オレの愛を君にあげる…



07




オレの願いが通じたのか、今日は何事もなく夕方を迎えることができた。

洒落たお店が集まる街の中心で、一緒に夕飯を食べる約束で待ち合わせしているらしい。
待ち合わせの場所には、彼らが先にいて立っていた。

「!」
「あれ?」

新城君は明らかに、オレが深田さんと一緒に来たことが気入らないといった顔になった。

「すみません。遅くなって……」
「あなた……」

真面目青年の橘君が、オレを見て気がついたらしい。

「どーも。今日から深田さんと同じ刑事課に配属になった 『椎凪慶彦』 です。よろしく」

オレは警戒されないように、至って真面目にごくごく普通に自然に自己紹介をした。
多分大丈夫だろ。
そうそう “本当のオレ” を見破られることはない。
自分からバラさない限り。

「皆さんにお会いしたいって仰ってたのでお連れしました」

深田さんが付け足す。
まあ会いたかったのはひとりだけなんだけどね。
オレは彼らを見渡して……

「えっと……君が 『橘 慎二』 君で……君が 『新城 祐輔』 君」

オレがひとりひとり名前を言うと、橘君はちょっとだけ首を傾げて、新城君は
あからさまにムッとした顔をした。

そして……最後のひとり……あ……いた!!  

「えっと……」

オレはワザとわからないフリをした。
心臓がドキドキしだして思わず手で押さえる。

なにオレ?いつの間にこんな乙女チックになったわけ?

「ああ!望月耀君。祐輔の友達ですよ」

橘君が、快くオレに彼女を紹介してくれた。

「望月耀君……へー耀君……耀君ねぇ……へーーん?え?耀……君?くん??」

聞き間違いか?耀くん…?くんって言ったら?

「はい、耀君です。嫌だなぁ何回も」

橘君がクスリと笑って、肯定する意味の言葉を言った。
どうやら本当のことらしい。

「 え え っ !!! 男 の 子 っ !! 」

オレは信じられなくて、思わず本人に詰め寄って両方の肩を掴んでしまった。

「えっ?本当に?」

じぃーーーーーーっと、相手の顔を見つめる。
もの凄く接近してるけど、オレは気づかなかったんだ。
相手がとんでもなく引き攣った顔してるなんて。

「わっ……ちょっ…ちょっと……ち……近づかないで……」

弱々しい声でそれでも必死に言ってたらしいんだけど、そのときのオレは何も耳に入らなくて……。
でもそんなオレの脳天に、衝撃が落ちたっ!

ド コ ン ッ !! 

「  ぐ が っ !? 」

あまりの痛さに頭を押さえて振り向くと、新城君が今まさに蹴り落としましたって感じで
足を下ろしたところだった。

「なっ……?いてーーーー」

マジで目から星と涙が出たよ。

「気安く耀に触るんじゃねえ!怯えてんだろうがっ!!」
「え?」

怒りまくりの新城君から視線を外して、目の前の人物を見ると確かに顔が真っ青で固まってた。

「耀君、極度の人見知りなんですよ。特に男の人はダメです」
「人見知り?え?そうなの?」
「はい。だから耀君から離れて下さいね」

言葉は丁寧だけど、橘君も怒りオーラ纏ってた。

「そっか……ごめん」

オレは気持ち半歩ほど離れたけど、本当はちっとも離れる気なんてなかった。

それにしても……男の子だって?嘘だろ?どう見たって女の子だろ?

やっと間近でじっくりと見ることができたその子は、あのときと同じサラサラの髪の毛に、
パッチリとした瞳に淡いピンク色の唇。

可愛い……めちゃくちゃ可愛い。
いつも女の子に対してもそんなふうに思ったこともないし、オレにとって関心を引くことじゃないんだけど……
オレの心臓は、ドキドキのバクバクでうるさいくらいに動いてた。

