オレの愛を君にあげる…



05




「ふぁ……だめ……ちょっ……祐輔…さ…ん…あっ……」

女の子の抵抗も全く意味がない。
簡単に静止されて、また舌を絡まされてる。

「……んっ……」

どれくらいの時間だったろう?かなり長いキスが終わると、息が上がってくったりとしてる女の子。
だろうな………だってなんかそういうのに慣れてなさそうだったし。
そんな女の子と違って、しっかりと彼女を支えて愛おしげに見つめる彼。

「余計なことすんな。寿命が縮む」

「ご……ごめんなさい」

女の子が真っ赤な顔で謝ってる。
そりゃそうだよな……この人数にバッチリ見られたんだもんな。

「行くぞ」
「はい」

さっきから2人の世界ですか?
こんだけのギャラリー全部シカト?
どんな神経してんだ、この彼氏?

でもオレの横を通り過ぎるとき、彼に物凄い目つきで睨まれた。
何でだ?オレ何かしたか?

もしかして、人質だった彼女助け出せなかった警察代表でオレ睨まれた?
でもそれはしかたないんじゃない?
人質の安全第一なんだし。

周りでは何人かの刑事が犯人を取り押さえている。
反抗する気配はないみたいだ。
まああれじゃ抵抗も出来ないだろうし。
彼は何か武道でも習ってるんだろう。
確実に殺るつもりで一撃を放ってた。
でも寸でのところで思い止まったらしい。
理由はわからないけど……彼女の前でそこまではできいと思ったからかな。

そんなことを考えてたら、なにやら入り口付近が騒がしい。
振り向くと……。

「え?」

たった今オレの横を通り過ぎて行った彼が、横田の顔面に一発入れたところだった。

「きゃあーー!!」
「ゆ……祐輔さん!!」

オイオイ……マジかよ?

「な…何をするんだ!君!私を誰だと思ってるんだねっ!!」

殴られた横田が頬を押さえながら喚いてた。

「知るかっ!くそジジィ!
けどな、テメェのせいで和海が危険な目に遭ったのだけは事実だ!
この落とし前つけてもらうっ!!」

「祐輔さん!!」

女の子が彼の腕を掴んで必死で彼を止めてる。
しかたねーなぁ……。

渋々と、オレは彼等に近づいて行った。
これでも一応刑事なもんで。

「オイ!いい加減にやめとけよっ!」

オレは急いで彼に近づくと、腕を掴んで横田から引き離した。

「オレに触んなっ!!」

「!!」

あからさまにムッとした彼はそう言うと、オレに殴り掛かった。
一瞬彼の攻撃を受け止めてしまうところだったけど、ナゼかまずい気がしてやめた。

ガ ッ !! 

そのお陰で、思いっきり左の頬に彼の拳を喰らった。

「くっ!!……痛っ……てぇーー!!!!」

オレは頬を押さえながら蹲る。
マジ痛てぇ……くそっ!!

「祐輔さんやめてっ!!」
「…………」

チラリと彼を見ると、彼が不審そうな目をオレに向けていた。
なんだ?オレがワザと彼の拳受けたのバレた?ウソだろ?

「ちょっと!何してんの?祐輔!」
「慎二さん!!」

今度は礼儀正しそうな真面目っぽい男が入って来た。
短めな黒髪が真面目さを倍増させてる。

「もー和海ちゃんだって泣いちゃてるじゃないか!!いい加減にしなよっ!!
警察の人だって困ってるだろ?すいませんでした。大丈夫ですか?
祐輔ってば和海ちゃんのこととなると歯止め効かなくて」

ホントに心配そうにオレに声を掛けてきた。

「いや……大丈夫」

彼はこの真面目そうな青年に言われると、無言のまま不機嫌さは丸出しでその場から離れた。
その後を、オレにペコリと頭を下げて女の子が追いかける。
クソ……奴からの謝罪はナシか?

「まったくけしからん!!この私に手を出すとは……ただでは済まさん」

横田がここぞとばかりに口を開いた。
さっきまでは、娘に縋りつかれても喋らなかったクセにな。

「横田さん」

今まで静かだった青年は人が変わったように目つきがキツくなっていた。
そのままそのキツイ眼差しを隠そうともせずに横田を見つめる。

「もういい加減見苦しいんですよね。あなたのせいで今日のパーティがメチャクチャですよ。
僕……とても気分が悪いです。だからあなたを許さない。あなたも覚悟しておいて下さいね」

言ってる口調は淡々としてて、言葉に静かな怒りが上乗せされてる。
その間も真面目青年は横田を睨みつけ続けてる。

「祐輔のことも、何かするつもりなら受けて立ちますよ。僕が!」

青年の中の何かがゆっくりと変わっていく。

オレはそんな彼を黙って見つめてしまった。
だって、見た目とのギャップがなんとも言えず……。

「でも、そんなバカなことしないですよ……ね?横田さん」

そう言って、口元だけで笑う。
笑ってるのは口元だけで、顔も瞳もなにひとつ笑ってなんかいなかった。

「くっ!し……失礼するよ!」

横田は一言だけ声を漏らすとそう言って足早に帰って行った。
その後を、娘が慌ててついて行く。

「お気をつけて。くすくす……」

彼が小さく笑う。
それが意味ありげで、嫌な感じがした。
多分、横田は殴った彼には何もしないだろうとわかる。

でもこの真面目に見える青年は?

きっと横田にとって、最悪な形を迎えるような気がするんだよな。
まあオレには関係ないことだけどね。




「どいて、どいて」

犯人の男が両脇を支えられて連行されて行くのを、オレは少し離れたところから見ていた。
彼に殴られた頬がまだ痛む。

なーんかオレだけ殴られ損って感じ?

オレはタバコが吸いたくてロビーに向かって歩きだした。
途中、何枚もの大きな一枚ガラスで覆われた廊下に出た。
外のライトアップされた景色が、ガラスなんかないみたいに綺麗に見える。
流石一流ホテル。
なんて暢気にそんなことを考えてたら……。

いたんだ……そこに……。


肩に届くくらいのちょっと動くだけでサラサラと靡(なび)くほどの柔らかそうない髪。

背は……オレより大分低い。

上下黒のパンツスーツを着て、窓ガラスにそっと手を添えて外を眺めていた。


その子を見たとき、オレは自分の時間が止まったように思えた。


ど き ん !  


ん?今……胸の奥が?なんだった?

ワケがわからず、思わず自分の胸を押さえた。


─── トクン!   ─── トクン!


痛いくらいに胸は波打ってるのに、呼吸が止まる。

君は誰?こっちを向いて……。

オレの心の問いかけに気づいたように、彼女がオレのほうに振り向こうとしたとき……。


「おい!行くぞ」
「あ!うん」

廊下の端で、彼女を呼ぶ声がして彼女はそっちに走って行った。

オレのほうに振り向くこともなく……。


ほんの一瞬の出来事だった。

オレはその場で立ち尽くしてた。


何だったんだ……今の?








Back  Next








   拍手お返事はblogにて…