づくなっ!!」

いきなりのことで慌ててる男に向かって、彼は静かに右手の人差し指を向けた。

「そいつにかすり傷ひとつ付けてみろ。テメェ……殺す!」

は?何言ってんだコイツ?
でも、男を睨みつけた瞳には殺気がみなぎってる。
どうやら本気らしい。

「その前にそいつに触れてるからテメェは殺すっ!!」

後ろから見ていたオレの目に入ったのは、啖呵を切った彼の下ろしている左手に、
いつの間にか細いナイフが握られてた。
どうやら袖口に忍ばせていたらしい。
一体それをどうするのかと思ってたら、素早い動きでそのナイフを犯人の男に投げつけた。

「 !! 」

そのナイフが、犯人のナイフを握っている手の甲に深々と突き刺さる。

「ギャッ!!」

手の甲に深々とナイフが突き刺さって、彼女の喉元に押し付けられてたナイフが離れた。
そのチャンスを逃がさず、人質の女の子が犯人の男の鳩尾に肘鉄を入れた。

ド コ ッ !!

「ぐふっ!」

犯人の男がナイフの刺さった手を押さえながらよろめいて、後から羽交い締めするように捕まえてた女の子を離した。
そこにあのナイフを投げた彼の廻し蹴りが、犯人の顔面に入った!
犯人は思いっきり後ろにふっ飛んで倒れこみ、部屋の飾りのカーテンが剥がれ落ちた。

「ふん」

何事もなかったように、彼はその場に佇んでる。
そんな彼に開放された女の子が小走りで近づいてくる。

「怪我ないか?」

さっきの殺気はどこへ?と思えるほど女の子にかけた彼の声は優しい声だった。

「はい」 

女の子はそんな彼に向かって元気に返事をする。

「あ!」

返事をした瞬間、いきなり彼が女の子の腰に手を回して自分のほうに引き寄せた。

「ったく!」
「あっ!んっ……」

はぁ?

シーーーーン。
と、辺りが静まり返る。

そりゃそうだろう?ここにいる殆んどが警察官でしかもこんだけの人数が居る中で、

堂々とキスし始めた!?

しかも思いっきり濃厚なディープ・キスじゃん!!








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