「はぁ?同居する?」
祐輔と慎二さんが、同時に返事をした。
「あ…空いてる部屋……貸して欲しいって言うから……」
オレは2人の視線に負けそうになりながらも答えた。
ここは祐輔の部屋。
オレのマンションからも慎二さんのところからも同じくらいの場所にあるから、朝イチに呼び出された。
それに祐輔は朝がオレ以上に苦手だから、起こすのも兼ねて慎二さん命令で決定した。
ダイニングテーブルでオレがひとりで座って、テーブルを挟んで向かい側に祐輔と慎二さんが座ってる。
もう尋問と言うか取調べと言うか……とにかくふたりの視線が痛い……ううん……鋭い。
「大丈夫なの?耀君。昨日、会ったばかりの人でしょ?」
慎二さんが勝手に淹れたコーヒーを、ダイニングテーブルの上に置いていく。
それはいつものことで、家主の祐輔もそれが当然と言うように慎二さんに任せてる。
「そうなんだけどさ……なんか色々あって……断れなくなっちゃったって言うか……」
「色々って何だ?」
祐輔が明らかにムッとしながらオレに聞いた。
もしかして怒ってる……のかな?
「あの人ちょっと変わっててさ……
昨日会ったオレに 『オレの為に生まれて来てくれてありがとう』 なんて言うんだよ。変だろ?」
オレはとにかく一生懸命説明した。
昨日飛び降り自殺を見て、パニックになったことは言わなかったけど……。
それを言うと、ふたりに心配かけちゃうから。
“昨日会ったオレに 『オレの為に生まれて来てくれてありがとう』 なんて言うんだよ。変だろ?”
なんて耀君が、なんの不審も思ってないように僕と祐輔に話す。
もともと、色んなことに天然が入ってる耀君だけど……愛の告白されたんだね、耀君。
でも、本人は全く気付いてないみたいだけど……。
あの人……一体どういうつもりなんだろう?
なんて僕達の心配なんて、これっぽっちも気づいてない耀君。
「それに料理得意だから、毎日オレに美味しいご飯作ってくれるって言うしさ……」
ああ……食べ物でも釣られてたんだね。
あの短時間の間に耀君の警戒心解くなんて……。
「何かあったらすぐに出て行ってもらうけどさ」
「まぁ……耀君が平気ならいいけど。本当にいいの?大丈夫なの?もし強引に言われてるなら、
僕か祐輔が話そうか?」
慎二さんがそう言って、オレを心配そうにじっと見つめる。
祐輔も黙ってるけど、ふたり共疑いの眼差しをオレに向けて納得できてないって顔してた。
オレだって、何でこんなことになったのか未だに不思議なんだから説明のしようがない。
あの後、どうしても断ることができなくて押し切られちゃったんだもん。
結局しばらく様子を見るってことで、ふたりは一応その場は納得してくれた。
とにかくなにかあったら、即連絡することって約束させられた。
でも、オレは気づかなかったんだ。
いつもならそんな猶予もなく、強制的に同居なんてなかったことにさせられてはずなのに、
祐輔も慎二さんもオレのことを……見守っててくれてたってこと。
その日の夕方、本当に彼は引っ越して来た。
荷物といっても、ダンボール箱が2個とボストンバックひとつ……なんて身軽。
断ろうと思えば断れたのかもしれないけど、前の部屋を引き払ってきたんだろうから、
そんな無責任なことはできないないと思って言えなかった。
でも彼は荷持つの片づけを後回しにして、夕飯を作ってくれた。
メニューは約束どおり酢豚。
出来上がった酢豚がテーブルの上に置かれると、冗談でもお世辞でもなく、
テーブルの上が光り輝いて見えた。
お店以外……ううん。
自分ちのテーブルの上で、酢豚を見たのは今日が初めて!!それに……
おいしそーーーーっ!!