「本当に……男の子なの?」

信じられなくて、もう一度本人に聞いてみた。
ゆっくりと無言でコクンと頷く。

あーーそう……そうなんだ……男の子……ね。
予想外の展開に、オレは少し考え込んでしまった。

「男の子……男の子ねぇ……うーん」

「何しに来たんだ?こいつ?」

ブツブツと独り言を繰り返してるオレを見て、新城君が不審そうに橘君に呟いてたらしい。

「さあ?」

橘君が答えたけど、オレはそんな二人のことなんて全く気にせずにずっと考え込んでいた。


「うーーーん」

しばらくの間、あれこれ考えたけど結局まとまらず。

「ま!いいやっ。考えても仕方ないし、可愛いからいいか?男の子でも」

それがオレの出した結論だった。

「 「 は ? 」 」

ふたりの呆れたような驚いたような声がしたけどオレは完璧無視。

「じゃあ耀くん♪ 一緒にご飯食べに行こう♪」

ガッシリと耀くんの両肩を掴んで誘った。

「うわっ!!えっ?」

そういえば人見知りがどうとか言ってたけど、オレにはなんの制約にも障害にもならない。
突然のオレの行動に慌ててるみたいだけど、オレは気にせず耀くんを後ろから抱きかかえた。
もちろん逃がさない為に♪

「じゃあ、耀くん連れてくね。またねー♪」

オレは片手で耀くんをしっかり抱きしめながら、残る片手で他のメンバーに手を振った。

「えっ?えっ?えっーーーーっ!?ちょっと……まっ……」

慌てまくってるのは分かってたけど、そんなのお構いなしに有無も言わさず連れて行く。

「あ!深田さんありがとう。また明日!」

残された3人はオレと耀くんを唖然とした顔で見送ってた。

「ちょっと……やめっ…!!助け……祐輔っ!!」

耀くんの助けを求める声も、どんどん小さくなるなる。
彼等に届いているのかどうか。



「何あれ?最初っから耀君狙い?」

未だに抵抗してる耀君を遠くに見ながら僕は祐輔に呟いた。

「あれじゃ耀の奴逃げらんねーな」

珍しく祐輔が大人しく見送っている。

「そう言えば椎凪さん耀さんのこと知ってましたよ。私に聞いてきましたから」
「え?本当?いつの間に?この前の事件のとき、あの人耀君に会ったのかな?
でも……いいの?祐輔」

どうも祐輔の態度に、僕は納得がいかない。
耀君が初対面の異性に連れて行かれたのに、こんなにも祐輔が落ち着いてるなんて。
なんて言いながら、僕もあの人から耀君を引き離すことはしなかったんだよね。

和海ちゃんの同僚っていうのもあるのかもしれないけど……男だっていうのに。……ふむ。

「耀の奴オレのほうに逃げて来なかっただろ?それに奴に身体に触られても、叫びもしなかったんだぞ」
「あ!そう言えば……いつもすぐ逃げてくるのにね。今も連れて行けちゃったし?」

いつもの抵抗からすると、あんな簡単に耀君を連れて行けるなんて珍しい。
いつもなら抱きつかれた瞬間に叫び声をあげて、祐輔の後ろに逃げ込むのが定番のはずが。

あまりにもパニックになると、耀君の必殺技も飛び出したりもするんだけど……。
耀君もいつもと違ってたよね。

耀君……。



しばらく歩いて、耀くんがオレの身体を押しのけた。

「ちょっと……オ……オレをどうする気?離して!」
「え?あっ……ごめん耀くん。無理矢理連れて来て。
でもねオレ耀くんに会いたくて……ずっと会いたくて会いに来たんだ」
「オレに?」

不安そうな顔でオレを見上げる耀くん。
ああ……その怯えてる姿も保護欲を誘うんだけど……いや違う。
保護欲なんかじゃない!もう、ぎゅっ!としてスリスリして、腕の中から離したくない衝動?

「何で?」

ビックリして不思議そうにオレを見る。

「わかんないけど、あのパーティの事件のときに耀くんを見かけて……それでずっと会いたかったんだ」

オレは正直に、出来るだけ優しく話した。
だって耀くんは、いまにも消えちゃいそうに儚げで怯えてるから。

「でもよかった。やっと会えた」

そう言って、ニッコリ耀くんに笑った。
だって本当に……本当に嬉しかったから。

「怖がらなくてもいいよ、耀くん。オレ耀くんを怖がらせることも、嫌がることもしないから。
ただ……一緒にいたいだけ」

何言ってんだ?オレ?こんなこと言うつもりなんてなかったのに。

そう、でも会ってわかった。
なんで耀くんのことが気になったか。

それは、耀くんはとっても淋しそうな瞳をしてるんだ。
みんなと一緒にいるのに……。

今まで出会った女の子で、こんな瞳をした子はいなかった。

だから……すごく 気になるんだ。


オレと耀くんは、しばらくの間お互い見つめあっていた。

その間オレは、耀くんの腕を掴んで離さなかった。

だって離したら……オレから逃げちゃうかもしれないから。








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