「なっ…なっ…なんでーーーーっ!?うそっ!!お店のやつみたいっ!!」
彼はオレのそんな姿を見て、またニコニコしてる。
しかもエプロン姿が妙に似合ってるし。
「いただきまーす!」
遠慮も何もせず、一口頬張った。
「うわっ!!おいしーーーーー!!オレ幸せっ!!!」
思わず叫んでしまうほどおいしかった。
耀くんが本当においしそうに食べてくれた。
そんな耀くんを見て、オレも幸せな気持ちが込み上げる。
今まで誰かに喜んでもらうために、料理なんて作ったことなかったから。
バイトでお客さん相手と、自分に作ったのを勝手に食べられたりしただけで、
食べてもらう相手のために意識して作ったのは本当に耀くんが初めてだ。
昨夜、自分でもわかるほどに強引にここに住むことを耀くんに承諾させたから、
本当は追い出されるかとビクビクしてた。
仕方なく、って感じでオレを受け入れてくれた耀くん。
だから、自分の身の回りのことより耀くんのことを優先した。
でもそれは正解。
昨夜約束したとおりに酢豚を作ると、耀くんの態度は一変したし、もうオレを追い出そうなんて
思ってないのがわかる。
「凄いね、椎凪!もー天才的!!」
「ありがとー耀くん♪」
って…あ……初めて耀くんがオレのこと 『椎凪』 って呼んでくれた。
うれしーーーーっっ!!オレは心の中でガッツポーズだ!!
そのあとも次から次へとオレの作った酢豚を食べてくれる耀くん。
他にもタマゴスープとサラダも作った。
それも美味しそうに食べてくれてオレはもっと嬉しい。
一生懸命モグモグと口を動かして食べる耀くん。
しばらくモグモグと動かしたあと、コクンと飲み込む仕草はオレの料理好きを刺激する。
耀くんのためなら、どんなモノでも作ってあげる!!
どんなに時間がかかっても、どんなに入手困難な食材でも必ず手に入れて作ってあげる!!
ああ……でもその前に、その食べてる可愛い唇にキスしたい。
今まで誰にもキスしたいなんて思ったことないのに……耀くんにならどこにでもキスしたい。
輪子さんだって流れで自分からしたことはあったけど、どうしてもキスがしたくてしたことは1度もないと思う。
そんなことを思うけど、今キスなんて耀くんにしたら嫌われちゃうかもしれないからしないけどね。
「でもさ、耀くん。初めて会ったときはもの凄く警戒してたけど、今は全然だね。嬉しいけどさ」
テーブルを挟んで耀くんが食べてるのを、オレは頬杖をついてずっと見てた。
そんな中で、昨夜からの思ったことを話してみた。
だって最初のファミレスのときは、きっと警戒されてたと思うんだよね。
「んー自分でも良くわからないんだ。いつもはこんなふうじゃないんだけど、椎凪は違うんだ。
何でだろう……自分でも良くわかんない」
椎凪の言ってることはオレも思うことで、でも本当に自分でもどうしてなのか良くわからないんだ。
「それって愛の力?」
椎凪が頬杖をしてた手をテーブルに着いて、ズイッとオレのほうに身体を乗り出して顔を近づけた。
ちょっと……顔近いって!!
「ちっ……違うよ!!あ!そーだ。椎凪……あのさ」
耀くんが、ちょっと困った顔でオレを見た。
「オレに変なことしたらすぐ出てってもらうから……ね」
「変なこと?変なことって?」
耀くんの言いたいことはわかってたけど、ワザと聞きなおした。
なんて答えるんだろう?どんな顔するんだろう?ワクワクする♪
「だから…その……オレ…男だからね!」
「うん、知ってるよ。でもオレ耀くんが好きだから、男でも関係ないからね!」
間髪入れず返事をした。
そんなオレの返事に、目を大きく見開く耀くん。
ああ……驚いた顔も可愛い♪
「だから……オレに変なことしないでね。椎凪言ったろ?オレの嫌がることと、怖がることしないって……」
「うん、分かってるよ。オレが耀くんにそんなことするはずないだろ?」
爽やかに、ニッコリ笑って両手で耀くんの頬を挟んで顔を持ち上げた。
「だっ……だから!!こーゆーことしないでって言ってるのっ!」
慌ててお茶碗とお箸を置いた耀くんが暴れだした。
耀くんの頬を挟んでるオレの手を剥がそうとオレの手首を掴んでる。
え?なんで?
「えーー?でもこれ変なことでも、怖がることでも、嫌がることでもないでしょ?」
オレはごく自然に……
「愛情表現だもん!」
そう言って、耀くんに顔を近づけていった。
さっき、 “今キスなんてしたら嫌われちゃうかもしれない” ……なんて思ったオレの思考はきっと
どこかでショートして焼き切れたんだと思う。
だって、もう無理。
耀くんが可愛くってしかたない。
好きで好きでたまらないんだ。
だからこのまま耀くんの唇にキスを……
「う わ ぁ!!」
「んが っ !! いでっ!!」
信じられない!!ゴキン!と音がして、耀くんのアッパーがオレの顎に思いっきり入った。
「なっ!?い…いたい……ひどい……耀くん」
オレはいきなりの拒絶で、ショックを隠しきれない。
「な・ん・で・椎凪とキスしなきゃいけないのさっ!! 」
耀くんがもの凄く怒ってる。
でもオレはメゲない!!そのくらいでメゲるよなヤワな覚悟でここに来てない!!
「何で?耀くん!?オレのこと好きじゃないの?」
「はあ?い・つ!だ・れ・が!椎凪のこと好きなんて言ったのさっ!!もー信じらんないっ!!」
「 !! 」
がーーーーーーん!!!!
目の前で怒って怒鳴る耀くんに、オレは雷にうたれたみたいなショックを受ける。
耀くんにキツイこと言われるのが、こんなにも衝撃を受けるなんて……。
自業自得とか自分のこと棚に上げて、とかそんなことはオレの頭の中にない!
オレはそのまま固まって、しばらく動けなかった。
オレが文句を言ったら、椎凪がもの凄いショックを受けてた……なんで?
で……でも、オレ言ってること間違ってないよね?
だって椎凪が勝手に話を飛躍させるから……オレ、椎凪のとこ好きだなんて言った覚え本当にないもん!
「じゃ…じゃあ……」
「な……なに?」
思わず警戒する。
だって椎凪ったら変なことばっかり言うんだもん。
「オレが耀くんのこと、すっごく好きだってことだけは憶えててね!!」
ええっ!?なに?なんでそんな偉そうに胸張って言っちゃってるの??
「もー!!昨日会ったばっかりなのになんでそーなの?」
「時間なんて関係ないっ!!深さの問題!!」
「深さ?」
椎凪がなんだか熱のこもった話をし始めた。
「耀くんのこと、オレのここの奥の方で好きになったの!胸の一番深いところ!わかった?」
そう言って、椎凪は自分の胸を指先でトントンと何度も叩く。
「わかったけどさ……それってオレの気持ち全然考えてないよね?」
「考えてるよ。耀くんオレのこと好きだもん」
なっ!?平然と言った……言い切った!
何の躊躇も疑いも迷いもなく……。
「どっからくるの?その自信……?」
オレは呆れて椎凪に聞き直した。
「昨日確信した!」
「昨日?」
「オレには耀くんが必要で、耀くんにはオレが必要なんだって」
椎凪がオレを真っ直ぐ見つめて言った。
ふざけてなんていないだろうとは思うけど……。
「んーーー?よくわかんない」
なんでだか、舞い上がっちゃったのか勢いなのか、思いっきり耀くんに愛の告白してた。
時間掛けようとか、タイミング計ろうとか思ってなかったわけじゃないけど、勝手に口が動いてた。
もう今までのオレはどこに行っちゃったんだろう、ってくらいの信じられない行動!
なのに耀くんが首をかしげて理解不能といった顔をする。
「んなっ!?」
何でだ?何でわかってくれない?
簡単でしょ?好きって言ってるだけなんだから。
お互いがお互いを必要としてるって言ってるだけなんだから。
どうして悩んでるの?耀くん!!
「もういいや、ご飯食べよ。せっかくの料理が冷めちゃうよ」
そう言って耀くんは何事もなかったかのように、お箸とお茶碗を持ってご飯を食べ始めた。
「ちょっ……もーっ!!耀くんってばっ!!」
そりゃオレの作った料理をおいしく食べてくれるのも、喜んでくれるのも嬉しいけどさぁーーーー!!
オレの言うことちゃんと聞いてよね!!
耀くん!!
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